2014/7/3 | 愛知県豊橋市の公立小学校で、同級生をかばった女子児童が暴力を受けた事件について | |
愛知県豊橋市の公立小学校で、いじめられている同級生をかばった女子児童がクラスメイトと担任教師の面前でリンチにあった。担任は制止できず、事後対応も適切になされなかった。このようなことは二度と繰り返してほしくない。 【事件概要】※報道によって、若干内容が異なる。 2014年6月3日、愛知県豊橋市の公立小学校の教室内で、5時間目が終わった休み時間中、いじめられている同級生の女子児童B子さんをかばおうとした女子児童A子さん(小3)が、同級生の男子児童2名、女子児童1名の計3名から暴行を受け、1週間のけがを負った。 市教委によると、女子児童B子さんは 4月から同級生に悪口を言われたり、体育の授業中に砂をかけられたりするなどの嫌がらせをたびたび受けていたという。 6月2 日にも放課後の児童クラブで、B子さんは同じような嫌がらせを受けており、それを見たA子さんが「 いじめるなら私をいじめて 」と言ってかばったという。 6月3日、このことを知った男女3人の同級生は、5時限目が終わった後の教室で、「いじめてもいいんだな」などと言って、殴る蹴るの暴行を始めた。2人が女子児童を押さえつけ、1人が跳び蹴りする場面もあった。 担任の男性教諭(23)は6時間目の授業に来て、騒動を知り、多数の児童らを分け入って止めようとしたが、暴行は担任の目前でも続いたという。(報道によっては、担任が見つけ暴行をやめさせたとある) 担任教諭は女児を目視で確認出来るけがはないと判断し保健室へ連れて行き(保健室に連れて行かなかったという報道も)、保護者への説明はしなかったが学年主任への報告は行ったという。 その後学校側が調査し問題が発覚し、4 日に女児の自宅を訪れ事情を説明した(5日に女子児童の保護者に説明という報道も)。 A子さんは約1週間のけが(頭部にけが、頭や腰などにけがという報道も)。 A子さんは 5 日から学校へ登校しなくなったが、3人からの謝罪を受け入れ27 日から学校へ登校したという。 校長は「子どもが担任の指示に従わないなど、学級運営の問題は感じていたが、担任から相談はなく、様子を見ていた。担任は経験が浅く、学校の管理責任が問われる重大な問題とは考えられなかった。大変、申し訳ない」と話した。 同校では月1回、学校生活に関するアンケートを児童にしているが、男性教諭はいじめに気づいていなかったという。会見した加藤正俊・市教育長は「いじめは大人の目の届かないところである。こまやかな指導と観察をしていきたい」と話した。 教頭や指導主事らが再発防止のため、担任との2人体制で授業をしている。 ※参考資料 中日新聞2014年7月1日付 http://www.chunichi.co.jp/s/article/2014070190090301.html 日刊時事ニュース http://www.xanthous.jp/2014/07/02/aichi-bullying-problem/ 【問題点の考察】 @事件以前の問題 ・担任の能力と組織対応の問題 23歳といえば新任だろうか。校長は「子どもが担任の指示に従わないなど、学級運営の問題は感じていた」のであれば、たとえ本人から相談がなくとも、もっと目配りをするべきだっだろう。 もう何十年も前(1986年の鹿川裕史くんのいじめ自殺事件860201頃)から、学級崩壊が深刻ないじめに結びつきやすいことはずっと言われてきた。少なくとも校長には、事件の予見性があったと言える。 担任はいじめに気付かなかったとあるが、4月から始まっていたいじめを担任が気付かないはずがない。 小学校高学年以前のいじめは比較的、周囲からも見えやすい。とくに小学校ではグループや団体で行動することが多いので、ほぼ毎回授業を受け持つ担任がちょっと注意深く見ていれば発見は可能なはずだ。 気付いても、クラスは若い担任(23)のいうことをきかず、学級崩壊状態で、どう指導してよいかわからなかったのではないか。あるいは、自分のことだけで精いっぱいで、児童のことを観察する余裕がなかったのかもしれない。 見たくないと思えば、どんなに深刻ないじめが目の前で展開されていても見えなくなる。いじめ・暴力を「からかい」「けんか」「ふざけ」と思うようになる。 ・いじめ防止対策の組織の問題 そして、担任の能力不足や抱え込みを防止し、子どもをいじめから守るために、いじめ防止対策推進法の第22条では「対策のための組織」として、「学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学 校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする。」と規定している。 この学校のいじめ対策のための組織はどうなっていたのだろうか。単に形だけを整えておけばよいと思っているのではないだろうか。 ・アンケートの問題 同校では月1回、学校生活に関するアンケートを児童にしているが、いじめは発見できなかったという。 アンケートについては今まで、いじめ自殺があった学校のほとんどで、機能していなかった。 子どもたちは、いじめを解決してもらいたいと思うから、「ちくった」としていじめのターゲットになるリスクを冒してまで、アンケートに書く。