わたしの雑記帳

2010/2/12 奈良中学校、柔道部顧問による傷害事件傍聴報告。  学校事故・事件で刑事責任が問われるとき一覧

2010年2月9日(火)、午前10時00分から、横浜地裁503号法廷で、奈良中学校、柔道部顧問による傷害事件(平成19(ワ)第4884)の民事裁判、口頭弁論が行われた。
裁判長は三代川俊一郎氏、裁判官は峯俊之氏、塩田良介氏。

2月1日付けの準備書面で、原告代理人弁護士から、T教師個人の責任についての主張が出されたという。
裁判後の弁護士からの説明によると、最高裁で、「公務員個人は責任を負わない」という判例が出されている。しかし、違法性の高いもの、故意や重過失に関しては個人の責任を問えるという。

なお、被災者のKさんが、T教師を刑事告訴している刑事裁判について、一旦「嫌疑不十分」で不起訴になったことに対し、昨年(2009年)12月12日に、検察審査会は、業務上過失傷害容疑で再度捜査のうえ、処分を再考するよう求める「不起訴不当」の結論を出した。
しかし、12月17日、検察は改めて傷害罪はもちろん、業務上過失も不起訴と決定した。
検察側の主張は、「頭はぶつけていない。何人もの専門家にきいた結論である」「脳挫傷は脳表面ではなく、脳の奥にできている。これはぶつけたのではなく、回転で生じた」「全日本クラスの柔道家に何人もきいたが、回転だけで切れるとは、誰も予見できないと証言した」という
検察もT教師の行為と、Kくんの傷害及び後遺症との因果関係については肯定している。ここだけは動かしようがなかったらしい。そこで、自分たちの主張に沿った意見書を書いてくれるような専門家の声だけを取り上げ、それ以外の被災者家族が推薦する専門家たちの意見は完全に無視した。(警察を訴える裁判などでもよくあるパターンだと思う)

検察審査会の「不起訴不当」の結論と相反することについては、検事は「検察審査会は専門家ではないが、自分たちは法律の専門家だ」と、何度も強調したという。被災者家族が言うように、裁判員制度を真っ向から否定する発言だと思う。
また、斉野平さんの民事裁判で、柔道には元々危険な要素があり、顧問教諭には「死亡その他死亡に類する重大な結果が生じることは容易に予見できたはず」という判決内容(me091218参照)とも相反する

以前は、不起訴になった刑事事件の記録は開示されなかった。しかし、今は被害者保護の観点から、記録が開示されることもあるという。原告側は、検察官の記録開示請求を行う予定という。

被告T教師の代理人からは、もう2年も裁判が継続しているので、いいかげん早く進めてほしい旨の要望があった。
裁判長からも、そろそろ証拠が出揃ったということで、主張整理の作業をはじめたいとの提案があった。
その間、証拠補充を続けることはできるということだった。
次回、もう1回、口頭弁論期日を入れるということになリ、3月16日(火)、午後1時15分から横浜地裁503号室となった。


私は、奈良中事件が、刑事事件で不起訴になったことに納得がいかない。
なるほど、過去の例をみても、柔道など格闘技で、指導者が生徒にケガを負わせたり、死に至らしめてもほとんど無罪になっている。そのこと自体、おかしいと思っている。まるで、相撲会で何人もの不審死を出しながら、逮捕者を出さずに長い間きたことに似ている。

奈良中のそれは、下記一覧の012.017の上級生らによる私的制裁と同内容だと思う
生徒間のものは逮捕者が出ている。しかし、生徒ではなく、安全な稽古を生徒に指導すべき立場の顧問教師自らが行っている。責任はさらに重いはずだ。

格闘技は、双方合意のもとに行われなければ、単なる一方的な暴力にすぎない。まして、講道館杯日本体重別選手権男子73キロ級での優勝記録をもつ顧問とKくんとの力量差は明白だ。昔の文科省のいじめの定義のひとつ「強いものが弱いものに一方的に」に当る。
Kくんは当日、帰宅しようとするところを顧問に無理やり道場に引っ張っていかれたのちに、連続技を仕掛けられ、危険に絞め技までかけられている。気を失ってもなお、休憩も挟まずに続けるのは稽古とは言わない。
まして、中学3年生の12月で、これから技を強化する必要性は感じられない。動機は別にあるかもしれないが、「退部する部員への制裁」と似たものを感じる。

