使用の裁決の申請理由

 沖縄県所在の施設及び区域内の土地のうち、日本国とアメリカ合衆国との問の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(昭和27年法律第140号。以下「駐留軍用地特措法」という。)に基づき貴収用委員会から使用の裁決を得て使用している土地は、平成9年5月14日に、その期間が満了する。また、所有者と賃貸借契約を締結して使用してきた土地で、民法(明治29年法律第89号)第604条の規定による契約期間の満了後の契約更新を拒否されている土地がある。これらの土地のうち引き続き駐留軍の用に供する必要がある土地で、その所有者との契約合意を得て使用できる見込みのない土地については、平成8年3月29日、貴収用委員会に使用の裁決を申請したところであるが、その申請理由、内容等について陳述する。


(申請理由を読み上げる起業者代理人・坂本憲一那覇防衛施設局施設部長、写真は比嘉)

第1 申請理由等

1 沖縄県所在の施設及び区域内の土地の使用権原取得の経緯

(1)沖縄県に所在する施設及び区域の面積は、昭和47年5月の復帰時、約28,700ヘクタールで、そのうち民公有地は約18,700ヘクタールであった。
 この民公有地のうち約76パーセントに相当する約14,100ヘクタールの土地については、所有者から賃貸借契約の合意を得て使用権原を取得したが、合意の得られなかった約24パーセント、約4,500ヘクタールの土地については、沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律(昭和46年法律第132号。以下「公用地暫定使用法」という。)に基づき昭和57年5月14日までの使用権原を取得した。
 この使用期間中、当局は、契約締結の努力を重ね、また、施設及び区域の整理・統合・縮小に努めたが、約16,800へクタールの民公有地のうち0.4パーセントにあたる約69.5ヘクタール(所有者数153人)の土地について合意が得られなかった。
 このため、駐留軍用地特措法に基づき貴収用委員会から5年の使用の裁決を得て昭和62年5月14日までの使用権原を取得した。
 当局は、この使用期間中も契約締結並びに施設及び区域の整理・統合・縮小に努めたが、約16,700へクタールの民公有地のうち約0.3パーセントに当たる約43.2ヘクタールの土地(所有者数2,068人)について合意が得られず、このため、駐留軍用地特措法に基づき、貴収用委員会から10年(一部5年)の使用の裁決を得て、平成9年5月14日(一部、平成4年5月14日)までの使用権原を取得した。

(2)一方、土地所有者との合意により賃貸借契約を締結して使用していた土地のうち、復帰時の昭和47年5月15日を契約の始期とする土地、


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約13,000へクタール(所有者数約27,000人)は、民法第604条の規定により、契約の始期から20年後の平成4年5月14日をもって、その契約期間が満了する。
 また、前述のとおり、貴収用委員会から5年の使用裁決を得て、昭和62年5月15日から使用している土地約0.2ヘクタニル(所有者数3人)についても、平成4年5月14日をもって使用期間が満了した。
 当局は、この契約期間及び使用期間中も契約締結(更新)並びに施設及び区域の整理・統合・縮小に努めたが、民公有地のうち、約99.9パーセントの土地については、その所有者との合意を得られたが、残る約0.1パーセント、約11.5へクタール(所有者数575人)の土地については、合意が得られず、貴収用委員会の5年の使用の裁決を得て、平成9年5月14日までの使用権原を取得した。

(3)当局は、貴収用委員会から使用の裁決を得た平成9年5月14日までの使用期間中においても、賃貸借契約の締結並びに施設及び区域の整理・統合・縮小の努力を重ねたところであるが、約15,700へクタールの民公有地のうち、約0.2パーセントに当たる約36.3ヘクタールの土地については、所有者との合意が得られる見込みがない状況にある。

(4)また、復帰時に賃貸借契約を締結することができなかった土地については、前述のように公用地暫定使用法に基づき昭和57年5月14日まで使用したところであるが、この使用期間中に、契約締結の努力を重ねた結果、大部分の土地所有者については、契約の合意が得られた。これらの土地のうち、昭和51年4月1日を契約の始期とする土地は、民法第604条の規定により契約の始期から20年後の平成8年3月31日をもってその契約期間が満了する。このため、当局は、これらの土地について、所有者と契約が更新できるよう努力した。その結果、ほとんどの土地については、所有者との合意を得ることができたが、楚辺通信所の土地約0.02へクタール(所有者数1人)については、平成6年6月以降、再三にわたる交渉にもかかわらず、その合意が得られていない状況にある。

