JCA-NET理事会
2026年2月19日
Table of Contents
- 1. SNSを駆使しての選挙介入による公正性を欠く世論誘導
- 2. なぜ1億回を越える再生回数が実現できたのか
- 3. プラットフォーマーは中立ではない
- 4. コミュニケーションの権利運動の観点からの問題提起
(要約)
2026年2月8日に投票が行なわれた衆議院選挙は、SNSを駆使しての選挙への介入による公正性を欠く世論誘導の新たな傾向が、日本で初めて露呈した選挙となった。日本におけるSNSの利用者数は極めて多く、選挙への影響は無視できない。特に、自民党高市政権のYoutube動画が1億回を大きく越える再生数を短期間に実現したことは注目すべき現象である。
ネットを駆使した選挙は、個人の自由なネットでの情報発信を基盤とした選挙を可能にするようにみえるが、最も大きな影響力を振ったのは、投稿や拡散を左右するアルゴリズム(機械的な手順)や広告表示で収益を上げる営利目的のプラットフォーマーの存在だ。プラットフォーマーぬきには自民党が1億回を越えるアクセスを稼ぎ、投票行動に繋げることはできなかっただろう。プラットフォーマーは中立的な存在ではなく、差別や排外主義を煽ることで収益を上げ、経営者たちは米国のトランプ政権を支持し、政府との連携関係が密接でもある。
こうした状況を念頭に置いたとき、高市政権の政策そのものが選挙によって実質的に支持されたと評価することはできないが、圧倒的な議席を確保したことで、改憲や軍事化、監視社会化へと進むだろう。これに対して私たちは、プラットフォーマーに依存した情報発信を見直し、フリーソフトウェア/オープンソースやフェデレーションに基くSNSなどコミュニケーションの権利と人権を重視し、政府による監視社会に抗するプラットフォームへの切り替えが喫緊の課題になっている。
1. SNSを駆使しての選挙介入による公正性を欠く世論誘導
2026年2月8日に投票が行なわれた衆議院選挙は、自民党高市政権の歴史的な圧勝となった。今回の選挙について、コミュニケーションの権利運動を担ってきた立場から、憂慮すべきいくつかの問題について意見を表明したい。
とくに、今回の選挙はSNS1を主戦場として、実空間においても街頭演説から投票所へと有権者を動員する構造が明確になった。同時に、SNSに固有の差別や偏見を煽るようなメッセージが不自然なほど広く拡散した結果として、選挙の争点が外国人排斥を肯定するような主張にシフトする結果を招いたのではいかと思われる。これまで米国などでみられたSNSを駆使しての選挙への介入による公正性を欠く世論誘導の新たな傾向が、日本で初めて露呈した選挙となったといえる。
日本におけるSNSの利用者数は極めて多く、選挙への影響は無視できない。たとえば、LINEのばあいは月間アクティブユーザーが1億人と日本で最も多く、次にYoutubeの7300万人、Xの6800万人と続く。2 他方で、選挙に関する情報の信頼性や投票の判断を左右する信頼できる情報源は従来のテレビ、新聞や選挙広報を上位に上げSNSは信頼性に欠けるとする調査(2024年の衆議院選挙)もあり3、SNSを過大に評価すべきではない。とはいえ、その動向を注視することは、コミュニケーションの権利運動にとって欠かせない。
特に、自民党高市政権のYoutube動画が1億回を大きく越える再生数回数を短期間に実現したことは注目すべき現象である。4 多くのメディアが疑問を呈しているように、短期間に1億回を越える再生回数は極めて異例であり、様々なSNSを利用しながら、とくに、無党派層や浮動票と呼ばれる人たちに対して、いわゆるターゲティング広告などの手法も駆使して、投票行動を自民党へと誘導する戦術が成功したといえそうだ。
2. なぜ1億回を越える再生回数が実現できたのか
ネットを駆使した選挙は、一見すると個人の自由なネットでの情報発信を基盤とした選挙を可能にするものとみなされがちだ。しかし、最も大きな影響力を振ったのは、投稿や拡散を左右するアルゴリズム(機械的な手順)や広告表示で収益を上げる営利目的のプラットフォーマー5の存在だ。この点については、すでに問題点も様々指摘されてきた。6
自民党は、商業広告の手法を選挙運動に活用し、短期間で圧倒的に多くのアクセスを獲得したと判断してよいだろう。公職選挙法上、インターネットの広告を利用することには一定の制約があるが7、政党の政治活動は認められるため、これを巧妙に利用した選挙戦を展開したとも解釈できる。商業広告手法の政治領域への転用には以下のような問題がある。
- 莫大な広告費の投資8によって、有権者が接するメディア環境に対して支配的な影響を及ぼした。
