平成8年(権)第8号
平成8年(明)第8号
裁 決 書
(嘉手納飛行場2)
起業者 那覇市久米1丁目5番16号
那覇防衛施設局長 嶋口武彦
土地所有者 別表第1記載のとおり
平成8年3月29日付けで起業者から権利取得裁決申請及び明渡裁決の申立てがあった、日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の用に供する土地の使用に係る土地使用裁決申請事件について、次のとおり裁決する。
なお、この裁決に不服がある場合は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して30日以内に建設大臣に対し審査請求をすることができる。
主 文
1 起業者の申請はこれを却下する。
なお、却下する土地は下表のとおりとする。
土地の所在 |
地番 |
地目 |
地積(平方メートル) | |
登記簿 |
実測 | |||
中頭郡嘉手納町字東野理原 | 350 |
宅地 |
575.20 |
590.20 |
中頭郡嘉手納町字東野理原 | 351 |
畑 |
138 |
141.99 |
中頭郡嘉手納町字東野理原 | 381 |
雑種地 |
1,381 |
1,415.60 |
2 鑑定人に対する鑑定料は、起業著の負担とする。
事 実
第1 起業者申立ての要旨
起業者が裁決申請書及び明渡裁決申立書並びに意見書及び審理において申し立てた要旨は、次のとおりである。
1 申請理由等
(l)沖縄県に所在する駐留軍の用に供する施設及び区域内の土地の使用権原取得の経緯
ア 沖縄県に所在する施設及び区域の面積は、昭和47年5月の復帰時約28,700ヘクタールで、そのうち民公有地は約18,700へクタールであった。この民公有地のうち約76パーセントに相当する約14,100ヘクタールの土地については、土地所有者との賃賃借契約(以下「契約」という。)の合意を得て使用権原を取得したが、契約の合意が得られなかった約24パーセント、約4,500ヘクタールの土地については、沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律(昭和46年法律第132号。以下「公用地暫定使用法」という。)に基づき、昭和57年5月14日までの使用権原を取得した。この使用期間中、契約締結の努力を重ね、また、施設及び区域の整理・統合・縮小に努めたところであるが、約16,800ヘクタールの民公有地のうち約0.4パーセントにあたる約69.5ヘクタール(所有者数153人)の土地について、契約の合意が得られなかった。
イ このため、日本国とアメリカ含衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に開する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(昭和27年法律第140号。以下「駐留軍用地特措法」という。)に基づき、沖縄県収用委員会から5年の使用の裁決を得て、昭和62年5月14日までの使用権原を取得した。この使用期間中も契約締結並びに施設及び区域の整理・統合・縮小に努めたが、約16,700ヘクタールの民公有地のうち約0.3パーセントに当たる約43.2ヘクタールの土地(所有者敗2,068人)について契約の合意が得られず、このため駐留軍用地特措法に基づき、沖縄県収用委員会から10年(一部5年)の使用の裁決を得て、平成9年5月14日(一部平成4年5月14日)までの使用権原を取得した。
ウ 一方、契約により駐留軍用地として使用していた土地のうち、復帰時の昭和47年5月15日を契約の始期とする土地約13,000へクタール(所有者数約27,000人)は、民法第604条の規定により、契約の始期から20年後の平成4年5月14日をもって、その契約期間が満了した。また、沖縄県収用委員会から5年の使用の裁決を得て、昭和62年5月15日から使用している土地約0.2ヘクタール(所有者数3人)についても、平成4年5月14日をもって、使用期間が満了した。