刑事裁判ではないが、民事裁判になったものにも、似た事件がある。
1972年2月17日、熊本県の私立熊本商大付属熊本学園で放課後、空手部の練習に際し、前々日の無断での練習欠席に対し気合を入れるために、上級生らが男子生徒(高1)の腹部を交々に足蹴にし、すい臓破裂の傷害を負わせた事件。

この事件では、1975年7月14日、民事裁判の熊本地裁で、「空手に危険な面はあるが、適切な指導者のもとに、生徒の体力、技量、精神の発達の程度に応じた練習を行うならば、その危険を防止しえないことはない」とし、「高1、2年生時代は、未だ心身の発達が十分でなく、体格に比して内臓器官の発育も不十分であり、また、情緒面でも、時に感性の赴くまま行動したりして、安定度が高いとはいえない年齢層に属するから、このような年代の生徒に危険を伴う空手を練習させるときには、指導に当たる教師において、生徒に対し、練習その他の部活動につき、遵守すべき事項を懇切に教示するとともに、ゆきすぎた練習や暴力行為が行われないよう練習に立会い、十分の状況を監視すべき注意義務があった」として、加害上級生2名と熊本学園に総額362万円の支払い命令をしている。(「学校事故賠償責任法理/伊藤進著/信山社P128)

これは空手の例だが、柔道にも同じことが言えるだろう。
柔道を知り尽くしているはずの顧問ならば、柔道の危険を十分に知っていたはずで、安全に指導を行うことも当然、できたはずだ。知っていながら、まさしく心身の発達の未成熟な子どものように、感性の赴くまま行動して、ゆきすぎた、暴力行為としか受け取れないような練習を合意のない相手に向けて行った。
Kさんが命を取り留めたのは奇跡的で、今も重い後遺症を抱えている。
検察は、Kさんが亡くなっていたとしても、T教師に無罪を言い渡しただろうと思うと、ぞっとする。
家族は、Kさんが一時は記憶をなくしても生きていたからこそ、警察の聴き取りのなかで突然記憶がよみがえり、その事実の一部を知りえた。しかし、それさえも、検察は障がい者の言うこととして、とりあげようとはしなかった。

奈良中事件は、顧問教師による体罰とさえ言えない、故意による暴行ではないかと感じている。しかし、100歩譲って、練習中の事故だとしてもなお、他の刑事責任を問われた事例に比べても、過失にさえ問われないことに、おかしさを感じる。

刑事事件で不起訴になって、民事裁判でも公務員ということで守られ、損害賠償さえ払う必要はないと、T教師はきっと高をくくっているだろう。「武道の心」を重視して、柔道がこれから正課に取り入れられようとしている。
柔道に熟練した指導者のこのような姿を、子どもたちの手本にしてよいのだろうか。T教師自身が、あるいはその教え子が、また同じことをしたとき、検察はそれでも無罪と言い続けるのだろうか。

手持ちの資料の中(データとして管理しており、出典がわからなくなってしまったものを含む)から、学校事故・事件で学校関係者や生徒が刑事責任を問われたものをピックアップしてみた。
(わいせつ行為による刑事責任は、むしろ当たり前すぎるので、ここでは割愛している)
私は、子どもたちへの講演のなかで、「学校の外で犯罪だといわれていることは、学校の中で起きても犯罪です」と話しているが、必ずしもそうは言えないのが現実だ。


