第4 建設大臣の審査方法について

 1 今回の審査手続は如何なる原則に基づいて進められるべきか

(1) 建設大臣の審査は、関係者の手続上の権利を十分に尊重するとともに、慎重に進められなければならない。

 今回の審査手続上の原則について、参加人らがまず第1に強調したいことは、審査手続があくまでも公正に進められなければならないということである。

 現行の行政不服審査手続が公正という面から見て不十分な点があることは、多くの識者によって指摘されているところである。たとえば、渡名喜庸安氏は、次のように述べている。

 「第1に、行政上の不服申立てにおいて審査・判断にあたる機関は、裁判所とは異なり、紛争当事者から完全に独立した第三者機関ではなく、直接事件に関与した処分庁または直近上級行政庁であるのが通常であるので、そのかぎりにおいて中立公正な審理判断を期待しえない。第2に、簡易・迅速性の確保とは、他方では、事実の認定において裁判所におけるほどには厳格なルールによらないことを意味し、職権主義・書面主義の採用(行審25条)や対審構造の弱さなどにみられるように、事実の解明についても限界があり、公正性・信頼性に欠けるところがある(塩野・行政法 9頁)。」(室井力・芝池義一・浜川清編著『コンメンタール行政法  行政法手続法・行政不服審査法』272頁以下)

 現行の行政不服審査手続が右に述べたような公正な手続という点で不十分さがあることに加えて、今回の審査手続は、事案の性質からも徹底した公正な手続が問われていることを指摘したい。

 すなわち、沖縄県民をはじめとした多くの日本国民が今回の審査手続を注目していることは改めて言うまでもないことであるが、その多数の国民が感じていることは、建設大臣が内閣総理大臣の指揮の下にある防衛施設局に対して公正な立場を貫けるのか、「身内」をかばうことになるのではないか、という危惧である。

 したがって、公正な手続が確保されるかどうかということが、今回の審査手続において決定的とも言える重要性を有していることは明らかである。 参加人らが第2に強調したいことは、公正な手続を進めるためには、関係者の手続上の権利を十分に尊重することが必要不可欠だということである。

 現行の行政不服審査法は、1890年(明治23年)の旧訴願法に基づく訴願制度の不備を改め、1962年(昭和37年)に制定されたものであるが、この現行法が訴願制度と著しく異なっている点の1つは、審査請求人および利害関係人らの手続的権利の保障がなされた点にある。そしてそれは、手続の公正を確保するためには関係者の手続的権利を保障しなければならないという原理を法が採用したことを意味する。

 大阪地方裁判所昭和44年6月26日の判決も、次のように述べている(田中舘照橘・外間寛・小高剛著『行政不服審査法』17頁より引用)。 「現行の行政不服審査制度の下において、事案の公正な判断を達成するためには、殊に審査手続を主宰する審査庁が、前叙のとおり、処分庁から独立した第三者機関ではないわけであるから、行政能率を著しく阻害しない限り、審査請求人または参加人の手続上の諸権利を十分に尊重するということによって、右制度の欠陥が露呈することのないように努めなければならないのである。」

 参加人らが第3に強調したいことは、審査手続が慎重に進められなければならないということである。

 現行の行政不服審査法による不服申立制度の特色としては、様々な書物において、簡易迅速な手続であることが言われている。

 しかし、今回の審査手続において迅速性を重視することについては、重大な疑問がある。

 今回の審査請求の対象になっている沖縄県収用委員会の裁決は、いずれも1997年(平成9年)2月21日から1998年(平成10年)1月29日までの、11回にわたる公開審理を経てなされたものであり、この11回の公開審理が歴史に残る画期的な公開審理であったことは、衆目の一致するところである。審査請求人である那覇防衛施設局長が、今回の審査請求において収用委員会の審査方法の違法を指摘することが出来なかったことは、そのことを裏付けている。

 このように収用委員会が公開審理を経て慎重に合議により裁決したものを、建設大臣が迅速に却下・棄却・認容の裁決を出せるはずがない。

 したがって、建設大臣の審査は慎重になされなければならないのである。 これに対しては、行政不服審査法1条の明文に反するという反論がなされるかもしれないが、建設大臣の審査が慎重になされるべきことは、土地収用法自身が予定していることなのである(土地収用法第131条第1項で、建設大臣が審査請求の裁決に際し、公害等調整委員会の意見を聞くことを定めているのは、この趣旨である。)。

(2) 建設大臣は収用委員会の裁量権を尊重しなければならない。

 法は、収用委員会の独立性を強く保障し、「収用委員会は独立してその職権を行う」(土地収用法第51条第2項)と規定している。土地収用法第55条に収用委員の身分保障の規定が置かれているのも、また、都道府県知事が収用委員会の事務を整理する職員を任命する当たって会長の同意を得る必要があると定めているのも(土地収用法第58条第2項)、この趣旨に基づくものである。

 このように法が強く収用委員会の独立性を保障していることから考えるならば、建設大臣が審査請求の裁決するにあたっても、建設大臣が収用委員会の裁量権を尊重すべきことは当然であると言わなければならない。

 また、収用委員会が準司法的機能を有し、対審構造の下に審理がなされるのに対し、建設大臣の審査手続があくまでも行政による自己統制にすぎず、対審構造に基づいていないことによっても、右のことは肯定される。 建設大臣は、裁判所ではない。それゆえ、収用委員会の裁決につき、裁判所と異なるアプローチが求められる。

 したがって、建設大臣は、収用委員会の裁決が著しく不当である場合や、収用委員会の裁決が収用委員会の広範な裁量権を明らかに濫用していると判断される場合以外は、防衛施設局長の審査請求をに認容してはならないのである。

 2 今回の審査手続についての参加人らの要望

 参加人らは、今回の審査手続について、当面、以下の点を要望するものである。これについての建設大臣の文書による回答をお願いしたい。

(1) 収用委員会に提出されたすべての証拠書類を取り寄せていただきたい。

 参加人らの調査によると、収用委員会から建設大臣に対して、裁決申請書や公開審理の議事録等は送付されたようであるが、公開審理において提出されたすべての証拠書類が送付されていないようである。もしそうだとすれば、速やかにすべての証拠書類を取り寄せ、当面、公害等調整委員会の審理の材料にすべきことは当然である。

(2) 参加人らに口頭で意見を述べる機会を保障していただきたい。

 参加人らは、沖縄の反戦地主として、今回の審査請求の実質的当事者であると言って過言ではない。審査手続においてこの権利は行政不服審査法第25条第1項但書により保障されているが、沖縄の生々しい声を聞かないで建設大臣の判断は不可能であることを強調したい。なお、参加人らが口頭で意見を述べる場は、公開としていただきたい。たしかに法は明文で公開を定めている訳ではないが、法が禁止していない以上、公開とすることに問題はないはずである。

(3) 参考人の意見陳述の機会を保障していただきたい。

 今回の審査手続においては、防衛施設局長の審査請求が適法か否か、地籍不明地の収用は可能か否かなど多くの法律的争点が問題になる。そこで参考人らは、現在、参考人として適当な専門家を人選中であり、後日、申請の予定である。

(4)沖縄現地の検証をぜひ実施していただきたい。

 本件では地籍不明地が問題になっているが、地籍不明地の問題は、現地を実際に見分することなくして完全な理解が不可能である。「百聞は一見に如かず」であるから、ぜひとも沖縄現地の検証をお願いしたい。

(5)公害等調整委員会の意見が建設大臣のところに送付されてきた時には、 その意見を参加人らに通知し、参加人の反論権を保障していただきたい。

 物  件  目  録

  (略)


前項


沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック