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西陣プロジェクト その5〜整経編 清水整経 清水良一さん
2001年 6月22日取材
ものづくり職人列伝

テーブルを囲んで清水さんの歴史に触れる。
その横顔からは温厚な人柄が感じられた。
そして、ふいに眼鏡を外した
清水さんのもうひとつの顔。
それは積み重ねてきた50年分のプライドを持つ
"職人"の顔だった。

単に眼鏡の有無がどう、という事ではなく
眼鏡に覆われていた瞳の強さが、その一瞬に
一気に飛び出してきたように見えたのだ。
おかしなものだが、直に仕事の流れを
見せて頂いた時より、その印象は強かった。


「この道50年 知らんことはまだまだある」

千本寺之内から少し東に入ったところに、清水さんの整経工場があります。一歩入ると、そこは西陣独特のうなぎの寝床です。工場の休憩場所として使われてるところで、お話をお伺いしました。

「知ってることやったら答えられますよ。この仕事を始めて50年やけど、まだまだ知らんことあるしね。」とおっしゃいながら、実際に整経のお仕事をひととおり実演しながら、整経のこと、西陣のこと、職人としての思いなどをお話しくださいました。

伝統工芸士の清水さんは、二代目だそうです。6人兄弟のなかで、唯一の男の子だったそうで、このお仕事を継ぐことは、当然のことと思っていたとか。そして、50年間この仕事を積み重ねてこられました。

説明してくださる清水さん

バイオリン奏者

整経とは、精練された糸を、織機に経(たて)糸として使うために、長さと本数をそろえて、千切(ちきり)という円柱形のものに巻く工程をいいます。織り手さんは、ちきりに巻かれた経糸をそのまま織機にかけ、織っていくのです。

織物をつくることをオーケストラに例えて、「織屋さんが指揮者やったら、わたしらはバイオリン弾いてるようなもんですわ。」と自らは主役ではないことをおっしゃってました。でもそこには、このバイオリン奏者としてのお仕事を全うしてきた誇りを感じました。

ひとことで言うと、ただ長さと本数をそろえるお仕事。でも、清水さんいわく、「簡単なようで、熟練を要する」とのこと。実際に見せていただきながら、整経という工程についてご説明いただきました。


整経工程1 〜糸枠からドラムへ

まずは、「ぜんまい」という糸繰り機で糸を糸枠に巻き取っていきます(上写真)。それを淡々と続け、76個もの糸枠を用意します。

そして、準備された糸枠は広いところに並べられ、それぞれの糸枠から一本づつの糸を引き出し、上の「目はじき」を通して、清水さんの手元に集められます(右写真)。

それらの糸を、前おさ(右下写真)を通して、ドラム(左下写真)に巻き取っていきます。
清水さんの足元にアクセルがあり、ドラムの回転するスピードを調節されます。今回は太い糸だったので、切れにくく、お話しながら見せてくださいましたが、細い糸のときはすぐに切れてしまうので、すごく神経を使うそうです。

糸枠からドラムへ

回転するドラム勢いよく回転するドラム
早ければ1分間に100回転する

今回は76本の糸の長さをそろえる工程を5回見せてくださいました。つまり、76×5=380本の経糸の整経をしたことになります。一本の糸の長さは約300メートル。

ネクタイの場合は、経糸の数が1万本ほどにも及ぶそうです。

一本でも糸が切れていたらクレームがきます。それが切れることのないよう、集中して糸をドラムに送りこんでいきます。



糸枠からひいてきた糸をドラムに流すところ
気持ちが如実に反映する
油断すると糸は簡単に切れる、ほつれる

チキリに巻くところ

整経工程2〜ドラムから千切へ

ドラムに巻かれた糸を、今度は千切に巻いてゆきます。この工程を、経巻き(たてまき)といいます。千切ができれば、あとはそのまま織機にかけるだけです。

ドラムから淡々と送られてくる糸を千切に巻くいてゆきます。決まった間隔で、糸の間に機草(はたくさ)というボール紙を挟んでいきます。その手際がなんともリズミカルというか、熟練のなせる技を感じさせます。

できあがった千切は重いもので、50キロもあるとか。この重量は高齢化する西陣にとってずいぶん重いのではないかと感じました。




いい糸が少なくなった

整経をするうえでは、湿度が微妙に影響するそうです。乾燥期は、静電気のせいで、糸が横に散ってしまうため、仕事がしにくいそうです。なので、わざわざ適度な湿り気を与えたり、わざわざ電気を通すなどして、対策をされてるとか。

そして、
清水さんは「いい糸が少なくなった」と繰り返し、おっしゃってました。最近はブラジルから来ているものもあるそうです。やはりコスト面でずいぶん違うようです。そして、質もやはり好ましくないものが多くなってきているそうです。「今の糸は粘りが少ない」らしく、「少々のことで切れてしまう」ので、より注意が必要になるそうです。

糸たち


これからの西陣へ

西陣は「今まで、非活性化になることばかりしてきた。」「若い人を置き去りにしてきた」ともおっしゃいます。
「やはり、若いひとが気軽に着られるようにせんとね。」「おしゃれのひとつの選択肢として、きものがあってもいいのでは」という言葉に、参加している女性たちはうなずいていました。


参加者の感想

今回列伝に参加させていただいて、初めて間近で「職人技」というものを見る事ができ、まずその手さばきに驚かされました。特に木枠を回す回数は気が遠くなる程だけれども、扱われる経糸が時には信じられないぐらい細い事もあり、本当に気が抜けないものであるのだなと実感しました。また、仕上がったものが必ず完璧でなければならないとおっしゃっていたことも印象的でした。

それからこれまでに織りに関する様々な道具を見る機会があったのですが、いまいち資料等を読んだり説明をしてもらっても、実際に作業している場面を見た事はなかったので、今回説明を受けながら順に作業を見せていただけることができ、すごく分かりやすかったです。さらに清水さんが気さくな方で織りの事はもちろん、昔の西陣についても話をして下さったので織りの工程だけでなく、今までの西陣がどのようにあって、今に至っているのか少し知る事ができ充実した一日となりました。



仕事場に掲げられていた"心訓"の一つに
"人間として惨めな事とは教養が無い事"と
あった。これには職人だから、会社員だから、
学生だから、という垣根はない。

"何事も全否定せず、一度は受け入れてから
自分のこだわりというフィルターを
通して見定める。"

清水さんはその姿勢をずっと持ち続けてきた人
なのではないか。

ぴっと背筋を正すような仕事への熱意と
あらゆる事にに対する尽きない好奇心が
その存在感の大きさに表れていると思った。

帰り際に
「自分で言うのも何だけど
うちはええ整経屋やと思てんのやけど。」
と笑って仰っていたが
自らを何者かと名乗れる人の言葉には
誇りと清々しさが漂っている。


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