    学校事故・事件で、刑事責任が問われるとき 参照
001 1951/3/ 奈良県の中学校玄関付近で、写生の時間に野球をして遊んで帰ってきた児童Fら数名(小6)を担任教師Tが、運動場を走らせたうえ、すでに昼食時間をすぎていたにもかかわらず、校舎玄関前の廊下に立たせた。中学校の教師Tも憤慨し、「中学校に入って来たらこんな味や」と言いながら生徒らの頭を1回ずつ殴打した。
また、
1953/5/ 中学校助教諭Hは、講堂で生徒数名(中3)が騒いでいたのを再三注意したが、きかなかったため、Fらの頭部を右平手で1回殴打した。
別冊ジェリストNo.64
教育判例百選(第二版)/小林直樹・兼子仁編/有斐閣
1954/5/25
1955/5/16
1958/4/3
1審の吉野簡裁は、教師2人に対して暴行罪有罪判決
大阪高裁は、控訴棄却。
最高裁は、棄却。
002 1952/6/28 北海道の道立芦別高校の生徒会山岳部6人が顧問に引率されて芦別岳に登山中、コースを間違え、岩場にさしかかり、岩盤の露出した峻険な箇所で専門登山家が十分な装備を以ってしても登攀(とうはん)を危険視するような岩場だったにもかかわらず、装備もなく岩登りの経験も訓練も受けていない生徒に登攀を継続させたところ、生徒2名が墜落死 ワンゲル・山岳部の活動とクラブ顧問の役割について/ 熊野谿寛
「学校事故の法律問題」その事例をめぐって/伊藤進/三省堂P431
  顧問業務上過失致死で罰金3万円
「高等学校生徒会山岳部の行事は学校教育における教育課程の内いわゆる特別教育活動に属し、正規の学校教育活動の一分野なのであるから、その引率教官たる者は職務上当然に生徒の生命身体を害するが如き結果の発生を防止すべき義務を負うもの」
(1)「先ず事前にコース、気象状態、岩質、地形について十分調査を遂げた上」
(2)「これらの諸条件に相応する装備、食料、その他の携行品を整える等周到な登山準備をし」
(3)「登攀を開始した後であっても岩壁等の難所に遭遇した場合は、直ちに登攀することなく予め岩壁の全容を観察して前後の措置を判断し」
(4)「仮に登攀可能と判断しても途中において危険を予知する場合は潔く引き返す等緩急に応じた応急の措置を執る」ことにより事故の発生を未然に防止すべき注意義務があり、Xはこの注意義務の違反があったとして、有罪とした。
003 1957/7/5 東京都港区の私立芝中学校で、男性教師(25)が、自分のクラス(中3)で学級指導をおこなっていたところ、早く授業が終わった隣のクラスの生徒ら数人が、教室をのぞき込んだ。そのことに激高した教師は生徒らを追いかけ、男子生徒(中3)1人を捕まえて平手打ちを数回加え、生徒の頭を壁に数回ぶつけた。さらに足払いをして倒すなどした。
生徒はその直後に倒れて意識不明となり、病院に搬送されたが、事件翌日(7/6)に脳内出血により死亡した。
人権ライブラリー「体罰と子どもの人権」/「法律」は「体罰」をこう見る/中川明/有斐閣
サイト「体罰」問題資料館
1957/7/7
1957/7/26
1958/5/28
1959/9/29
教師を傷害致死容疑で逮捕。
教師を傷害致死容疑で起訴。
東京地裁は、教師懲役3年の実刑判決
東京高裁は、控訴棄却。
004 1965/5/18 東京農業大学のワンダーフォーゲル部の和田昇くん(大1・18)が、合宿の山行途中で、上級生らに生木で殴られるなどのリンチにあう。
5/22 入院先の病院で和田くんが死亡
同じく1年生部員Kくん(大1・19)が全身打撲傷や右手首骨折で2カ月の重傷で入院。
 650518

スポーツのリスクマネジメント/小笠原正・諏訪伸夫編著/ぎょうせい
  練馬署が暴行、傷害容疑で、OBで監督の男(25)と主将(21)と副将ら7人傷害致死及び傷害容疑で逮捕。
懲役3年から2年、執行猶予3年の判決。
005 1966/11/ 熊本県大矢野町の町立維和中学校で、中学1年生に対する社会見学の青井岳キャンプに行った際、小雨が降って多少波がある悪条件の中、定員12人の連絡船に44人の生徒を乗り込ませた。結果、船が転覆し生徒5人(中1)が溺死 「賠償金の分岐点 教師が責任を問われるとき」/下村哲夫著/学研
「学校事故の法律問題」その事例をめぐって/伊藤進/三省堂P430


