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(1)メディアの重要性についての認識不足
政府・NGOは、日本が男女平等社会の実現を目指す点で一致している。し かし、その実現のためのメディアの重要性については、政府も、またメディア 組織も不十分な認識しかもっていない。根本的な問題は、(a)意見を発表し情 報を発信する権利、必要な情報を受信する権利の行使において女性が不利な状 況にあるという点をきちんと認識していないこと、(b)女性差別的状況を解消 していく上で、積極的役割を果たそうという意思がマスメディアにみられない し、政府もマスメディアにそれを期待していないこと、である。
政府もメディア組織も、日本から発信される情報は国境を越えて影響を与えることを深く認識すべきである。
(2)マスメディアの内容の偏り
マスメディアは、自分たちの伝える情報が男女平等社会の実現に資するもの かどうか自己点検し、厳しく見直すべきなのに、していない。テレビ・新聞・ 出版・広告などのメディア産業が送り出す表現が性差別解消に与える影響の重 要性を、当事者たちは無視あるいは軽視している。そもそも性差別を問題視する視点が欠如しているからである。
まず、マスメディアは女性にとって重要な情報をきちんと伝えていない。北 京行動綱領の報道量は極端に少なかった。「2000年プラン」の全容も伝えな かった。「男女共同参画社会基本法」の内容もその成立過程もほとんど報じら れていない。NGOは自前のメディアや電子メールなどで必要な情報を伝え 合っているが、それらに接する人数は限られている。マスメディアが小さくし か取り上げないために、その情報が社会全体にとって重要ではないという価値 観を人々に定着させるという点でも、マスメディアの責任は大きい。
さらに性差別を増幅するマスメディアの問題がある。メディアの商業主義が ポルノを氾濫させている。また女性への暴力を助長する表現、性別ステレオタ イプなどの性差別的な表現がテレビや週刊誌に氾濫し、誰もが目にする新聞の テレビ番組欄や広告欄そして交通機関の車内吊り広告にもそれが掲載されてい る。極端に露骨な性表現だけが性差別なのではなく、実際にはそれらと、テレ ビCMなどのステレオタイプ的女性表現には連続性がある。また性差別は民族 差別や障害者差別、年齢差別、性的指向に関する差別とも連続したり、交差して表現され、しかも見過ごされやすい。
(3)マスメディアで働く人の意識
マスメディアで働く人びとが性差別についての問題意識を明確にもつための研修は、メディア組織では十分に行われていない。NGOの抗議に対しテレビ局や新聞社が冷淡な態度を取り続ける背景には、この問題に関する組織全体の 無関心な態度がある。男女についての固定的な観念を描くメディア表現の基本 的な問題について、当のメディアで働く人びとが自覚していない点が、日本の メディアの根本的な問題である。
(4)メディアへの女性のアクセス
日本のマスメディア組織はひじょうに性差別的な職場である。マスメディア 組織への女性の参画が進まず、放送のキー局や全国紙の報道・制作部門では1 割前後にとどまるなど、世界最低レベルの異常さである。管理職では女性は 1%程度と極端に少ない。しかし北京会議以降も、女性を増やすための各組織 の積極的かつ効果的な取組みはなかった。政府も推進策をとってない。女性は パートやアルバイト、フリー契約など非正規の不安定雇用で働いたり、下請け の制作会社などで仕事をする場合が多い。これらの職場は、低賃金かつ雇用が 不安定なだけでなく、非常に過酷な労働になっている。女性が不安定雇用であ ることがメディアの職場でのセクシュアル・ハラスメントを引き起こす原因に もなっている。
男女雇用機会均等法の改正で雇用制限は禁止された。マスメディアがこの法 律を遵守するかNGOは監視しようとしている。これまで女性は、無職の妻の いる男性を基準とした過酷な労働条件の下で家庭と仕事の両立の困難から退職 に追い込まれた。セクハラや年齢差別の慣行によっても退職・転職させられてきた。今後こうした状況を続けてはならない。
