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第 147 国会報告
労働・社会政策委員会
2000年4月25日 08 号

雇用保険法: 参考人質疑


○大脇雅子君 参考人の方には、大変貴重な意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。

まず、関根参考人にお尋ねをいたしたいんですが、今度雇用保険法ではパートタイム労働者や派遣労働者が雇用保険に加入できるための収入制限の上限の制約が取り払われるというようなことがあります。かつてフルタイムパートという言葉が生まれたと同様に、今回は長期臨時という形で有期雇用とか派遣労働者に対する雇用の実態が象徴的に語られるわけですが、今回は派遣労働者を中心にして雇用保険法の適用についてさまざまな問題点をお話しいただいたんですが、派遣労働者の実態ということについてもう少しまとめてお話しいただけるでしょうか。

○参考人(関根秀一郎君) パート労働者あるいは派遣労働者や期間契約労働者の問題を話しているときに、大きな誤解があるんじゃないかなというふうに思うときがしばしばあるんですが、といいますのは、その労働者がみずからそういう働き方を選んでいるんじゃないかという見方があるという傾向があるんじゃないかと思います。

しかし、現実には必ずしもその労働者が望んでそうした働き方をしているんではなくて、できることならば期間の定めのない雇用契約で安心して働きたいと思っているんだけれども、実際にそうした採用枠がない、雇用がないことから、期間契約で働いたりあるいは派遣労働という働き方をしているケースが少なくないという実態をまず述べたいと思います。

私が提出しました資料で十三ページに「労働者調査の結果からみた非正規従業員の実態」というのがございますけれども、まず派遣労働者を中心に見ていきますが、性別で見ていくと、派遣労働者の八五・九%が女性ということになっています。また、私ども派遣労働ネットワークで調査をした段階では、登録型派遣労働者の九三%は女性という結果が出ております。

これは、なぜ派遣労働という現場において女性が圧倒的に多いのかということを考えてみますと、やはり雇用市場の中で圧倒的に女性の方が就職しにくい、非常に弱い立場であるということから、正規採用の枠から押し出されるように派遣労働という働き方を選択させられているという実態があるというふうに思います。

実際に派遣労働で働いている人たちの具体的な働き方を見てみますと、実際長く働きたいという希望を持っている人が多いですから、派遣会社大体数社に登録をしてできるだけ長期の仕事を紹介してほしいというふうに派遣会社に依頼をしているわけです。それに対して派遣会社としても、できるだけ長い仕事をとってきてスタッフに紹介をするという形で働いています。それで、長期のお仕事ですよというふうに紹介するわけなんですけれども、現実にはいざ働き始めてみると、一カ月とか二カ月とか非常に短い期間の契約期間を定められてしまう、そういった契約書が後から送られてくるというのが実態です。

実際のところ、契約書というのは本来、働き始める前、あるいは、契約満了期間が来るのであるならばその更新前に就業条件明示書あるいは契約書といったものが発行されるべきなんですが、現実にはその契約満了時期が過ぎたころになって初めて契約書が送られてくるというのがほとんどです。そして、そのほとんどの場合、二年、三年程度を目安に働いている派遣労働者が非常に多いんですが、その契約期間自体は二、三カ月程度でして、その契約を更新するかどうかについては一週間前程度に知らされるというふうなことが非常に多いのが実態です。

○大脇雅子君 それでは、東京ユニオンではさまざまな相談事業をしておられるわけですが、雇用保険の受給等に関してどんなトラブルが相談事例として寄せられているのか、具体的にお話しいただけますか。

○参考人(関根秀一郎君) まず、先ほど言ったような、契約期間を何度も更新したりして働いている、あるいは更新はしていないまでも更新を予定していたような働き方をしていたにもかかわらず、直前になって契約期間を今回で更新しませんよというふうに言われるケースがあります。

そうしたケースにおいて、非常にトラブルが多いのは、派遣会社が離職票を発行するときに自己都合で発行してしまうということなんですね。先ほど言ったような派遣契約終了証明書、これに基づいて離職票を発行すると、どうしても選択項目が労働者都合というふうにしか選択できないということで、自己都合にされてしまうというケースが非常に多くあるようです。

