第 147 国会報告
労働・社会政策委員会
2000年5月11日 11 号
港湾労働法
○大脇雅子君 港湾労働者の雇用の安定と確保についてお尋ねをいたします。
今般、港湾労働法の法改正の前提となっております港湾運送事業法の改正において、規制緩和の名のもとに事業免許制が許可制になり、そして料金認可制が届け出制に改正されることになっております。
まず、国際競争下の受注の競争を考えれば、よりよいサービスをより安い料金でということになるのではないか。とすれば、料金の届け出制によってダンピングの競争が起きれば、当然関係労働者の労働条件の切り下げあるいは劣悪化が生じる可能性があり得るのではないか。この点について、事業法改正の上でどのように手当てをされているのか。また、受注状況と労働条件、雇用の直接的な連動が生じることについて基本的にどのような認識をお持ちなのか、確認をさせていただきたいと思います。
○政府参考人(高橋朋敬君) お答えさせていただきます。
今回の港湾運送事業法の改正の趣旨でございますけれども、近年、各国の港の間におきまして国際的な競争が激化しておるわけでございますけれども、その中で我が国の港湾の東アジアにおける相対的な地位が大きく低下しているという状況がございます。その原因の一つとして、我が国の港湾運送事業者の間に競争が行われにくくて、船会社、荷主のニーズに合ったサービスが提供されにくくなっているという点が指摘されているところでございます。
こういうことから、コンテナ荷役などにおいて大宗を占める主要九港におきまして、需給調整規制の廃止を初めとする規制の見直しを行うことによりまして事業者間の競争を促進いたしまして、事業の効率化や多様なサービスの提供を図ろうとするものでございます。
ただ、規制緩和の結果、事業者間の競争が激化することによりまして、過度のダンピングが発生し、港が混乱するような事態は避けなければならないというふうに思っておりまして、過度のダンピングの防止のための施策を今回新たに講じようとしているところでございます。
具体的には、届け出られました料金が労働コストなどを含む変動費を下回っているような場合を過度のダンピングといたしまして、料金変更命令をかける方向で検討しておりますが、さらに、規制緩和を行う港の料金水準が著しく低下しているような場合には直ちに緊急監査を実施することにいたしております。
運輸省といたしましては、このような料金変更命令制度や緊急監査制度を適切に運用いたしまして、荷役料金の過度のダンピングを防止し、労働者に規制緩和の過度のしわ寄せが及ばないように配慮してまいりたいと、かように考えております。
○大脇雅子君 緊急監査とか料金の規制というようなのは、例えばどういう状況が現出したときに発動されるのか、具体的なイメージがちょっとはっきりしないので、もう少し説明していただけますか。
○政府参考人(高橋朋敬君) 具体的な基準については、これから定めまして公にしていきたいと思っておるわけでございますが、例えば過度のダンピングが行われているのではないかという申告があったような場合とか、それから荷役量が例えば前年に比べて大幅に減っているといったような場合にはそういう事態が起こりやすいことが予想されますので、そういったような場合とか、ある一定の基準を設けまして、その場合には発動するというふうにしていきたいと思っております。
○大脇雅子君 それでは、労働大臣にお尋ねをしたいのですが、我が国の長引く不況は海運、港湾の事業にも重くのしかかってきているわけです。今回の事業法の改正によってこの分野で働く労働者の雇用や労働条件の変化というものについてどのように予測していられるのでしょうか。
○国務大臣(牧野隆守君) まず第一に、港湾運送事業法改正による規制改革につきまして、過度のダンピングを防止するために運輸大臣が緊急監査を実施し、また料金変更命令を発することができる制度を設けることとしており、労働者の雇用や労働条件についても悪影響が生じないよう手当てがなされているものと、こういうように考えております。
私の方としましては、当然のことながら港湾労働者の雇用の安定と、他方、港湾運送事業における効率的な経営、就労体制の確立というものの両立を図ることを目的としますが、私どもの立場としてはやはり雇用の安定と福祉の確保ということを当然のことながらそれを中心にして考え、この法律の運用に対処していきたい、こう思っております。
今度の改正におきましては、今先生御指摘のとおり、景気変動との関係で雇用の安定が図れるかということでありますが、派遣事業について、先ほどから御審議いただいておりますとおり、そこできちっと雇用が安定して確保されるという見地から今度の制度が生み出されたわけでありまして、そういう観点から諸先生方の御審議をお願いしているわけでありまして、極力景気変動によって雇用されている労働者の立場が変動しないように最大の配慮をしながら運用させていただきたい、こう考えております。
○大脇雅子君 それでは、港湾労働者派遣事業の導入についてお尋ねをしていきます。
