−−MENU−−

>>English page.

TOP

東京安全センター紹介
センター活動    
役員体制    
 
入会案内 

更新履歴
(03年6月以降)  

職業病を知っていますか?
じん肺
腰痛・上肢障害
有機溶剤中毒
メンタル
▼中皮腫(準備中)

労災相談
仕事の怪我や病気は
相談index(00-02年)

国際草の根交流
メーリングリストApiel
          

 職場改善のススメ
改善はアイディア次第

具体的条件を調べる

職場を見直してみる
    

東京安全学校

リンク集
         
■03年度のセンター定例会は全て終了いたしました。今後のおすすめ企画や講座についても只今整備中です。 

 

 

  職場のメンタルヘルス  
      
越智 祥太さん(亀戸ひまわり診療所・心療内科)

【メンタルヘルスとは】
 ストレスを自覚する労働者が増えています。
バブル期に一時的に減少した自殺率も増加し、特に中高年者の自殺率が高まりを見せています。
 メンタルヘルスという言葉。横文字・カタカナで少々新規な印象があります。日本は純資本主義的効率主義の中で合理的に割り切れない事象や人々の排除によって効率を追及してきました。こうした中で日本での「精神」とか「神経」「心」などの単語は精神を病んだ人たちへの排除の意識の下で使われてきました。こうした日本社会の中で人々が身につけた傾向を意識的に言い換えたようと使われ始めているのがメンタルヘルスです。 「どの人も一様にメンタルヘルスの問題がある。心を健康に保ってみんなで楽しく仕事ができる環境-快適職場の形成を目指そう」という方向を示す言い換えと言えるでしょう。
 精神医療の考え方自体も変わってきています。日本では明治から昭和初期まで、精神的問題を抱える人を家や病院へ隔離・排除し、同時に精神的な問題自体もどこかに封印してしまっていました。しかし、ノーマライゼーションという言葉も聞かれるようになった現在では、「いろいろな問題があった上でノーマルであり自然なのだ」と捉える傾向が強まってきています。精神的健康にも「どの人も病むし、どの人にとっても有益な対策がとれる」と考えられるようになってきたわけです。
 最近、精神障害という言葉があまり好ましくないことで盛んに取り沙汰されている一方で“精神”だけを別扱いに捉えることが無くなる傾向にあります。「メンタルな面はあるが、それは心の失調とも、脳の失調とも言えるのであり、他の身体の臓器と同様だ」と理解することが大切です。医療側の思考の変化もメンタルヘルスという言葉の登場と軌を一にしていると実感することができます。現実、職場の事例で一番極端な例は、仕事についていけなくなった同僚等への対応をどうするか、職場の中で存在が浮き上がってしまった彼・彼女にどう対処するかといったことです。メンタルヘルスはこうした事象の背後に、職場での日々の対人関係上の軋轢や、過密な労働による過労の蓄積など、連続した問題があるということを言葉として捉えようとしたものといえるのです。
 

