神戸少年事件(1997年神戸連続児童殺傷事件)申入書

1999.8.6 WEB雑誌『憎まれ愚痴』掲載

神戸少年事件・後藤弁護士申入書

申入書

 被告発人山下征士外五名の特別公務員職権濫用被疑事件(平成一〇年検第一号~第六号事件)につき、厳正かつ迅速な捜査をされるよう要望し、次のとおり申し入れます。

(はじめに)

 A少年に対する逮捕・勾留は、刑法上の特別公務員職権濫用罪に当たる犯罪であり、社会的正義の上からこれを不問にすることは出来ない。

 犯罪的取調による自白強要を始めとする証拠蒐集の結果は、それ自体被疑者に対する重大な人権侵害であるとともに、裁判官の認定を誤らせ、社会的に司法の存在理由をなみするものである。

 本件告発状の第四項「告発理由」中の三・3の記載は、その意味において、本件告発事実の情状として例示的に掲載したものである。

 貴職におかれて右趣旨を十分理解され、本件告発事実について公正かつ迅速に捜査を進められることを要望するとともに、特に重要と思われる以下の点について捜査をされ、明らかにされるよう申し入れる次第である。

一 一九九七年(以下、同年)六月二八日午前八時頃、A少年は、兵庫県警の警察官らによって、神戸市須磨区の自宅から、兵庫県警本部に「任意同行」され、同本部取調室で、被告発人警察官A、同警察官Bほかの警察官らによって、被疑者として取調べられた。また、同日、逮捕前に警察の取調室で、被告発人検察官Dによって、被疑者として取調べられた。そして、右警察官・検察官らは、A少年の「自白調書」を作成した。

1 右「自白調書」を作成した警察官・検察官の氏名

2 右各取調べの時間(何時何分から何時何分までか)及び場所

3 検察官Dが、警察官ABらによる「自白調書」作成の直後、A少年を取調べして「自白調書」を作成した経緯。検察官送致前に、検察官Dが、同夜警察の取調室でA少年を取調べたのはなぜか。

二 六月二八日、A少年は、右「自白調書」に基づき令状逮捕された。

1 逮捕状を請求した警察官の氏名、請求時刻、添付した証拠資料

2 逮捕状を発付した裁判官の氏名、発付時刻

3 逮捕した警察官の氏名・逮捕時刻

三 家裁決定要旨がいうように、「当時、警察で集めた証拠の中で、筆跡鑑定は最も証拠価値が高い位置にあったところ、科学捜査研究所が上記声明文の筆跡と(A)少年の筆跡とが同一人の筆跡か否か判断することは困難であると判定したため、逮捕状も請求でき(ない)」状況であった。

1 兵庫県警は、右のような筆跡鑑定を、六月二七目に提出されていたにもかかわらず、何故その翌目早朝からA少年を連行し、同警察の取調室で、同少年の両親の立会いを求めず、長時間の取調べを行なったのか。

2 右家裁決定要旨がいうように、A少年を逮捕する証拠はなかったが、どの程度、内容の証拠があったのか。A少年の取調べ以外、適切な証拠調の方法はなかったのか。

四 六月二八目にA少年が逮捕されるまで、目撃情報によるなどとして「黒ポリ袋を持った三〇~四〇歳代の中年の男性」「黒いブルーバードに乗った複数の男」などというのが本件の犯人像として報道され、流布されていた。また、前記家裁決定要旨のとおり、「当時、警察で集めた証拠の中で、筆跡鑑定は最も証拠価値が高い位置にあったところ、科学捜査研究所が上記声明文の筆跡と(A)少年の筆跡とが同一人の筆跡か否か判断することは困難であると判定したため、逮捕状も請求でき(ない)」状況であった。

1 このような場合、捜査官は疑われるあらゆる可能性を追求するのが当然であるが、その頃、捜査官は、A少年以外、いかなる人物を捜査の対象としていたのか。その取調の状況、結果はどのようなものであったか。

五 二つの「犯行声明文」(五月二七目被害者であるJ君の頭部の口にくわえされられていた「犯行声明文」、及び六月四目に神戸新聞杜に送付されてきた「犯行声明文」)の文章力と文体について

1 捜査担当の検察官・警察官は、次の諸点からして、右二つの「犯行 声明文」が当時一四歳の少年の書けるものと考えていたか。

(一)国語力 

(二)使われている用字・用語

(三)修辞(レトリック)

(四)文章の長短・切り方・続け方

(五)文章の論理的構成力

(六)文章の思想性ど構想力

2 特に、A少年については、右二つの「犯行声明文」の文章の癖、リズム・文体が、A少年の学校での作文等の特徴と合致すると考えていたか。

3 捜査担当の検察官・警察官は、右の諸点について問題意識を持っていたか。また、鑑定を求めていたか。

六 六月二八目のA少年逮捕の記者会見において、兵庫県警察本部刑事部捜査第一課長山下征士は、記者からの「凶器はなんですか?」との質問に対して「凶器はナイフなど」と答え、さらに「ナイフは刃渡り何センチ?」との質問に「わかりません」と答えた。

1 A少年の自宅を捜索したのはいつか。

2 右ナイフに血痕が付着していたか。

3 付着していたとして、J君の血液型と一致していたか。

4 捜査官は発見された遺体の状況から「殺害の凶器」を「ナイフ」と考えていたのか。

5 その他、発見された遺体の状況は前記A少年の「自白」と合致していたか。

6 同日A少年の自宅から押収した物件は他に何があるか。それらについて押収に立会ったA少年の両親に具体的押収物件と押収場所をそれぞれ具体的に示し、それらを押収調書に具体的に記載したか。

7 それらの物件をそれぞれいつA少年に示して説明を求めたか。

七 六月二九目のA少年の勾留について。

1 勾留状を請求した検察官の氏名、請求時刻、添付した証拠資料

2 勾留状を発行した裁判官の氏名、発付時刻、発行の理由と必要性

3 付添人らが求めた拘禁場所、裁判官が指定した拘禁場所

4 右勾留に対する付添人らの準抗告の理由

八 付添人らによるA少年の「自白調書」の証拠排除請求書の内容


 以上。

弁護士の告発状
神戸少年事件記事一括リンクに戻る
週刊『憎まれ愚痴』30号の目次へ