マスメディア以外のメディアへのアクセスも重要である。新しいメディアを 積極的に活用する機会や技能を得ていくことで、市民としての力を発揮するこ とができる。しかし、女性たちはまだこの力を十分に発揮できていない。とくに女性の人権のために活動する人々が、新しいメディアを利用できるよう支援 することが緊急である。
(1)政府の取組みの消極性
政府は、「2000年プラン」において、重点目標の一つとして「メディアにお ける女性の人権の尊重」を新たに掲げた。しかし、同プランの策定後も国の女性政策関連予算において「メディア」は全く予算措置がとられていないのが実 態である。この問題についての政府の消極的姿勢が端的にあらわれている。郵 政省や通産省を含む政府のメディア政策は、ジェンダーの視点を基本的なもの として取り入れるべきである。
(2)女性の表現の自由という視点の欠落
メディアが表現の自由の名のもとに女性の人権を蹂躙してはならないのは当 然である。「女性とメディア」の領域の取組みとして最も基本的なのは、北京 行動綱領で第一の目標として示されているとおり、女性の実質的な表現の自 由・メディアへのアクセスの拡大である。しかし「2000年プラン」も、政府の その後の取組みにおいても、この視点は欠落している。マスメディア内容の問題点についても、政府には、市民の意見を尊重し、市民とマスメディア組織と による調整を支援することが求められる。
(3)上からの規制中心の政策
政府は市民に関する情報を管理する政策を強化しており(「通信傍受法(盗 聴法)」の制定、「住民基本台帳法」の一部改正などに向けた動き)、NGO は危機感を深めている。「メディアにおける女性の人権の尊重」についても、 もっぱら「表現される側の人権」の問題に限定し、それに取組んできたと主張 しているが、政府回答で「女性とメディア」の革新的な政策・最良の実践例と して取り上げられているものは、政府・地方自治体、もしくは政府主導による メディアにおける性・暴力表現の制限策が中心である。しかも、その制限策 は、いずれも青少年保護などを主目的とした過激・露骨な性・暴力表現の規制 のみで、女性の人権・性差別という視点は抜け落ちている。
(4)性別役割分業観に基づくステレオタイプ表現の問題の軽視
誰もが容易に接することのできるテレビ・新聞・雑誌・コミックその他のメ ディアのなかに女性の人権を侵害する性表現や暴力表現が氾濫していること が、大きな問題としてある。ただ、「女性とメディア」の問題はそのことのみ ではない。性別ステレオタイプの表現の多用が性差別の問題であることを、マ スメディアが十分認識していないし、政府のメディアについての問題認識に も、この点が欠けている。
(5)政府の表現ガイドラインの取組みの遅れ
政府は重要な情報発信主体である。その発信情報、広報・出版物等で性にと らわれない表現がされれば、メディアを通じて広がるなど影響力は大きい。政府のこの問題への取組みは、まだ成果が示されていないが、ガイドラインの策 定に早急に取組むべきである。
(6)新しい情報メディアの利用推進の姿勢の欠如
女性たちは、新しい情報メディアを発信とコミュニケーションの手段として 利用したいという意欲をもっている。政府は、インターネットその他の新しい 情報メディアについても、規制中心の政策ではなく、女性の発信手段として利 用を積極的に推進・支援する施策を講じるべきである。
(1) 「2000年プラン」対案
「2000年プラン」の「メディアにおける女性の人権の尊重」の項は、前述の ように根本的な欠陥があるため、NGOが対案をつくり、女性とメディアの問 題の解決の基本は、メディアへの女性のアクセスとメディア・リテラシーの取 組みにあることなどを示した。この対案については多くのNGOと意見交換が 行われ、改革の方向を共有してきた。対案の内容が、自治体の行動計画に反映 した事例もある。
(2)女性の情報発信・意見交換の拡大
