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豊かな国と思われている日本で、貧困問題は隠されている。しかし、先進工 業国でも女性の貧困化が進んでいる。不況のもと低賃金化、不安定雇用の増大、 社会保障の負担増、医療、年金、福祉の切り捨てなどが進み、経済システムの 主流から何らかの形ではずれたグループの女性が貧困にあえいでいる。母子家 庭、高齢女性、野宿者女性、女性移住労働者などだが、政府回答書が、母子家 庭にのみ言及していることは大変不足している。 国際金融の肥大化の中、ケルンサミットで日本は債務の一部を帳消しにした のみであるがこれは世界の女性の貧困に影響を与えている。
日本には社会保障制度があるが、女性にとって不十分なため新たな差別と貧 困を生み出している。 所得保障である公的年金制度の中で、賃金と加入期間をベースに受給額が決 まる厚生年金では、女性の賃金が低いために女性の受給額は男性の約半分。ま た、賃金、税、年金、社会保障のシステムが男性が世帯主で稼ぎ手、女性は被 扶養の立場である世帯を前提としているため女性が離婚した場合など、貧困に さらされる。
社会福祉制度の中で生活保護制度は、生活に困った人が無差別平等で受けら れるという理念を掲げてはいるが実際は資産調査・稼働能力判定・扶養義務者 照会などの幾つものハードルがあり、捕捉率は3分の1以下で、受給資格があ っても大半の人が受給していない。(96年東京で高齢母子家庭が生活保護を申 請せず餓死していた)。 また、外国人非正規在留者は受給資格がないため門前払 いの状況だ。 施設福祉サービスとしては、「母子生活支援施設」(98年まで母子寮)、「婦人 保護施設」、「更生施設」のほか、各都道府県に設置された「婦人相談所」など がある。いずれも絶対数が少ない。 また外国人の受け入れを拒んでいる施設も ある。 居住権については、日本で部屋を借りる場合、契約時の手続きが煩雑で、か つ、母子・外国人・障害者、高齢者、生活保護受給者などが断られる場合もあ る。
労働の分野では、バブル経済崩壊後、グローバル化がすすみ、国際競争力を 手に入れるために企業が賃金破壊をすすめている。女性たちが低賃金・不安定 雇用へと追いやられている。高等職業技術専門校の縮小など、公的な職業訓練 教育にアクセスしにくい。 また、中年男性に多いリストラ(解雇)が、妻の立場の女性たちにも影響を 与えている。
死別、離婚、非婚、別居など日本の母子家庭(20歳未満の子どものいる母子 家庭)の総数は789,000世帯で、近年離婚件数は増大している。平均年収は215 万円(1993年)と一般世帯の三分の一に過ぎず、貧困状態で生きている母子家 庭が多い。日本の母子家庭の母は87%が働いているが、正規雇用は50%で、パ ートが30%と多い。また養育費を支払っている父親は約15%と低く、また離婚 の場合の財産分与も不十分で持ち家率も低い。
現在日本は不況で、労働市場で不利な立場の母子家庭は突然の解雇、倒産、 あるいは、非正規雇用への転換、職場でのいじめ、セクシュアルハラスメント などにさらされている。 ある母子家庭は15万円の給料のうち8万円を狭い1DKの民間アパートの家賃に費やし、残りを食費と教育費・水光熱費・雑費にあて、ぎりぎりの生活 をしている。 日本には死別母子家庭には遺族年金が支給され、生別母子家庭には児童扶養 手当の支給など所得保障がある(遺族基礎年金の金額は児童扶養手当の約2倍)。
1998年財政構造改革の名のもとに、児童扶養手当の所得制限は407万円から300万円へと大幅に切り下げられ74000人がうち切られた。さらにこれは各地方自治 体の施策(母子家庭への医療費無料など)の所得制限と連動したため、喘息な ど慢性の病気を抱える家庭が困窮した。 日本政府が児童扶養手当における非婚の母子への差別的な扱いを一部是正し たことが唯一評価されるが、児童扶養手当の所得制限を緩和し、より一層の母 子家庭の就業援助対策が望まれる。
高齢女性はさまざまな社会的状況の中で貧困と隣り合わせに生活している といえる。 ある調査によれば、在宅介護を受けている高齢者の半数が介護者に よる虐待を受けたことがある。また、その加害者の大半が「嫁」であることも 見逃せない。
