2010/2/12 | 奈良中学校、柔道部顧問による傷害事件傍聴報告。 学校事故・事件で刑事責任が問われるとき一覧 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010年2月9日(火)、午前10時00分から、横浜地裁503号法廷で、奈良中学校、柔道部顧問による傷害事件(平成19(ワ)第4884)の民事裁判、口頭弁論が行われた。 裁判長は三代川俊一郎氏、裁判官は峯俊之氏、塩田良介氏。 2月1日付けの準備書面で、原告代理人弁護士から、T教師個人の責任についての主張が出されたという。 裁判後の弁護士からの説明によると、最高裁で、「公務員個人は責任を負わない」という判例が出されている。しかし、違法性の高いもの、故意や重過失に関しては個人の責任を問えるという。 なお、被災者のKさんが、T教師を刑事告訴している刑事裁判について、一旦「嫌疑不十分」で不起訴になったことに対し、昨年(2009年)12月12日に、検察審査会は、業務上過失傷害容疑で再度捜査のうえ、処分を再考するよう求める「不起訴不当」の結論を出した。 しかし、12月17日、検察は改めて傷害罪はもちろん、業務上過失も不起訴と決定した。 検察側の主張は、「頭はぶつけていない。何人もの専門家にきいた結論である」「脳挫傷は脳表面ではなく、脳の奥にできている。これはぶつけたのではなく、回転で生じた」「全日本クラスの柔道家に何人もきいたが、回転だけで切れるとは、誰も予見できないと証言した」という。 検察もT教師の行為と、Kくんの傷害及び後遺症との因果関係については肯定している。ここだけは動かしようがなかったらしい。そこで、自分たちの主張に沿った意見書を書いてくれるような専門家の声だけを取り上げ、それ以外の被災者家族が推薦する専門家たちの意見は完全に無視した。(警察を訴える裁判などでもよくあるパターンだと思う) 検察審査会の「不起訴不当」の結論と相反することについては、検事は「検察審査会は専門家ではないが、自分たちは法律の専門家だ」と、何度も強調したという。被災者家族が言うように、裁判員制度を真っ向から否定する発言だと思う。 また、斉野平さんの民事裁判で、柔道には元々危険な要素があり、顧問教諭には「死亡その他死亡に類する重大な結果が生じることは容易に予見できたはず」という判決内容(me091218参照)とも相反する。 以前は、不起訴になった刑事事件の記録は開示されなかった。しかし、今は被害者保護の観点から、記録が開示されることもあるという。原告側は、検察官の記録開示請求を行う予定という。 被告T教師の代理人からは、もう2年も裁判が継続しているので、いいかげん早く進めてほしい旨の要望があった。 裁判長からも、そろそろ証拠が出揃ったということで、主張整理の作業をはじめたいとの提案があった。 その間、証拠補充を続けることはできるということだった。 次回、もう1回、口頭弁論期日を入れるということになリ、3月16日(火)、午後1時15分から横浜地裁503号室となった。 |
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私は、奈良中事件が、刑事事件で不起訴になったことに納得がいかない。 なるほど、過去の例をみても、柔道など格闘技で、指導者が生徒にケガを負わせたり、死に至らしめてもほとんど無罪になっている。そのこと自体、おかしいと思っている。まるで、相撲会で何人もの不審死を出しながら、逮捕者を出さずに長い間きたことに似ている。 奈良中のそれは、下記一覧の012.017の上級生らによる私的制裁と同内容だと思う。 生徒間のものは逮捕者が出ている。しかし、生徒ではなく、安全な稽古を生徒に指導すべき立場の顧問教師自らが行っている。責任はさらに重いはずだ。 格闘技は、双方合意のもとに行われなければ、単なる一方的な暴力にすぎない。まして、講道館杯日本体重別選手権男子73キロ級での優勝記録をもつ顧問とKくんとの力量差は明白だ。昔の文科省のいじめの定義のひとつ「強いものが弱いものに一方的に」に当る。 Kくんは当日、帰宅しようとするところを顧問に無理やり道場に引っ張っていかれたのちに、連続技を仕掛けられ、危険に絞め技までかけられている。気を失ってもなお、休憩も挟まずに続けるのは稽古とは言わない。 まして、中学3年生の12月で、これから技を強化する必要性は感じられない。動機は別にあるかもしれないが、「退部する部員への制裁」と似たものを感じる。 刑事裁判ではないが、民事裁判になったものにも、似た事件がある。 1972年2月17日、熊本県の私立熊本商大付属熊本学園で放課後、空手部の練習に際し、前々日の無断での練習欠席に対し気合を入れるために、上級生らが男子生徒(高1)の腹部を交々に足蹴にし、すい臓破裂の傷害を負わせた事件。 