意見書
反戦地主会・反戦地主会弁護団
意見書
1999年2月9日
建設大臣 関 谷 勝 嗣 殿
参加人有銘政夫外22名代理人
弁護士 阿波根 昌 秀
同 仲 山 忠 克
同 伊志嶺 善 三
同 新 垣 勉
同 池宮城 紀 夫
同 島 袋 勝 也
同 三 宅 俊 司
同 金 城 睦
同 芳 澤 弘 明
同 前 田 武 行
同 神 田 高
同 河 内 謙 策
同 松 島 暁
同 内 藤 功
同 吉 田 健 一
同 鷲 見 賢一郎
同 瀬 野 俊 之
同 大久保 賢 一
同 三 田 恵美子
同 西 晃
同 長 野 真一郎
同 梅 田 章 二
同 太 田 隆 徳
同 篠 原 俊 一
同 臼 田 和 雄
同 諫 山 博
同 中 村 博 則
安 里 秀 雄
「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等等の使用等に関する特別措置法」に基づく使用裁決申請事件、同明渡裁決申請事件について、沖縄県収用委員会が、平成10年5月19日、別紙物件目録記載の土地についてなした却下裁決に対する那覇防衛施設局長による審査請求についての、参加人らの意見は下記のとおりである。
記
本審査請求は、1998年(平成10年)5月19日、沖縄県収用委員会が出した、キャンプシールズ外4件13筆に関する却下裁決について、那覇防衛施設局長が建設大臣に行った審査請求であるが、那覇防衛施設局長は、却下裁決にたいして、その裁決結果を尊重し、審査請求など申立てることなく、地権者らに対象土地を返還すべきであった。しかし、那覇防衛施設局長はこれをせず、審査請求を行ったものであるが、その理由とするところは、後に詳述するように何らの正当な根拠に基づくものではなく、その根拠付は極めて薄弱である。
そこで、沖縄県収用委員会の却下裁決に対する参加人らの補充的主張及び参加人らの独自の主張を、以下において明らかにする。
建設大臣においては、下記参加人らの意見を充分ふまえた上で、その判断を求める。
1
1997年2月21日の第1回公開審理において、兼城収用委員会会長(当時)は、「収用委員会は、公共の利益の増進と私有財産の調整を図るという土地収用法の基本理念のもとに、その判断にあたっては、起業者及び土地所有者等いずれの立場にも偏ったものであってはならないことはもちろんのこと、独立した準司法的な行政委員会として、公正・中立な立場で実質審理を行います。」とその決意を表明した。
現に、その後1998年1月29日の公開審理まで計11回にわたり公開の審理が行われ、74名の地権者及びその代理人が意見を述べ、収用委員会のめざす実質審理に寄与した。那覇防衛施設局長も意見表明の機会を十分に与えられていた。また、収用委員会から再三再四にわたしその意見表明を促されたにもかかわらず「本審理になじまない」として自らの正当性を主張する機会を一方的に放棄した。
また、地権者の立ち会いを伴わない点で起業者側に偏した不十分なものとの批判は免れないが、収用委員会は、1998年1月6、7、9日3日間、現地に直接足を運び、対象土地の調査まで実施した。
従って、沖縄県収用委員会の右裁決は、独立の準司法機関である収用委員会が慎重かつ実質的な審理を経たうえで下した裁決であり、後に詳しく述べるように、その却下理由は極めて正当なものであり、審査請求の棄却は免れないものと考える。
2
さらに、参加人らは、そもそも国の機関が、収用委員会の裁決に対し、審査請求を行うことそれ自体が認められるべきではなく、本件審査請求を却下すべきだと考える。
行政不服審査法1条は、「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に広く行政庁に対する不服申立のみちを開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」と定める。
そもそも行政不服審査法は、官僚主義的行政の自己統制・行政監督制度の確立を目的としていた旧訴願法を改め、行政庁の違法・不当な処分に対する国民個人の権利を救済することと、行政の適正な運営の確保を目的として定められた法であり、違法・不当にに権利を侵害された場合にその取消を求める行政訴訟と並んで国民に認められた不服申立の制度である。
ところで本件は、那覇防衛施設局において、米軍用地として提供することを目的に、参加人らの所有地を強制使用するための裁決申請に対し、沖縄県収用委員会がこれを認めないとしたものであり、国民である地権者(参加人)の権利・利益の侵害が許されなかったのであり、その救済の必要はなく、権利救済は必要とはされない事案である。
また、本法は、権利・利益を侵害された国民の側からの救済申立制度であって、国民の権利・利益(財産権)を侵害しようとして拒否された行政機関の不服申立を本来的に予定していないものである。
従って、防衛施設局長による、審査請求を本法は認めてはおらず、予定もしていないというべきである。
地方公共団体が、本法に基づく不服申立の申立資格を有するかに関しては、一般に、地方公共団体がその固有の資格においてその相手方となる処分については、本法による不服申立はできないと解されている。(田中真次=加藤泰守『行政不服審査法解説』日本評論社26頁)これに対し、地方公共団体が固有の資格ではない、一般私人と同じ立場に立つ場合(地方公共団体がガス・水道事業を経営している場合など)は、申立ができるとされている。
本件の土地使用(収用)は、米軍用地の提供という国家(国家機関)のみがなし得る事業であり、一私人として行っているものではない。
即ち、那覇防衛施設局長は、「使用の裁決の申請理由説明要旨」において、「日米安全保障体制は、わが国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠な枠組みとして機能しており、また、我が国への駐留軍の駐留は、我が国の安全並びに極東における平和及び安全の維持に今後とも寄与するものである。したがって、日米両国とも『日米安全保障条約』を終了させることは全く考えておらず、駐留軍の駐留は、今後相当長期間にわたると考えられ、その活動の基盤である施設および区域も今後相当期間にわたり使用されると考えられるので、その安定的使用を図る必要があると。」述べている。これは本件使用裁決申請が、我が国及び極東の平和と安全という国家目的遂行であることを表明であり、行政主体(那覇防衛施設局)が他の行政主体(沖縄県収用委員会)によって行政権の行使が妨げられる場合にあたり、個人(私人)の権利・利益とは関係のない事柄であることを明らかにしている。
船員保険の保険者である厚生大臣がなす保険給付に関する決定を審査する保険審査官及び船員保険審査会の審査制度は、一種の準司法機関としての審査機関のなす簡易な訴訟手続の実質を有するものであり、この審査手続きの下では処分庁も受給者も当事者として対等の地位にあって、審査決定に不服のある場合は当事者双方とも不服申立の権利を有し、厚生大臣も、船員保険審査会に審査請求ができるとされている。(南博方=小高剛『注釈行政不服審査法』第一法規56頁、東京地判昭26.5.11行裁例集2-6-953、東京高判昭30.1.27行裁例集6-1-167)しかし、右船員保険審査制度は、その手続として保険審査官の審査とその上級機関たる保険審査会のいづれも準司法機関として受給者(私人)及び保険者(行政庁)双方を対等の当事者として予定している。本件の場合、収用委員会の決定に対する不服申立を建設大臣が審査する際し、地権者らは対等な当事者として審査手続きに参加することはできず、参加人としての地位しか与えられていない。したがって、右制度があるからといって、行政庁一般に行政不服審査法の不服申立適格が認められわけではない。
3
尚、米軍用地特別措置法に、国(防衛施設局)を審査請求主体とする規定が存在するが、右特別措置法については、違憲の訴訟が現在、那覇地方裁判所に係属しており、右規定の存在を前提とする判断は許されない。
資料提供:反戦地主会弁護団