(5)以上述べたとおり、貴収用委員会の裁決により、昭和62年5月15日から平成9年5月14日までの10年及び平成4年5月15日から平成9年5月14日までの5年の使用権原を得た土地の一部並びに昭和51年4月1日を始期とする賃貸借契約の期間が満了する土地の一部について、継続して使用するための契約の合意が得られる見込がない状況にある。

2 申請理由

(1)日米安全保障体制は、我が国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠な枠組みとして機能しており、また、我が国への駐留軍の駐留は我が国の安全並びに極東における平和及び安全の維持に今後とも寄与


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するものである。したがって、日米両国とも日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安全保障条約」という。)を終了させることは全く考えておらず、駐留軍の駐留は、今後相当長期間にわたると考えられ、その活動の基盤である施設及び区域も今後相当長期間にわたり使用されると考えられるので、その安定的使用を図る必要がある。

(2)日米安全保障条約は、第6条〔合衆国軍隊に対する施設及び区域の提供〕において、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」と規定しており、施設及び区域を駐留軍に提供することは、我が国の条約上の義務である。
 また、日本国憲法第98条第2項は、「日本国が締結した条約及び国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定している。

(3)駐留軍の用に供する施設及び区域の提供にあたっては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年条約第7号)第25条により設置された合同委員会において、日米安全保障条約の目的達成のため駐留軍の使用を認める必要性の有無、規模等諸条件について検討協議し、提供する必要があるとして意見が一致したものについて、日本側において閣議決定の上、両国代表が協定を締結し、日本国が土地等の使用権原を取得して駐留軍の用に供することとなっており、沖縄県所在の施設及び区域は、昭和47年5月15日、沖縄の施政権が我が国に返還されるにあたり、閣議決定の上、両国代表が協定を締結している。

(4)前述した賃貸借契約に基づく使用権原が得られる見込みのない土地は、それぞれ、施設及び区域の運用上、他の土地と有機的一体として機能しており、必要欠くべからざるものである。なお、このことは、貴収用委員会によるこれまでの裁決においても認められているところてある。

(5)そこで、当局は、これら契約による使用権原を得られる見込みのない土地について、やむを得ず、駐留軍用地特措法に基づき使用権原を取得することとし、平成7年3月初めに手続を開始、同年5月9日、内閣総理大臣の使用の認定を得て、平成8年3月29日、嘉手納飛行場等13施設に係る土地251筆、約36.8ヘクタールについて、使用の裁決の申請を行った。
 その後、裁決の申請の一部取下げを行っており、現時点において裁決の申請を行っている土地は、13施設、249筆、約36.3へクタールとなっている。

3 裁決の申請に至るまでの手続の経緯

(1)意見照会及び使用の認定


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ア 那覇防衛施設局長(以下「局長」という。)は、平成7年3月3日、土地所有者及び関係人に対し、駐留軍用地特措法第4条に規定する意見照会を行った上、同年4月6日トリイ通信施設等2施設について、同月17日嘉手納飛行場等l l施設について、同条の規定に基づき、防衛施設庁長官及び防衛庁長官を通じ、内閣総理大臣に対し使用の認定の申請を行った。

イ 内閣総理大臣は、平成7年5月9日、駐留軍用地特措法第5条の規定に基づき、申請に係る土地の使用が同法第3条に規定する要件に該当すると認められるとして、使用の認定を行い、同日付けをもって、同法第7条第1項の規定に基づき、局長に文書で通知するとともに、「使用する防衛施設局長の名称、使用する土地の所在並びに使用する土地の調書及び図面の縦覧場所」を官報で告示した。

ウ 局長は、内閣総理大臣の使用の認定を受けた土地について、同法第7条第2項の規定に基づき、平成7年5月9日、土地等の調書及び図面を土地の所在する市町村の役場等10か所において縦覧を開始し、同月l0日、土地所有者及び関係人に対し、使用の認定があった旨並びに使用しようとする土地の所在、種類及び数量を通知するとともに、駐留軍用地特措法第14条第1項において適用する土地収用法(昭和26年法律第219号)第28条の2(以下、駐留軍用地特措法第14条第1項において適用する土地収用法の規定のみを掲げる。)の規定による補償等についてのお知らせを送付した。
 また、同月11日、駐留軍用地特措法第7条第2項の規定に基づき、「使用しようとする土地の所在、種類及び数量」を官報で公告するとともに、同月12日、沖縄タイムス及び琉球新報に、官報に公告されていること及び土地の所在する市町村内の特定の場所において公告されている旨を掲載した。

