第 147 国会報告
金融経済活性化に関する特別委員会
2000年5月10日 6号
参考人質疑(金融システム改革・ペイオフ他)
○大脇雅子君 田中先生にお伺いしたいんですが、ペイオフの延期について先生は、移行期の改革の逆流であるというふうにも言っておられますし、日本経済の自律的な回復軌道というものの復帰をおくれさせたというようなことを言っておられます。私も、信用組合がノンバンクにかなり不良な貸し付けをしておりまして、その破綻処理に預金保険機構が使われていくことによって国民の負担が過大になるということについて大きな危惧を持っております。
確かに、システミックリスク回避の方途という正義の御旗のようなことを説かれましてやむを得ないんだという風潮がありますけれども、私はやはりこの自由化の中でなぜ日本はこれほどまでに情報開示が不徹底であるのかと。最近の第一火災の例にもありますように、早期是正措置が全く働かないで業務停止になっていくというような日本の状況というのは、どうしてこれほどまでに情報開示がおくれるのか、不徹底なのかという点について。
それからまた、非常に経営責任があいまいですね。何と言われてもなかなか責任がとられていないで免責されていく。そして、何と言われてもリストラクチャリングが不徹底で非常に小さな規模しか行われていない。この移行期における日本のこうした特色というものをどのように受けとめられるのか、そしてこれをどう改革したらいいのかという点についてお尋ねします。
○参考人(田中直毅君) 第二次世界大戦後、我が国は恐らく二つの原理を余り相互に闘わせることなく持ち込んできたんだと思います。一つは、大組織において見られるものですが、企業というのは利害当事者すべてのものだと。経営者も、働いている人もいるし、取引先もあるし、地域住民もある。そういう中の一つに株主もあるのかなと。こういう形で動いてきたのが上場企業を中心とした動きだったと思います。
もう一つ我が国にあったのは、今回協同組織金融機関に特徴的なものでございますが、従来の仕組みでは小口の預金を持っていても融資対象にはならない、それだったら自分たちで小口の預金といいますかお金を集め合って、それで手元不如意な人、住宅を建てる人に貸し出すということがあってもいいではないかと。これが協同組織金融機関の発祥だったと思いますし、そのことは社会的な正義でもあるということだったと思います。
ところが、この二つ柄、上場企業のコーポレートガバナンスというものがこれに対応すべきだというふうに思いますが、一方でこの大企業の問題、上場企業の問題があると同時に、協同組織金融機関の問題も同じようにあらわれてきた。今回の金融不安というのはこの双方から出てきている。おっしゃいました経営責任の問題というのは、上場企業にも言えますし、協同組織金融機関についても言えるわけであります。
すなわち、まず協同組織金融機関の方からいきますと、地域的にあるいは職域で限定されて、統治といいますか、ちゃんとした経営が行われているということは周りを見渡せば大体わかると。外部から大変な監査機関を導入しなくても、きちっとした経営が行われている。貸し金は皆の住宅資金であり、例えば規模の小さい企業の投資資金だということならば、そんなに片っ端から不良債権が出るということはあり得ないわけです。
現実に不良債権が生まれているというのは何かというと、もう見ず転で実質上ノンバンクに貸しているからなんです。ということは、協同組織金融機関が当初前提としていたものとは全く違う行動を行っていて、そのことに対して都府県のチェックも入らなかった。このことが今日信用組合を、今回、ペイオフの解禁で信用組合に問題があるというのは、まさにそれが放置されたからなんです。
大組織についていいますと、これは一言で言って株主の監視機能が極めて入りにくい仕組みになっている。株式持ち合いというのも多分あったでしょう。そのほかにも、株主権に基づく企業経営者に対する目配りと監視というものがききにくい仕組みが長年放置されたことが今日の不良債権問題につながっている。もっと早くなぜチェックがきかなかったのかということになると、これのきかせ方としては株主権に基づくものしかないのではないか。