しかし、解決のためのアンケートではなく、単にデータをとるためのアンケートだとわかったら、馬鹿らしくて、だんだん書かなくなる。 まして、毎月1回も行われれば、それを集計する担任はそれだけ時間がとられる。ますます対応が追い付かない。 また、長期にわたるいじめの場合、見ているほうも感覚が麻痺して、当たりまえの風景になりすぎて、いじめと認識できなかったり、わざわざアンケートに書かなくなる。 また、勇気を出してアンケートに書いたのに、何も対応されないと、かえって教師への信頼感をなくして、深刻ないじめがあっても相談しても無駄だとして、ますますいじめは教師に発見されにくくなる。 アンケートにいじめがあがってこないことで、教師は安心し、クラス(部活)にいじめはない」と、目の前のいじめさえ見逃すという悪循環に陥る。 アンケートをするなら、多くて年に3回。面談とセットで行うこと。面談でアンケートに書かれた内容を確認しやすいし、いじめの告発者を特定されにくくする利点がある。 そこで上がってきたいじめや児童生徒の心配事、困りごとは、たとえ大した内容に思えなくとも、丁寧に聞き取りをし、組織をあげて確実に解決にまで導くこと。 アンケートに書けば、確実に教師が対応し、解決にまでつながるとわかれば、アンケートはますます活用されるし、教師への信頼感から、日常的にも相談しやすくなる。 A事件時と直後の担任問題 ・制止できなかった担任の問題 男性担任教諭はその場にいたが制止できず、教師の目の前でも暴行が行われたという。 小学校5、6年や中学生ならいざ知らず、加害者は小学校3年生。男児2名、女児1名。 簡単ではないにしても、体を張ってでも児童を守ろうという気概が感じられない。 「いじめるなら私をいじめて」と体を張って同級生をかばったA子さんの行動に比べても、大人で、児童生徒を保護する義務のある教師が、あまりになさけない。 一人で難しければ、すでに6時限目の授業に入っていたのだから、隣のクラスの教諭に助けを求めるなどできたのではないだろうか。 ・受診させなかったことについて また、担任は「出血など目に見えるけがはない」として、女子児童を保健室に連れて行ったり(連れていったという報道もあり)しなかったとある。 飛び蹴りまでが行われたという状況やその後の頭や腰に1週間程度のけがという結果から見ても、内部損傷の可能性を考えて、きちんと病院で診断を受けさせるべきだった。 とくに頭部外傷や内臓が傷つけられた場合には、時間がたってから、重大な症状が出ることもある。帰宅途中に症状が急変することもあり得る。 少なくとも、このようなことがあったなら、担任が被害女児の帰宅時に付き添ったうえで、保護者にも説明をするべきだ。 ・すぐに保護者に連絡していなかったことについて その時は何でもなくとも、体調が急変することもある。学校で暴行があったとわかっていれば、体調不良を訴えたときに、保護者も医療機関を受診させるなど慎重な対応をとることができるが、情報がなければ、重大な症状を見逃しかねない。(760512) また、暴行直後のショックや暴力を受けることを恐れて自殺した子どもの例は少なくない(851120、860121、860222、860306、860708、861215、891215、930303、940909 )。まして女子は男子以上に暴力を受けることには慣れていない。小学校の3年生であれば、自殺の可能性は十分にある。 帰宅途中に衝動的に自殺を図る可能性もあれば、翌日、学校に行きたくなくて自殺を図る可能性もあった。自殺防止の観点からも、保護者にはすぐに連絡すべきだった。 いじめ防止対策推進法の衆議院付帯決議(http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/20130921boushihou.pdf P7)には、「いじめを受けた児童等の保護者に対する支援を行うに当たっては、必要に応じていじめ事案に関する適切な情報提供が行われるよう努めること。」とある。(私たちはこれをぜひ条文に入れたかったが、自民党案に集約されるなかで削られ、小西洋之参議院議員の粘り強い説得と最後の追い込みで、なんとか付帯決議に入れてもらうことができた) 外傷がなく、見た目で暴行がわからなければなおさら、事件は闇に葬られた可能性はあった。 もし、今回の集団暴行事件が発覚しなかったとしたら、どうなっていただろう。 いじめられている子どもは、心配をかけたくなくて、家族にも被害を隠そうとする。 3日に暴行事件があって、5日から登校しなくなったとあるので、4日はA子さんは登校したのだろう。その日一日をどんな思いで過ごしたのだろうか。 事件が発覚するまでの担任の対応を見るに、この間、加害児童に指導したり、その保護者に連絡することもなかっただろう。 教師の目の前で集団暴行しても、教師が即座に止めることができず、その後の指導も適切に行われなかったとしたら、いじめ加害者らはますます増長し、行為は必ずエスカレートする。 見ていた大勢の子どもたちも、いじめに対し大人が何もできないことを知って、あきらめ感を抱くだろう。もう、いじめ被害者をかばったり、教師に告発するものは現れない。いじめている子どもたちを恐れて、むしろいじめに加担する子どもたちが増えただろう。それはきっと、被害者が不登校になったり、転校したり、自殺するまで続いただろう。そして、一人被害者がいなくなれば、次のターゲットが選ばれる。 