この事件では、1975年7月14日、民事裁判の熊本地裁で、「空手に危険な面はあるが、適切な指導者のもとに、生徒の体力、技量、精神の発達の程度に応じた練習を行うならば、その危険を防止しえないことはない」とし、「高1、2年生時代は、未だ心身の発達が十分でなく、体格に比して内臓器官の発育も不十分であり、また、情緒面でも、時に感性の赴くまま行動したりして、安定度が高いとはいえない年齢層に属するから、このような年代の生徒に危険を伴う空手を練習させるときには、指導に当たる教師において、生徒に対し、練習その他の部活動につき、遵守すべき事項を懇切に教示するとともに、ゆきすぎた練習や暴力行為が行われないよう練習に立会い、十分の状況を監視すべき注意義務があった」として、加害上級生2名と熊本学園に総額362万円の支払い命令をしている。(「学校事故賠償責任法理/伊藤進著/信山社P128) これは空手の例だが、柔道にも同じことが言えるだろう。 柔道を知り尽くしているはずの顧問ならば、柔道の危険を十分に知っていたはずで、安全に指導を行うことも当然、できたはずだ。知っていながら、まさしく心身の発達の未成熟な子どものように、感性の赴くまま行動して、ゆきすぎた、暴力行為としか受け取れないような練習を合意のない相手に向けて行った。 Kさんが命を取り留めたのは奇跡的で、今も重い後遺症を抱えている。 検察は、Kさんが亡くなっていたとしても、T教師に無罪を言い渡しただろうと思うと、ぞっとする。 家族は、Kさんが一時は記憶をなくしても生きていたからこそ、警察の聴き取りのなかで突然記憶がよみがえり、その事実の一部を知りえた。しかし、それさえも、検察は障がい者の言うこととして、とりあげようとはしなかった。 奈良中事件は、顧問教師による体罰とさえ言えない、故意による暴行ではないかと感じている。しかし、100歩譲って、練習中の事故だとしてもなお、他の刑事責任を問われた事例に比べても、過失にさえ問われないことに、おかしさを感じる。 刑事事件で不起訴になって、民事裁判でも公務員ということで守られ、損害賠償さえ払う必要はないと、T教師はきっと高をくくっているだろう。「武道の心」を重視して、柔道がこれから正課に取り入れられようとしている。 柔道に熟練した指導者のこのような姿を、子どもたちの手本にしてよいのだろうか。T教師自身が、あるいはその教え子が、また同じことをしたとき、検察はそれでも無罪と言い続けるのだろうか。 手持ちの資料の中(データとして管理しており、出典がわからなくなってしまったものを含む)から、学校事故・事件で学校関係者や生徒が刑事責任を問われたものをピックアップしてみた。 (わいせつ行為による刑事責任は、むしろ当たり前すぎるので、ここでは割愛している) 私は、子どもたちへの講演のなかで、「学校の外で犯罪だといわれていることは、学校の中で起きても犯罪です」と話しているが、必ずしもそうは言えないのが現実だ。
ほかにも、詳細はわからないが、 立腹して女子中学生の顔を平手で数回殴打した市立斐太(ひだ)中事件(高田簡裁1969.5.12) 態度が卑怯だと立腹し、素手で中学生の鼻付近を一回殴打した市立日奈久中事件(八代簡裁1969.10.8) などにおいて、教師の加害行為がいずれも傷害(致死)罪、暴行罪とされている。 (人権ライブラリー「体罰と子どもの人権」/「法律」は「体罰」をこう見る/中川明/有斐閣P186 参照) 保健体育担当教師が、授業での水泳実施指導のため、同校校外生活指導協議会においても水泳禁止を申合わせていた雄物川の危険水域で、2年生男子生徒36名全員に対岸まで泳ぐよう指示したところ、そのうち水泳能力をもたない3名の生徒が途中で水流におし流されて溺死したケース。秋田県雄物川溺死事件(秋田地裁大曲支部判昭和43.3.12) (「学校事故賠償責任法理/伊藤進著/信山社P120 参照) などがある。 上記は、学校事故事件で、教師や生徒が刑事責任を問われた例だが、民事裁判では 一般的には、教師の教育活動は「公権力の公使」の一種として国家賠償法1条1項を適用して、学校を設置している国または地方公共団体に請求するものとされる。 しかし、教師個人に損害賠償の支払いを求めた民事裁判の判決もある。 1960年7月15日に、愛媛県の丹原町立徳田小学校の体育の水泳授業を、隣接する徳田中学校のプールで実施したところ、女子児童が溺死した。 この事件では、教師の監督上の過失について、「本件事故を防止し得なかったことは多数の児童を監視することの困難さを考慮しても、未だこれを目して不可抗力とはいい得ず、両被告(教師2人)が一般的注意にたよりすぎ、水泳開始後の個々の児童の動静に対する注意が不足していた結果であるというべくそれ自体両被告の過失といわなければならない」として、教師の注意義務の過失を認めた。 そのうえで、「国家賠償法2条第1項、民法第711条により、被告教師(2名)はいずれもその過失によって本件を生ぜしめたものであるから、民法709条、711条により、同様後記損害を賠償する責任がある」として、教師個人に賠償を命じている。 (学校事故全書A 学校事故の法制と責任/学校事故研究会編/総合労働研究所P38-39) |
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