この契約期間及び使用期間中も、契約締結並びに施設及び区域の整理・統合・縮小に努め、民公有地のうち約99.9パーセントの土地については、契約の合意が得られたが、残る約0.1パーセント、約11.5ヘクタール(所有者数575人)の土地については契約の合意が得られず、沖縄県収用委員会から5年の使用の裁決を得て、平成9年5月14日までの使用権原を取得した。沖縄県収用委員会から使用の裁決を得た平成9年5月14日までの使用期間中においても、契約締結並びに施設及び区域の整理・統合・縮小に努めたが、約15,700ヘクタールの民公有地のうち約0.2パーセントに当たる約36.3ヘクタールの土地については、契約の合意が得られる見込みがない状況にある。エ 以上、沖縄県収用委員会の裁決により、昭和62年5月15日から平成9年5月14日までの10年、及び平成4年5月15日から平成9年5月14日までの5年の使用権原を得た土地の一部、並びに昭和51年4月1日を始期とする契約の期間が満了する土地の一部について、継続して使用するための契約の合意が得られる見込みがない状況にある。
(2)申請理由
日米安全保障体制は、我が国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠な枠組みとして機能しており、また、我が国への駐留軍(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊をいう。以下同じ。)の駐留は、我が国の安全並びに極東における平和及び安全の維待に今後とも寄与するものである。したがって、日米両国とも日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和35年条約第6号。以下「日米安全保障条約」という。)を終了させることは全く考えておらず、駐留軍の駐留は今後相当長期間にわたると考えられ、その活動の基盤である施設及び区域も、今後相当長期間にわたり使用されると考えられるので、その安定的使用を図る必要がある。
また、契約に基づく使用権原が得られる見込みのない土地は、それぞれ施設及び区域の運用上、契約により駐留軍用地として使用している土地と有機的一体として機能しており、必要欠くべからざるものである。
そこで、これら契約による使用権原を得られる見込みのない土地について、駐留軍用地特措法に基づき、使用権原を取得することとし、平成7年3月初めに手続きを開始し、同年5月9日内閣総理大臣の使用の認定を得て、平成8年3月29日嘉手納飛行場に係る一部未契約土地3筆、2,147.79平方メートルについて使用の裁決の申請を行ったものである。
2 裁決の中請に至るまでの手続きの経緯
(l)意見照会及び使用の認定
起業者は、平成7年3月3日土地所有者及び関係人に対し、駐留軍用地特措法第4条に規定する意見照会を行ったうえ、同年4月6日トリイ通信施設等2施設について、同年4月17日嘉手納飛行場等11施設について、同法同条の規定に基づき、防衛施設庁長官及び防衛庁長官を通じ、内閣総理大臣に対し使用の認定の申請を行い、内閣総埋大臣は、同年5月9日同法第5条の規定に基づき、同申請に係る土地の便用が同法第3条に規定する要件に該当すると認められるとして、使用の認定を行った。
(2)土地調書及び物件調書の作成
起業者は、使用認定の告示後土地収用法第36条第1項による土地調書及び物件調書の作成に着手した。なお、土地調書添付の実測平面図については、平成6年7月測量専門業者に発注し、いわゆる地籍調査作業により現地において調査測量した結果に基づき、同年9月に作成した。起業者は、土地所有者及び関係人に対し平成7年6月3日(土)及び同4日(日)、本件裁決申請対象土地の所在する市町村内の公民館等において、立会及び署名押印を求める旨、同年5月12日付または同月15日付文書をもって通知依頼した。これは、上地所有者及び関係人の居住地、交通事情を考慮し、3週間の期間を設ける等の配慮をしたためである。
なお、6月3日の立会及び署名押印において、本件裁決申請対象土地の一部である嘉手納町字東野理原351番地の土地調書に実測平面図が添付されていなかったことから、土地所有者に対しその旨を説明し、立会場所に図面が到着するまで、待ってくれるようお願いしたが、聞き入れられなかったため、翌4日に立会及び署名押印するよう申し入れたが、当日、土地所有者は立会及び署名押印を行わなかった。このため、起業者は、6月6日、改めて、土地所有者に対し、文書により6月17日(土)及び18日(日)に立会及び署名押印を求めたが、上地所有者は立会及び署名押印を行わなかった。
本件裁決申請対象上地については、土地所有者が立会及び署名押印を拒否したため、土地収用法第36条第4項の規定に基づき嘉手納町長が指名する吏員の立会及び署名押印により、土地調書及び物件調書を完成した。
3 使用の必要性
日米安全保障体制は、我が国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠な枠組みとして機能しており、また、我が国への駐留軍の駐留は我が国の安全並びに極東における平和及び安全の維持に今後とも寄与するものである。
したがって、日米両国とも日米安全保陣条約を終了させることは全く考えておらず、駐留軍の駐留は今後相当長期間にわたると考えられ、その活動の基盤である施設及び区域も、今後相当長期間にわたり使用されると考えられるので、その安定的使用を図る必要がある。
また、復帰時約18,700ヘクタールの民公有地のうち契約の合意が得られていない土地は約24パーセント(約4,500ヘクタール)であったところ、今日においては約0.2パーセント(約36.3ヘクタール)と激滅しているが、これらの土地はそれぞれの施設及び区域の運用上、契約により駐留軍用地として使用している土地と有機的一体として機能しており、必要欠くべからざるものである。
このため、起業者は平成8年3月29日に今後とも駐留軍用地の円滑かつ長期にわたる安定的使用の確保を図る必要があること、昭和62年の沖縄県収用委員会の裁決で使用期間が10年とされたこと等の事情、経緯を併せ考えて、使用期間を10年として裁決申請を行ったものである。
4 土地の特定
嘉手納飛行場に係る本件裁決申請対象土地は、沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法(昭和52年法律第40号。以下「地籍明確化法」という。)による手続きを完了していないが、次に述べるとおり位置境界明確化作業を通じ現地に即して特定できる状態になっている。
(l)市町村界、字の区域は、確認されている。
(2)当該字の区域内の土地及びその所有者は、確認されている。
(3)地図編さん作業及び現地確認の過程を通じ、未押印者を除く土地所有者全員は、各筆の土地の位置境界を現地に即して確認している。未押印者に対して作業成果を逐次通知し、告知しているが、未押印者から、その主義主張に照らし、明確化作業に協力できない旨の意見が述べられているにすぎない。なお、未押印者は、国土調査法上の認証があれば新規に登録されることとなる土地、すなわち、新規登録予定土地について、「地籍明確化法に基づく集団和解の承認のされていない軍用地主の所有権を認め、借地料を支払うべきだ。」とか、「基地を解放するなら、我々はいつでも集団和解の承認をする。」等述べており、また、これら未押印者も、国土調査法上の認証がなされ新規に登録されることとなる土地、すなわち、新規登録土地にあっては署名押印をしている。
(4)過去において駐留軍用地特措法による裁決があり、その裁決は国側が特定した土地の位置、地積等に基づき補償金が算定され、支払われているが、土地所有者側からこれを不服とする訴えは提起されていない。
(5)沖縄県収用委員会における過去の裁決では、地籍明確化法により未だ認証されていない土地であっても現況照合図、一筆地編さん図等の作成手続等及び所有者として登記がされていること、隣接地の所有者によって、その境界が確認されていることに徴すると、未認証の土地は、その地目、地積がその範囲において明確化されていることを認めることができるとしている。
5 使用しようとする土地及び明渡しを求める土地の区域並びに土地所有者及び関係人の氏名
別表第2記載のとおり
6 土地の使用方法及び使用期間
(l)使用方法
日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の飛行場地区の着陸帯敷地として使用する。
(2)使用期間
平成9年5月15日から10年間
7 損失補償の見積額
昭和62年又は平成4年に沖縄県収用委員会が裁決した本件裁決申請対象土地に係る損失補償単価に、平成7年5月9日の使用認定時までの時点修正率を乗じて見積単価とした。
また、中間利息控除については、年利率5パーセントとする複利年金現価率を採用した。
なお、損失補償の見積額は、別表第3記載のとおりである。
8 権利取得の時期及び明渡しの期限