- 商業広告の手法は、イメージによる心理的な刺激の効果を利用して人びとの行動をコントロールする。政策など深い議論や理解への関心を意図的に回避する手段として商業広告の手法が利用された。
- SNSの公式アカウントを取得して有料サービスで情報発信する自民党など政党は、無料のサービスを利用する多くのユーザーとは立場が異なり、プラットフォーマーが収集するユーザーの居住地、性別、年齢、嗜好など様々な傾向を取得して分析することが可能である。
- 結果として、もはや有権者は文字どおりの「匿名性」を保障されなくなっている。
3. プラットフォーマーは中立ではない
現行法では、法律上マスメディアが選挙において中立でなければならない、という制約はなく、むしろ特定の政党や候補者を支持あるいは批判する自由が保障されている。9 同様に、プラットフォーマーについても、政治的中立性や公平性などを法律上義務づけられるものではない。プラットフォーマーが今回の選挙でどのような政治的な姿勢で臨んだかは不明であるが、マスメディアと異なってプラットフォーマーが有権者の投票行動に与える心理的影響はより直接的である。広告や投稿の掲載方法をアルゴリズムによって操作することが可能なことは知らている。プラットフォーマーがユーザーには知られないように密かに政権を支持して自社のアルゴリズムを政権に有利なように活用したり、野党勢力の発信を密かに規制するようにアルゴリズムを操作することは、技術的には不可能ではない。(海外の事例として、2016年の米大統領選挙や英国のEU離脱国民投票でのケンプリッジアナリティカの事例が有名だ10)
Youtube、X、Facebook、Microsoft、Appleなど主要な米国のIT大手がいずれもトランプ政権を支持する企業であり、トランプ政権と高市政権は極めて親密な関係にあることを念頭に置く必要があろう。他方でLINEのような企業は、政府や自治体との連携事業に関与し、収益上も中央・地方政府との関わりが大きい。11 こうしたプラットフォーマーは、ユーザーの行動を把握可能な詳細なデータをビジネスにも利用している。この現状を踏まえたとき、SNS利用者の発信と拡散に影響するアルゴリズムが、選挙運動にも転用され、結果として投票行動にも影響を及ぼす可能性は否定できない。私たちは、この点に強い関心を持たざるをえない。
従来から自民党は財界の支援を受けてきた政党として、企業献金に固執してきた。戦後長年にわたって自民党は、製造業を中心としたいわゆる「重厚長大」産業に支えられてきた。しかし、現代の大手企業の基軸をなしているのは、情報通信関連産業などであり、私たちのコミュニケーションの権利と不可分なサービスを提供している企業である。12上述したように、情報通信関連の企業が政治や選挙に関わって、政権に有利なように振る舞うことは、橋や道路などの公共事業の見返りに選挙に協力するといった伝統的な集票手法とは全く異なる深刻な影響をもたらす。
プラットフォーマーは、その保有するビッグデータを利用すれば、有権者の感情や心理などに影響を与え、投票行動を直接コンロールしうる力をもちうる。しかも、プラットフォーマーが選挙に深く関与すればするほど有権者の投票行動に関するビッグデータも集積され、こうしたデータを政権が利用する可能性もまた大きくなる、という相乗効果すら生まれる。
その一方でプラットーマーは、ヘイトスピーチや差別・排外主義を下支えするような傾向をを煽ることで収益をあげる構造があることも、これまで繰り返し批判されてきた。13今回の選挙でも、こうしたプラットフォーマーの傾向によって、差別・排外主義が選挙の争点として過大に拡散された可能性も否定できない。
今回の選挙は、プラットフォーマーがもつ情報発信のコントロールの力と政権政党による莫大な広告費の投入、プラットフォーマーの経営者の政治的な姿勢、政府との連携関係を念頭に置いたとき、従来とは異なる意味での、不公平なメディア環境のなかでの選挙であった蓋然性が大きい。今後、資金力があり、プラットフォーマーの経営者たちとイデオロギー的に親和的な政党がますます選挙で有利になる世論の構造が、人為的に構築されうる可能性がある。
こうしたメディア環境を念頭に置いたばあい、高市政権の政策そのものが選挙によって実質的に支持されたと評価することはできないだろう。にもかかわらず、圧倒的な議席を確保したことで、改憲や軍事化、監視社会化など大きな統治の枠組変更が強行可能になり、権力構造はより強権的なものになるだろう。
4. コミュニケーションの権利運動の観点からの問題提起
プラットフォーマーが作り出した構造的な歪みを正すことは容易ではない。しかし、私たち一人一人がコミュニケーションの権利を防衛し、さらにより一層大きな権利の領域を確保するためにできることは、まだまだ多くある。