それから、例えば契約が終了したときに、派遣会社として新たな仕事を紹介したのに、あなたが受けなかったから自己都合になるんですよというケースがございます。そうしたケースでよく話を聞いてみますと、とてもじゃないけれども受けられるような仕事じゃなかったというケースが非常に多いです。形式的に仕事を紹介したということをもって、それに応じなかったから自己都合になるんだということのようです。

そして、そういったケースをよく見てみますと、今までの働いていた仕事よりも時給は大幅にダウンしてしまう、そして通勤距離もとても通えないような場所で、また職務についても自分が今までやったこともないような仕事を紹介される。それでも応じないと自己都合になってしまうというトラブルがあるようです。

また、今まで給付制限の問題について、自己都合であっても給付制限を受けないというケースがあるんですけれども、例えば会社から故意に排斥されて退職した場合については、離職票に自己都合と書いてあったとしても給付制限を受けないというのが本来取り扱いとして定められているわけですけれども、同じように二人の労働者が同じ会社から排斥されて退職したにもかかわらず、ある職業安定所ではきちんとその話をして給付制限を受けないで受給できた。ところが、もう一人の方は住まいがちょっと違うところだったものですから、別の職安に行って同じように話をしたところ、いや、これは給付制限かかりますという取り扱いにされてしまったという例もありました。

また、これも派遣ではなく正社員として働いていた方なんですが、ビルメンテナンスの会社などでは、非常に多く高齢者雇用助成金を受けているケースがあります。御承知のとおり、高齢者雇用助成金を受けている会社において解雇を出してしまいますと、高齢者雇用助成金の支給が打ち切られてしまうということがあります。そうしたことから、会社が故意に解雇を出さない、本来は全く解雇であるにもかかわらず、自己都合退職を無理やり強いるというケースが非常に多いようです。

私のところに相談に来たケースでは、高齢者雇用助成金を受けている会社が、解雇を出したくないがためにその労働者に自宅待機を命じて、六カ月間も放置をして給料を払わない、そして本人がギブアップして自己都合の退職届を出してくるのを待っているというようなケースがありましたし、また、高齢者雇用助成金の打ち切りを恐れるがために、本来は普通の解雇であるにもかかわらず、労働者の責任がある解雇であるということで、懲戒解雇というような手段をとってくるというようなケースもありました。

○大脇雅子君 ありがとうございました。

現場でさまざまな事例が法の運用のひだを縫うようにして行われているわけですが、このところ規制緩和と雇用の流動化の中で多様な雇用形態がつくり出されてきているわけですが、そうした雇用形態にかかわらず、公正かつ平等なセーフティーネットのあり方というものについてどのようなことが必要なのかという点について、大沢参考人と関根参考人にお尋ねをしたいと思います。お願いいたします。

○参考人(大沢真理君) セーフティーネットでございますけれども、事柄が雇用形態のいかんにかかわらずということですのでそちらの方に重点を置いて申しますが、先ほど若干発言しましたように、雇用形態のいかんにかかわらず差別をされないということが原則だと考えます。このことをポジティブな言い方に言い直しますと、やはり労働の価値に基づいて、同じ価値の労働であれば同じ賃金率を支払うという原則が必要なのだというふうに思っております。

ところで、ILOの条約等を見ますと、第百号条約、同一賃金についての条約は、先進諸国を中心として同一価値労働同一賃金の原則を含んでおるというふうに解釈されていまして、日本政府もそのことについては反対はしていない。むしろそのことを含んで日本は百号条約を批准しているというふうに答えていると私理解しておりますけれども、しかしながらそれが国内で適用されていない。そのために、規模別の賃金格差、そして男女の賃金格差という大きな賃金格差がある。

男女の賃金格差につきましては、女子差別撤廃条約の委員会などを通じても、どうしてこれがこんなに大きいのかと。御承知のように、フルタイム労働者の所定内賃金で見ましても、女性の賃金は男性の六二%しかない。それから、フルタイムパートというような人々を入れてみてきたときには半分になってしまうということで、先進諸国といわず、工業化した国を通じて最も大きい男女の賃金格差が日本ではあるわけですけれども、これについて一体どういうことなのかというふうに日本の政府が聞かれましたときに、従来の回答としては、いや、男女の格差だけでなく、男性同士の間でも日本は年功制があるがために同一価値労働同一賃金になっていないんです、若いうちは安い賃金だけれどもたくさん働いて、いわばその働きを積み立てていったのを中高年になってから働きよりも高い賃金をもらうことで取り崩しているのが日本の年功制ですというような説明を日本の政府はしてきたんだと思うんです。