特に、船の入港や出港に合わせた波動的な仕事に合わせた労働者の確保を余儀なくされる側面というのが港湾労働ではあるわけであります。そして、波動に合わせて労働者の需給に対応できる人数を確保していくという要請が事業主にあり、そこで歴史的に港湾労働における強制労働と中間搾取の問題というものが生じてきたと思われます。したがって、労使関係におけるそうした封建的な残存があったという中で、先般の労働者派遣法の改正においても四条一項第一号で一般的な派遣労働というのは港湾労働には適用されないということになったのであると考えるわけです。
そうしますと、この規定と今回の港湾労働法の改正によって港湾労働者派遣事業というのを導入するということとの整合性、そしてその位置づけといったものをどのように認識しておられるのか、お尋ねをいたします。
○政務次官(長勢甚遠君) 港湾運送業務につきましては先生今お話しのとおりで、労働者派遣法から適用除外ということになっておるわけでございます。今般導入いたします港湾労働者の派遣制度は、派遣という形態は借りておりますけれども、派遣法に言う一般派遣事業とは全く異なるものでございますし、港湾労働法に基づく特別の制度として導入をするものでございます。
具体的にこの港湾労働者の雇用の安定を図るという目的から、現に港湾運送事業を営んでおる事業主のみを許可の対象とするものであります。また、許可基準に適正な派遣料金、派遣日数の上限を設定する、また三番目に派遣労働者を港湾労働者証の交付を受けた常用労働者に限定をする。さらに、港湾労働者雇用安定センターに港湾労働者派遣制度に係る情報収集、提供、あっせん業務、事業主及び労働者に対する相談援助業務を行わせるということにしておるわけでございまして、通常の労働者派遣事業とはその目的及び規制方法を全く異にする特別の制度として設けるものでございます。
○大脇雅子君 特別の労働者派遣事業として仕組むというためには、まず常時雇用される労働者の労働条件がしっかりと確保されるということが重要であろうかと思います。
まず確認をしておきたいのが、改正法第十四条で、許可の基準といたしまして、適正な派遣料金というのを決めるということになっております。この派遣料金の設け方について具体的にお尋ねいたします。
そして、この場合、先ほど指摘されましたように、荷役の業務以外に関連業務が港湾労働には非常にふえてきておるという場合に、この業務の範囲というものはどのように規制されるのかということを、適正な派遣料金ということをめぐってお尋ねをいたします。
○政務次官(長勢甚遠君) 今度設けます派遣制度は、港湾労働者の雇用の安定を図るための制度でございますので、また、港湾運送事業に付随する限度でその実施を認めるということにしております。そのために、許可基準として、適正な派遣料金、派遣日数の上限を労働大臣告示として設定するということにしておるわけであります。
派遣料金についてのお尋ねでございますが、派遣料金の基準につきましては、派遣労働者の賃金その他の港湾労働者派遣事業に要する経費の水準等を勘案して定めることと改正法でいたしておりますので、必要に応じて港湾運送事業主に対して調査を行って把握をし、適正なものとして定めたい、このように思っているところでございます。
○政府参考人(渡邊信君) 港湾荷役労働者がいろんな仕事をしているときの料金の決め方ですが、これは、今総括から申しましたように、実態に即して調査をする、それによって判断するということになろうかというふうに思います。
○大脇雅子君 大体いつごろにその実態の調査を完了して、いわゆる適正な派遣料金が提示されるというのはどのくらいをめどに考えておられるんでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) この法律は施行の日を政令で定めることにしておりますが、秋口施行と考えておりますので、これを可決いただきますれば速やかに調査にかかる必要があるかと思います。
○大脇雅子君 そうしますと、特に私は、ちょっとお尋ねしておきたいのは、これは常用労働者の派遣ですから、本来常用雇用として従事している労働者ということですから、その賃金形態について確認をしておきたいのですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) 港湾以外の派遣労働者のうち常時雇用されている派遣労働者の賃金形態ですけれども、平成九年度の調査ですが、日給月給制を含みます月給制が八一・七%、時間給というのが一五・二、日給制が一・二%というふうになっております。
○大脇雅子君 そうすると、港湾労働における特定労働者派遣事業における常用労働としての賃金形態というのはどうあるべきだというふうに理解したらよろしいんでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) 港湾運送事業雇用実態調査で現行の港湾労働者の賃金形態を見ますと、月給制が四一・八、日給月給は五二・七、日給制が三・三%というふうになっておりますので、労働大臣が定めます派遣料金につきましてもこういった実情を踏まえて定めることになろうかと思います。
○大脇雅子君 しかし、特定労働者の派遣として、普通の通常労働者、常用の派遣ではない事業主に雇用されている常用雇用者と差別的な、あるいは違った取り扱いはされるべきではないと思うのですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) 派遣先は派遣料金を支払いますが、賃金の支払い義務者はあくまでその労働者が雇用されている派遣元事業主でありますから、そこにおける給与の形態というものが派遣中ももちろん適用になるかというふうに思います。
○大脇雅子君 その場合に、通常の派遣労働者といわゆる派遣されない常用雇用としての労働者というのは一般の派遣事業とは違って決められる必要があると思うのですが、いかがでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) 今般の改正では、派遣の日数の上限も定めるということになりますから、例えば一人の労働者の方がずっと派遣ばかりしているということは考えられないわけで、ある程度ローテーションを持って派遣に従事する日、通常の労働に従事する日というふうになるかと思いまして、労働者の中で交代制というふうなことが実際的になるんじゃないかというふうに思いますから、給与形態につきましても、通常の事業主のもとにおける給与形態が先ほど申しましたような派遣期間中も含めて月給制の方であれば月給制、その派遣されている間の原資といいますか、それは派遣料金から支払われることになるかもしれませんけれども、労働者本人については通常の賃金の支払い形態はそのまま適用になるというふうに通常はなるのではないかというふうに思います。
○大脇雅子君 わかりました。
少なくとも派遣労働に従事することによってこれまでの常用労働と差別的な扱いをされないということをでき得る限り、でき得るというか、それをきちっとしないといけないと思います。
日数の上限基準についてはどのようにお決めになるのでしょうか。
○政務次官(長勢甚遠君) 派遣日数の上限につきましては、港湾労働者が港湾運送の業務に従事する日数を勘案して定めることというふうに改正法の十四条一項第二号のロで定めておるところでございます。常用労働者の平均的な就労日数は把握しているところでございますので、そのデータを参考に適正な基準を設定していきたい、このように考えております。
○大脇雅子君 具体的にどのくらいになるんでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) これは関係審議会の意見を聞くことになると思いますが、月大体平均して十七・五日の就労ということですから、これから休日を除いた日数がいわば有給期間があるということにもなるかと思います。そういったことを勘案しながら審議会の意見を聞いて決めたいと思います。
○大脇雅子君 今回の改正によっていわゆる専ら派遣労働者の発生に結びつくおそれがあると思いますが、これに対する歯どめはどのように考えておられるのでしょうか。
○政務次官(長勢甚遠君) 今度の派遣制度は、雇用の安定を図るために設け、また港湾運送事業に付随する限度でその実施を認めるということにしておりますので、その点での適正な派遣料金を決めたり、派遣日数の上限を設定するとしておるわけであります。
そういうことでございますから、個別労働者の派遣日数の上限も設定をしておるわけでございますので、専ら派遣就業に従事する労働者が発生するということはない、こういうふうに考えております。
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○委員長(吉岡吉典君) この際、委員の異動について御報告いたします。
本日、清水嘉与子君が委員を辞任され、その補欠として森山裕君が選任されました。
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○大脇雅子君 そうしますと、まず設定した基準の遵守状況についてどのように把握されるつもりなのか。
先ほど、他の議員の質問に立入検査や本人の申告等あるということでございましたけれども、どういうときに立入検査に入られるのか、あるいは脱法、違法事業主が判明したときにどういう処置をとられるのか、お尋ねをします。
○政府参考人(渡邊信君) 各労働者からの申告制度等ももちろんありますが、派遣料金や派遣日数というのは派遣を行う際の大臣の許可の基準になっておりますから、安定所長が定期的に報告を聴取し、仮に基準違反があって、これが是正されないということになると、許可基準に違反ですから、許可の取り消しというふうに最終的にはなります。
○大脇雅子君 港湾労働者雇用安定計画についてお尋ねをいたします。
この安定計画には港湾労働者派遣制度の一元的運営を明記することになっておりますが、その意図と具体的な内容を確認させてください。
