ユダヤ民族3000年の悲劇の歴史を真に解決させるために
電網木村書店 Web無料公開 2000.9.9
第4部 マスメディア報道の裏側
第8章:テロも辞さないシオニスト・ネットワーク 2
「イスラエル大使館サイドの反論」の背後にいたアメリカ大使
さて、そこで日本国内を見わたすと、すでに本書の準備中、隔週誌の『サピオ』(94・7・14)に異様な記事があらわれていた。
「本誌記事に対するイスラエル大使館サイドの反論/『「クリントン失脚の日」(4月14日号)ほかサピオ記事のおぞましき“反ユダヤ的暗示”について」と題するものである。執筆者のマイク・ジェイコブスの肩書きは、「『ロンドン・ジューイッシュクロニクル』『エルサレム・ポスト』特派員」になっている。
ジェイコブスの批判は、つぎのような部分に要約されている。
「サピオの4月14日付記事は、日本と海外社会で憤激を買った。アメリカのモンデール大使の言葉に、それが端的に表明されている。著者の藤井昇氏は、ユダヤ人がアメリカ政府の高級職から排除されたので、シオニスト達がクリントン大統領にメディア・ウォーを仕掛けているとして、シオニストを非難した。その記事に対して、大使は『異様なうえ、途方もない間違いである。反ユダヤ的暗示がまことにおぞましい。』と批判したのであった」
ところで、この記事より一〇年前にアメリカ大統領選挙になのりをあげていた「モンデール」について、「著者の藤井昇氏」は『世界経済大予言』のなかでこう書いていた。
「これは、その場に居合わせた私たちの友人に聞いた話ですが、モンデール氏は、毎日四時になると、かならずユダヤ人のある超大物弁護士のところへ電話を入れるそうです。中東問題でシオニスト・ロビーに嫌われないようにするにはどうすればいいかを相談するそうです。(中略)彼のスピーチ・ライターは全部、ユダヤ人です。(中略)モンデール氏の取り巻きの経済政策面の一人は、ロバート・ライシュ(ユダヤ人)です」
藤井昇は、アメリカのハーバード大学国際問題研究所員をへて、ニューヨークに本拠をおくシンク・タンク、ケンブリッジ・フォーキャスト・グループの代表をしている。現地耳情報の強みをいかして、日米関係の政治経済予測記事を書きつづける異色のジャーナリストだ。
『サピオ』は、反論記事をのせた経過について、「イスラエル大使館より本誌編集部に対し抗議がありました。(中略)イスラエルとの話し合いの結果、大使館側の推すジャーナリスト、マイク・ジェイコブス氏に反論の執筆を依頼しました」としるしている。
イスラエル大使館は、わたしが三〇年近く在籍した日本テレビ放送網(株)の社屋の窓から見える位置にある。
パレスチナ関係の運動が襲撃の対象にするという噂がたえず、いつも警察官が見張っていたので、その建物の存在は、否応なしに目についた。しかし、普通の中流どころの住宅並みの規模だから、何人ものメディア監視スタッフがいるとは思えない。隔週誌の『サピオ』まで監視する余力があるはずはない。これはきっと「アメリカのモンデール大使の言葉」の方が先行していたにちがいないと直感した。アメリカ大使館は、かなり前から日本のメディアの報道を系統的に監視し、ときには直接の干渉までしてきたのだ。
関係者にあたってみると、案の定、そんな感じの返事がもどってきた。
アメリカのマスコミへのユダヤ(シオニスト)勢力の強い影響
ジェイコブスの反論の内容は、いたっておそまつである。つぎの部分などは、モンデール大使の言葉を借用すれば、「途方もない間違い」である。
「『アメリカのマスコミが、ユダヤ(シオニスト)勢力に強く影響されていることは周知の通り』とする主旨は、著者の意図的な或は無知に起因するミスリード例である」
「アメリカのマスコミ」、または国際的大手メディアにたいする「ユダヤ(シオニスト)勢力」の支配については、すでにわたし自身も、拙著『湾岸報道に偽りあり』と『電波メディアの神話』のなかで若干紹介したところである。出典の資料は数おおいが、『尻尾(ルビ:ユダヤ)が犬(ルビ:アメリカ)を振り回す』の著者、グレース・ハルセルなどは、ジョンソン元大統領のスピーチ・ライターを三年間つとめたこともあるホワイト・ハウス通の著名なジャーナリストである。ジェイコブスは、自分のセリフに自信があるのなら、まず最初に、ハルセルなどのアメリカの著名なジャーナリストたちに訂正をもとめてみて、それに成功したのちに、あらためて日本のメディアに注文をつけるべきだ。
巻末に関係資料を紹介するが、『アメリカのユダヤ人/ある民族の肖像』などは「“数奇な民族”の誇り高いオデッセイ」などという宣伝文句つきの本である。この本では「学術とメディアのエリートたち」の項目に、まるまる二一ページも割いている。
