有機溶剤とは?
油やロウ、樹脂、ゴム、塗料など水に溶けないものを溶かす有機化合物で、揮発しやすく工業的な用途に使われるものを有機溶剤と言います。日本での使用量は石油化学工業の発展や需要の増加で1960年代から急増し、特にトリクロルエチレン等の塩素系溶剤の増加は著しいものがあります。」 法律的には有機溶剤中毒要望規則、特定化学物質等障害予防規則で特に有害なものについての規則が定められています。しかし実際には500種近くが使われいると言われ新しい溶剤もどんどん開発されています。これら新しい溶剤や溶剤を混ぜて使った場合の慢性毒性については、わかっていないことばかりで実際に扱う労働者にとっては非常に危険な現状です。石油や、灯油、シンナーや接着剤などが有機溶剤であり扱いによって有害なことはみなさんもご承知のことと思います。有機溶剤は高濃度を吸えば、急性中毒に、低濃度でも長い期間吸えば慢性中毒を引き起こします。
《急性中毒》
密閉されたタンクやトンネル、大きな槽、缶内で高濃度の蒸気を吸って頭痛、めまい、吐き気を起こし気を失って死に至る急性中毒も未だに無くなっていません。臭うからといってわざわざ密閉したり、床の汚れ落としに溶剤を使って掃除したりするということは大変危険なのです。急性中毒では死亡しなくても後遺症が残ることが多いと言われてます。
《慢性中毒》
溶剤は蒸気を吸うことで肺から、触れることで皮膚から体内に入ります。次いで全身を血液とともに回ります。一部は呼気から排泄されますが、脳や神経に結合し、肝臓で抱合、分解を受けたりした後、腎臓を通り尿に排泄されます。(だから溶剤によっては尿の代謝産物を測ることによってどのくらい溶剤を吸収したかが推測できます。)有機溶剤の共通する毒性をあげれば、@揮発性が大きく(臭う)、呼吸器から吸入されやすいA脂溶性が大きく、脂質が多い神経、脳に結合蓄積されやすいB粘膜や皮膚に刺激作用があるということです。
(1)多彩な自覚症状に注意!
有機溶剤の慢性中毒の症状は、多彩であると同時にあいまいなものが多く、有機溶剤を使っていることに注意していなければ見逃してしまうことも多いのです。従って医師も見落としてしまうことが少なくありません。簡単にじぶんでチェックできる症状をまとめると、@手が荒れる、A異常に疲れた感じ、足がだるいB頭痛、頭痛感、めまいCいらいら、不眠、夢見が悪い、D胃のもたれ、食欲がない
また、酒に弱くなる、溶剤に「酔う」、溶剤の臭いをかぐとスッとする(嗜癖・シンナー中毒)などの症状もあります。これらの症状があれば赤信号とかんがえ、溶剤との接触を断つべきです。
(2)慢性中毒
有機則にはそれぞれの溶剤の毒性が示されています。そのほとんどが蓄積毒性=慢性中毒の危険を持っています。列記すると、
@精神・神経障害:多発神経炎、視神経炎、小脳失調、初老期痴呆など(症状は頭痛、頭重感、いらいら、めまい、不眠、記憶力の低下、失神、手足のしびれ感、神経痛、脱力、麻痺など)
A皮膚・粘膜障害:皮膚炎、結膜炎、上気道炎など(症状は皮膚のあれ、かゆみ、なみだ、目の充血、くしゃみ、せきなど)
B呼吸器障害:慢性気管支炎など(症状はせき、たん、息苦しさなど)C肝障害D腎障害(タンパク尿、血尿など)E造血器障害:再生不良性貧血、白血病、貧血など、F発ガン性があげられます。慢性中毒は一旦進むと大変なおりにくいのでかかってからの治療よりもどうしたらかからないですむかという予防が一番大切なのです。
(3)共通する毒性と特徴的な毒性
以上のような毒性に加え、溶剤によってはそのものに特徴的といえる障害を引き起こすことがあります。
発ガン性についてはベンゼン(サンダルのゴムのりに用いられた)の白血病、再生不良性貧血があまりに有名です。またトリクロルエチレン、パークロルチレン(クリーニングなどで使用)は使用量も多く今後問題になると思われます。n-ヘキサンの末梢神経障害(手足のしびれ)、トルエンやトリクロルエチレンによる脳の萎縮や脳波異常、トルエン、スチレン、パークロエウエチレンによる視力低下、視野狭窄、トルエン、クリーニングソルベント、灯油による貧血などは有名です。
シンナー、塗料に使われているセロソルブ類が精巣萎縮(男性の不妊症)を起こすこともあり十分注意する必要があります。トリクロルエチレンと腸管ノウ腫様気腫(腸に袋が多発し腹のはりや粘血便を示す)との関係や、1,1,1-トリクロルエタンやテトラクロルエチレンによる過敏性肺炎の例もあります。
《使用職場での問題点》
溶剤の急性中毒は立証が比較的簡単ですが、慢性中毒は実証が困難で、多くの患者が潜在し、職業病と診断されずに治療を受けていることが予想されます。下がっれ使用職場では慢性中毒の可能性を厳しくチェックする必要があります。
おおざっぱに職種、職場を分類すると以下のようになります。
@有機溶剤の製造、
A有機溶剤含有物の製造(塗料、インク、接着剤、洗浄剤、払拭く剤など)
B有機溶剤(含有量)の使用
問題なのは
1.溶剤を使っていると知らされていない、知らされていても有害物とは知らされていない場合
センターの相談に来た例でも有害物表示や安全教育をしていた会社は少なく、いろいろ聞いてやっと有機溶剤を使っていることがわかることもあります。汚れがよくとれたり臭う液はほとんど有機溶剤ですから、仕入れ先や製造会社、缶などの容器の表示を確認して何を使っているのか知っておく必要があります。
2.混合溶剤として使っているのが大多数で何をどれくらい含んでいるのかわからないことが多い(企業秘密)。
混合溶剤では層状作業で毒性が強くなる可能性が高いとともに労災認定に当たっては「塗料中毒」「シンナー中毒」でなく「トルエン中毒」等の単剤名で認定する傾向があり混合溶剤では労災認定されにくくなってきているという問題があります。
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