金融機関も同様でございまして、自己資本規律に基づいてなぜ監視をするのか。それは、株主権に基づいて企業経営者をチェックするのが一番いいと。自己資本比率が低い金融機関というのは、負債でもって資産を買っている、負債を積み上げて資産を積み上げているという形でございますから、もし金融機関にとっての負債の部分が救済されるということならば、資産に対する目配りというものが落ちるわけでございまして、いろんな経験上、自己資本規律は自己資本でもって金融機関を規律するのが望ましいという経験値に属しているわけで、これはイデオロギーというよりは経験値に基づくものです。
そうでないやり方があるだろうという説もあるようですが、それをやるということは膨大な行政コストを前提にするということであります。低い自己資本比率でも経営してもいいということになりますと、一挙手一投足に至るまで監視機関は挙げてチェックしろということになりますから、そんな膨大な行政コストを納税者がとても許すとは思えませんので、自己資本規律を行うというのは、まさにそれぞれの市民社会の厚みに応じて、株主には株主の果たすべき役割がある、それを通じて整合的な規制システムをとろうということの合意ができつつあるんだと私には思えます。
○大脇雅子君 ありがとうございました。
米田先生にお尋ねをしたいのですが、少額預金者のための保護機構として小さな預金保険機構ということを繰り返して言われておりますが、日本の今の預金保険制度で最も根幹的に直すべき点というのはどこだというふうに御指摘されるでしょうか。
○参考人(米田貢君) 今回の預金保険法の改正のところで参議院の事務局の方でも資料をつくってくださっていましたけれども、その中を見ていても、日本で預金者の九九%ぐらいはもうほとんど付保預金の限度額の枠内でおさまっています。だから、そういう点でいくと、少なくとも金融不安というものが起きたとしても、あるいはさらには具体的な個別の金融機関の破綻が起きたとしても、少なくとも現行の預金保険制度を前提とする限りは一般の零細預金者の懐というのはそれ自体はそんなに痛まないわけです。利便性の問題は当然ありますよ。ただし、最終的に一千万円まで保護されている限りは、少なくとも一般の我々庶民の銀行に対する不安というか銀行預金に対する不安は変わらないわけです。だから、その点をやっぱり徹底させる。
だから、その点でいくと、先ほども言いましたけれども、破綻の処理方法においてペイオフの解禁というのは象徴的な問題です。ペイオフを解禁したからといってペイオフを直ちに実施するわけじゃない、ただしペイオフをやる場合もあるということは、要するに、どんな最悪の場合だって零細預金は保護される、要するに私たち国民は自分たちの預金は保護されているんだということを具体的に知ることになろうかと思います。
だから、そういう点では、私としては、やはり正常な預金保険制度の運営の中ではペイオフの実施というのは不可避的な選択肢として選ばれるべきだろうと思っていますし、それと今回の預金保険法の改正の中で付保預金のPアンドAというのが具体的に提起されています。僕はこれ自体は物すごい画期的な破綻処理方法だと思っています。要するに、金融機関の利便性はそのまま地域で維持されますし、地域経済にとっても金融機関が直接破綻して全部清算されるという形じゃないですから、その限りにおいては地域住民にとってあるいは地域経済にとって従来の金融システムの役割というのはそのまま維持されると。
だから、そういう意味では、零細預金者を保護しながら、なおかつ地域経済への影響も最小限に抑える方法だというふうに考えますから、そういうふうな方法が具体的に実施されていくことが大事だろうというふうに考えております。
○大脇雅子君 ありがとうございました。
最後に一点……
○委員長(真鍋賢二君) 時間です。
○大脇雅子君 そうですね。
一点ちょっと。保険事故が多様化して生保中心から総合保障化への傾向がある中で、犯罪に悪用される生命保険という点で、私は被保険者への通知サービスということを業界として考えていただきたいということを切望いたしまして、時間ですので質問を終わります。
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