家庭内暴力の防止及び被害者の保護に関する
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一 総則 |
この法律の目的を定めたものである。すなわち、この法律は、家庭内暴力の防止及び被害者の保護を図ることを目的としている。
その目的を達成するための手段としては、家庭内暴力に係る通報、相談、指導、保護等の体制を整備することを掲げている。具体的には、家庭内暴力の発見者の通報義務、警察による家庭内暴力の制止、家庭内暴力防止センターによる被害者の保護等の規定である。
このようなことは、現行の体制の運用でもできることともいえるが、例えば、警察は家庭内暴力の取締りに対しては慎重であったりするなど、十分運用が行われていないという認識を前提として、その運用を整備しようとするものである。
2.定義 この法律において「家庭内暴力」とは、次の各号のいずれかに該当する関係にある者の間の暴力をいう。 |
「家庭内暴力」の定義を明らかにした規定である。
この法律でいう「家庭内暴力」とは、簡単に言えば、家庭生活を営んでいる家族関係のある者の間の暴力である。すなわち、夫婦(同居義務があるため、基本的には同居であるが、別居の場合も含む。)、同居の親子、同居の親族又はこれに準ずる関係にある者間の暴力である。これは、上記の家庭内暴力の特徴から、家族関係を限定したものである。
いわゆるドメスティック・バイオレンスは、夫から妻への暴力を念頭にされていることが多いが、この法律では、家庭内における暴力を広く対象としており、暴力を手段とする場合には、いわゆる児童虐待や、老人に対する虐待も含むこととしている。
反対に、別れた夫、恋人からの暴力も家庭内暴力とする考え方もあるが、上記の家庭内暴力の特徴がこの場合はないので、この法律の家庭内暴力には含めていない。言い換えれば、この場合は一般の暴力と区別がつかないのである。ただ、別れた夫、恋人等がストーカーとなって女性を追い回すこともあるが、これは別途ストーカー対策として考えることとしている。
なお、ここに言う夫婦、親子には、事実上の夫婦、事実上の養親子が含まれる。また、 三の「これに準ずる関係」とは、法律上は親族でないが、社会通念上、家族と同視されているような関係を指し、夫の親と妻の親との関係、事実婚の相手の親との関係等がその例である。
「家庭内暴力」にいう「暴力」とは、いわゆる人の身体に向けられた有形力の行使である。いわゆる精神的な暴力は、その実態を法律で捉えるのが困難であるので含まれない。
3.国及び地方公共団体の責務 |
国及び地方公共団体には、家庭内暴力を防止し、その被害者を保護する責務があることを明らかにした規定である。
二 家庭内暴力防止センター |
家庭内暴力の防止及び被害者の保護を図る中心的な役割を果たす施設として、家庭内暴力防止センターを設置するものである。
この施設は、婦人相談所、児童相談所に倣い、都道府県が設置・運営することとした。この施設には、いわゆるシェルターの役割を担う一時保護施設、いわゆるステップハウスとしての役割を担い、被害者が自立に向けて準備をする家庭内暴力被害者自立支援施設が附設される。
家庭内暴力防止センターの業務は、(2)に規定するとおりである。
相談、調査・判定、被害者及び加害者に対するカウンセリング、被害者の自立の促進のための生活支援、一時保護等を行うこととしている。
なお、家庭内暴力防止センターには、家庭内暴力について専門知識を有する職員を置くこととしている。その資格等は、政令で規定される。
三 被害者の保護に関する措置等 |
家庭内暴力は、家庭という私的で閉鎖された空間で発生するため、探知が容易ではなく、また被害者も加害者からの報復や家庭の事情など様々な理由からその保護を求めることをためらうことも考えられる。そこで、広く社会に情報を求めるべく、 被害を受けている者の発見者に努力義務を課し、被害者の保護を図ることとした。
ただ、努力義務とはいえ国民に義務をかける以上、些細な家庭内暴力についてまで通報義務を課すことは妥当でないので、生命又は身体に危害を及ぼすと認められる家庭内暴力に限ることにしている。また、家庭内のプライバシー保護とのバランスからもこの方が妥当であると考えられる。
(2)では、医師と歯科医師の通報義務を規定している。
医師又は歯科医師は、診療を通じて家庭内暴力の被害者を発見する機会が多く、専門知識に基づき患者の保護をする責務を負うとも考えられるので、一般の国民より強い義務を課した。
2.警察署長のとるべき措置 |