一人暮しの高齢女性の問題もある。1993年の厚生省調査では、65歳以 上の独居高齢者の8割が女性である。女性高齢者は特に経済的理由で生活に困 窮する傾向が認められる。それは、女性の低年金、高齢者の雇用が難しい、高 齢者がアパートを借りることが難しいこと、などが背景にあると考えられる。 また、特別養護老人ホームの入居者の約7割が女性である。入居者のうち、 非婚の高齢女性の多くは年金では生活できず、生活保護によって生活している。
働く女性でもある農業女性、林業女性、漁漁女性は、国民年金には加入して いるものの、大多数が家族従事者であるため生産労働に対してアンペイドの 状況である。 このことから、農業女性の場合は1996年度から女性加入が できるようになった農業者年金制度(農業者にとっての付加年金)への加入率 は未だに5%と著しく低い。さらに、この加入資格自体、経営者である夫との あいだでの家族経営協定締結が前提となっており、夫の合意なしに農業者年金 に加入できない仕組みとなっている。
障害女性は、年金と生活保護で最低限の生活は保障される。 しかし、無年金 者の問題が残っている。また1986年の国民年金法の改定以後、障害年金と 児童扶養手当の併給ができなくなり、障害をもつ女性が母である母子家庭では 経済的に困難な状況にある(父が障害者の場合は、母が健常者であっても「母 子家庭」と見なされ、父に障害年金、母に児童扶養手当が支給される)。 何らか の法的援助を提言する。
被差別部落の女性は、「部落地名総鑑」事件や1998年大阪で発覚した「差別 身元調査事件」に代表されるように就職の機会均等を奪い、その結果、被差別 部落に貧困をもたらし、教育を受ける権利をも奪ってきた。1993年に総務庁が 実施した「同和地区実態把握等調査」によると部落は、高齢者世帯、母子世帯、 父子世帯の数がいずれも国民生活基礎調査(1992年) の2倍程度となっており、 困難な諸課題を抱えた世帯が多いことがわかる。 被差別部落の母子家庭について1993年に部落解放同盟大阪府連合会が実施 した大阪府母子家庭の実態調査をみると、離別の割合が高く、親の最終学歴は 低く、暮らし向きは苦しく、健康にも問題が多く、年金の加入率が低く、生活 保護の受給割合が高いことが分かった。差別と貧困がからみあっている現状が ある。
日本では、ここ四・五年女性のホームレス化が進行している。東京都二十三 区内では、98年には53人(男性3128人)だったが、翌年には104人(同4468人)と倍増している。 野宿者女性たちは、四十代から八十代が大半だ。高齢化により住み込みの仕事 を失った女性、パートナーの失業で夫婦で野宿者となった女性、同居家族と不 仲で家を出た女性、パートナーの暴力から逃げてきた女性、消費者金融などの 多重債務から「夜逃げ」してきた女性もいる。一般に比べ低学歴の女性や知的 な障害をもつ女性(ボーダーラインの女性も)、精神障害をもつ女性が多い。
女性の野宿者はこれまで可視化されなかったのは、比較的高齢になっても、 家政婦などの住み込みの仕事が見つかりやすいこと、男性に比べ女性向けの社 会保障制度が整っていたこと、野宿は女性にとって、男性以上に高い心理的ハ ードルがあるためだろう。若い女性は性産業に組み込まれているため野宿者は 少ないのではないかと推測される。
野宿女性たちは通行人や野宿生活をしている男性からセクシャルハラスメン トなど受ける不安を抱えて生きている。このため、彼女たちは「ましな」男性 とカップルになったり、厚着をして体の線が見えないように気を使ったり、人 前に姿を現さないようにしている。 急増する女性野宿者への対応に関する議論は始まっていない。
日本における先住民族アイヌ民族は、先住民族として無権利状態である。 アイヌ民族女性における貧困は、過去数百年に及ぶ侵略と同化の歴史的背景と現 在も続く差別との相互関係により生まれてきた。 明治以降の同化政策は、日本人にアイヌ民族を蔑む事を教え、アイヌ民族に は民族としての誇りを失わせた。 貧困は、差別を増大させ暴力を日常化してき た。アイヌ民族女性は日本人男性からも同族の男性からも暴力の被害を受け続 けている。