(l)権利取得の時期 平成9年5月15日
(2)明渡しの期限 平成9年5月15日
第2 土地所有者の主張の要旨
1 収用委員会の審理権限、日米安全保障条約及び駐留軍用地特借法の違憲性並びに使用認定の違法性について
(l)収用委員会は、裁決申請の根拠法令たる日米安全保障条約及び駐留軍用地特措法が憲法に違反するかどうかを判断すべきである。
(2)収用委員会は、使用認定が駐留軍用地特措法に定める認定の要件を十分に満たしているか否かの審査権限を有し、これに暇疵あるときは、裁決申請を却下する権限と職責がある。
(3)土地収用法第48条第1項第1号に規定する「使用する土地の区域」について、同項第2号で「事業に必要な限度において裁決しなければならない。」と定められていることから、収用委員会は、独白の判断で裁決しなければならない。
(4)内閣総理大臣は、駐留軍用地特措法に基づき、本件裁決申請対象土地について使用認定をなしたが、同認定土地は同法第3条に規定する「駐留軍用地の用に供することが適正かつ合理的であるとき」の要件を満たしていないこと、駐留目的を逸脱した軍隊のための土地の提供であること、一部に駐留軍用地特措法が使用目的としていない非軍事目的の施設のための土地の提供があること等から本件裁決申請は却下されるべきである。
(5)日本国憲法は軍隊の駐留とそのための土地の強制収用は認めておらず、日米安全保障条約、地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年条約第7号)をいう。以下同じ。)、駐留軍用地特措法は違憲であり、無効である。
2 違法状態のままでの裁決申請について本件裁決申請対象土地は、米軍統治下において武力等によって接収され、引き続き沖縄県が日本に復帰した後は、連憲である公用地暫定使用法及び地籍明確化法により、国が米軍に対して提供している違法な使用状態の土地である。本件裁決申請は、違法な使用状態を合法化しようとするものであり、違法状態を解消し、所有者に土地を返すことなく、永年にわたる違法状態を前提として新たな使用権原の取得を図ろうとするものであり、違法状態を承継するものとして違法な裁決申請である。
3 立証責任について
土地所有者から強制的に使用権を奪う、駐留軍用地特措法に基づく本件審理に関しては、起業者が使用認定の要件である「駐留軍用地に供することが適正かつ合理的であるとき」等の立証責任を負担すべきである。
4 土地調書及び物件調書の暇疵について
(l)本件裁決申請書に係る土地調害及び物件調書並びにこれらの調書添付の各図面は、本件裁決申請に係る使用認定の告示前に作成されたものであり、使用認定の告示後における土地調書及び物件調書の作成を義務づけた土地収用法第36条及び第37条の規定に違反する連法な調書及び図面である。
(2)本件土地調書及び物件調書は、土地所有者の現地立会を行わずに作成されたものであり、違法である。
5 任意交渉について
今回の裁決申請を行うに当たり、起業者が新崎盛暉及び城間勝に対し一切の任意交渉を行わなかったことは、却下事由にあたる。
6 本件裁決申請対象土地の特定について
(l)土地収用法は、地番、地積が不明の土地は強制使用はできないという前提に立っているので、地籍不明地は駐留軍用地特措法、土地収用法に基づく強制便用の対象にならないと考える。
(2)本件裁決申請対象土地と土地調書に添付された実測平面図により図示された土地とが異なるならば、本件裁決申請対象土地が特定されていないとして、却下すべきである。
(3)実測平面図のもとになっている現況地籍照合図は、地籍明確化の集団和解か成立していない以上、何ら法律的効力を有しない。
(4)裁決申請された土地は、土地の位置形状等が真実と合致していない。
7 共有地の一部裁決について
本件裁決申請対象土地の一部である嘉手納町字東野理原350番の土地について、土地収用法第102条によると、裁決書に記載のないものに対しても、明渡しの義務が発生するとされていることから、仮に共有地について一部共有者を欠いたままで裁決が行われると、裁決手続きにおいて、土地所有者として扱われなかった共有者が、何の手続的保証も受けることなく明渡し義務を負わされてしまうことになる。このような土地に係る裁決申請は、却下されるべきである。
8 損失補償について
