『偽イスラエル政治神話』(5)

ナチス〈ホロコースト〉をめぐる真実とは?
イスラエル建国・パレスチナ占領の根拠は?

電網木村書店 Web無料公開 2000.1.7

著者はしがき1.

なぜ、この本なのか?[この項は改訂版での増補]

[以下、原文ではイタリック体文字で強調されている部分を「 」で示す。]

 統一主義[訳注]は暴力と戦争の発生源であり、われわれの時代の致命的な病弊である。この本は、私が統一主義との闘いに捧げる三部作の一部をなしている。

訳注:原語は「integrisme」。訳例には、教権主義、教条主義、非妥協的保守主義、伝統完全保存主義などがあるが、いずれもキリスト教の分派の呼称についての意訳である。著者は、いわゆる地中海文明の三大宗教のすべてに、この「病弊」を見ており、しかも、それが、総表紙裏の囲みの抗議文にも記されているように、チャウシェスクの“思想の統一”や、ヒトラーのそれと共通するものと認識している。著者はまた、疑いもなく、かつては自らが身を置いていたスターリニズムの潮流に対しても、同じ「病弊」を見ているであろう。そこで本訳書では、単語の原意に従って「統一主義」とした。

 第一部、『イスラムの栄華と退廃』(96)の中で私は、イスラム統一主義の震源地、サウディアラビアを告発した。ファッド王については、アメリカの中東侵略の共犯者、“政治的売春夫”、イスラム教をイスラムの病弊に変えた人物として描き出した。

 第二部は、『われわれは神の存在を必要とするのか?』(84)および『宗教の戦いのために/市場の一神教に反対して』(95)の二冊で構成されている。この二冊の著書では、ローマン・カトリック統一主義の解明に努めた。ローマン・カトリック教会は、“命を守る”と称して胚[胎児]についての詳細な議論[堕胎禁止論]を展開しながら、毎年のように一三五〇万人もの幼児が、アメリカの支配の下で強制される“市場の一神教”の犠牲者として、栄養失調と飢餓で死ぬことについては沈黙を守っている。

 三部作の締め括りとなるのが本書である。本書、『偽イスラエル政治神話』では、イスラエルで神の代用品の役割を果たす政治的シオニズムを、邪教として告発する。イスラエル国家は、世界の潜主、アメリカのために、核武装付き不沈空母の役割を果たしている。そのアメリカは、西側諸国の経済成長の原動力である中東の石油の専有を望んでいる。だが、いかにも世界中の手本であるかのように称されている西側諸国の“経済成長”なるものが、国際通貨基金などの金融支配機構を通じて、第三世界に引き起こす被害の二日分は、広島の死者数と等しいのである。

 かつてイギリスの外務大臣、バルフォア卿は、自分のものではない国をシオニストに引き渡す意志表示をした。彼の時代から、《どんな方法でも中東の石油を確保できさえすれば構わない。肝心なのは石油を手に入れること》(『パレスチナとイスラエル』)だった。アメリカ国務長官、コーデル・ハルは、《サウディアラビアの石油が世界を動かす最も強力な梃の役割を果たしていることを深く理解する必要がある」(同前)と語った。バルフォアからハルの時代にいたるまで、つねに同じ政策の下での同じ任務が、イスラエルのシオニスト指導者に割り当てられてきた。北大西洋条約機構の元事務局長、ヨセフ・ルンス[元オランダ外相]は、その経過について、つぎのように明快に語っている。

《イスラエルは、われわれの時代における最も安上がりな傭兵だった》(『ハアーレツ』92・3・13)。

 この傭兵の待遇は今のところ非常に良い。たとえば一九五一年から一九五九年の間、二百万人のイスラエル人は一人当たりで、第三世界の二十億人の住民の百倍の援助を受けていた。さらに彼らは、一番大事に保護された傭兵だった。アメリカは連合国[安保理]で、一九七二年から一九九六年の間、イスラエルに対するあらゆる非難決議に反対して三〇回もの拒否権を行使した。この傭兵は、中東のすべての国を崩壊させる計画を実行したが、この計画そのものが、レバノンが侵略されていた時期の一九八二年二月に発行された評論雑誌、『キヴーニム』(指針)[訳注]14号の50頁から59頁にわたって公言されていた。このようなイスラエルの政策は、アメリカの無条件な支持を背景に、国際法は“ただの紙切れにすぎない”(ベン=グリオン)と公言する思想の上に安住している。この政策の下に、イスラエルは、ヨルダン川西岸とゴラン高原からの撤退を要求する連合国[総会]の二四二号および三三八号決議を、アメリカでさえも一切の経済制裁なしという条件付きで賛成したエルサレムの併合に対する非難決議ととともに、同じく、死文として眠り続けるよう運命付けた。