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護を行う義務があるので、被害者等から通報を受けた場合には、事実を確認するとともに、関係法令に照らし、家庭内暴力の制止等適切に対処すべきことを明らかにするものである。このようなことは、現在でも運用で対応できるともいえるが、従来から警察は家庭内暴力の取締りに対しては慎重であったという認識を前提として、この規定を置いた。
(2)では、警察が、被害者に対して家庭内暴力に対処するための支援を得られる適切な関係行政機関の利用について説明したり、被害者の安全を確保するため家庭内暴力防止センター等に送り届けること等を行うこととしている。
3.福祉事務所長のとるべき措置 |
家庭内暴力の被害者が加害者に依存しないで自立して生活するためには、福祉的な援助が必要なことも多いことから、福祉事務所が、家庭内暴力の被害者に対して被害者の福祉のために必要な指導又は援助を行うこととした。
4.家庭内暴力防止センターの所長のとるべき措置 |
被害者等に対し家庭内暴力防止センターの所長がとるべき措置を定めるものである。
5.関係行政機関の長の連携 |
関係行政機関は、被害者の保護に関する措置をとるに当たり連携すべきことを定めるものである。
四 雑則 |
被害者は、家庭内暴力によって、心身ともに傷ついているため、相談、指導、保護、捜査、裁判等によって傷つきやすい状況にある。また、これらの過程で、加害者から報復される危険も指摘されているところである。したがって、職務関係者は、被害者の人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならないこととした。
(2)では、研修制度を設け、職務関係者に留意点を徹底し、被害者の保護を図るとともに、職務関係者の資質の向上を図ることとした。
2.教育、啓発及び調査研究 |
国及び地方公共団体は家庭内暴力を防止するために、教育及び啓発に努めるとともに、家庭内暴力の原因や、その再発を防止するための加害者への更生指導の在り方等の調査研究の推進に努めることとした。
3.国の負担 |
国も家庭内暴力を防止し、その被害者を保護する責務を有しているので、都道府県が設置・運営する家庭内暴力防止センターに要する費用の2分の1を負担することとした。
4.民間の団体に対する補助 |
被害者が、家庭内暴力から逃れ、安全に生活するためには、被害者のシェルターを運営するNPO等の民間の団体による被害者の保護も不可欠となる。そこで、これらの民間の団体に対し、都道府県が費用の補助をすることができることとした。
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家庭内暴力に係る捜査、裁判等の職務関係者に対し、被害者の心身の状況、置かれている環境等に応じて、被害者の人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に配慮することが求めれれている(四.1.職務関係者の配慮)。したがって、これらについても特別の配慮が求められると考える。
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この法律に直接には規定されていないが、法律が成立すれば、家庭内暴力についての関係機関の意識も変化し、これらの取扱いにおいても、被害者の安全を確保するよう運用が改善されるものと思われる。可能な限り通達などで対応が計られることが望ましい。
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この法律では、被害者の保護は家庭内暴力防止センターが家庭内暴力被害者自立支援施設に入所させて行うが、それを他の適当な施設に委託することができることとしている(三.4.家庭内暴力防止センターの所長のとるべき措置五)。したがって、広域措置の必要がある場合には、この規定により他県の施設等に保護を委託することが考えられる。
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この法律では、被害者の自立支援として、いわゆるステップハウスとしての役割を担う家庭内暴力被害者自立支援施設において自立の促進のための生活の支援を行うこととしている(二.家庭内暴力防止センター(4))。
また、自立支援のために、社会福祉関係制度・施策による援助が必要な場合もあるが、これらについては、福祉事務所が必要な指導又は援助を行うこととしている(三.3.福祉事務所長のとるべき措置)。