1968/1/17
引率の校長を含む3人の教師が業務上過失致死罪に問われた。

熊本地裁で、禁錮6か月、執行猶予3年有罪
「学校内外における修学旅行その他の生徒に対する教育上の行事に際して、その生徒の安全管理、学習および生活の指導監督の責務を有する学校長や教員は、船舶を利用しての見学旅行実施に際し、気象条件、船舶の定員、乗船の場所、姿勢、生徒に対して乗船中の動静につき十分の注意を与える等の航行中の転覆事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるところ、定員12名の船に生徒ら44名を乗船させてこれらの義務を怠り、もって船の転覆により生徒5名を溺死させた行為は、刑法211条の業務上過失致死罪になる」
「通常何人も容易に予見し得られた」危険を見逃し、必要な注意義務を怠った」とした。
006 1970/7/23 東京都内の私立高校ラグビー部が5泊6日の予定で、夏季合宿訓練を実施。
引率教師にラグビーの経験はなく、練習の技術的な指導は、ほとんどO.Bの大学生か上級生に任されていた。
O.Bらは、そのリーダー格の極めて厳しい指導方針に従い、部員各自の練習実績や体力差を考慮しないで、練習時間中は休憩らしい休憩もとらせず、疲労で一時意識を失う者があっても、「気つけ」と称する行為をして練習を続行させるなど、厳しい練習を強要した。結果、男子部員(高1・15)が日射病で死亡
判例タイムズ335号344頁
「学校の法律常識 危機管理の法律常識/菱村幸彦監修・編集/教育開発研究所
1976/3/25 東京高裁で、引率教師業務上の注意義務ありとして、禁錮2月執行猶予1年の判決。
 007 1973/10/4 千葉県の県立安房農業高校の体育のバスケットボール授業で、一種の罰として「必殺宙ぶらりん」(体育館2階に設けられたコンクリートの縁(高さ3.1メートル)にぶら下がって懸垂をやり、教師の合図で飛び降りる)をやらせた結果、女子生徒(高1)が腰椎捻挫の傷害を負った。その後も1年以上後遺症に悩まされた。  731004
1974/3/

1978/9/28





1981/6/
学校の対応に不満を持った女子生徒側が、N教師を過失傷害罪で刑事告訴。

館山簡易裁判所で、
過失傷害罪認定。罰金3万円。 被告(N教師)側が控訴。

高裁で控訴棄却。 
「危険な行為をさせるときには、自ら模範演技を示すなど教師には事故を防ぐ義務がある」として、有罪判決。 被告側は上告。

最高裁は2審の有罪判決を支持。(確定)
 008   長野県の旭ヶ丘小学校で、教師が、授業時間中に女子児童が隣席の児童に笑顔をみせたことに憤怒して頭・顔などを殴り、髪をつかんで頭を床に打ち付けるなどした。さらに、告げ口をする児童を仲間はずれにしようとした児童3人を殴って机に押し付けるなどして、けがをさせた 人権ライブラリー「体罰と子どもの人権」/「法律」は「体罰」をこう見る/中川明/有斐閣
1983/3/29 長野地裁で、教師罰金20万円の判決。
「いわゆる体罰問題については、教育界の内外において、種々の論議がなされているが、わが国の学校教育法はこれを全面的に禁止しているのであり、本件のような、正当な懲戒行為の範囲を著しくこえる体罰は、当然、刑法上の処罰の対象となる」「被告人の所為はいかにも短慮、粗暴に失するもの」であり「教師にあるまじきまことに無分別かつ残忍なものであって(中略)被害児童らに与えた教育的悪影響は軽視し難い」「しかし、被告人は、その当否は暫く置くとして、少なくとも主観的には、当該児童に対する一応の教育的配慮を含めて本件暴行に及んだものと認められる」として、罰金20万円を科した。
 009 1978/8/6 青森県大間中学校の教育キャンプの川下りで、生徒3人が深みにはまって溺死 スポーツのリスクマネジメント/小笠原正・諏訪伸夫編著/ぎょうせい
1980/6/4 青森地裁で、野営長として参加していた校長業務上過失致死で、禁錮1年執行猶予2年の判決。
「生命の危険が生じることは容易に予見し得た」「水難事故を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず怠った」とした。
 010 1985/5/9 岐阜県の県立岐陽高で、高橋利尚くん(高2)が、修学旅行先の宿で、持参を禁止されていたヘアドライヤーを持ってきたとして、担任(36)をはじめ数人の教師から殴る蹴るの体罰を受けショック死  850509


1986/3/18
教師2人を刑事告訴。

水戸地裁土浦支部で、担任のM教師に、傷害致死で懲役3年の実刑。 F教師不起訴
「教育的意図を有していたとしても、本件行為自体は教育的懲戒とおよそ無縁のもの」と断定。
011 1985/12/9 神奈川県川崎市の市立中学校で、「みだりにほかの教室に入ってはならない」という決まりをやぶったことを理由に、男性教師が男子生徒(中1)を廊下に正座させ、頭を殴ったりけったりした。
男子生徒は胸の骨折などで3週間のけが後遺症で胸が痛んだり、じんましんが出るようになった。
   ?
男性教師罰金10万円の刑事罰。
 012 1986/7/1 東京都小平市の拓殖大学花小金井体育寮で、空手道部の2年生部員13名が1年生部員9名に対して集団リンチ。政経学部の森哲也くん(大1・19)が翌7/2死亡別の部員Iくん(大1・19)も内蔵破裂の重傷を負った。  860701




