ユダヤ民族3000年の悲劇の歴史を真に解決させるために ― 論証と資料
映画「シンドラーのリスト」が訴えた“ホロコースト神話”への大疑惑
初出『噂の真相』(1994.9) レポーター・木村愛二(フリージャーナリスト)
その5:殺虫剤チクロンBで人を殺せるか
短い文章では詳しい論争の歴史の紹介はできない。論争点を簡単に紹介することにする。
まず第一は、「大量殺戮」の決定的な物的証拠、「凶器」そのものへの疑問である。
「ガス室」で使用された「毒ガス」は「チクロンB」だとされ、そのラベル入りのカンはあらゆる映像作品に出現する。
NHKが昨年放映した『ユダヤ人虐殺を否定する人々』にも、古びたカンのラベルの文字「チクロンB」にフォーカスインする無言のインサート画面があった。
ところが、ホロコースト否定論者の主張によると、「チクロンB」は1923年に開発された「殺虫剤」で、第2次大戦当時に大流行した発疹チフスの病原体のリケッチャーを媒介するシラミ退治に使われたものなのだ。私の手元には、アメリカの裁判で提出された「チクロンB」の取扱い説明書がある。
それによると「チクロンB」は、木片などに青酸ガスを吸着させ、カンに密閉したものである。カンから出して加熱すると、沸騰点の25.6度C以上で青酸ガスが遊離するが、指定の使用方法では蛾を殺すのに24時間掛かる。人体実験の報告はないが、ニュールンベルグ裁判で証拠とされた収容所長の自白などのように、数分とか数十分で人間を死に至らせるのは、とうてい不可能である。[注1]
「チクロンB」に関する日本語の文献は発見できない。各種専門機関に問い合わせたが、その種の戦前の文献を知る人の所在さえ、まだ分らない。分る人がいたら、ぜひ教えてほしい。とりあえずのところ、平凡社発行『世界大百科事典』を見ると、「殺虫剤」の項目で「薫蒸剤」の分類の中に「青酸」と記されている。「チクロンB」のことかもしれない。「科学兵器」の項目では「毒ガスの種類」の中に、「皮膚剤」の分類で「青酸」はあるが、「チクロンB」という製品名はない。[注2]
また、次のような興味深い説明もある。
「第二次大戦中、ドイツはタブン、サリン(ともに青酸ではなく「神経剤」の分類)を開発したが使用しなかった。その理由は敵側による報復使用や国際世論の非難を恐れたことのほかに、ヒトラー自身が第一次大戦で毒ガス被害を受けたことによるという説もある」
「サリン」について松本市の事件の記事では、「無風状態で使用すれば核爆弾の威力」と解説している。「ヒトラー自身が云々」の真相は確かめようもないが、これだけ強力な「殺人用」毒ガスを開発していたドイツがなぜ、ユダヤ人を「大量に抹殺」するために「殺虫剤」を使ったのか。この点はまったく理屈に合わない。
注1:チクロンBの毒性は強い。沸騰点以下でもガスは遊離するが、室温20度Cで、ほとんどが遊離するのに半時間掛かる。その後も遊離は続くから、数分か数十分後に室内に入って死体を片付けるという「元収容所長の告白」では、作業員に危険がある。詳しくは拙著『アウシュヴィッツの争点』を参照されたい。
注2:その後、読者から、戦前の日本語の本の該当箇所のコピーを頂いた。つまり、戦前の日本でも知られていた著名な殺虫剤だったのである。これも詳しくは拙著『アウシュヴィッツの争点』を参照されたい。