「原発に死を!」 調査意見報道シリーズ 8.

臨界“中性子”被曝、大手メディアの遮蔽状況

1999.11.7.mail再録。

 とてもとても、疲れる話なのですが、さる1999.11.4.科学技術庁(以下、科技庁)が発表した原子力委員会への報告書に関する大手メディア報道について、わが貧乏長屋にて現在可能な限りの比較検討を行い、中間的論評を加えます。

 題名の「大手メディアの遮蔽状況」の「遮蔽」は、「中性子を建物が遮蔽」するという主旨の報道を皮肉ったものです。「状況」とは、実際の危険や、科技庁の犯した重大な過ちを、どの大手メディアも正確に反映していないのではないかという視点から、私が設けた基準で、上記報告の報道の「危険情報遮蔽振り」を「採点」するという意味です。

「中性子を建物が遮蔽」するという主旨の報道の最大かつ決定的な問題点は、科技庁が犯した最大の“殺人的”政治犯罪、要約すれば、避難勧告の4時間半もの遅れ、それも350メートル以内の住民に限定、その外の住民には屋内に待機、つまりは「逃げるな!」「逃がさないぞ!」「放射能被爆者の隔離、密閉、証拠湮滅、抹殺!」へとつながる恐怖のシミュレーションの「遮蔽」なのです。

 わが貧乏長屋の最新電話耳情報によれば、『しんぶん赤旗』(1999.11.6)に、長い長い対談記事が載っているそうです。ワープロ変換の一発では「恣意」になってしまう変換不可能の「シイ」(漢字の綴は記憶薄れ)という名前の、トッキョキョカキョクではなくて、ともかく発音し難い日本共産党の書記「局」長、兼、衆議院議員が、国会の答弁を引用しつつ、JOCが事故発生の9月30日午前11時の15分後、科技庁に「臨界事故らしい」とのファックス通信を送り、11時58分には専門官が現場に到着しているというのに、避難勧告がでたのは4時間半後という指摘をしているそうです。

 その話がなくても、かなり前に分かっていた「恐怖の4時間半」。この大見出しこそが、上記の「私が設けた基準」の中心であり、さらには、以下、その細部の謎、疑惑、驚愕、愕然、唖然、呆然、寒心の至り、などなどの追及の程度が、点検項目なのです。

 では、まず最初に、私が先に送ったmail、「NHKの自主規制早とちりか:中性子を建物が遮蔽?!」(Sent:99.11.4.4:43PM)の要点のみを、以下に再録します。ただし、耳で聞いただけで記した大嫌いなカタカナ語の「ミリシーベル」は、どうやら「ミリ・シーベルト」だったらしいのですが、原語を調べる気も起きず、「ト」もかく、「ト」りあえず、嫌々、訂正します。なお、若干、句読点を加えました。


[pmn 8967]にて、以下の文面を拝見しました。調査結果を他のMLの方にも知らせます。

「今朝、11月4日、朝7時のニュースの冒頭で、東海村の臨界事故を取り上げ、臨界がはじまった最初の25分間で中性子の48パーセントが発生したと報道しました。その中で、中性子は壁によって遮られると若い男性の記者はいいました。記者の名前は見落としました。ときどき理解できないNHKの報道が気になります。」

 で、早速、立場を明らかにして、NHKに質問したところ、デスクの返事が得られました。後刻、ヴィデオを確認した上での返事です。

 上記の25分間に、75ミリシーベルトの中性子が、事故現場から80メートル離れた境界線の位置で、最大限、飛んでいたと推定されるが、中性子は建物に一部吸収されるという主旨の口頭説明をしたとのことでした。


 以上の内、「中性子は建物に一部吸収されるという主旨の口頭説明」に関しては、以下の2通の公開mailによっても、「大意」の裏打ちが得られました。なお、amlMLの全文記録は誰でもホームペ-ジで見ることができます。私は、このmailを見る以前に、上記のように、直接、NHKの朝7時のニュースのデスクから、ほぼ同主旨の説明を受けているので、次のmailの「NHK職員の金行」さんの存在までを疑う必要はないでしょう。ここではmailの内容紹介を「中性子」問題に限定します。


[aml 14693] Re: NHK の自主規制早とちりか:中性子を建物が遮蔽?!

