2000.7.4
(7)情報・通信(中)困難な民生転用
[1991.5.29(5)] 日経産業新聞連載(1991.5.21~6.3)
[写真説明]:高品位テレビで日本に大きく水をあけられている
【高性能電算機】=電算機で飛び抜けた計算力、記憶容量、ソフトウエアを達成するには、単独で計算を実行するスーパーコンピューター、数千台のプロセッサーを連結する超並列コンピューターの2つの道がある。スーパーコンは超並列コンに比べてソフトが豊富だが、高価なためにユーザーは超並列コンに乗り換えつつある。超並列コンは科学技術分野でユーザーの要求を満たすと考えられる。
▼技術の選択理由=過去20年間、コンピューターは社会に普及した。コンピューターは米国の経済で重要な地位を占める。1989年、米コンピューター業界は国民総生産(GNP)と投資の10%を稼ぎ出した。成功の継続は国家の将来に必要不可欠である。
高性能電算機の応用は天気予報や気候変動の予測、航空機の設計と解析、生命科学、医薬品の設計などである。国防総省と産業界は高性能電算機の技術開発に依存している。シミュレーションや設計での利用は自動車などの生産性向上に役立ち、他の産業にも波及している。
▼国際傾向=高性能電算機を生み出した米国は開発と応用で強力な地位を維持している。米国企業は多大な研究開発投資をしており、米政府も毎年5億ドルを投じている。スーパーコンのハードとソフトの両面で世界をリードしており、国防分野でも優位を保っている。
しかし、国防以外の分野では優位はゆらぎ、競争は激化している。日本の次世代スーパーコンは米国製品より競争力を持つだろう。超並列コンでも日本は米国に遅れていたが、通産省が産官共同の開発計画を1992年から始めようとしている。欧州は日米双方に遅れているが、超並列コンの開発計画を進めている。
【高品位テレビ】高精度、高画質、高速の記録・ディスプレー材料を利用し、(1)高品位画像 (2)リアルタイムの信号処理 (3)高速のデータ伝達 (4)高密度データ記録 (5)高品位ディスプレー……の実現を目指すのが目標。
▼技術の選択理由=高品位テレビは他の重要技術の推進力になりうるという点で重要である。世界のエレクトロニクス市場に大きな潜在的可能性がある。高品位テレビ関連市場の規模は大きく、間接的な応用では数百ドル、間接的なエレクトロニクス市場への影響は数千ドルにのぼると見込まれる。
▼国際傾向=高品位テレビの技術は家電のアナログ時代からデジタル時代への進化で重要なステップだが、現在の潮流をみると米国のエレクトロニクス産業の未来はそれほど明るくない。米国の家電の開発・生産が弱体なままだと、ほかのエレクトロニクス産業の競争力のハンディキヤップは増すばかりだ。
米国はこの分野で日本に大きく立ち遅れ、将来的な見通しも乏しい。民間企業は長期間にわたるリスクの高い投資に耐えれないし、安全保障上だけの理由でこの分野を支えきれないからだ。
【センサーと信号処理】=センサーは非映像分野では温度、加速度などを直接測定が工業応用され、映像分野では監視シテム、ビデオカメラ、ロボットの目、医療診断などに応用が広がっている。信号処理は実時間の認識に重要で、追尾技術に応用されている。コンピューターと人間の高度なインターフェース技術も重要だ。
▼技術の選択理由=高性能センサーは安全保障上に特に重要だ。戦略情報収集の点では超長距離に及ぶ正確な目と耳の役割をする。赤外・レーザーセンサーは、戦術上、夜間・全天候型の作戦行動に不可欠で、センサーと信号処理の優位性は戦闘での勝利のカギを握る。民生分野でも医療、高品位テレビ、海洋学、道路交通などの基礎となる。
▼国際傾向=米国はセンサーと信号処理技術で強力な立場を保っている。米国の力のほとんどは政府が支出した軍事、航空宇宙計画がもたらした。しかし、民生分野に先端技術を持ち込むのは困難であり、軍事費削減のあおりで主導権維持は危機に陥つている。
米国企業は高性能センサー技術で優れているようにみえるが、外国との競争は激化している。外国企業は技術をすぐに市場に持ち込める能力がある。たとえば日本は軍事技術と縁がないのに、第2世代の赤外線イメージングと光電子センサー技術を確立した。
以上で(7)終り。(8)に続く。