1987/5/28
2年生6人を傷害致死と傷害の容疑で逮捕。刑事裁判。

東京地方裁判所八王子支部にて、
2人に懲役2年の実刑判決。被告控訴。

東京高等裁判所にて、控訴棄却。(確定)
013 1986/7/2 石川県小松市の市立芦城中学校で、担任教師(24)が、遅刻や忘れ物をしたとして、北野章くん(中2・13)を宿直室に呼びだして体罰を加える。意識不明の重体となる。
7/5 朝、
死亡
教師本人が、遺族に見舞金として150万円を支払う。学校設置者である小松市と示談が成立。
判例時報1261号141頁
  金沢地裁にて、教師に懲役3年の求刑に対して、懲役2年6月、執行猶予3年の判決。

たとえ教育上の指導のための行為であっても、体罰が許されないことは、学校教育法11条に明記されているところであり、被告人が被害者を殴打した行為は、往復びんたを手加減することなく4回加えたということであって、このような暴行を加えることは、その意図の如何を問わず、同法条にいう体罰に当たると解されるから、これが違法な行為であることは明白である。(中略)
本件が教育界のみならず社会一般に与えた影響は大きいこと、生じた結果が重大であることは言うまでもなく、信頼していた担任教師によってわずか13歳で命を奪われた被害者の無念さ、その両親の悲しみの深さは察するにあまりあることなどに鑑みると、被告人の刑責は重大である。
本件は、いわば被告人の熱心さが招いた被害者及び被告人の双方にとって不幸な事故であったこと、被害者の遺族と小松市との間で示談が成立し、被告人からも別途見舞金として合計150万円を支払ったこと、被害者の父親は、捜査官に対し、被告人を恨む気持ちはなく、本件で被告人が教職を去らなければならなくなるのはかわいそうだと供述するほか、当裁判所に、寛大な処分を望む旨の嘆願書を提出し、被告人を宥恕(ゆうじょ)していること被告人は本件により懲戒免職され社会的制裁を受けていること、被告人が、本件を深く反省し、毎月命日には被害者の仏前に参るなどして被害者の冥福を祈っていることなど、被告人のために斟酌(しんしゃく)すべき事情も存するので、以上の諸事情を総合考慮し、被告人に対してはその刑の執行を猶予することとして、主文のとおり量刑した。
014 1986/7/ 千葉県習志野市の市立第七中学校で、男子学生(中2)が、給食の時間に数分遅れたことを理由に、担任の男性教師(34)が、正座をさせたうえ足で顔をけった。生徒は、前歯の神経1本がまひ、あごの骨がずれるなどで、全治5ヶ月の重傷を負った。    ?
  母親は担任教師を刑事告訴。
千葉地検は男性教師傷害罪で略式起訴。7万円の罰金刑
 015 1990/7/6 兵庫県神戸市の神戸高塚高で、石田僚子さん(高1・15)が登校時、担当教師(39)に門限がきたとして閉められた鉄製門扉に挟まれ、頭蓋骨骨折で死亡  900706


1993/2
男性教師を「傷害致死」として、厳罰を求めて刑事告訴。

元教諭(90/7懲戒免職処分)に対して、
禁固1年、執行猶予3年の判決。
「学校として生徒の登校の安全に配慮が足りなかった」としたが、校門指導をはじめとする「管理教育」に触れず、元教諭個人の過失責任を厳しく指弾した。
 016 1991/1 千葉県流山市の市立流山中学校で、男子生徒(中3)が、花壇を横切ったことを理由に、体育担当教師(32)に、砂利を敷いた通路に正座させられ、殴ったり蹴られたりして、顔面打撲、神経障害で4週間のけがを負った。  910100