また、五十歳代以上の女性の識字率が低いため、労働条件の悪い職場にとど まる事を強いてきた。また、アイヌ民族の子弟の識字率も低く、貧困の再生産 は続いている。 北海道庁が道内に住むアイヌ民族を対象に実施した「北海道ウタリ生活実態 調査」(1986年)によれば、生活保護率は、60.9%と高く、また高校進学率が低く、 大学進学率はは三分の一以下である。また多くのアイヌ民族は東京など都市部 へ流出している。 アイヌ民族に、貧困と差別や暴力が次世代の子どもたちにも再生産されない ために、何らかの施策が必要だ。
在日外国人とは日本の植民地支配など歴史的な経緯があり、永住権をもつ外 国人をさす。在日外国人には1982年まで国民年金に国籍要件があったため、加 入できなかった(厚生年金には国籍差別はない)。国籍要件が撤廃されたときに、 経過措置がとられなかったため、高齢者、障害者、母子家庭、準母子家庭 状態の朝鮮人の一部は「無年金状態」に置かれることとなった。さらに在日朝 鮮人は、民族学校が各種学校扱いで大学入学資格が認められないできたが99年 一部門戸を開放された。また、公務員に就職する際に国籍条項が一部撤廃され たとはいえ存在するなど就職差別を受けることが多い。こうした社会的な差別 とあいまって、社会保障の枠外におかれる在日外国人女性は、貧困に陥りやす い。
永住権を持たない外国人が日本には多く就労している。法務省統計では、1998 年末で外国人労働者の27万人強が資格外就労、オーバーステイの状態で働いて いる。しかし実際日本は、80年代後半から年間10万人を越す移住労働者女性 を性産業労働力として受け入れてきた。その他ごく一部が特定活動の資格で 家事労働に従事、飲食業などのサービス産業やベッドメイクなどで低賃金で働 かされてきた。賃金未払いや暴力被害、狭いアパートに集団で寝泊まりなど生 活状況は劣悪で、様々な人権侵害と貧困が重なり合っている。
日本人の配偶者等で外国人登録をしている女性は1997年末の統計で約27万5千人、夫との関係に依存した在留資格のため、孤立した弱い立場にある。在留 資格喪失を恐れて離婚もできず夫の暴力や、悪意の遺棄、「ヒモ」夫の搾取に耐 えているケースもある。 また、正規ビザをもたない移住労働者女性が日本人男性の婚外子を生んだ後、 男性が、連絡をしなくなり、母子が貧困にさらされることが多い。子どもが胎 児認知されず、親子ともに在留資格がない場合は教育、医療、生活保護等の人 権保障の枠外におかれ、孤立した貧困の中にある。
90年代に定住ビザ等で家族ぐるみ入国し、電気、自動車などの下請け工場 に就労していた主に南米からの日系人女性たちは、不況による解雇の波の直撃 を受けている。 移住労働者女性は、人権侵害にさらされ、権利保障の枠外に放置され、貧困に さらされている。労働基準法の枠外に置かれているエンターテイナーと家事労 働者を認めること、民間シェルターへの公的大幅援助や、多言語相談窓口の整 備、また、滞在資格によらない社会保障制度の確立が求められる。
阪神・淡路大震災においても、死者の数でみると、男女比は4対6と女性が 多く、65才以上の高齢者が全体死者の53パーセントを占める。生活保護世 帯のり災率は一般世帯の5倍だった。高齢者、弱者が下町の密集地域に老朽化 した家屋で補強もないまま暮らし、地震で家屋の倒壊とともに圧死し、また露 地奥で逃げ遅れて焼死した。 震災後には、まっ先に大手スーパー、デパートでの大量解雇を中心に、被災 中心地での女性パートは大半が職を失い、次に男が解雇された。 震災後5年間あった仮設住宅では、老女の一人暮らしが目立つ。また3万〜 5万円の年金でひとりで暮らす高齢女性の生活苦を訴える電話相談が多い。災 害で地域社会が崩壊し、バラバラに遠隔地の仮設住宅に追いやられ、そこから またバラバラの復興住宅に移り住むなかで、住居は確保されても、高齢者、特 に高齢女性は貧しいまま孤立化している。
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