(2)土地調書及び物件調書の作成

ア 局長は、内閣総理大臣の使用認定告示後、上地収用法第36条第1項による土地調書及び物件調書の作成に着手した。なお、土地調書添付の実測平面図については、平成6年7月、測量専門業者に発注し、いわゆる地籍調査作業により現地において調査測量した成果に基づき、同年9月に作成した。なお、手続対象地のうち、その大部分は沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法(昭和52年法律第40号)による位置境界明確化手続を完了しており、また、同手続を完了していない一部の土地についても、位置境界明確化作業を通じ現地に即して特定できる状態になっている。このことは、今回の手続対象地に係る貴収用委員会の過去の裁決においても認められているところである。
 なお、始めての裁決申請となる楚辺通信所は、位置境界明確化手続を完了している。


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イ 局長は、平成7年5月12日及び15日、土地所有者及び関係人に対し、それぞれ文書により、土地の所在する市町村内の公民館等において、同年6月3日(土)及び4日(日)に立会い及び署名押印を求めた。これは、土地所有者等の居住地、交通事情を考慮し、3週間の期間を設ける等の配慮をしたためである。
 なお、6月3日の立会い及び署名押印において、一部の土地調書(嘉手納町字東野理原351番)に実測平面図が添付されていなかったことから、土地所有者に対しその旨を説明し、局から立会場所に図面が到着するまで、少しの時間待ってくれるようお願いしたものの、聞き入れられなかったため、翌4日に立会い及び署名押印をするように申し入れたが、当日、土地所有者は立会い及び署名押印を行わなかった。このため、当局は、同月6日、改めて、同土地所有者に対し、文書により同月17日(土)及び18日(日)に立会い及び署名押印を求めたが土地所有者は立会い及び署名押印を行わなかった。
 その結果、土地所有者965人及び関係人7人が立会い及び署名押印を行ったが、残りの土地所有者及び関係人からは、署名押印が得られなかった。

ウ そこで局長は、署名押印が得られなかった土地調書及び物件調書(居所不明者3人を含む土地所有者1,972人、関係人15人分)を作成するため、土地収用法第36条第4項の規定に基づき、同月6日及び23日、伊江村長等9市町村長に対し、「立会要請について」と題する文書により、立会い及び署名押印を求めたところ、伊江村長等6市町村長(土地所有者1,935人、関係人5人分)は、立会い及び署名押印を行ったが、那覇市長、沖縄市長及び読谷村長(土地所有者37人、関係人10人分)は、立会い及び署名押印を拒否した。

エ このため、局長は、土地収用法第36条第5項に基づき、沖縄県知事に対し、同年8月21日到達の「立会要請について」と題する文書により、立会い日時を平成7年8月28日、午前10時がら午後4時まて、立会い場所を那覇防衛施設局と定めて、沖縄県の吏員のうちから立会人を指名し、署名押印させるよう申請したが、指定期日に署名押印等の事務は行われながった。

オ その後も引き続き同知事に対し協力をお願いしていたところ、同知事は、同年9月28日の定例県議会において、今回の土地調書及び物件調書への署名押印はできない旨の答弁をし、さらに、当局に同月29日付けの「立会要請について(回答)」と題する文書により、沖縄県吏員の立会い及び署名押印には応じられない旨の回答をしてきた。

カ 主務大臣たる内閣総理大臣は、地方自治法第151条の2第1項から第8項までに規定する措置以外の方法によって是正を図ることは困難であると判断し、同年11月22日、同知事に対し、署名押印等の事務を行うよう勧告したが、同知事は勧告の期限までに当該事務を行わなかった。


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そこで、同月29日、内閣総理大臣は、同知事に対し、署名押印等の事務を行うよう命令したが、同知事は期限までに事務を行わなかった。

キ このため、同年12月7日、内閣総理大臣は、同知事を相手方として、職務執行命令訴訟を福岡高等裁判所那覇支部に提起した。同裁判所は、平成8年3月25日、同知事に、土地収用法第36条第5項に基づき立会人を指名し、署名押印をさせよとの判決を言い渡したが、同知事は、この判決に定められた期日までに判決に基づく事務を行わながった。