一応、右の資料などから主要な事実だけをあげておこう。
『ニューヨーク・タイムズ』の社主、ザルツバーガーはユダヤ人で、幹部の大半もユダヤ人だ。『ワシントン・ポスト』の創立者、故ユージーン・メイヤーもユダヤ人だったし、現会長のキャサリン・グレアムはかれの娘で、幹部でユダヤ人でないのはたった一人だけだ。日本なら日本経済新聞にあたる『ウォール・ストリート・ジャーナル』の場合、オーナー会長兼社長、ウォーレン・H・フィリップスなどは「親イスラエル」の姿勢を明確にしめすユダヤ人で、湾岸戦争のさいにはもっとも強硬な主戦論をはった。かかげた目標は「バグダッド占領、マッカーサー方式の占領行政実施」だった。
電波メディアの場合はもっと明確だ。ラディオ時代にRCA(ラディオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)を創立し、NBCネットワークをきずいたデイヴィッド・サーノフは、ロシアから移民の子としてわたってきたユダヤ人だ。ABC創立の中心となったレナード・ゴールドスタインも、CBS創立の中心となったウィリアム・S・ペイリーも、ともにユダヤ人だ。
ただし一九八六年には、三大ネットワークのすべてが新経営者にのっとられた。CBSの新経営者、ラリー・ティッシュはイスラエル支持のユダヤ人だったが、NBCを親会社ごと買収したGEの会長、ジャック・ウェルチと、ABCを買収して傘下にくわえたメディア会社、キャピタル・シティズの会長、トム・マーフィーの両者は、ユダヤ人ではない。三大ネットワークを追いこす勢いのCNNを一部門とするターナー放送システムのオーナー会長、テッド・ターナーも、やはりユダヤ人ではない。だから、電波メディアについては、WASP(ホワイト・アングロ=サクソン・プロテスタント)のまきかえしという解釈が成立するのかもしれない。しかし、どのメディア系列にもユダヤ人の有力スタッフがおおいのは「周知の通り」である。
「イスラエル大使館サイド」のジェイコブスの文章の図々しさには、『サピオ』編集部関係者も苦笑いするばかりだった。だが、このジェイコブスの反論記事にたいする藤井側の再反論の企画は、いまだ実現していない。『サピオ』側は、別に再反論を拒絶しているわけではなくてタイミングの問題だというのだが、いささか気になることがある。それは、関係者のすべてが、つぎに紹介する日本経済新聞のユダヤ本広告掲載拒否にいたる経過を、かなりくわしく知っていたということだ。
日本経済新聞のユダヤ本広告掲載を撃った「ナチ・ハンター」
日経の書籍広告にたいして国際的な抗議行動を展開したのは、「ナチ・ハンター」を自称する「サイモン・ウィゼンタール・センター」(以下、SWC)である。
同センターの抗議運動の対象となったのは、一九九三年七月二七日付けの日本経済新聞の第五面、ページ下の全五段にのった大型書籍広告である。広告主は「第一企画出版」で、書籍は「☆ユダヤ支配の議定書(プログラム)☆《衝撃ヤコブ・モルガンの三部作》」と銘打った『最後の強敵/日本を撃て』、同『続』、『続々』の三冊に、『ロスチャイルド家1990年の予言書/悪魔(ルシファー)最後の陰謀(プログラム)』で、あわせて四冊である。「三部作」の部分の真中には、つぎのような宣伝文句がある。
「ロスチャイルド家を核にユダヤ財閥はヨーロッパ、アメリカ、ロシアを支配し、いよいよ日本征服に乗り出した」
右肩にはつぎのような、いかにも日経新聞の読者むけらしい宣伝文句がある。
「ユダヤを知らずして株価が読める訳がない!」
これらの書籍は、いわゆる「おどろおどろ」の反ユダヤ財閥本の典型だから、わたしの好みではないし、いささかも推奨するつもりはない。だが、この書籍広告に抗議する「サイモン・ウィゼンタール・センター」の側にも、非常にあやしげな気配があるのだ。
翌一九九四年の『ニュウズウィーク』(94・5・25)には、「アジアで広がる反ユダヤ主義」という題で、「アメリカのユダヤ人人権擁護団体『サイモン・ウィゼンタール・センター』」の日本での活動についての、つぎのような記事がのっていた。
「東京では今、同センターの後援でホロコースト(ユダヤ人大虐殺)への理解を深めてもらうための展示会『勇気の証言/アンネ・フランクとホロコースト展』が開かれている(東京都庁の交流展示ホールで五月二〇日まで)」
この活動の目的について同記事では、「アジアで高まる根拠なき反ユダヤ感情に歯止めをかけたいユダヤ人団体の努力の一端なのだ」としている。