(1)本件裁決申請対象上地の使用の対価は、使用期間内の各年毎に評価をすることとし、契約により駐留軍用地として使用されている土地の賃料の変動に基づき算出して補償すべきである。
(2)本件裁決申請対象土地の評価及び最有効使用の判断は、米軍による土地取り上げ時の上地の現状を基本とし、「米軍による上地の取り上げなかりせば対象土地かどのような種別の土地となっていたか」という推測(想定)を踏まえて行うべきである。また、現況がこの「想定される最有効使用」よりも「より高い最有効使用の土地」になっている場合には、現況に即して判断されるべきである。
(3)中間利息の控除は、個々の土地所有者の実態を汲んでその採否を決めるべきである。また、計算はホフマン方式で行い、中間利率は金融機関の預金金利の平均利率を採用すべきである。
(4)所得税の重課税か行われることを考慮に入れて、契約拒否地主が契約地主に比べて不利益を被らないような損失補慣額の算定を行うべきである。
9 使用期間について
(1)被収用者の損失補償に係る権利、収益を通正に補償するためには、将来の変動の予測に限界があるので合理的に予測しうる期間を厳格に解釈し、使用期間は5年以下で裁決すべきである。
(2)土地使用に伴う損失補償か使用認定の告示の日の土地価格に固定されることから、同固定に伴って被収用者が受ける不利益を回避するためには、できるだけ使用期間を短縮すべきである。
理 由
第1 却下の理由
本件裁決申請は、土地収用法第40条に違反し、結局において同法第48条第1項第1号の「使用する土地の区域」を特定できず、同法第47条第1項本文の「その他この法律の規定に違反するとき」に該当するので、主文のとおりの結論となった。
第2 使用する土地の区域の特定について
1 沖縄県は、去る第2次世界大戦によって焦土と化し、戦災及びその後の米軍の基地建設のための土地接収等によって、沖縄群島の土地の大部分に地形の著しい変容を来たし、土地の境界も不明となるに至った。加えて、戦災により、土地登記簿や添付図面は勿論のこと個人の土地所有権を証明する関係書類も大部分が消失した。そこで、土地所有権証明(1950年米国軍政本部特別布告第36号)に基づき沖縄群島における土地所有権の認定がなされ、その後、土地調査法(1957年琉球政府立法第105号)等をもって、より正確な登記簿及び添付図面の整備がなされてきたが、特に米軍が使用する土地については、立入りが許されないため現地調査ができず、また地形や地目が著しく変更され原形を止めていないため、土地調査は困難を極めた。
そこで、このような位置境界不明地域が広範且つ大規模に存在し、関係所有者等の社会的経済的生活に著しい支障を及ぼしていることを解消するために、土地の位置境界明確化を期する地籍明確化法が制定施行された。
同法による駐留軍施設・区域内の土地の位置境界不明地域内の作業手続きは、次のとおりである。
(1)基礎作業は、位置境界不明地域において、地籍図根点を基礎とし、関係市町村、地籍明確化法施行令第3条第1項により選任された協力委員、原形が破壊される前の位置境界を熟知している古老、関係土地所有者等の協力により平板原図及び総合原図を作成し、市町村界については沖縄県知事及び関係市町村長と、字界については関係市町村長とそれぞれ協議し、市町村界及び字界の確認を受け、同確認を終了したときは、現況地形図に市町村界及び字界を表示した現況照合図を作成する。
(2)地図編さん作業は、基礎作業で作成した平板原図を写したブロック編さん図を作成し、土地所有者が客筆の土地の位置境界を協議し、確認ができたときは、ブロック編さん図に各筆を表示した一筆編さん図を作成する。
(3)復元作業は、一筆地編さん図に基づき各筆の位置境界を現況照合図に表示し、現況地籍照合図を作成し、土地所有者に一筆地編さん図、現況地籍照合図、面積測定簿等を閲覧させ、各筆の土地の位置境界の確認を求め、編さん地図確認書に署名押印を求めることになる。
次に、編さん地図確認書により確認された各筆の土地の位置境界につき、現地においてその筆界点に表示杭を設置し、土地所有者にこれを確認させ、現地確認書に署名押印を求める。
(4)成果認証作業は、現地確認書により字等の区域内の各筆の土地の位置境界が明らかになったときには、土地所有者、地番、地目及び境界の調査を行うとともに、境界の測量及び地積の測定を行い、地図及び簿冊を作成し、一般の閲覧に供する。