ク そこで、内閣総理大臣は、同月29日、地方自治法第151条の2第8項の規定に基づき、立会人を指名し、その者に署名押印させる方法により、当該事務を代行した。

(3)裁決の申請

 局長は、平成8年3月29日、前述のとおり、裁決申請書及び明渡裁決申立書に添付する土地調書及び物件調書が完成したことから、13施設、所有者3,002人、筆数251筆、面積約36.8へクタールの土地について、同日、貴収用委員会に対し、使用の裁決の申請及び明渡し裁決の申立てを行った。
 なお、裁決の申請後、土地所有者が、相続により16人、共有持ち分の一部移転により63人、贈与により5人、計84人が増加しており、逐次書類の補正を行った。また、裁決の申請後、所有者がら契約合意が得られた2筆の土地については、申請を取下げた。

第2 申請内容

1 裁決申請対象土地

使用の裁決の申請を行っている13施設、土地所有者3,085人、筆数249筆、面積約36.3ヘクタールの土地に係る裁決申請の内容(概要)は、次のとおりである。


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2 使用の期間

(1) 日米安全保障体制は、我が国を含むアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠な枠組みとして機能しており、また、我が国への駐留軍の駐留は我が国の安全並びに極東における平和及び安全の維持に今後とも寄与するものである。したがって、日米両国とも日米安全保障条約を終了させることは全く考えておらず、駐留軍の駐留は、今後相当長期間にわたると考えられ、その活動の基盤である施設及び区域も今後相当長期間にわたり使用されると考えられるので、その安定的使用を図る必要がある。また、一部の施設及び区域についての返還のための作業は、今後も引き続き努力するところであるが、返還が実現するまでは、現存施設を維持し使用する必要性について、その他の施設及び区域の使用の必要性と何等異なるところはないので、使用権原を得て、その安定的使用を図ることが引き続き必要である。

(2)また、冒頭にも述べたとおり、復帰時、約18,700ヘクタールの民公有地のうち土地所有者との契約合意が得られない土地は、約24パーセント(約4,500ヘクタール)であったところ、今日においては、約0.2パーセント(約36.3ヘクタール)と激減しているが、これらの土地は、ぞれぞれの施設及び区域の運用上、賃貸借契約を締結して使用している他の土地と有機的一体として機能しており、必要欠くべがらざるものである。

(3)このため、当局は、平成8年3月29日、今後とも円滑かつ長期にわたり安定的使用の確保を図る必要があること、一方、昭和62年の貴収用委員会の裁決では使用期間を10年とされたこと等の事情、経緯を併せ考えて、使用期間を10年として裁決申請を行った。

(4)その後、平成8年12月2日、日米安全保障協議委員会において、普天間飛行場は今後5乃至7年以内に、瀬名波通信施設及び楚辺通信所は平成12年度末までを目途に返還するとの沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告が承認されたことから、局長は、貴収用委員会に対し、普天間飛行場については、平成9年5月15日から平成15年12月1日まで、瀬名波通信施設については、平成9年5月15日から平成13年3月31日まで、楚辺通信所については、平成8年4月l日から平成13年3月31日までとして、使用期間を変更した。

第3 結び

(1)以上陳述したとおり、現在、施設及び区域として駐留軍の用に供している土地で、引き続き駐留軍の用に供する必要のあるもののうち、使用について土地所有者との賃貸借契約合意を得られる見込みのない土地、249筆、約36.3ヘクタールについて、使用権原を取得するため、使用の裁決の申請に及んだ次第である。


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(2)ところで、これらの土地のうち、嘉手納飛行場等12施設については、平成9年5月14日て現使用期間が満了する。貴収用委員会による公開審理等の従来の実績をみれば、今後の委員会の日程に大変厳しいものがあることは承知している。

(3)一方、日米安全保障条約の目的達成のために我が国に駐留する未軍の存在は、日米安全保障体制の中核をなすものであり、また、施設及び区域を米軍に円滑がつ安定的に提供することは、我が国の条約上め義務である。

(4)このため、当局としては、貴収用委員会において、期限までに使用権原が得られるよう迅速がつ適正に裁決されることを切にお願いする。

   以上    


出典:「使用の裁決の申請理由説明要旨」那覇防衛施設局(1997年2月21日)
沖縄県収用委員会・公開審理][沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック