特集/国旗・国歌強制の憲法問題

国旗・国歌強制の憲法問題

(2/16/2001新設、9/14最終更新)


 1999年8月9日、「日の丸」、「君が代」をそれぞれ「国旗」、「国歌」と定める「国旗及び国歌に関する法律」(「国旗・国歌法」)が成立しました(公布・施行は8月13日)。この法律には、国家が特定の「国旗」「国歌」を定めることの意義、アジア・太平洋戦争での日本の侵略のシンボルであった「日の丸」「君が代」が日本国憲法のもとでの「国旗」「国歌」としてふさわしいのか、「君が代」の歌詞は国民主権原理をとる日本国憲法にふさわしいものであるのか、など、日本国憲法との整合性に関するいくつもの問題があります。また、制定にあたって、時間・内容とも十分な審議が行われたとは言えません。

 「国旗・国歌法」の問題性はこうした点だけにとどまりません。とくに初等・中等教育の場面、典型的には入学式や卒業式などでの「国旗」掲揚や「国歌」斉唱、その強制には憲法上大きな問題があります。

 まず、特定の旗、歌が「国旗」、「国歌」と定められていたとしても、その旗、歌について、そしてそれらが象徴しているとされる国家との関係については、人によっていろいろ異なった見解が存在しています。そして、そうしたいろいろな見解は、まさに一人一人が自ら所属し、生活する場を含む「国家」への向き合い方に関わるものであり、したがって、憲法19条が保障する「思想・良心の自由」に含まれます。ですから、公権力の側が一方的に「正しい愛国心」を決めて人々に強制することは許されませんし、学校現場などでも「国旗」「国歌」についてはさまざまな見解があることに十分配慮した取り扱いが必要です(また、一方的に強制するというのは、そもそも教育のあるべき姿ではないでしょう)。もし、自らの「良心」に基づいて「国旗」「国歌」の強制に反対する行動をした結果、処分などを課されたとしても、そうした処分は憲法違反となるでしょう。

 さらに、「国旗・国歌法」の制定前から、学校現場では学習指導要領に基づく「強制」が行われてきました。このこと自体、学習指導要領の法的拘束力という点から大きな問題を含んでいますが、「国旗・国歌法」成立後の昨2000年春には、「法律ができたのだから」と「強制」の圧力がますます大きなものになりました。しかし、これは「国旗国歌法」の内容からしても許されないはずです。現に成立した「国旗・国歌法」は、1条で「日の丸」を国旗と、2条で「君が代」を国歌と定めただけであり、学校行事などで掲揚、斉唱すべき義務を課したり、ましてや掲揚に反対したり歌わなかった人に対して不利益を課すなどの規定をおいていません。ですから、「国旗・国歌法」が成立したという事実は、人々に「国旗」掲揚、「国歌」斉唱を含む儀式などへの参加などを「強制」する根拠にはなりえないのです。

 「国旗・国歌法」の制定後、とみに強まった「強制」の動きが意味することは、自由で民主的な社会の基礎にあるはずの、個人を平等な人格をもつ存在として扱うこと(それはまた、日本国憲法の核心でもあります)が危機に瀕しているということです。だからこそ、「強制」の問題性を指摘し、それを是正するための活動が必要なのです(憲法研究者によるものとしては、昨2000年春の「「国旗・国歌」 強制は許されません−−憲法研究者のアピール−−」があります)

(2/16/2001 塚田哲之)

国旗・国歌の強制に関わる最近の動き

国旗・国歌法に関する憲法研究者の論稿(9/14/01追加)

国旗・国歌強制問題に関わるサイトへのリンク(3/22/01追加)

国旗・国歌による「国民」意識、ナショナリズム形成のもつ問題性を議論するためのネットワーク。日本語、英語、ハングルによるWebページ、メーリングリストがあるほか、読み応えのある「ひのきみに対抗するエッセイ」もあります。
2000年春の東京都国立市の小学校・中学校の卒業式・入学式への日の丸・君が代の導入(17人もの小学校教員が処分されました)、一橋大学での日の丸掲揚に反対する市民運動のサイト。「右派」系のサイトも含むリンク集もあります。
大阪府での教育委員会などによる「日の丸」「君が代」強制の動きに反対し、ホットラインの開設やニュースレター「良心と抵抗」を発行している運動のサイトです。
千葉県高等学校教職員組合「日の丸・君が代」対策委員会によるサイト。「ひのきみ通信」の発行、四街道市で「強制研修」を受けている「不適格教員」への支援などの活動が紹介されています。
1999年8月の「国旗・国歌法」成立後初めての卒業式・入学式シーズンを前に、「国旗・国歌の強制は許されない」ことを訴えた憲法研究者によるアピールです(西原博史さん@早稲田大学のサイトへのリンク)。


What's New最近のできごと特集出版・論壇論説FAQ資料LINK