これも年功制というのはすべての雇用者の中の二割か三割ぐらいしか厳密には適用されていないわけですから、それがためにすべての賃金格差が許されるということではないとは思いますが、しかし百歩譲ってその辺を認めたとしても、現状では年功制というのは明らかに過去のものになっていて、個人別の、それからそのときの働き、職務に応じたスポット的な賃金というふうに大きく動いてきているところだと思いますので、今こそ同一価値労働同一賃金の原則というのを適用できない理由は何もなくなってしまった。年齢差別の問題もあわせて、このような均等待遇で雇用差別を禁止するような政策というのが今非常に現実的にとりやすく、合理性のあるものになってきているのではないかというふうに考えますので、これがまずセーフティーネットではないかというふうに考える次第です。

○大脇雅子君 関根参考人、何かありましたら。

○参考人(関根秀一郎君) 雇用の流動化というのが、よしあしは別として非常に広がっている中で、果たして流動化した労働者、これが不安定雇用というふうにならないで、きちんと安心して働けるようなシステムをどうやってつくっていくかというのが非常に重要だと思います。

例えば先ほど話が出ておりました社会保険に関することなんですが、労働者の側に確かに、特に派遣労働者の場合、加入したくないという方がいらっしゃることは事実なんですが、その派遣労働者がきちんと社会保険に加入していけるようなシステムをどうやってつくっていくかということが非常に重要だと思います。雇用が打ち切られるたびに社会保険から国民健保に切りかえなきゃいけない、そういった保険の切りかえの煩雑さが派遣労働者に加入したくないという気持ちを起こさせているわけですから、間があいたとしても継続して社会保険に加入できるようなシステムにしていかなきゃいけないんじゃないかというふうに思います。また、そもそも話で言えば、間があいていくということ自体が労働者の雇用を非常に不安定にしているわけですから、そういったところに対する措置も必要であろうと思います。

また、事業主の側については、やはり社会保険料がコストとして非常に負担であるということで加入を拒んでいるケースが多いわけですから、事業主の側のそういった観点からすると、派遣料金とは別建てで社会保険料を派遣先に請求できるようなシステムというのを構築すべきなんじゃないかというふうに思います。

また、そういった流動化している働き方の中では、複数の会社を転々とするというのは言葉が悪いですけれども、幾つかの会社を渡り歩いていくということは往々にしてあるわけです。そうした方が退職金をきちんと保障されるような積み立て制度のようなものが必要なんじゃないかなというふうに思います。

また、先ほど大沢先生がおっしゃっていたように、雇用形態が違うということで非常に賃金の格差が広がっているというのも実態です。派遣労働者が派遣先で、そこの派遣先の正社員と同じ仕事あるいはもっと荷重のかかる仕事をしているにもかかわらず、その賃金の大きな格差について是正をさせるような法律が一切ないということについては非常に大きな問題であるなというふうに思っています。

また、今派遣で働いている方たちの間では三十五歳定年説なんというのがささやかれています。三十五歳を過ぎると仕事の紹介がない。これは、派遣労働者を受け入れている企業が若い人をよこしてくれというようなことをオーダーしてくるというのが背景にあるからなんです。

昨年改正された労働者派遣法の中でそういった派遣先が労働者を特定するようなことは禁止された。また、若年層を指定するということも明確に禁止されているわけなんですが、残念ながらそのような実態は全く変わっておらず、つい先日もその件に関するトラブルがあったんですが、ある派遣労働者が常用型の派遣で働いていて偶然、偶然といいますか、三月の末でその派遣先がこれで終わりですということで契約が終了になった。そして、四月からの仕事を派遣会社として本来保障しなければならないんだけれども、その派遣会社が出してきた仕事の探索リスト、派遣先、こういうところを今探していますという探索リストを、一覧を見てみましたところ、二十五歳ぐらいまでという仕事ばっかりなんですね。これが研究開発職の仕事であるにもかかわらず二十五歳程度の人を求むという仕事ばかりである。こういった点も是正されるべきだなと、きちんと規制されるべきだというふうに考えます。

