第 147 国会報告
本会議
2000年4月17日 17号
雇用保険法等の一部を改正する法律案及び高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案
○大脇雅子君 私は、雇用保険法等の一部を改正する法律案及び高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案について、社会民主党・護憲連合を代表して質問いたします。
両法案改正の意義及び内容について検討する場合には、長引く深刻な不況のもとで就業の確保と家族の生活を支えて必死に頑張っている労働者の置かれた状況を正確に把握し、その上で、この間とられてきた雇用対策の全体と両法案との有機的関連と各施策の実効性を確認することが重要であると考えます。
この観点から、まずこの三年間の雇用と失業の特徴的な変化と労働者と家族の置かれた状況について、森総理大臣はどのように認識され、いかなる見解をお持ちか、お尋ねをいたします。
深刻な雇用労働情勢が長引く中で、完全失業率は四%台後半で推移し、とりわけ二月の男性の完全失業率は全国で五・一%に達したと伝えられています。これは、地域的な構造不況に加えて、雇用の創出が有効になされていないことに起因していると考えます。これまで小渕内閣のもとで推進されてきた雇用政策が有効に働いているとは言えないのではないでしょうか。
例えば、平成十一年三月三十一日現在、緊急地域特別交付金は、予算額二千億円に対して執行率一〇〇%ですが、創業、異業種への進出を行う中小企業が労働者を雇い入れる際の助成金は、予算額四百十三億七千六百万円に対し執行率約一二・三三%、中高年の非自発的失業者を雇い入れた事業者に対する緊急雇用創出特別奨励金は、予算額六百億円に対してわずか執行率〇・六三%、新規・成長分野雇用創出特別奨励金は、予算額九百億円に対し執行率約〇・七七%、労働者の出向や再就職のための人材移動特別助成金は、予算額四百一億一千百万円に対し執行率三・二%にすぎないからです。
拡大の一途をたどってきた雇用調整助成金の給付についても、平成十年度で五百四十二億五千九百万円の予算に対し実績額二百八十六億九千三百万円となっており、これでどれだけの労働者の雇用の維持がされたのでしょうか。これらの検証はなされているのでしょうか。この状況を見ると、むしろ労働省型雇用維持政策や失業なき労働移動政策はもはや限界にあると言えるのではないでしょうか。総理と労働大臣の御見解を伺います。
次に、雇用保険制度の仕組みは、雇用三事業を除き、基本的に保険料を労使折半として、加えての国庫負担とから成っています。失業保険法の改正として昭和四十八年に成立した現行雇用保険法の骨格は、経済の安定成長路線のもとで雇用三事業を整備して、失業給付は高齢者や低所得者層に厚くするセーフティーネットの機能を充実させたものでした。二五%より減少を続けた国庫負担は、平成十年度に改正された際、暫定措置に係る附則第二十三条が改正されて、「当分の間」が「百分の五十六」とされました。今回提出の改正法案ではこれが削除され、一般求職者には本来の四分の一の国庫負担、わずか〇・五から〇・七兆円負担となっています。
しかし、政府管掌の保険内で、労働省が限られた財源枠の範囲内でどのように合理的に制度設計をしても、雇用労働情勢の改善、安定が実現しなければ、労使連帯の保険制度の仕組みを根幹とする限り、労使の保険料負担が増大することは明らかであります。
保険事故である失業については、政府の経済政策、雇用政策ともかかわりがあり、政府がその責任の一端を担うべきであり、セーフティーネットとして機能させるために確固とした国庫負担が制度的に仕組まれる必要があります。国庫負担率の引き上げもまた検討すべき課題であります。
総理大臣は、雇用保険法のあり方と国庫負担についてどのような御見解なのか、お尋ねいたします。
また、今回の改正では、定年を迎えた高年齢求職者に対する基本手当の給付日数を三百日から百八十日へと削減することが、最も大きく、かつ四十五歳以上の人々の支給日数にも大きな影響を与えます。
現在の不況のもとで、特に中小企業に働いてきた労働者にとって、定年後の生活設計に深刻な影響が不可避であります。効率化、合理化の名のもとに、うば捨て山の制度化ではないでしょうか。今回の雇用保険法改正は、再就職の受け皿が十分でないままに、余りにも急激な制度的な変更であり、何らかの激変緩和措置がぜひとも必要であると考えます。
激変緩和措置として、例えば、日数、支給額の逓減措置をとるべきと考えます。加えて、他の制度の有効活用等によって、具体的な緩和措置となる代替的効果的施策を行うべきだと考えます。
例えば、これまでの雇用創出政策の予算枠と実績の程度からすれば、政策判断として国庫が負担して、激変緩和措置は十分に講じられ、また積極的に講ずるべきと思うのですが、総理大臣、いかがでしょうか。
また、企業倒産、リストラ・解雇等、意に反する離職を余儀なくされる労働者に対して最長三百三十日とすることは、なるほど中高年労働者に対して確かにセーフネットを一部強化した意義を持っていると思います。しかし、諸外国に比べて十分とは言えませんし、該当者は約三分の一と推定されます。
この制度見直しとの関連で、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案で提起されている中高年齢労働者に対する再就職援助制度は、在職中の四十五歳以上の中高年齢労働者について求職活動に対して企業が援助する場合に助成する制度となっていますが、この制度は、見方を変えれば、在職中の労働者に対して不要のレッテルを張り、当該労働者の雇用を危うくすることにつながるおそれがないのか大変危惧いたします。制度の適正な運用で十分なのか、どのような歯どめがかかっているのか、労働大臣にお尋ねいたします。
