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 じん肺と職業がんのお話           

  昔、鉱山で「ヨロケ」と呼ばれて恐れられたじん肺。じん肺は粉じんを吸い込むことによって引き起こされる職業病です。1960年に「じん肺法」が制定されましたがじん肺は一向に減らず中小零細企業にもどんどん広がっていきました。

1.肺のしくみと働き
  肺は、胸の中に左右一つづつあて、左は2つ、右は3つの部分に分かれています。(これを肺葉といいます。)鼻、のど(喉頭、咽頭)に続いて気管があり、左右に分かれて肺に入り、次々と枝分かれして最後に肺胞となります。肺胞は小さい袋の様になっていてまわりに細い毛細血管が取巻いています。肺はこの肺胞とそれを支える結合組織で出来ていて肺胞の数は両側で7から15億、その表面は90から140uもあるといわれています。
 鼻から吸い込んだ空気は肺胞に達し、ここで酸素が血液に取り込まれます。血液に入った酸素は全身に回り、各組織のエネルギー源になります。そして、そこで出来る炭酸ガスは血液中に入り肺まで運ばれて肺胞に取り込まれ気管を通り鼻から出されます。要するに肺胞で酸素を取り入れ炭酸ガスを出す働きをしているのです。これを「ガス交換」といいます。
 肺は呼吸によってガス交換という重要な役割を果たしているわけで、肺が障害されると全身が酸素不足の状態になって全身の内臓に悪影響を及ぼします。

2.じん肺とは
 ある程度の粉じんであれば、鼻毛で濾過されますし、気管支まで入っても気管支の壁にある細かい毛(繊毛)が粉じんを外に送り出したり、痰と一緒に外に出したりします。しかしそのような防衛反応が追いつかなくなると粉じんはどんどん肺の中に入っていきます。粉じんが小さければ小さいほど、量が多ければ多いほど肺の中へ入りやすくなります。また年をとった人の方がじん肺になりやすいと言えます。
 大きな粉じんは、のどや気管支の壁を刺激して気管支炎や喘息の原因となります。肺の奥深くまで入った粉じんは肺胞や細気管支(枝分かれして一番細くなった気管支)、リンパ節等に作用します。あるものは肺胞を埋め尽くしてしまったり、あるものは炎症を起こしたりしながら肺は繊維状の組織で固められていきます。
 更に進行すると肺の壁がやられて風船のように大きく膨らんだり、破裂したりして肺胞の働きをなさなくなります。これを「肺気腫」と言います。
 このように気管支や肺胞が障害されていくと、当然肺の本来の働き即ち呼吸する力が弱まっていきます。これを「肺機能障害」と言います。こうなるとガス交換が充分に行えなくなるわけで、次第に身体が酸素不足の状態になっていくわけです。また重症になると肺と密接な関係になる心臓にも悪影響を及ぼして「肺性心」という心不全の状態になることもあります。
 このようにして肺は徐々に冒されていくのです。そしてこのような病変はもとに戻らないどころか、粉じんを吸わなくなっても進行していくのです。これがじん肺の恐ろしさであり予防が最も重視される所以なのです。

3.じん肺の種類と発生職場
 鉱山や炭鉱で始まったじん肺ですが、現在さまざまな職場でじん肺が発生しています。これまでは鉱物性粉じん(無機粉じん)によるじん肺が重視されていましたが、最近では綿ぼこりや線香の原料(木の皮や葉)等の有機粉じんによるじん肺も注目されて来ています。即ち、水に溶けないあるいは溶け難い粉じんはすべてじん肺を起こすのです。

4.自覚症状について
 多くのじん肺では、軽いうちはあまり自覚症状はでません。しかし、風邪をひきやすい、ひくと治りにくい等ということがしばしばあります。
 じん肺が進んでくると咳や痰がでる。胸が重苦しい、息切れがする。胸の中でゼーゼー、ヒューヒュー音がする。呼吸困難がある等の症状が出てきます。息切れも最初は坂道や階段の昇り降りだけだったのが、平地を歩いていても出るようになり、更には人と話をしていても息が切れるようになります。
 しかし、粉じんによっては石綿やクロムのように初期から自覚症状が出やすいものもあります。したがって自覚症状がないからとは安心できず、早期発見のためにも健康診断が不可欠です。

5.合併症について
 肺が冒されているわけですから、当然肺の病気にかかりやすく、様々な合併症(余病)で命を落とすことも多々あります。また肺だけでなく心臓(肺性心)や全身の内臓にも影響を及ぼすことが最近指摘されています。
しかし、じん肺法で補償対象になっているのは肺の合併症だけで、「続発性気管支炎」「続発性気胸」「続発性気管支拡張症」「肺結核」「結核性胸膜炎」の5つだけでした。しかし、肺がんについては、石綿肺に肺ガンを合併しやすいことは有名で法律でも認められてきました。
 そしてその他のじん肺でも肺ガンを合併する頻度が高いことが明らかになり、2002年11月から、じん肺有所見者(じん肺管理2以上)に合併した原発性肺がんを合併症として労災補償の対象とすることになりました(正式には2003年4月1日よりじん肺施行規則の一部改正が施行)。また2003年4月より、事業主はじん肺有所見者に対する健康診断の検査で「肺がんに関する検査(胸部らせんCT検査、喀痰細胞診)」の実施が義務づけされました。
 なお、じん肺管理2又は管理2の離職者には、都道府県労働局に健康管理手帳の交付申請を行い、交付を受けた場合は、都道府県労働局が指定する医療機関で肺がんに関する検査を国の費用で受けることができるようになります。

6.治療について
 じん肺になり、線維増殖性変化を起こした肺を元の正常な肺に戻す治療法は現在のところありません。したがってじん肺を根治することはできないわけです。
しかし、合併起の治療は充分にできますし、日常生活上の注意(禁煙、風邪をひかない等)を守ることによってじん肺の進行を遅らせることは可能です。軽症の人については、粉じんのでない作業への配置転換も重要な治療のひとつです。
 いづれにしても、予防と早期発見が最も重要であることは言うまでもありません。

7.健康診断について
 じん肺法では、粉じん職場で働く労働者にじん肺健康診断を行うことを会社に義務付けています。じん肺のない者は3年に1回、じん肺がある者は毎年1回行います。
 健康診断の内容は、問診、診察、胸部レントゲン直接撮影、肺機能検査です。特にレントゲンは、定期健診で行う間接撮影(小さい写真)でなく、直接撮影(大きい写真)でなければなりません。更に合併症が疑われた場合は、痰の検査も行います。その結果、管理1から4までの管理区分が決定されます。そして管理2と3の人は粉じんの暴露を減らすか粉じんの出ない職場への配置転換が指示されます。管理4と管理2か3で合併症のある人は治療の対象となり労災保険で補償されます。
 このじん肺健診を怠っている会社が多く、また行っていても労働者にきちんと通知していないところもあります。労働者の力でしっかりやらせることが必要です。