(韓国)[声明] 出入国生体認証AI識別追跡システム違憲訴訟、憲法裁判所却下決定を遺憾に思う

以下は、3月3日付で発出された韓国の市民社会団体の共同声明の日本語訳です。この声明にあるように、韓国では、AIの顔認識学習のために、2019年から2021年にかけて官民が連携して空港利用者の膨大な顔データを用いていたことが発覚し、法務省出入国AI識別追跡システムを違憲とする訴訟が、韓国国内だけでなく国外からも原告が参加し、提起されました。残念ながら、先頃敗訴の判決が出されました。この判決に際して以下の声明が出されたものです。日本でも野放図に進んでいる個人データの利用に歯止めをかけるうえでも、韓国の闘いに学びたいと思います。


出入国生体認証AI識別追跡システム違憲訴訟、憲法裁判所却下決定を遺憾に思う

公共の場所における個人の顔・動作追跡AI、重大な人権侵害の事実に変わりなし

憲法裁判所は2月26日、法務省出入国AI識別追跡システムに対して提起された憲法訴訟を却下した。本件は2019年から2021年まで法務省と仁川出入国・外国人庁長、 科学技術情報通信部が「AI識別追跡システム開発事業」を推進する過程で、国内人5,760万件及び外国人1億2千万件に及ぶ国籍、生年、性別などの個人情報と顔写真を複数の民間企業にAIアルゴリズム学習データとして提供した事実が報道などを通じて明らかになり、社会的に大きな波紋を呼んだ事件であった。

国内人と外国人で構成された憲法訴訟の原告ら(請求人)は、出入国審査目的で収集・保管された写真などの個人情報を学習データとして移転し民間企業が処理できるようにしたことが、個人情報自己決定権を含む請求人らの基本権を侵害したと主張した。

法務省をはじめとする関係当局は、このシステムが自身の個人情報を扱ったか確認してほしいという請求人らの閲覧要求や個人情報紛争調停にも適切に対応していなかった状況であった。その理由は、大量のデータから請求人を識別できない、あるいはシステムとデータを破棄したため処理事実を確認できないというものだった。国家が出入国審査目的で収集・保管された個人情報を大量に民間企業のアルゴリズム開発のために目的外利用しながら、その被害事実すら確認し難い現実において、請求人たちは最後に憲法裁判所に違憲性を確認するよう訴えた。しかし憲法裁判所は形式的な理由を挙げ、我が国を往来した経験のある国民と外国人の大多数に該当する可能性のある大規模な人権侵害を黙殺した。

憲法裁判所は、市民社会の問題提起により顔のデータを学習データとして活用する本件事業は終了し、顔データも破棄されたため、権利保護利益がないと判断した。しかし、被請求人らが事業終了とデータ破棄に至る間、顔データを活用した責任を追及するためには、その違憲性が確認される必要があったため、権利保護利益が消滅したと見るのは妥当ではない。

また憲法裁判所は、権利保護利益の消滅を前提とした上で、再発の危険性を断定し難いとして、訴えの利益もないと判断した。しかし、顔データが利用され得る状況そのものが個人情報自己決定権に対する危険であるため、再発の危険性は存在し、したがって訴えの利益がないとする憲法裁判所の決定は納得しがたい。

また憲法裁判所は、顔データのような個人情報を利用できないように禁止する規定を制定する積極的義務が憲法から導出されることは困難と判断した。しかし積極的義務は、憲法の明文規定、関連する基本権及び法令の解釈、基本権保護義務などから導かれるため、憲法が保障する個人情報自己決定権と国際人権条約に基づく国家の法的義務として、顔データ活用に対する市民の個人情報自己決定権を立法で保護する義務は導かれると解すべきである。憲法裁判所のこのような判断は、AI時代において人権を保護すべき国家の憲法上の責務を狭く解釈したものであり、不適切な判断としか言いようがない。

憲法裁判所の今回の却下決定は、データ基盤技術であるAIの学習データ処理が引き起こし得る基本権侵害を顧みない無責任な決定である。アルゴリズムのみを残し、データ及びその処理記録を全て廃棄してしまった不透明で無責任な国家の行為が、憲法上の判断すら受けられなかったためである。国家が内国人と外国人の膨大なデータを学習用に処理しながら、被害を救済するどころか、最低限の事実確認さえ回避したことは、AI時代における説明責任と透明性の原則の観点から、極めて不適切な先例として残るであろう。

憲法裁判所の失望すべき決定にもかかわらず、個人の顔と動作を追跡するAIシステムが重大な人権侵害であることは明らかだ。特に空港のような公共の場で個人の敏感な生体情報を識別しリアルタイムで追跡することは、個人情報に対する自己決定権など多くの人々の基本権に大規模に影響を与え、継続的に監視されているという事実自体が、一般的な行動の自由権だけでなく集会の自由などの基本権の自由な行使を制約しうる。

今日、かつてない速さでAIが一般市民の生活と労働に浸透している。その意味で、憲法裁判所がAIの人権侵害に関する基準を設ける機会を自ら放棄したことは非常に遺憾である。統制されない国家権力から市民の自由と権利を保護すべき使命を担う憲法裁判所は、より積極的な判断をもってAI学習データの人権基準に関する実体的判断に至らねばならなかった。公共機関が保有するデータを同一または類似の形態で活用し、AI高度化事業が推進される可能性が十分にある点から、憲法上の解明の必要性は切実であったが、憲法裁判所は固有の使命を放棄した。

今後も私たち市民社会は、AIの人権侵害問題に対する警戒心を緩めることはないだろう。特に警察をはじめとする法執行機関が公共の場で市民の顔や動作などの生体認証を通じてリアルタイムに識別・追跡する事件が発生した場合、憲法上の正当性を引き続き問いただし追及する。市民の人権を脅かすAIシステムは私たちの未来にはなり得ないからだ。以上。

2026年3月3日

デジタル正義ネットワーク、民主社会のための弁護士会デジタル情報委員会、情報人権研究所、参与連帯

原文 https://act.jinbo.net/wp/51481/

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