私たちは、まず何よりも、巨大なプラットフォーマーが私たちのコミュニケーションの権利や人権の味方ではなく、むしろ私たちの多くが依存している無料で便利なプラットフォーマーのサービスが私たちを監視したり統制するための「罠」になりうるものだ、ということを確認する必要があるだろう。つまり、
- 商用SNSは、公平で中立的な情報発信環境ではないこと。プラットフォーマーが一方的に決定できるアルゴリズムによって支配されている領域であることを認識すること。
- プラットフォーマーの利用は、同時に、ユーザーの様々な個人データの窃取を招く可能性があること。これは、利用者の「私」だけでなく、私の発信をフォローしたりアクセスしてくれる他の人びとにも及ぶことを認識すること。
- こうした個人データは、将来、政府など権力者にも利用されうる可能性があること。現行法で規制があっても将来容易に改悪されうる状況にあること。
- 営利目的のプラットフォーマーのアルゴリズムは、差別、偏見、排除を扇動する仕組みをもち、また、主要なプラットフォーマーはガザでのジェノサイドなど戦争犯罪の共犯企業でもあり、憎悪と戦争で収益を上げる構造になっていること。
である。
これに対して、市民運動、労働運動、社会運動など運動団体は、営利目的の従来のプラットフォーマーを利用した情報拡散に頼るだけではなく、可能なところでは、オープンソース/フリーソフトウェアの利用や、中央集権的な商用サービスではないフェデレーションに基づくサービスを併用することを検討し、差別や排外主義、戦争に加担せずにより人権や平和を優先するコミュニケーションサービスへの移行を、可能なところから追求していくことが求められている。こうした取り組みなしに、不公正なネットのコミュニケーション環境からの脱却はありえない。
コミュニケーションの権利運動を担ってきた団体としてJCA-NETは、とくに、スパイ機関創設などネットの監視や取り締まりの強化に反対する。また、日本で暮す外国籍の人びとへの差別と排除が制度化され、より一層の排外主義とナショナリズムの感情的な扇動がネットの世論を支配するような基盤が強化されることに反対する。そして、国益や資本の利益を優先する情報発信の基盤から人びとの生存権と人権を最優先とする基盤への転換のために、今後とも一層努力する決意である。
Footnotes:
ここでSNSと総称しているものには、X、Facebook、Instagram、Tiktok、Lineなど双方向参加型の交流メディアを指すが、ここではこれに加えてYoutubeも念頭に置いている。
「2026年2月版】日本国内・国外人気SNSユーザー数ランキング|X(Twitter)、Instagram、TikTokなど15媒体」https://www.comnico.jp/we-love-social/sns-users
日本新聞協会、新聞科学研究所「衆院選の投票先どう決める?選挙情報の集め方3ステップと参考になる情報源」https://np-labo.com/archives/episode/202506kiji-02
(FLASH)高市動画 “異常すぎる” YouTube再生数にインフルエンサーが続々と疑問表明…およそ9000万回 “ヒカキン級” メガヒット(なぜかエンタメ欄) https://smart-flash.jp/entertainment/entertainment-news/390495/
(ピンズバ)高市首相のPR動画が“1億回再生”の日本最速記録を達成 YOASOBIの“伝説の記録”をあっさり超えネット騒然 https://pinzuba.news/articles/-/14187
時事通信 高市首相動画、異例の1億再生 SNS「広告」、疑問の声【2026衆院選】 https://www.jiji.com/jc/article?k=2026020400969&g=pol
東京新聞「「高市動画」再生1億3000万回超のナゾ」2/7の特報記事の一部 https://www.tokyo-np.co.jp/article/467084
プラットフォーマーとは、「情報通信技術 (ICT) やデータを活用し、ユーザーに多種多様なサービスの「場」(platform) を提供する事業者の総称」である。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BC ここでは、主に、いわゆる大手のSNSサービスを提供している企業を念頭に置いている。
「SNS選挙「動画再生数稼ぎ」規制論 自民党が論点整理」日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA051GZ0V00C25A2000000/ 「高市氏の動画1億3千万回再生 各党も広告に注力 公選法の課題は」 朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASV2623XSV26UTFK002M.html