○大脇雅子君 ありがとうございました。

それでは、成瀬参考人にお尋ねしたいんですが、今のところ雇用三事業に対して大変批判が、いろいろ御意見が出たわけですが、私が調査いたしましたところによりますと、例えば創業や異業種への進出を行う中小企業が労働者を雇い入れる際の助成金は、予算額四百十三億七千六百万円に対して執行率が一二・三三%、それから中高年の非自発的失業者を雇い入れた事業者に対する緊急雇用創出特別奨励金は、予算額六百億円に対してわずか執行率は〇・六三%、新規・成長分野雇用創出特別奨励金は、予算額九百億円に対して執行率は〇・七七%、労働者の出向や再就職のための人材移動特別助成金は、予算額四百一億一千百万円に対して執行率三・二%という状況なんですけれども、事業主の方から見て、どうしてこのように中高年者を雇用した雇用創出のための助成金が利用されていないのかということですね。その点についてお尋ねをしたいと思います。

それから、大須参考人に対しては、失対事業が、やはり雇用三事業の一つの財政の流し合いがチェックされたとはいえ、現行においてこのような状況についてどのように失対事業のあり方として思われるのかお尋ねをいたして、私の最後の質問にしたいと思います。よろしくお願いします。

○参考人(成瀬健生君) 予算を組んだ三事業のお金が必ずしもうまく使われていないということは間々ございまして、実は私ども拠出をしております経営者もどうしてそういうことになるのかということを当局に御質問したりするわけでございます。もちろんその時代、その時期時期の、今挙げていただいたようなものも多分こういうものは需要がたくさんある、そういう声を反映したものとして創設するというふうなことでやるわけでございますけれども、必ずしも一〇〇%当たらないというふうなこともございます。

私どもは拠出側でございますから、できるだけ有効に使っていただきたいということでございまして、そういうことができるだけ少なく当たるようにということをお願いしつつ、協力もしつつ、意見も反映しつつということはやっておるわけでございますけれども、結果的にたまたまそういうこともある。しかし、これは使い残ればまた別に使えるわけでございますので、できるだけさらに改善をして使う。そういう点では、私どもは常に意見を申し述べて、もっと使い勝手のいいものにということは毎年毎年繰り返し繰り返し申し上げて、少しずつよくなっているんじゃないかなという感じもします。

ただ、こうした激変の時期にはちょっとそうしたミスマッチみたいなことが起こることも、ある意味では拠出側としてもある程度忍ばなければならぬのかなという感じもしないではございません。

○参考人(大須真治君) 雇用三事業については、何で雇用保険の中にあるのかという、これがわからない、こういうことです。

ただ、疑わしいと言っちゃいけないんですが、状況証拠からすれば、恐らく失業保険から雇用保険に変わるときに事業主負担部分を一応失業のお金に使っている、負担しているということで雇用三事業を入れたんじゃないかなというふうに、これは邪推ですがしていると、こういうことであります。ですから、これはやっぱり制度上すっきりさせた方が失業対策としてはいいんじゃないかなと、こういうふうに僕は思っています。

それから失業対策事業はこの雇用保険事業とは関係ないというか、本来失業対策事業は国の資金で行うということが原則になっていますから、これは一回廃止されておりますけれども、ただ、それに関連した事業は辛うじて残っている面もありますけれども、これについてはやはり全面的に国の資金でやっていただくということが必要でありまして、ちょっと雇用三事業の問題とは違うような気がするんですが、何かあれでしょうか、僕の……

○大脇雅子君 いえ、いいんです。緊急失対法が雇用保険法が改正されるときになくなって、そのとき大変大きな反対もあったわけですが、こういう時代に私は改めて失対事業というものの新しいあり方というのを考えるべきだというふうに考えているものですから、先生のお考えをお尋ねしたということでございます。

どうもありがとうございました。



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