1991/6
教師を書類送検

松戸簡易裁判所で罰金刑
017 1991/7/2 大阪経済法科大学の日本拳法部で、上級生(21)が、退部を申し出た川勝一男さん(20)に防具(パンチンググローブ)をつけさせ、一対一で練習。川勝さんの顔を続けて2回殴り、延髄・頚髄挫傷等の傷害を負わせ、1週間後に死亡させた。 1992/7/20京都新聞
(月刊子ども論1992年9月)
スポーツのリスクマネジメント/小笠原正・諏訪伸夫編著/ぎょうせい
1992/7/20 大阪地裁で、今井俊介裁判長は、「退部届けを出した被害者に対する制裁であり個人の意思を尊重しない短絡的、悪質で危険な行為」として、上級生に懲役1年6月(求刑同4年)の判決を言い渡した。
また、「日本拳法二段の被告が初心者の川勝さんに着けさせた防具は衝撃が伝わりやすいことなど、スポーツの練習とは認められない」と判断。
「一部の大学の運動部では、退部の申し出に対し、練習に名を借りたいわゆるしごきが行われている。同部でも退部する場合、坊主頭にし退部金10万円を支払う慣行があったが、一般社会常識とかけ離れている。川勝さんは勉学に専念するため退部を届けたもので、個人の意思を尊重すべきだった」と指摘した。
018 1992/6/16 長崎県壱岐の県立壱岐高校で、校内で開かれたセミナーハウスの合宿中に、女子生徒の部屋に他の男子生徒と一緒にいたところを見つかった男子生徒(高1・15)が、担任(37)にこぶしで顔を殴られ、副担任(49)に平手で約10回殴られた。
同生徒は
あごを3針縫い、歯を数本折るけがをした。翌日、病院で手当を受けて登校。
6/24 
8日後、自宅風呂場で急性心不全を起こして死亡
 920616



1993/6/15
長崎県警壱岐署は、生徒の脳の断層写真鑑定などから、「体罰と死因の因果関係はない」との意見書をつけた。
教師2人を傷害致死の容疑で書類送検。
副担任だけが暴行罪で、罰金15万円の判決。
019 1992/-1995/ 奈良県の高校の演劇部の顧問教師が、92年頃から部員に暴力を振るいはじめ、1993年春頃から演劇指導と称して体罰や性的暴力を加えていた。生徒が卒業後も自ら主催する劇団に所属させてわいせつ行為を繰り返していた。  951011
1997/2/26 奈良地方裁判所で、元教師は強制わいせつ罪などで2年6か月の実刑判決
奈良地裁で西良孝裁判長は、「執ようで悪質な犯行」と認定した。
高裁で、被告の控訴棄却
020 1994/4/ 福岡県筑紫市の県立武蔵台高校で、新入生歓迎バレーボール大会で競技が終わった男子生徒(高2)友人数人とバレーボールを使ってサッカーをして遊んでいたところ、常勤の男性講師から「バレーボールはけるものではない」と1回ずつ頬を平手で殴られた。一部がふてくされた表情をしたため、さらに2回ずつたたいた。
同生徒はもともと耳が悪かったが、この体罰で
耳鳴りが始まり、授業に集中できず、中退した。
1996/9/4西日本新聞(月刊「子ども論」1996年12月号)
  生徒は講師を傷害罪で告訴。
福岡地検が略起訴をし罰金20万円の略式命令。
021 1994/8/5 鹿児島県金峰町の町立布施田小学校で、友人3人とプール中央にある取水口にかぶせてあった格子のふたをあけ、中に入って遊んでいた男子児童(小5・10)が排水口に右足を吸い込まれて溺死
事故に気づいた監視員の母親3人がプールに飛び込み、助けようとしたが、水圧が強く、パイプから引き出せなかった。
排水口のふたは固定されておらず、子ども2、3人の力で開けることができた。
排水口は子どもたちの遊び場になっており、他にも吸い込まれそうになった子どもがいた。
   ?
1999/7/3 鹿児島地検は学校長業務上過失致死罪で起訴し、20万円の罰金刑。
022 1994/11/14 東京都東久留米市の市立中央中学校で道徳の時間中、教師が女子生徒ら6人に文化発表会で行ったアンケートの集計を指示。女子生徒らは「集計しなくていいって言ったじゃない。自分の言ったことに責任もてよ」と反論。教師はK子さんが座っていた椅子をけったあと、平手で頬を2回殴り、髪の毛をわし掴んで引っ張った。   941114
1995/12/26 略式起訴で教師10万円の罰金刑。
 023 1995/7/17 福岡県飯塚市の近畿大学付属女子高校で、陣内知美さん(高2・16)が、男性教師(50)に殴られ、コンクリートの壁に頭を打ち付け、死亡  950717