 NHK職員の金行です。[中略]

 当該の原稿を調べてみました。

 大意としては「建物の中にいれば、中性子線の一部が遮られるので、被曝量はその分だけ減る」となっています。[後略]


[aml 14709] Re: NHK 職員に告ぐ。今からでも遅くはない。

[前略]今回は、私のいるセクションで調べることができた[中略]

 今回は明らかに部外者が接することのできない情報源から情報を得て発言しましたので、自分の職業属性を明かさないのはフェアでない、と判断して「NHK職員」とわざわざ書きました。[後略]


 このような公開mailで、「NHK職員」が、「明らかに部外者が接することのできない情報源から情報を得て発言」などと言い出したのは、これまでに聞いたこともない初体験でもあり、異常事態でもあります。内部告発なら大いに歓迎すべきところですが、公開mailで「NHK職員」と名乗る人物が、「当該の原稿を調べてみました」と称しているのに、当方にはヴィデオ録画を見る権利すらない状態なのです。ここでは省略しましたが、意見の違う部分に関しては議論の仕様もなく、これも大嫌いなカタカナ語の「フェア」どころか、甚だ以て不公平な情報格差状況となります。市販の活字メディアの場合には絶対に生じない現象です。

 しかも、以上のように「中性子」に関してだけでも、「主旨」とか「大意」だけでは、ニュース全体が視聴者に与える効果は議論し難いのです。そこで、当面は事実上不可能かつ不当極まりない事情を熟知しつつも、一応、NHKの社会科学文化部デスクに、詳しい経過を話して、上記「原稿」の一般公開への努力を求めました。

 また、その間、別のNHK社会科学文化部記者が、「現地住民に不安を与えてはいけないから正確な情報を伝える」との主旨で、「建物や樹木が中性子線の一部を遮ぎると報道した」と言明され、さらには御親切にも、「貴方は、中性子が建物などに当たると、どう変化するか、詳しいことを知っているのか」と、御下問されました。私は、即座に、「詳しくは知らないが、中性子が最も貫通力が強いことは誰も否定していない。一部という報道は正確ではない。むしろ不正確だ。ほとんど遮られないのだから、屋内に止まれという指示が誤りだったことの方を強調すべきである」と、申し上げて置きました。ともかく、私の最初のmailの推測の「報道操作」もしくは「自主規制」状況は、上記の記者の「現地住民に不安を与えてはいけない」という、非常に思い込みの強い、御神託口調の、優等生的発言によって、ほぼ確実に裏付けられました。

 さて、次の問題は、上記の「中性子は建物に一部吸収される」とか、「一部が遮られるので、被曝量はその分だけ減る」との主旨の文言が、1999.11.4.14:00に発表された科学技術庁の原子力委員会への報告書に、記されていたのかどうか、あったとしても、それが正確に報道されたのか、または、短い記事で報道すべき問題だったのか否か、にあります。私は、最初に紹介したmailを見て、すぐに、科学技術庁の広報に電話で確かめましたが、その際には、そういう誤解を招きやすい発表は、していないはずだとの返事でした。

 上記の報告書そのものについては、……、ああ、またもや、ついに深入り、毒食わば皿まで、どこまで続く、ぬかるみぞ……、全文の送付、もしくは急ぎ、科学技術庁ホームページへの入力を求めますが、とりあえず、わが貧乏暇無し仮住まい長屋の唯一の宅配、『日本経済新聞』(1999.11.5)の切抜きで、まず簡単に、「中性子」の「吸収」「遮蔽」のみを点検すると、

『日本経済新聞』:「放射線を遮るものがないと仮定した最悪のケースを試算」

 さらに、わがmail読者の協力により入手できた同日の『朝日新聞』『読売新聞』の報道振りを、NHK報道と、比較してみます。

『朝日新聞』:なし。

 もしも、科技庁報告に、似たような主旨の文言があったとしても、『朝日新聞』は、それを報道する必要を認めなかったと推定できます。

『読売新聞』:「ただ、推計値は、『あくまで計算上の最大値』(科技庁)で、途中の樹木や建物により減衰する効果もある」。「橋本昌知事」の発言の中で「建物の中にいたかどうかでも変わる」

