「原発に死を!」 調査意見報道シリーズ 15.

東海村臨界事故の法的措置への疑問

2000.1.7


投稿:見尾光庸

 東海村の臨界事故で最も被曝線量の高かった方がついに亡くなってしまいましたね。あらためて、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に目を通してみました。

http://www.houko.com/

(なお、以下の条文は全てこのサイトからです)。

 そして、ちょっと気になることもあったので、以下に疑問の一部をお送りします。

 とりあえず、罰則規定の中の、今回の事故に直接関わるはずの条文。

第76条の2 特定核燃料物質をみだりに取り扱うことにより、その原子核分裂の連鎖反応を引き起こし、又はその放射線を発散させて、人の生命、身体又は財産に危険を生じさせた者は、10年以下の懲役に処する。

 この条文の罰則って行使されましたか(少なくとも誰かが逮捕されるようなことになりましたっけ)?

 できるだけニュースを追ってはいるのですが、残念ながらまだだと思うのですが(見落としがあったらごめんなさい。以下省略になります)。

 目先の責任問題に終始してしまうと、背後の施策責任などが見えなくなりますから、あまり細かいことを気にしない方がいいのかもしれませんが、もうそろそろ、黒白をつけるべき時期にきているような気がします。

 現に中性子線が出ていたこと、起きてはならない場所で連鎖反応が起きていたこと、生命に危険が生じたこと、これらがはっきりしている以上、この条文を素直に読めば、少なくとも科技庁に何らかの形で名前が届けられている人(主任者、施設の安全管理責任者、施設長=社長ないし所長=)ぐらいは、即座にこの法令を適用されてもおかしくないはずだと思うのですが。

 警察は、刑法の業務上過失致死と比較してるのでしょうか?

 それとも、証拠固めをしなければこの条文を適用できる範囲が絞れないのでしょうか。あるいは、科技庁ないし原子力安全委員会に警察権がないために、法律はあっても行使できないというような事態になってはいないでしょうか?

 一般民間人に対しては、「別件逮捕」を得意(?)とする警察にしてみれば、とりあえずこの条文を適用しておいて、その後で調査にかかることも可能だと思うのですが、国策会社だとそうもいかないのでしょうか。

 核燃料取扱主任者の義務については、次の条文があります。JCOは加工業者にあたるでしょうから・・・、

(核燃料取扱主任者の義務等)

第22条の4 核燃料取扱主任者は、加工の事業における核燃料物質の取扱いに関し、誠実にその職務を遂行しなければならない。

2 加工の事業において核燃料物質の取扱いに従事する者は、核燃料取扱主任者がその取扱いに関して保安のためにする指示に従わなければならない。

(核燃料取扱主任者の解任命令)

第22条の5 内閣総理大臣は、核燃料取扱主任者がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反したときは、加工事業者に対し、核燃料取扱主任者の解任を命ずることができる。

 これに違反した場合には、次の条文が適用されるはずです。

(許可の取消し等)

第20条の2 内閣総理大臣は、加工事業者が次の各号の一に該当するときは、第13条第1項の許可を取り消し、又は1年以内の期間を定めてその事業の停止を命ずることができる。

4.第22条第1項若しくは第4項の規定に違反し、又は同条第3項の規定による命令に違反したとき。

5.第22条の5の規定による命令に違反したとき。

 これについても、どの程度の期間操業停止命令が出たのか、よくわかりませんね。これも証拠固めとやらで時間がかかっているのでしょうか。

 反原発、脱原発の立場からすると、原発を作ることを前提に作られたこの法律そのものにも疑問を感じる部分があるのですが、とりあえず核燃料規制に関わる唯一の法律でしょうから、起きてしまった事故に対処し、責任を明らかにしていくためには、この法律を活用せざるを得ないと思います。その時に、一つ気になるのが次の条文です。

(国に対する適用)

第76条 この法律の規定は、前条の規定(指定検査機関が行う検査又は指定廃棄確認機関、指定運搬物確認機関若しくは指定運搬方法確認機関が行う確認に係るものを除く。)及び次章の規定を除き、国に適用があるものとする。この場合において、「指定」、「許可」又は「認可」とあるのは、「承認」とする。

 この条文で「次章」とは「第8章 罰則」ですから、「…次章の規定を除き、国に適用がある…」は、「次章の罰則規定は国には適用しませんよ」と読めると思います。ということは、今回の臨界事故における国の責任を何らかの形で告発したり追求する動きがあったとしても、少なくともこの法律の罰則規定を国に対して適用することはできないことになりますね。「国(官)は間違いをしない」という思い上がりが透けて見えるようで、イヤになりますね。

 なお、「第8章 罰則」は、「第76条の2」(このメールの最初に書いた条文)から始まっています。すなわち、「第76条」は途中で第7章と第8章に分かれています。

(こういうのは普通なのでしょうか。法律を読むのは慣れていないので、よくわからないのですが)。


 以上。


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