次に、その地図及び簿冊について国土調査法第19条第5項の国土調査の成果としての認証の申請をし、これらの地図及び簿冊が同法同条第2項の規定により認証を受けた国土調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有すると認めた時は、内閣総理大臣はこれらを同項の規定によって認証された国土調査の成果と同一の効果があるものとして指定することとなる。
なお、内閣総理大臣は、当該調査に係る土地の登記の事務を掌る登記所にこれらの地図及び簿冊を送付し、これを受けた当該登記所は、前記地図及び簿冊に基づいて、土地の表示に関する登記及び所有権の登記名義人の表示の変更の登記を行う。
2 起業者は、本件裁決申請に係る土地調害及び物件調書に添付された各図面は、地籍明確化法による前記手続を完了していないが、前記事実第1起業者申立ての要旨4の(1)ないし(5)の理由を上げて、本件裁決申請対象土地が位置境界明確化作業を通じて現地に即して特定できると主張するので、それについて判断する。
(l)市町村界、字の区域が確認されているが、それは大枠の部分(以下便宣上「ブロック」という。)が確認されているということを意味するにすぎない。
(2)当該字の区域内(ブロック内)の土地及び所有者が確認されているということは、集団和解に参加する資格のある所有者と土地が決まっているということを意味するにすぎない。
(3)未押印者を除く土地所有者全員が現況照合図ないし現況地籍照合図を確認していても、各筆の土地の位置境界について関係土地所有者全員の同意を要するという、いわゆる集団和解方式をとる以上、一部でも未押印者がいれば、これらの地籍確定作業は未完了であって、全ての土地所有者について、現況地籍照合図すら確定されたとはいえず、ましてや具体的、個別の地籍は全く未確定のままでしかない。
地籍確定作業において、未押印者の反対の理由は単なる動機ないしは事情にすぎず、その動機や事情の内容次第で地籍が確定したり、確定しなかったりすることはあり得ないことである。
つまり、地籍が確定していない以上、土地の特定はあり得ない。
(4)過去の収用委員会の裁決においては、起業者の特定した土地の位置、地積に基づき補償金が算定され、支払われた点については、当収用委員会は過去の裁決の適否を判断する権限を有しないので、判断しない。そのことを当該土地所有者がいかように争ったかどうかも、地籍の確定に影響を及ぼすものではない。
3 当収用委員会は、裁決をするに当たって土地収用法第48条第1項第1号により、「使用する土地の区域」を特定しなければならない。ところで、これまでの当収用委員会による証明資料の検討及び現地立入調査等の結果によっても、実測平面図の場所そのものは現地に即して特定できたものの、その場所が、土地の所在、地番、地積、土地所有者及び関係人で特定された使用認定を受けた土地そのものであるという特定はできなかった。
結局起業者は、本件裁決申請対象土地を含むブロック内の他の土地所有者の土地については任意に賃借権を取得したので、残余の本件裁決申請対象土地につき使用裁決を申請した旨主張している。
しかしながら、このような地籍の確定していない土地においては、他の土地所有者と契約した土地が果たしてブロック内のどの部分かを特定できないものであり、ひいては、未契約の本件裁決申請対象土地の位置や面積等の特定ができないものである。
本件裁決申請対象土地は、未認証の土地なので、使用認定を受けた土地表示と本件裁決申請に係る土地調書添付の実測平面図との整合性がない。
4 起業者は、土地収用法第40条第1項第2号イに基づき、使用しようとする土地の所在、地番及び地目を特定して裁決申請しなけれぱならない。ところが、前記のように、起業著の裁決申請書及び添付書類によっては本件裁決申請対象土地の特定ができないのである。
したがって、起業者が本件裁決申請対象土地に対してなした裁決申請には土地収用法第40条第1項第2号イの要件を欠いた暇疵があり、本件における同暇疵は補正にはなじまないものであることから、同法第47条第1項本文に該当するものである。
よって、その他の点につき検討するまでもなく、主文のとおり却下するを相当とする。
平成10年5月19日
沖縄県収用委員会
会長 当山尚幸 印
委員 西 賢祐 印
委員 大城宏子 印
委員 比嘉 堅 印
委員 浦崎直彦 印