 これでは、「減衰」が、「科技庁」の報告の文章の中か、報告者の発言か、どうかは、不明確ですが、ともかく、ハッキリとした「科技庁」の発表として、「言質を取る」報道にはなっていません。

 ああ、そこでまたまた、ついに、またもや深入り、毒食わば皿まで、どこまで続く、ぬかるみぞ……、と、嘆きつつ、武蔵野市中央図書館にまで赴き、『毎日新聞』『東京新聞』『産経新聞』の記事コピーを入手。30円の予定外出費。

『毎日新聞』:「ただ、建物の中などでは実際の被ばく線量は、この値より低くなるという」

『東京新聞』:なし。

『産経新聞』:「屋外にいた場合」「このデータは屋外にそのまま滞在し続けた場合の最大値で、現実はこれをかなり下回る公算が大きい」

 次の問題は、記事の取り扱い方です。基本的には見出しを比較するだけとしますが、これだけでも、大変な違い方です。

『日本経済新聞』:「東海村臨界事故(ロゴマーク)/避難勧告境界は年限度量の1.4倍/科技庁報告/5時間後、被ばく量」

『朝日新聞』:「JCO臨界事故/世界でも最大規模/避難の遅れ被ばく増加(解説)」

『読売新聞』:「JCO臨界事故被ばく推計/科技庁『健康への心配なし』/欠かせぬ継続観察/健康管理委設置を決定・原子力安全委/『科技庁判断信じる』『住民にショックも』『被ばくの有無、明確に』/地元の不安解消まだ?」

『毎日新聞』:「避難圏外の許容量超す/科技庁推定/臨界収束までの被ばく線量/住民の健康調査実施へ」

『東京新聞』:「半径350メートル以内の住民被ばく/避難前、年許容量超す?/臨界事故で科技庁報告」

『産経新聞』:「臨界事故/被ばく者増加の恐れ/科技庁調査/年間限度、最悪で100倍」

 これらの見出しの内、『読売新聞』の「科技庁『健康への心配なし』」については、上層部による報道操作の手口と断定できます。なぜならば、まず、記事内容の方では、報告書の要約説明として、「急性の健康影響が現れるようなレベルではない」となっているのです。犯人がデスクか整理部かは不明ですが、『健康への心配なし』と見出しを付けるのは、非常に政治的な誇張であって、許すべきことではありません。見出しの付け方では、『読売新聞』が最悪です。

 ところが、『読売新聞』は、他紙の3~5倍の紙面を使っており、国内問題の3面の記事の中心の扱いです。当然、内容も詳しくなっており、見出しと矛盾する部分も、上記以外に、多々あります。『朝日新聞』が「避難の遅れ被ばく増加」とした点に関しても、「発生から4時間半後」に「避難を要請」の経過を詳しく再現しています。また、次のような、他紙報道にはない具体的な指摘があります。この部分の「採点」は最高点となります。これこそが、私の評価の「野次馬ジャーナリズム」こと、元社会部帝国、ハチャメチャ無秩序、『読売新聞』の面白いところです。

「東大アイソトープ総合センターの小泉好延助手」:「安全を考えれば、半径1キロ以内の住民にすぐに避難勧告を出してもよかった。原子力委員会や科技庁が指示してすぐに避難させていれば、住民の被ばくは避けられた」

「原子力資料情報室の伴英幸共同代表」:「国際事故評価尺度をレベル4から5に格上げすべきだ」

「東大原子力研究総合センターの小左古敏荘助教授」:「広島、長崎の研究では150~200ミリ・シーベルトを浴びた人は長期的にみて発がんの影響が若干上がることがわかっている」

 それぞれの記事内容の比較は、上記の通り、報告書そのものの入手に、「ぬかるみ」を這い回る努力をした上で、改めて、記します。

 以上。


9.科学者ら科技庁批判・反原発意見沸騰
「原発に死を!」シリーズ一括リンク
原子力汚染vs超々クリーン・マグマ発電一括リンク
週刊『憎まれ愚痴』46号の目次