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西陣プロジェクト その5〜糸染め編 福田染工 福田義久さん
2001年 7月28日取材
ものづくり職人列伝

「染屋さんは本当に暑いよ」

気温35℃。土用の暑いさなか「染屋さんは本当に暑いよ」というある方からの忠告 に、いささか恐れながら今回の訪問先、福田染工さんを訪ねました。
福田染工さんは西陣織に使われる糸を染める染屋さんです。多彩で複雑な色遣いで知られる西陣織の色をつかさどる重要な工程です。
工場の中は自動の染色釜がずらりと並んでいますが、訪れたこの日は土曜日という ことでほとんどの釜は止まっており、脅かされたような「暑さ」はありませんでした。
今回は、特別に工場の奥で手染めの作業を見せていただきました。

染工場の染織釜

染料を調合する様子 染工程1〜染料を入れる

真夏の最も暑いときは仕事場の温度が50℃を超えるそうです。でも、扇風機の風を強くしすぎると染料の粉末が飛んでしまい、染めた糸についてしまうことあるので、暑くてもそれもできないという中での大変な作業です。

染料の粉末をお湯の入った釜に入れ、金属封鎖剤を入れます。色あわせは全て長年の勘です。「色を見ればあとどのくらい染料を入れたらよいのかがわかる」といいますが、素人目には区別がつかないほどの微妙な違いです。

染工程2 〜アイボウ

アイボウ(相棒)とは手染めの際二人で二本の棒の両端を持ってそれに掛けられた糸をまんべんなく染料液に浸していくという作業。釜の中に染料を入れ、その中に糸を浸しながら徐々に色を合わせていきます。色を合わせるのに要求の高い得意先ならば30分くらいかかるそうです。

これは二人の動作が合わせ鏡のように一緒でなければならないそうです(つまり左右逆でありながらも同じ動作を行うということ)。今では福田さんと奥さんとの息もぴったりですが、「最初はあわせることができなくていつも怒られていた」とは奥さんの弁。

アイボウの様子

できあがった絹

染工程3 〜絹鳴りへ

見本と同じ色に染まったところで、糸を釜から上げ、水洗いし、絹糸の場合、酸の入った釜で「色止め」という作業を行います。絹は酸性の状態でないと染まらないからです。こうすることによって絹独特の「絹鳴り」が出ます。

最後に洗濯機の脱水機のドラムのような機械で脱水、そして乾燥して出来上がりです。
このようにして染め上がった糸は得意先に返されます。その日預かった糸は染め上 げて翌日に返され、織られていくのです。


色へのこだわり

福田染工は明治35年(1902年)創業という100年近い歴史を誇る糸染め屋さんです。ご主人の福田義久さんは福田染工の三代目です。男兄弟が自分だけだったので後を継ぐことが「運命付けられていた」と言います。学校を出てからこの世界に入ることになるのですが、直接誰かに教えてもらったことはないといいます。

また、化繊の染めを勉強するためによその染屋さんにも修行に出ていたこともあるそうです。

現在、加工預かりの量は西陣織の生産量の落ち込みに伴って少なくなってきていますが、それと反比例するかのように、色あわせの基準は年々厳しくなってきているとのことです。また、生糸の質自体の問題もあり、「染屋泣かせ」の時代といえるかもしれません。

脱水の様子

インタビューの時の福田さん

「色を売る」

そんな中で染屋としての付加価値とは何なのでしょうか。福田さんは「色を売る」 ことだと言いました。例えば、福田さんは見る角度や光の具合によって違った色に見 える染料を開発しましたが、注文をただ受けるだけでなく、得意先に「こんな色がで きました」と提案していくことが求められると強調されました。実際、こうして開発した新色が織屋さんに認められたらうれしいということです。

仕事で譲れない点はずばり「色合わせは誰にも負けない」ことだと言います。そして、「精一杯やるだけ」だそうです。


草木染め

もう一つ、福田さんが取り組んでいるものに「草木染め」があります。
仕事が休みのときには、山に行ってその材料となる草や木の皮や葉を採ってくるそうです。家の中には草木染めで染めた作品や染料の材料となる木などが展示してあります。なお、草木染めは10年程前から始めたそうです。

草木染めは化学染料にはない、落ち着いた色と自然の味わいが魅力。でも、一口に「草木染め」といっても福田さんのように材料を求めて山に入る人は多くないことと思います。

草木染めの作品を数点見せていただきましたが、どれもなんとも形容しがたい微妙な色あいと、自然のものが持つ力強さを感じさせるものでした。そして、草木染めで培われた感性は日々の仕事の中にも息づいているように思えました。

草木染めの作品

染めあがった糸たち

これからの西陣へ

最後に西陣織のこれからについて伺いましたが、市場の縮小、後継者難とあまり明るい材料はないようです。「産業としての西陣織」ばかりでなく、「色へのこだわり」など西陣が培ってきた技術や精神面、文化的な要素にももっと着目する必要があるのでしょう。


参加者の感想1

この工場(こうば)はずいぶん風通しがいい。
染め織りができる場所を探している学生や、草木染めの愛好家、はるばる海外から"nishijin"を見に来た外国人など、実に様々な人々が昔ながらの 工場に集まってくる。

そしてこの工場を営んでいるのは、仕事に関しては昔堅気なほど律儀な職人さんである。職人は仕事場を見せたがらないものだと思っていたが、その予想は見事に裏切られた。ここでは観光や集客とは全く関係ない所で工場が開放され、その結果素人玄人の垣根を越えた従来にない人の和が広がりつつある。

これからの時代を生き抜く力を持った新しい職人の在り方を目指して、模索を続ける工場のご夫婦に心から声援を送りたい。また具体的に新事業のサポートを得る手法を共に探していきたいと思っている。


染めにトライ

加者の感想2

色を調合することは何となく何グラムとか決まった分量を計って色を出しているのかと思っていましたが、実は“勘”で混ぜるということに驚かされました。私は調合された粉を見ても一体何の色になるのやらという感じだったのですが…。

糸を染めていく“アイボウ”の作業は見ているとすごくリズミカルでおもしろかったのですが、棒の動かし方に決まりがあってそれに合わせて棒を動かしているのかと思えばそうではなく、どちらかに合わせ予想してもう片方の人が少し遅れて動かしているということで、つまりは息が合わないとアイボウ(相棒)になれないんだなぁとなんだかすごく納得させられました。

最後にこれからの西陣について付加価値をつけていかなければならないということで、実際どんどん新しい事に挑戦されていること、色合わせは誰にも負けないと言い切られた福田さんはかなりかっこよかったことを強調したいと思います。


参加者の感想3

一番印象深かった工程、"アイボウ"美しい糸を染めるには、二人の呼吸をぴったり合わせることが不可欠である。その信頼関係があれば糸が途切れることはない。
「アイボウに漢字を当てはめるなら、やっぱり"相棒"かしら」と、仰った奥さんの言葉に深く頷いた。

セリシンを抜いた糸に入っていくのは色だけではない。
長年培われた職人の技とカンが相棒の作業を経て、糸に命を吹き込んでいく。
指先に吸いつくような質感と艶はこうして生まれる。
頭の中にあるイメージを形にしていく際に伴う緊張感と集中力が、作品の仕上がりを決める。

太陽光を浴びて色を変えるものも含めた多彩な糸達が胸を張っているのは揺るぎないこだわりを宿しているからだ。

草木染めの作品たち


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