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 腰痛・上肢障害−とりわけ頚肩腕障害 

腰痛の自然経過
  急性腰痛症の自然経過として、90%の人は2ヶ月後までに軽快、6ヶ月後までには97〜98%、1年後までには99%の人が軽快すると言われています。ところが、2年後には60%の人が再発の経験を持つと言われています。つまり一度は良くなっても、くりかえし痛くなる人が多いということです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。原因によっても異なるでしょうが、多いと思われる椎間板障害、椎間関節障害、変形性脊椎症について考えてみましょう。
  腰の背骨である腰椎の間にはクッションの働きをしている椎間板と後方左右に椎間関節があります。これらの関節は体重や手荷物の重さを支え、身体の動きに沿ってしなやかに動いています。ところが、この支点の役割をはたすため、そこにかかる力は体重の9倍にも及ぶことがあると言われています。
 日常生活や仕事の中で重いものを持ったとき、また筋疲労等でバランスを失って無理な力がかかったときなどに、これら椎間板や椎間関節の組織に小さい傷がついて腰痛を感じます。しばらく安静にしていれば、この傷は治癒して痛みもなくなります。しかし、傷痕の組織は元の組織に比べて力学的に弱いので、無理な力がかかったときには再び傷がついたり新しい傷が増えたりします。こうしてさらに傷つきやすくなってしまうのです。
  このような小さい外傷がくり返されて重なると、椎間板がつぶれたり、椎間板や椎間関節の周辺に骨棘と呼ばれる骨の出っ張りが形成されて、レントゲン写真やMRIを撮ったときに椎間板ヘルニアや変形性脊椎症と診断されることになります。
 40才代以降で、腰痛をくりかえす人のレントゲン写真やMRIでは、ほとんどの場合にこれらの変化が見られますが、画像所見でわかる前からその原因となる微小外傷はくりかえされているはずです。そう考えると、これまで単に筋疲労性と言われてきた若年での腰痛患者の中にもこのような経過をとっている人がかなりいるのではないでしょうか?
 整形外科医が、若年の腰痛患者に対して「レントゲン写真で異常がないので、何でもありません」と言い、変形がレントゲン写真にあらわれると「それは年齢の変化だから仕方ありませんね」と説明しているのをよく聞きますが、それならばこのような経過をとっている患者はどうしたら良いというのでしょうか?

腰痛の原因と対策
 腰痛のある人がその対策を立てるには、腰痛の原因について見当をつける必要があります。これは、なかなか難しいこともありますが、あきらめてしまうと有効な対策が見つからないことにもつながりますので考えてみましょう。
痛みの原因をさがすにあたって、第1のヒントは、「何がきっかけで痛くなったか?」です。重いものを持ち上げて、いわゆるギックリ腰のような急激な痛みが起きたときは、椎間板ヘルニアを含めて椎間板や椎間関節の外傷が多いと思います。何度もこうした傷をくりかえしていると、咳をしたり前かがみになっただけでも強い痛みが出るときがあります。
意外なのは、きっかけが思い当たらないときです。ちょっとつまづいたり、軽いものを動かそうとして腰をひねったり、横になってテレビを見ていただけなのに、腰の下の方や尻からももなどに痛みが出現し、歩くときにも続く。こんなときには、仙腸関節など関節が少しずれてひっかかっているときがあります。この場合は、関節運動学的アプローチ(AKA)など骨の間を動かす治療をすると早く良くなるときがあります。

  痛みの原因をさがす第2のヒントは、「どの姿勢で何をしている時に痛くなるか?」です。もし、痛みが全く姿勢によらずに続くとしたら、骨や靭帯、筋肉といった体の支持組織ではなく、内臓からきているものを疑った方がよいかもしれません。また、寒さや雨の前、あるいは精神的ストレスで強くなるとすると、自律神経のうちの交感神経が維持に役立っている痛みの可能性もあります。
痛みが出現する姿勢がわかったら、「どこが痛いか?」によってどこの関節や筋肉に負担がかかっているかを推測します。
場合によってはレントゲン写真やMRI検査をして原因を検討します。実際にはどこの椎間板、椎間関節等と特定できなくても、痛い姿勢がわかれば痛くならない方法を追求して、姿勢や体操、腰痛ベルト、筋力訓練等の対策を検討することができます


頚腕とは
 頚腕とは、頚肩腕障害のことです。頚肩腕障害とは、歴史的には1960年代からキーパンチャーに多発し問題になった疾患で、前腕から手の痛み、肩こり、腕のだるさ、目の疲れ、いらいら、不眠などの症状があり、手背部の腱のはれ、痛みのため、腱鞘炎と言われました。
 その後、他の職種でも報告され、現在では下記のように様々な職種で発生すること、また、次ページのような多彩な症状が起こることが知られています。
 これら多くの職種の共通点は何でしょうか。上肢や頚を使う作業くらいの共通点しかないように思えます。また、一つ一つの動作は日常生活にもあるようです。それならば、なぜ職業病として問題になるのでしょうか。
 頚肩腕障害を経験した方に、はじめから全ての症状がそろっていたわけではありません。はじめは、ほとんどの方が、どこか1ヶ所が痛くなったのです。たとえば、手首、肘、肩、頚などです。それは、使いすぎによる腱鞘炎だったり、肘の外側の炎症だったり、手首の神経の圧迫症状だったりします。
 日常生活で起きたことならば、痛い動作は自然となるべく避けるようにします。ところが、業務ではやり方が決まっていたり、人が足りなくて仕事が集中したり、締め切りに追われたりして、痛いことをがまんして急いでくりかえさなければならないことがあります。
 これが続くと、徐々に痛みの起こる範囲は拡がります。手から腕全体、肩、頚、頭、背中、半身、ときには反対の上肢まで拡がるときがあります。同時に、めまい、耳鳴り、吐き気、嘔吐、視力障害、聴力障害、集中力がなくなる、物をおとす、字が書けない、手指がふるえる、物忘れが激しくなる、うつ症状などが出現します。

頚腕の原因
 この原因として一番考えられるのは、痛みの悪循環です。すなわち、痛みの刺激がくりかえし加わることによって、下記の図のように、自律神経のうちの交感神経の異常を含め、これらの多彩な症状が強くなる回路ができてしまうのです。
 いったんこの回路ができあがってしまうと、休業をして症状が軽減しても、職場復帰をして痛みを感ずる作業を再度行うと、再び悪循環が起きて以前と同様の症状が強くなることが多いのです。

頚腕の対策
 それならば、このような頚肩腕障害はどのようにして防げば良いのでしょうか。

@つらさを感じる作業を改善する
 一つは、第1章で述べたような方法で作業の方法を改善することです。できれば、痛みを感じるくりかえし作業をなくして、痛みの悪循環の回路ができる前に予防します。また、頚肩腕障害が発症しても仕事を続けるためには、この作業の改善をしていくことがどうしても必要になります。
A勤務時間、作業編成を改善する
 頸肩腕障害は痛いことをくりかえさなければならないときに起きます。これは忙しさに追われるなかで起こるのが普通です。作業の方法が改善されると症状は軽減しますが、さらに良くするためには、勤務時間、作業編成を改善する必要があります。痛いことを持続しないですむように勤務時間を調整したり、一つの作業を専門に担当するのでなく、役割を交代するローテーションを組んだりします。