【心身症】
 具体例でいくつか病気の代表例を示してみます。胃を悪くすると潰瘍や胃炎がおこるというように、人間の身体は具合が悪くなった箇所によって様々な症状を呈します。同様にストレス症状の出方も様々なパターンがあります。このパターンを知っているかどうかでだいぶ違ってきます。メンタルと聞くと「わからない」「奇々怪々」と妙な抵抗感を持ちがちですが、反応のパターンがわかれば、全然抵抗なく一般の身体の症状と同じように受け入れられるのです。
 人はいきなり精神的に病むのではなく、その前段で身体がいろいろな症状を呈します。これは「心身症」と呼ばれ、その軽い段階が「自律神経失調症」で、疲れ、めまい、立ちくらみ、動悸などのストレス反応がみられます。これはバランスを調整をするはずの自律神経がストレスで失調し、身体全体に症状が現れるのです。その他に高血圧、不整脈、気管支喘息などの症状もあります。
 メンタルヘルスで大切なのは「原因は一つではない」ということ。一つの原因さえよくすれば全て解決するということはありません。様々な要因が重なっているのです。家のこと、職場のこと、身体の疲れ、あるいはもともと身体が持った弱さや傾向も関わってきます。いろいろな要因が重っているので対処も複雑にならざるを得ません。だからその分、より人間的なものが必要とされるのです。職場でこうした身体の症状を呈したとき、「実はストレスの関与があったのでは?」と本人が気づき、また周囲も気づいていくことが大切です。
 実例をあげて解説してみましょう。以降、取り上げる諸例への私の関与はみな数年前のもので、現在継続しているものでないことをお断りしておきます。
  職場も長く勤め上げている男性。組合運動の経験があり、役職ではないが役職者以上に仕事を把握し、処理・采配の手腕を振るっていました。彼の力量に対して、職場が評価してくれるわけでもなかったけれど、不満を訴えることもない完璧主義な方でした。ところがいつしか関節痛、動悸、目の痛み、微熱などの多種多彩な症状を呈されました。一時は慢性疲労症候群ではとも思われましたが、最終的には心身症だということがわかりました。抱えていたストレスを自覚し、もっとずうずうしくなって良いのだと気づき、この気づきを職場の上司、同僚に言葉にして話されました。しばらく休職し、仕事の負担を減らし周りの理解の下で復職すると症状は徐々に消え、最後にはすっかり回復されました。言葉にならず職場で悶々とするというのは誰にでもあります。みんな同僚や上司に「俺のことをこんなふうに思っているのだろうな」「この職場は○○なところだ」なんて思っていてもなかなか口にできないものです。最近は労働組合の活動が下火になって、かつてよく耳にした「飲みにケーション」- 仕事が終わってみんなで飲みに出掛けることも、不況の折り少なくなりました。コミュニケーションを失って、ますます言葉にせずにため込む…。前述の事例は言葉にすることの大切さを示す事例です。

【神経症】
 いわゆるノイローゼというのは神経症の一種です。心理的影響が強くなって様々な反応を呈します。
 次にあげるのは、不安強迫神経症の範疇に入るものです。
 同僚とうまくいっていませんでした。同僚は非常に一方的な人でセクハラ行為も受けていました。こうした中で出勤時に動悸、過換気(過換気:不安で激しく呼吸をすることによって呼吸中枢が不調し、ますます呼吸困難に陥って激しい呼吸発作を起こしてしまう不安症状。)、そして乗車恐怖、確認行動という反応が起き始めました。乗車恐怖はホームに入ってくる電車に飛び込んでしまいたい衝動に襲われるという気持ちからきていました。誰でも、「あれ、ガス栓しめたかな」「鍵閉めたかな」と再確認に戻るというのは経験があるものですが、この手の確認を不安が高じて何度も繰り返す一種の強迫行動を確認行動と言います。職場の上司に配慮をしてもらいましたが、症状の安定までしばらく時間がかかりました。不安症状に大変効果のある薬を投与したところ、職場復帰までに回復しました。以前同様、問題の同僚は同じ部署に在籍したままでしたが、上司をはじめ周囲がフォローアップ体制を形成してくれました。メンタルな場合も他の身体の病気と同じでいきなり100%復帰は難しい。そこで、最初はリハビリ勤務をとって徐々に回復しました。

【正しい理解を−精神分裂病】 
 この病気ほど世間で誤解を受けてきたものはありません。100人に1人は患うと言われるこの病気が、なぜこれまで私たちの身近で目にとめることが少なかったのでしょうか。
 今、精神病院で一番多いのは精神分裂病です。社会復帰が難しく、病院内での療養を受ける場合が多いので巷での出会いもまれであることがこの病気が誤解を受ける原因の一つとなっています。病気の原因は今でもわかっていません。しかし何らかの脳の失調がたまたま起きてしまったのです。遺伝的なものなどとも言わるがこれも確証はありません。むしろ誰もが発症する可能性を持っている病気だと理解していただればと思います。
 確かに発症すると辛い疾病です。周囲も「混乱して訳がわからない」との印象的な誤解を抱きがちですが、病気のパターンを理解すれば恐れることはありません。特有の緊張と弛緩の症状、つまり「思考力の低下」と反比例した「極度の緊張」が顕著となります。発症初期は異様な不安感、奇妙な緊張感が特徴で、周囲はなにか「その人らしくない」という印象を徐々に受け始めます。「ボーッとして着替えをしない、ひげを剃らない」「独り言を言う」「何か聞こえてくる」「猜疑心が強くなる」等である。緊張のなかで聴覚を刺激され「悪口を言われている」等、聞こえるはずのない音が聞こえるという症状は、緊張と聴覚への刺激に不安感・怯えが結びついての症状だと理解してください。
 さらに、弛緩の症状が強く現れます。「ボーッとして考えがまとまりにくい」といった非常に辛い状態です。世間的には、初期段階の緊張感があまり良い意味でなく有名になってしまいました。哀しいかな、昨今この疾病が介在した問題が新聞等で数多く報道されています。しかし、そのほとんどはこの病気自体が起こした問題ではないと強調しておきたいと思います。疾病としては初期段階より慢性期の弛緩した症状が残ること−いわゆる精神障害−が深刻な問題なのです。脳梗塞になって麻痺や言語障害が残るのと同質と考えてください。周囲が病気を理解することで本人も周りも安心できることがとても大切です。