女性たちの情報発信は、北京会議以前から女性独自の新聞・雑誌の発行など、長い活動実績がある。さらにこの5年間に、ファックス通信、ビデオ、イ ンターネットなど新しいメディアを使った女性の情報発信が拡大し、主流メ ディアとは異なる情報の流れをつくり出している。例えばファックス通信「JJ ネットニュース」は、マスメディアが伝えない女性政策をめぐる国会・行政な どの動きについて情報と意見交換の場を提供している。インターネットでは、 女性運動をしている人のフォーラムfem-netや、論点ごとに多様なサイトが作 られ、活発な情報交換がされている。
(3)メディア・ウォッチ、メディア・リテラシー
メディア・ウォッチや、マスメディアの性差別の解消のためのメディアへの 抗議活動や働きかけを行う新しいNGOが増えた。種々の女性問題に取組むNGOが、マスメディアに抗議や情報を伝え成果をあげた事例もある。メディ ア・リテラシーへの関心も、この5年間に急速な広がりを見せた。ジェンダー の視点からのその取組みも、各地の女性センター、自治体、労働組合などによ るセミナーや研修に取り入れられるなど、進んでいる。
(1)マスメディアに働く女性への性差別の是正
主流マスメディアのなかから発信できる女性の割合が世界のなかで最低レベ ルに近い現状が、いかに問題であるかをマスメディア界が認識し、女性の参画 拡大策と拡大計画を日程を含め具体的に作成し、それに取組むこと。
新聞社、テレビ局・番組制作会社、出版社、広告関連企業などのマスメディ ア関連組織は、女性の参画の増加を妨げている制度や慣行、参入した女性がな ぜやめるのか、セクハラなどを含めた障害についての問題点を洗い出し、それへの対応策を立て実行する。
男女雇用機会均等法により、今後の新規採用者の男女のバランスがとれたと しても、それだけでは組織全体としての男女のアンバランスはすぐには解消し ない。マスメディア組織は、2005年までに女性比率を30%とすることとし、そのために、職種ごとの女性比率を含め実態を把握し、目標達成のための具体的 計画を日程・数値目標を含めて策定する。
各マスメディア組織やマスメディア産業界の上部組織は、雇用形態にかかわ らずメディア界に働く新人・現職・管理職、女性・男性のあらゆる職種の人に 対し、性差別の問題についての研修を行う。性差別やジェンダーとはどのよう なことであり、なぜ問題なのか、セクシュアルハラスメントの防止などについて体系的に研修し、関係者の意識を変える。
マスメディア組織は、性差別是正の問題を扱う専任担当者や部局を設けて、上記の諸取組みを行う。
政府は、上記のマスメディア組織の性差別是正の取組みの推進状況を把握す る。
(2)マスメディアのモニターと調整の仕組みつくり
マスメディア内容についての問題点の是正のために、広告業界を含めたマス メディア界が、市民とともに、自主的に調整を行う仕組みを作る。例えば、性 差別の解消という観点から継続的にマスメディアのモニターと評価を行い、提 言できるメディア・オンブッドの設置や、既存の第三者機関の扱う内容に性差 別、女性の人権侵害の視点を加えることが考えられる。後者の場合、男女のバ ランスをとった構成とすることは当然である。
(3)性差別の解消という視点からのメディア教育
女性の情報発信能力の拡大や、メディア・リテラシーの獲得をめざす取組みを、市民を中心に積極的にすすめる。市民がこうした力を高めることは、男女平等社会、民主主義社会を実現する上で不可欠である。
(4)政府・地方自治体の役割
政府・地方自治体は、上記の目標に向け、市民・NGOによるメディアの問 題の実態把握、メディア教育の取組みなどの場や設備の提供、財政的支援を行 う。またメディアに関する政策決定過程とマスメディア組織への女性の参画を促進する取組みを行う。
ナショナルマシ−ナリ−及び地方自治体の女性政策担当部署は、市民・NGOとマスメディアとの意見交換と改善のための調整の場を提供する。また政 府・地方自治体の発信する情報を、性差別の解消という視点から点検し、市 民・専門家の声を反映させて男女平等な表現のためのガイドラインを策定す る。
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