1995/12/25


1996/6/25
男性教師を刑事告訴。

地裁で、懲役2年の実刑判決。(求刑3年)
「生徒を保護すべき教師が、憤激のあまり、生徒に暴行して死なせた」とした。

福岡高等裁判所で、被告の控訴を棄却
「教育の名に値しない感情に走った私的な暴行」として、一審判決を支持。
024 1999/7/27 兵庫県川西市の市立川西中学校で、ラグビー部の夏休み練習中に、宮脇健斗くん(中1・13)が体調不良を訴えたが、顧問の男性教師から「演技は通用せん」などと放置されて熱射病による多臓器不全で死亡  990727
1999/10/22

2000/12/28

2001/5/23

2004/4/26
両親が、川西警察署に業務上過失致死の疑いで顧問教師に対する告訴状を提出。

神戸地検は、顧問教師を嫌疑不十分で不起訴決定。

両親が神戸検察審査会に、不起訴不当の申し立て。

顧問教諭業務過失致死罪で、罰金50万円
 025 2000/8/21 神奈川県川崎市中原区の市立中原中学校で、野球部の練習中に、森本桂多くん(中2・13)が熱中症で倒れて死亡   000821


2001/7/ 

2002/9/30
両親が「教諭の対応に問題があった」として、中原署に告訴状を提出。

中原署は、教師を業務上過失致死の疑いで書類送検

横浜地検川崎支部(栗田健一裁判長)は野球部顧問だった男性教師(40)に業務上過失致死罪で40万円の罰金を言い渡した。
栗田健一裁判長は、「持久走のような運動をさせる場合は水や救急箱、携帯電話などを持って、ランニング集団の集団の後方から監視するなどの態勢で指導監督するべきだった」「体力的に充分な成長を遂げているとはいえない中学生の部活動の指導を託され、保健体育の教諭として熱中症について相当な知識があったにもかかわらず、注意義務を怠ったことは厳しく非難されるべき」「部員の健康状態への配慮や適切な救護措置をとる態勢に欠けていたとして、業務上過失致死罪を適用。

ほかにも、詳細はわからないが、
立腹して女子中学生の顔を平手で数回殴打した市立斐太(ひだ)中事件(高田簡裁1969.5.12)
態度が卑怯だと立腹し、素手で中学生の鼻付近を一回殴打した市立日奈久中事件(八代簡裁1969.10.8)
などにおいて、教師の加害行為がいずれも傷害(致死)罪、暴行罪とされている。
(人権ライブラリー「体罰と子どもの人権」/「法律」は「体罰」をこう見る/中川明/有斐閣P186 参照)

保健体育担当教師が、授業での水泳実施指導のため、同校校外生活指導協議会においても水泳禁止を申合わせていた雄物川の危険水域で、2年生男子生徒36名全員に対岸まで泳ぐよう指示したところ、そのうち水泳能力をもたない3名の生徒が途中で水流におし流されて溺死したケース。秋田県雄物川溺死事件(秋田地裁大曲支部判昭和43.3.12)
(「学校事故賠償責任法理/伊藤進著/信山社P120 参照)
などがある。

上記は、学校事故事件で、教師や生徒が刑事責任を問われた例だが、民事裁判では 一般的には、教師の教育活動は「公権力の公使」の一種として国家賠償法1条1項を適用して、学校を設置している国または地方公共団体に請求するものとされる。
しかし、教師個人に損害賠償の支払いを求めた民事裁判の判決もある。

1960年7月15日に、愛媛県の丹原町立徳田小学校の体育の水泳授業を、隣接する徳田中学校のプールで実施したところ、女子児童が溺死した。
この事件では、教師の監督上の過失について、「本件事故を防止し得なかったことは多数の児童を監視することの困難さを考慮しても、未だこれを目して不可抗力とはいい得ず、両被告(教師2人)が一般的注意にたよりすぎ、水泳開始後の個々の児童の動静に対する注意が不足していた結果であるというべくそれ自体両被告の過失といわなければならない」として、教師の注意義務の過失を認めた。
そのうえで、「国家賠償法2条第1項、民法第711条により、被告教師(2名)はいずれもその過失によって本件を生ぜしめたものであるから、民法709条、711条により、同様後記損害を賠償する責任がある」として、教師個人に賠償を命じている。
(学校事故全書A 学校事故の法制と責任/学校事故研究会編/総合労働研究所P38-39)



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