○政務次官(長勢甚遠君) 港湾労働は、いわゆる波動性に対応して必要な労働力の需給調整を迅速に行う必要があるわけでございますし、また、いろんな問題を生じないためにもセンターによる一元的な運用が不可欠であると思っておりますし、これは労使においても一致した見解でございます。また、港湾労働者派遣制度の適正な運営が確保されるように、締結された派遣契約の内容を確認したり、その履行状況を調査するためにもセンターの役割はきちんとすることが適当であると考えておるわけでございまして、このため、労働省といたしましても、労働大臣が定めることとされておる港湾雇用安定等計画において、港湾労働者派遣制度について港湾労働者雇用安定センターによる一元的な運営が図られることが適当である旨を記載して、それに基づいて必要な指導を行っていきたい、このように考えております。
○大脇雅子君 一元的な運営との関係で、法第四十三条によりますと、港湾運送事業主には港湾労働者派遣制度の優先的な利用が義務づけられているわけであります。港湾労働者雇用安定センターに対し労働者派遣契約のあっせんを求めたにもかかわらず労働者の派遣を受けることができなかった場合に限って日雇い労働者を活用するということが可能になっております。
現在、日雇い労働者として港湾労働に従事している労働者の実情をどのように把握しておられるのでしょうか。また、改正法による制度のもとで、これらの日雇い労働者の雇用の確保のための施策を考えておられるのでしょうか。
平成十一年度港湾雇用安定等計画を読みますと、「都府県及び公共職業安定所が講ずる措置」といたしまして、「直接雇用の日雇労働者問題への対応」というところに、「直接雇用の日雇労働者の状況の的確な把握に努めつつ、直接雇用の日雇労働者を多数使用する事業主に対する個別指導も含め、指導を強化する。」ということになっておりますが、この指導の内容というものについてどのように考えたらよろしいんでしょうか。
○政務次官(長勢甚遠君) 港湾労働におきまして常用を基本とするという考え方がかねてからの、また今回の改正における基本でございます。
現実に、常用労働者による荷役作業は全体の九八・五%でございまして、一方、日雇い労働者による荷役作業は全体の一・二%、一日平均約二百十九人が活用されておる、これが現状でございます。
労働省としても、今後とも、基本的に港湾業務は常用労働者で対応していくという方針で進めてまいりたいと思っておりますが、あわせて、現在日雇い労働者でおられる方々につきましては、港湾に限らず建設等、他産業で就労する場合も多いと承知をしておりますけれども、今お話しのありましたように、日雇い労働者に過度に依存している事業主に対してはこれを常用労働者として雇用するように指導する、また、ほかの業務も含めて日雇い労働者の方々の雇用の安定に努力をしてまいりたいと思っております。
○大脇雅子君 そうすると、先ほどの他の議員の質問で、日雇い労働者というのは減少化するだろう、大体派遣労働者は二千人ぐらい、こういうふうに見通しも述べられたんですが、それはどういう根拠というか、これは再確認ですけれども、どんなものでしょうか。
○政府参考人(渡邊信君) これは私どもが行いました事業主の意向調査とか実際の就労実態とかから見まして、三万人ぐらいの常用労働者の方の中で二千人ぐらいが派遣対象になり得る可能性があるというふうなこと、及び一千人ぐらいについては日々派遣の需要が生じるのではないかという調査結果に基づくものでございます。
○大脇雅子君 安定計画に従わない港湾運送事業主に対しては、公共職業安定所長が指導を行うということになっています。
雇用安定計画によりますと、「港湾関係者の遵法意識の一層の高揚を図るとともに、現場パトロール及び立入検査の効果的な実施、違法就労者の識別を容易にするための対策の実施、雇用秩序連絡会議の積極的開催等により、違法就労の防止を図る。」、こういうふうに書かれておりますが、これらの指導は具体的にどのようになされるのか、お尋ねをいたします。
○政府参考人(渡邊信君) 指導の実績でございますけれども、平成十年度について見ますと、現場のパトロールというのは二千現場ぐらいについて行いましたし、また事業所への訪問指導につきましては、平成十年度、五百六十ぐらいの事業所について行っておりまして、この中で、例えば日雇いの雇用等についての違反というものが二十件ぐらい発見をされておりますので、それについては是正をさせるということにしております。
ただ、先ほど総括からも申し上げましたように、過度に依存する場合には当該労働者を常用労働者として雇用するように指導するとか、あるいは適正な手続を経た上で日雇い労働者の直接募集をするとか、そういったふうに改めるように指導をしているわけでございます。
○大脇雅子君 港湾労働の重要性とその国際的な重要性を考えて、この労働者派遣制度というものが労働者の常用労働の安定に資するよう運用されるよう祈ってやみません。
終わります。
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