訳注:『キヴーニム』は世界シオニスト機構の機関誌。本訳書二七三頁二行以下に、この記事からの引用がある。

 以上の政策と同様に、その根底において恥ずべき政策は、常に、しかるべき偽装を必要するものであるが、その偽装を暴くことが、この本における私の目的である。

 まず最初の標的は、侵略を自己正当化するために構えられた“神学的”な口実の解明である。統一主義者による神の啓示の解釈の恣意性と、神話の歴史への変身を暴くことである。

 統一主義者は、神の意志に対するアブラハムの無条件な服従の崇高な象徴と、“地上のすべての家族”への彼の祝福を、その真反対の部族的なものへと作り変えている。中東やメソポタミアで、ヒッタイトやエジプトなどのすべての民族が行ったのと同様な侵略で獲得した土地を、“約束の土地”だと称している。

 同じことが出エジプトについても行われている。この圧制と暴政に反対する人々の、解放を求める戦いの永遠の象徴は、コーランの祈り(44章31~32節)にもなっているが、同じく現在の“解放の神学者”によっても語られている。「普遍的」で唯一の神の意志に忠実なすべての信徒への福音が、独占的な奇跡となり、一部の不公平な神から「選ばれた民だけに許された特典となる。その有様は、神の意志をなしとげる使命を帯びた」選ばれた民を自称するすべての部族的宗教およびすべての民族主義思想におけると同様である。フランス人には「フランス人のための神の偉業」。ドイツ人には「神はわれわれとともにあり」。フランコス[ラテン語でフランス人の意味]には「キリストを王様に」。すべてのドル、貨幣と市場の一神教における最も強力な神には、冒涜的にも「われわれは神を信ずる」という言葉が刻まれているのである。

 さらに現代的なイスラエル国家の神学では、この国を“ホロコーストに対する神の回答”だと称している。いかにもイスラエルだけが、ヒトラーの暴虐の被害者の避難所だったかのような主張になっているが、これは事実に反する。イツァク・シャミール[元首相]自身は、敵への協力とテロ行為によってイギリス当局に逮捕されるまでヒトラーと同盟関係にあった人物であるが、その彼自身が、つぎのように語っているのである。

《一般的な評判とは違って、イスラエルへの移住者のほとんどはホロコーストの生き残りではない。この地域生まれのアラブ諸国のユダヤ人だった》(『過去を振り返り将来を見渡す』87)

 それはさておき、犠牲者の数字を膨らませる必要があった。たとえば、アウシュヴィッツの記念碑は一九九四年まで、一九の言語で「四百万人の犠牲者」と語っていた。新しい記念碑は現在、“約百五十万人”だと宣言している。人々は、六百万人の神話とともに、人類がここで“史上最大の民族絶滅”の手助けをしたことを信ずるべきなのであって、アメリカの六千万人のインディアンや、一億人の黒人(一千万人は捕虜として殺された)は忘れ、広島や長崎のことも、第二次世界大戦での五千万人の死者のことも、その内の一千七百万人のスラヴ人のことも、すべて忘れ、あたかもヒトラー主義が単に巨大なポグロム[ロシア語の「組織的虐殺」から「ユダヤ人虐殺」の意味へ特化して使われている]以外の何物でもなく、人類全体への犯罪ではなかったと信じなければならないのだ。テレヴィでは、ユダヤ人の犠牲者についてだけ報道し、ほかの例はまるで報道しない。こんな報道状況の下では、ユダヤ人は特に酷い目に会ったが、唯一の例外ではなかったなどと語ると、それを口実にして、反ユダヤ主義者にされてしまうのではないだろうか?