サイモン・ウィゼンタールについてはすでに若干ふれたが、オーストリアうまれのユダヤ人である。かれは、クリストファーセンの『アウシュヴィッツの嘘』の出版にさいしても、ドイツの弁護士会宛てに、序文をよせた弁護士、マンフレッド・レーダーの行為が同会の倫理規定に違反するのではないかとせまって、「調査」をもとめた。これにたいするレーダー自身の返答の最後には、つぎのような痛烈な皮肉がしるされていた。
「われわれドイツの弁護士は、ユダヤ人によってであろうとだれによってであろうと、またはいかなる方法によってであろうと、検閲や支配をゆるしません。あなたこそ、われわれの周囲をかぎまわる前に、あなたがゲシュタポの手先だったというポーランドの新聞がおこなった告発にたいして答えるほうが先決ではないだろうかと、ご忠告もうしあげます。そうでないと、貴方の病的な“反ドイツ主義的”行動は、“泥棒をつかまえろ”[とさけんで自分が逃げる泥棒の手口をさすドイツ語の慣用句]のたぐいとしか見えないでしょう」
日経の広告にたいする抗議行動を報道した唯一の大手日本紙、産経新聞は、サイモン・ウィゼンタール・センターを「ホロコースト(大虐殺)の教訓を正しく伝える活動などを世界規模で続ける」組織だと紹介している。
だが、イスラエル人のなかからさえ、「ホロコースト」が繁盛する商売であると同時に一種の新興宗教になっていることにたいして、批判的な声があがっている。
ウィーバーが執筆したリーフレット『ホロコースト/双方の言い分を聞こう』によると、有名な新聞人のヤコボ・ティマーマンは、その著書『最も長い戦い』のなかで、おおくのイスラエル人が「アメリカでホロコーストがユダヤ人の世俗的宗教になっている状態を恥じている」とし、「ショアほどの商売はない」というイスラエル人の皮肉なジョークを紹介している。
ヘブライ語では「ホロコースト」のことを「ショア」ともいう。これはあきらかに大当たりのブロードウェイ・ショウで、映画化もされ、日本語訳では意訳で「素敵な」を加えて『ショーほど素敵な商売はない』となっていた題名の「ショー」を、「ショア」ともじったジョークである。英語ではこの種のもじりを「一語いれかえ(ワン・ワード・チェンジ)」という。だから、「ショアほど素敵な商売はない」と訳してもいいだろう。
ウィーバーはこのほかにも、一四ページの論文、「サイモン・ウィゼンタール/いかさま“ナチ・ハンター”」(『歴史見直しジャーナル』89/90冬)などで、ウィゼンタールの経歴詐称ぶりや業績のあやしさを、さらにくわしく追及している。本書では、それらの資料を巻末で紹介すると同時に、右の論文を要約した同名のリーフレットから、もっともきびしいユダヤ人社会の足元からの、つぎのような批判のみを訳出しておく。
「イスラエルのヤド・ヴァシェム・ホロコースト・センターの館長の言によれば、サイモン・ウィゼンタールとその名をいただくロサンゼルスのセンターは、ホロコーストを『商業化』し、『俗悪化』している。この非難は一九八八年一二月、イスラエルの日刊紙『ハアレツ』で報道された。ブルックリンの週刊『ユダヤ・プレス』はこの非難をつぎのように論評した。
『ウィゼンタール・センターがホロコーストを商業化していると考えて、ヤド・ヴァシェムが立腹していることは、ずっと前から世間周知の事実だったが、今度の攻撃は、これまでにないもっとも公然たるものである』
ヤド・ヴァシェム館長の言によれば、ロサンゼルスのセンターはウィゼンタールの名前の使用料として、彼に年間七万五〇〇〇ドル(約七五〇万円)を支払っている。『ユダヤ人はさまざまな下品なことをする』と、その[ヤド・ヴァシェム館長]報告はさらにつけ加える。『しかし、ウィゼンタール・センターは、その極致までやり尽くした。人の心を傷つけるような微妙な問題を、資金稼ぎのために阿片のように用いた。……』というのだ」
わたしは、一九九五年二月二日の文芸春秋とSWCの共同記者会見の席上、以上のようなサイモン・ウィゼンタールとSWCに関する資料の存在を簡略に指摘したうえで、つぎのように質問した。
「わたしにはは現在、これらの情報の原資料まで確認する手段はないが、もしもこれらの情報が事実でないとすれば、サイモン・ウィゼンタール個人もしくはサイモン・ウィゼンタール・センターは、名誉毀損などでこれらの文章の執筆者を訴えておられるか、それとも、ミニコミは相手にせずに大手メディアだけを押さえておけばいいというお考えなのか」
この質問に対して、SWCのクーパー副所長は赤面して身をよじりながらも、回答を避けた。