B事件後の対応について ・被害者のケアについて A子さんが登校できるようになるまで3週間を要している。 この間の学校の詳しい対応はわからないが、あまりに時間がかかりすぎている。 そして、B子さんへのケアはきちんとなされたのだろうか。自分をかばったために、A子さんが集団暴行を受けたことに責任を感じているのではないか。本来、担任教師がB子さんへのいじめに気付き、適切に対応できていれば、A子さんが被害にあうこともなかっただろう。学校はB子さんに対しても誠実に対応してもらいたい。 ・学校長や教育長の発言について 学校長は、「担任は経験が浅く、学校の管理責任が問われる重大な問題とは考えられなかった。大変、申し訳ない」と事件後、話している。 この事案は学校の管理責任が問われたから重大な問題なのではなく、いじめをなくそうと頑張った少女を大人が支援することができず、肉体的にも、精神的にも大きな傷を負わせたことが重大な問題なのだが、校長の意識は被害者に向いているとは言い難い。いじめ防止対策推進法の「いじめの防止等のための対策は、いじめを受けた児童等の生命及び心身を保護することが特に重要である」という基本理念が理解されているとは思えない。 また、教育長は「いじめは大人の目の届かないところである。こまやかな指導と観察をしていきたい」としているが、今回は教師の目の前で行われたいじめ・暴力である。発見できなかったことが問題になっているわけではない。 繰り返される大人たちの言い訳。いい加減に、「子どもが隠すから、大人はいじめに対処できない」ということを免罪符と考えることをやめてほしい。正面から自分たちの問題を見つめようとしない限り、同じことが繰り返される。 【再発防止に向けて】 いじめの防止等のための基本的な方針」(http://www.jca.apc.org/praca/takeda/pdf/20131011ijimeboushi_kihonhoushin.pdf)の 「3 いじめ防止等のために学校が実施すべき施策」には、 「当該組織は、いじめの防止等の中核となる組織として、的確にいじめの疑いに関する情報が共有でき、共有された情報を基に、組織的に対応できるような体制とすることが必要である。 特に、いじめであるかどうかの判断は組織的に行うことが必要であり、当該組織が、情報の収集と記録、共有を行う役割を担うため、教職員は、ささいな兆候や懸念、児童生徒からの訴えを、抱え込まずに全て当該組織に報告・相談する。 加えて、当該組織に集められた情報は、個別の児童生徒ごとなどに記録し、複数の教職員が個別に認知した情報の集約と共有化を図ることが必要である。」 「また、当該組織は、各学校の学校基本方針の策定や見直し、各学校で定めたいじめの取組が計画どおりに進んでいるかどうかのチェックや、いじめの対処がうまくいかなかったケースの検証、必要に応じた計画の見直しなど、各学校のいじめの防止等の取組についてPDCA サイクルで検証を担う役割が期待される。」 とある。 今回の3人の行為はかなり悪質だ。「 いじめるなら私をいじめて 」と言ってB子さんをかばったA子さんに対して、自らの行いを恥じることなく、むしろ見せしめ的に、教室の中で、他のクラスメイトほぼ全員がいる中で、しかもじき担任教師が教室に来るであろうことが予測できるなかで、集団暴行している。 つまり、それまでの積み重ねのなかで、暴行が発覚することさえ恐れていないというのは、それだけいじめを繰り返して、むしろ自信を深めてきた結果ともとれる。 子どもたちを加害者にしたのは、それまでの大人たちの対応と密接な関係があるだろう。 これは単に3人だけの問題ではなく、1年生から3年生になるまでの3人の行為はどうだったのか、問題はなかったのか、児童クラブの顧問や今までの担任や保護者から見過ごされてきたことはなかったのか。 いじめる子どもたちの背景には、家庭環境を含めて何があるのか。周囲の児童たちはなぜ、アンケートにいじめのことを書かなかったのか、本当に今まで誰も書いていないのかを含めて、今までの対応を総チェックする必要があるだろう。 単に、担任にお目付け役をつけることや、加害児童からの謝罪だけで、この問題を終わらせてほしくない。3人の児童と担任だけの問題に矮小化させてほしくない。 いじめは一般的に、小学校の3、4年生で、それまでやったりやられたりと明確なターゲットがなかったクラスなどでも、徐々にいじめ被害者が固定化されてくる。 そして、5、6年生で、いじめの頻度は増し、内容もエスカレートしやすい。 むしろ今回、事件が発覚したことをチャンスととらえ、いじめ防止対策を徹底してほしい。 小学校のうちは、いじめた子どもたちも、大人が適切に指導し、サポートしていければ、自らの行為を反省し、二度と同じことを繰り返さないようにもっていける可能性は大きい。 小学校で起きたいじめを解決することができれば、子どもたちはいじめは解決できると信じることができる。大人は自分たちを守ってくれる存在として、信じることもできる。 最初は大人のサポートが必要でも、やがてその解決方法を学び、自ら解決する力を身につけていくだろう。 いじめ防止策は、まずは小学校で徹底して行うことが望ましいと考える。それが結果的に、中高での自殺を減らすことにつながると思う。 |
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