 そのほかにも、偽装を完成するために「神学的」な用語として“ホロコースト”が採用され、実際に行われた虐殺に犠牲的な特徴を付与し、たとえばキリストのはりつけのような、神聖な計画の一部としてのおもむきを添える。

 この本の唯一の目的は、人々が以上のような政策を、イスラエルの予言者の偉大な伝統と混同するのを防ぐために、そのイデオロギー的な偽装を告発することにある。私の友人でLICA(のちLICRA[人種主義と反ユダヤ主義に反対する国際同盟。現在はシオニストの支配下にある。つぎにもすぐ出てくるが、本訳書二八七頁一〇行以下に詳しい記述がある])の創設者のベルナール・ルカッシュは、私と同じ集中収容所に収容されていた。その折には、一緒に夜間講座で仲間から、ユダヤの予言者の偉大さ、普遍的救済主義、解放者としての力量についての、教えを受けたものである。

 この予言者の伝言に対する私の忠実さは、非妥協的な共産党員およびその政治局員としての三五年間を経て、一九六八年に“ソ連は社会主義国ではない”と語ったため一九七〇年に除名されて以後も、一向に変わりはない。私は現在も同様に、古代ローマの元老院支配下の神学はキリストに忠実ではなく、イスラム主義はイスラム教を裏切っており、政治的シオニズムは偉大なユダヤの予言者の教えとは真反対だと語っている。

 すでにレバノン戦争中の一九八二年、私は、ルロング神父、パスツール・マッチオ、ジャック・フォーヴェとともに、LICRAによる告発を受け、裁判所に召喚された。告発の理由は、レバノン侵略は政治的シオニズムの論理にもとづくという意見広告を、編集長の理解を得て、『ル・モンド』の一九八二年六月一七日号に掲載したことである。われわれは、一九八三年五月二四日にパリ地裁で勝訴し、その判決が控訴審でも支持され、最後には最高裁が、《ある国家の政策とその国が鼓吹するイデオロギーに関する合法的な批判であり、人種主義の宣伝ではないと考え、……{LICRAの}すべての請求を棄却し、訴訟費用の負担を命ずる》という主旨の最終判決を下した。

 この本は、あの時のわれわれの政治的批判とイデオロギーに対して、厳密に忠実なものである。それ以後、“共産主義者”ゲーソがニュルンベルグ裁判の判決を歴史の真実の基準に定め、“言論取締法”の制定を狙う意図の下に悪辣な法律を提案した結果、言論の自由への抑圧が強められている。だが、ゲーソ法の意図については、当時の国会で、現職の法務大臣すらが論争を挑んでいたのである。

 私は、この本によって、真実と国際法の尊重の上に築かれる本物の平和のための議論に向けての、一つの貢献をしようと考えている。

 勇敢なことには、イスラエル自体の中にも、彼らの予言者に忠実なユダヤ人たちがいる。エルサレムのヘブライ大学の“新しい歴史家”と、正義にもとづく平和の実現に賛成するイスラエル人の党派は、ユダヤ人自身がイスラエルの国家自体と世界の平和に対して犯した不法行為を暴いている。その上で、政治的シオニズムの“諸神話”を、バルーフ・ゴールドスタイン[イスラム寺院の大量虐殺犯]がヘブロンで犯し、イガール・アミールがイツァク・ラビン首相に対して犯した殺人を導き出したものとして、自らに問い直している。

 真実は前進を続けており、その前進を妨げることはできない。

 すでにドゥ・ゴール将軍が“ロビー”の存在と、その“情報に対する過度の影響力”を告発している。その“ロビー”による知的テロリズムは、このフランスにおいて、私に対しての訴訟を仕掛け、発行以前に商業的流通から排除する特別な取り扱いとさせ、予約者を待たせ、訂正を求めている。このようなフランスにおける言論状況の下で、多くの批評家が、私の本への批評を用心深く自己規制しているようである。

 そこで私は今、私一人が責任を取り、ロシア語で厳密には“自費出版”を意味するサミスダットという形式で、自ら出版することにしたのである。この本はすでに、アメリカ、イタリア、リビア、トルコ、ブラジルで翻訳出版されている。ドイツとロシアでは翻訳が進行中である。

 フランス語版はインターネットでのアクセスが可能である[訳注:ただし、本書の情報は一九九六年一〇月末には閉鎖されていた]

 正道を踏み外した神学に対抗する上で、この本は、現代の世界の歴史検証のための新たな貢献となるであろう。


(6)著者はしがき-2.「総論」