【心の風邪−うつ病】
 最近、躁うつ病とうつ病は、感情障害あるいは、気分障害とまとめて捉えられる傾向がありますが、臨床的にはちょっと違います。特にうつに関してお話しましょう。日常のメンタルヘルス上の問題で一番多いのがうつ病です。神経症はうつと重なるところがあり、その区別は微妙に難しい。まず、身体にでる→不安になる→さらに追い込まれてうつになる、という流れとなります。うつは本当につらいものです。軽度のストレス症候群のように「気分転換に旅行する」「飲みに行く」で元気が回復するのはうつ病ではないことが多いのです。励ましてはいけないと言われるのは、自分で何とかしなければと思ってもできない状態にあるからです。見た目はボーッとしてやる気がない。特に朝が辛くて起きられず、仕事にいけない。でも夕方になると元気がでてくる。その姿が周囲にはいかにもさぼっているかのように見えてしまう。では、のんびり楽しめる状況の時に本人は楽しめるのかというと楽しめない。うつはエネルギーが失われた状態なのです。したがってエネルギーを蓄えることが一番大切なのです。
 うつは「心の風邪」と言われています。風邪は誰でも引くものです。そして休養をたっぷり取れば回復をするものです。心の風邪−うつにも休養が何より必要なのです。うつのもう一つの特徴的症状に不眠がありますが、多くの場合、眠れなくて余計うつ になっていってしまいます。良く効く薬もあるので、利用すると同時に休養と睡眠を充分に取って回復させていきましょう。 


【交流を基盤としたメンタヘルスの実現へ】

 人間はすぐ原因を求めたがるものです。しかし、メンタルヘルスに関して原因探しは禁物だし、精神論も筋違いです。なにより有効なのは小さな改善の積み重ねでなにか大きな原因を一つ見つけるより、参加型で、みんなが小さな改善を積み重ねていくうちに、徐々に状況というのは驚くほど良くなっていくものなのです。
同僚が、家族が、一人で不安としんどさを抱え込んでいる時、まずは働きかけることです。安心して心を開けるように声をかけていただきたい。そして、ゆっくり・じっくり聴いてください。聴き手は自分の意見ではなく、相手が抱えているものを十二分に話せるように聴くことに専念してほしいものです。すなわち傾聴と共感と呼ばれる大切なポイントです。思う存分話すことができる安心感は、信頼関係の土台を築きます。「しんどい」「つらい」「疲れる」など、受け入れやすい言葉を吟味し、相手が自分で気づく過程を大切にしましょう。
 また排除のための相談・受診にはすべきではありません。相談システムは、互いに安心できる関係づくりであってほしいものです。職場で誰かにメンタルな反応を呈したということは、その職場自体に何らかの歪みがあるからです。言葉にできないその歪みがその人の身体や心を借りて現れてきたと言って良いと思います。つまり、その人の抱えている問題は職場のみんなの問題なのです。。
 今、厚生労働省を中心にいくつかメンタルヘルス対策が提言されていますが、形式的な印象が強く、人間的な交流が感じられません。とりわけ症状に関する労働者自身のセルフケアを基盤とした考え方には違和感を感じます。より求められるのは、人間的交流を基盤としたメンタルヘルスです。どんな状況であっても関係を作るということで次のステップに結びつくはずです。例えばチームを作るということは大切です。本人が一番安心できる上司・同僚を担当者とし大きな公的枠のキーパーソンの役割を担っていただく。そして、他の人は「あっさりしたあたたかさ」で関わっていってください。後は、当人が自分のペースで自信を付けていくリハビリ勤務をしていくことによって必ず回復していくでしょう。
 充分な休養、適切な薬の使用、そして本人はもちろん、関わる周囲への安心と余裕を保証することが必須です。そして、余裕を持てるためのシステムづくりを目指していただきたいと思います。