また、この際、ILOの雇用の促進及び失業に対する保護に関する百六十八号条約の批准については、今回の雇用保険法改正とあわせて早急に批准すべき重大な条約であると考えますが、今回同時に提出されていない理由はどこにあるのでしょうか。さらに、今後早急に批准するためにはどのようなスケジュールをお考えか、総理大臣にお尋ねいたします。
最後に、中高年齢者に対する雇用の創出の基本的かつ有効な政策は、アメリカ、イギリスやドイツに見られるような年齢差別の禁止と、残業を規制したワークシェアリングの制度を導入することであると思います。もちろん、ワークシェアリングの基本には、雇用形態による差別的取り扱いを是正し、パートタイム労働者、派遣労働者等の労働条件の均等処遇の原則を確立する立法こそ必要であります。二十一世紀に向けての骨太の労働政策、その骨格はどのようなものと考えておられるのか、総理大臣にお伺いして、私の質問を終わります。
○国務大臣(森喜朗君) ここ三年間の雇用失業の特徴的な変化と労働者、家族の状況についてのお尋ねでございますが、非自発的失業者の増加などにより、完全失業率が平成九年二月の三・四%から大きく上昇し、本年二月には四・九%となっております。また、世帯主の失業率も上昇し、本年二月には過去最高の三・六%となっているなど、労働者とその家族の置かれた状況はここ三年間で厳しくなっていると認識をいたしております。
現在、景気は緩やかな改善が続いており、残業時間や求人が増加傾向にあるものの、完全失業率が過去最高水準となるなど、雇用失業情勢は依然として厳しいものであると認識をいたしております。
雇用対策の効果についてのお尋ねでありますが、政府は一昨年四月以来四度にわたる雇用対策を講じ、これらの対策が雇用失業情勢に一定の下支え効果を発揮しているものと認識しております。
今後とも、これらの対策の効果を十分把握するとともに、政府全体で緊急雇用対策や経済新生対策等を積極的に推進することにより、雇用の創出・安定が図られるように取り組んでまいりたいと存じます。
雇用保険のあり方と国庫負担についてのお尋ねでありますが、雇用保険は、当事者である労使及び国の共同連帯によって雇用情勢に適切に対処することをその役割といたしております。
今般の改正によって国庫負担率を本来の四分の一に引き上げることとしておりますが、今後とも労使による保険料と国庫からの負担によって制度の安定的運営を図るとともに、雇用失業情勢の変化に機動的に対応した雇用対策の実施に努めてまいります。
激変緩和措置についてのお尋ねでありますが、雇用保険については厳しい財政状況に直面しており、雇用を取り巻く状況の構造的変化に的確に対応するためには、その早急な見直しが必要であります。こうした中で、関係審議会における公労使三者の合意のもと、求職者給付の重点化等を行うこととしたところであり、御指摘のような激変緩和措置をとることは考えておりません。
高齢者雇用の促進等現下の雇用情勢への対応については、今般、高年齢者雇用安定法の改正もあわせてお願いいたしておるところでありまして、各般の施策に総力を挙げ取り組むことにより雇用の安定に努めてまいります。
ILO雇用の促進及び失業に対する保護に関する百六十八号条約を早期に批准すべきではないかとの御指摘につきましては、この条約の内容は我が国においておおむね実施されているところでありますが、なお問題点もあると考えております。今後ともこの条約と国内法制との整合性につきさらに検討を加えることといたしたいと考えております。
今後の労働政策の骨格についてのお尋ねでありますが、御指摘の年齢差別の禁止やワークシェアリングについては現在さまざまな御議論があるところであり、今後の検討課題であると考えます。
いずれにしましても、急速な少子高齢化の進展の中で、将来にわたって我が国経済の活力を維持していくためには、中高年齢者や女性を初めとしてすべての労働者が、その意欲と能力に応じて生涯働くことができる社会を実現していくことが重要であり、そのために全力を傾注してまいります。
残余の質問については、関係大臣から答弁いたさせます。
○国務大臣(牧野隆守君) 雇用対策の効果についてのお尋ねでございますが、中小企業の雇用創出の支援、地方における臨時的な雇用就業機会の創出、企業の雇用の維持の取り組みの支援、障害者、高齢者等の雇い入れの助成などにより、雇用の創出・安定に一定の効果が上がっている、このように考えているところであります。
他方、御指摘の緊急雇用創出特別奨励金と新規・成長分野雇用創出特別奨励金の二つの奨励金につきましては、企業の雇用意欲が乏しかったこともあり、その活用が不十分な面があります。このため、利用者への周知等を強力に推進しているところでありますが、最近、情報通信や介護関連分野等において求人が大幅に増加していることから、今後これらの奨励金の活用が大幅に進むものと考えております。
労働省としましては、今後ともこれら各種施策を積極的に推進することにより雇用の創出・安定に全力で取り組んでまいります。
再就職援助計画制度についてのお尋ねでございますが、同計画は、定年、解雇等により離職する中高年齢者ができる限り失業を経ないで再就職することができるようにするため、在職中からの求職活動を行うことを支援するためのものであります。
この計画は、離職することが決まった後に作成、交付されるものであり、御指摘のように、雇用を危うくするようなものではないと考えております。再就職援助計画の作成に当たりましては、あらかじめ労使間で十分な協議が行われるよう関係手続の明確化を図ってまいる所存でございます。
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