公職選挙法では、インターネットのウエッブ等の広告機能についても一定の禁止規定を設けている。(公職選挙法142条の6) ただし、これには例外規定があり、総務省は「選挙運動期間中、当該政党等の選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクした有料インターネット広告を認めることとしています(改正公職選挙法第142条の6第4項)」との解釈を示している。
SNSに自民党が投じた広告費のデータを把握できていない。しかし、たとえば、Youtubeで2週間ほどの期間に1億回のアクセスを得るために、全ての表示広告機能を利用し、ターゲティング広告などのプロファイリング機能やSNSとの連携などを活用したと仮定した場合、数億円規模の経費がかかる可能性がある。
公職選挙法148条 「第148条 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第138条の3の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。 」 日本新聞協会「公職選挙法第148条に関する日本新聞協会編集委員会の統一見解(要旨)」1966年 も参照。https://www.pressnet.or.jp/statement/report/661208_99.html
ブリタニー・カイザー『告発――フェイスブックを揺がした巨大スキャンダル』、染田谷茂 他訳、 ハーパーコリンズ・ジャパン、参照。
政府機関等でのLINE利用率は78%、自治体では64%にのぼる。「政府機関・地方公共団体等における業務でのLINE利用状況調査を踏まえた今後のLINEサービス等の利用の際の考え方(ガイドライン)について」内閣府等 https://www.cyber.go.jp/pdf/policy/general/guideline_gaiyo210430.pdf
2025年10月現在で中央政府が受け入れている民間人材についての省庁別のデータとして以下を参照。内閣官房「民間から国への職員の受入状況」 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/pdf/ukeire_r070331.pdf
以下、最近のGazaでのジェノサイドに関連した検閲などの事例の一例を挙げておく。「(Google経営陣宛書簡)ムスリム、アラブ人、パレスチナ人に対する検閲と差別をやめるべきだ」 https://jca.apc.org/2024/05/google%E7%B5%8C%E5%96%B6%E9%99%A3%E5%AE%9B%E6%9B%B8%E7%B0%A1%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%80%81%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%96%E4%BA%BA%E3%80%81%E3%83%91%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%8A/ 「(leavex.eu)ヨーロッパのすべての政治家とリーダーに宛てたX/Twitter放棄を求める公開書簡」https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/hankanshi-info/knowledge-base/leavex-eu_open-letter-to-all-european-politicians-and-leaders_jp/ 「(dropsitenews)リークされたデータから、FacebookとInstagramにおける親パレスチナ派の投稿を削除するイスラエルの大規模キャンペーンが明らかになった」https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/hankanshi-info/knowledge-base/dropsitenews_leaked-data-israeli-censorship-meta_jp/
Date: 2026/2/19
Author: JCA-NET理事会
Created: 2026-02-19 木 18:09

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