第 145 国会報告
労働・社会政策委員会
1999年6月1日
派遣法・職安法改正ほか
○大脇雅子君 社会民主党の大脇です。
古川参考人にお尋ねをいたします。
今回の改正法案により設けられようとしております派遣法四十条の二に関しまして、条文にあります就業の場所及び業務の同一性という言葉の意味について御指摘がありました。この就業の場所及び業務の同一性という言葉は、最初は法第二十六条二項による派遣期間制限の規定に関して労働省が通達で用い始めた言葉だというふうに理解しております。
この法二十六条二項による派遣期間制限の規定は、昭和六十年に政府が派遣法制定を提案したときの原案にもなく、衆議院先議で一部修正の上可決された時点でもなく、その後に参議院で追加修正した二項目の一つであり、参議院で追加後に衆議院に回付した。そんないきさつを見ますと、この参議院の英知で追加された二十六条二項という問題について、労働省はこの期間制限条項が適用される場面を、通達を発しまして、就業の場所と業務が同一でなければ期間制限条項は適用できないという解釈例規を示して実質骨抜きにしようとしてきたという経過があると思いますが、この点についてどのような御意見でしょうか。
○参考人(古川景一君) 御指摘のありました現在ある期間制限の条文、二十六条の二項が参議院で追加された条文であるという経過については御指摘のとおりであります。それで、いわばこの経緯に照らしまして、この期間制限の条文というのは労働省が望まずに参議院でつくられた条文だ、そして労働省はこの条文に関する通達を出して、いわば同一の業務、それから就業の場所の同一性ということで縛りをかけて使い物にならなくしたというのが実情だろうと思います。
それで、今度使い物にならなくした条文の文言、つまり就業の場所と業務の同一性というそれを法律に格上げしようというのが今回の条文の構造だと、こういうふうに理解しております。
以上です。
○大脇雅子君 そうしますと、それの行政解釈に起因するということですが、それについて何か具体的な実例を挙げて説明することはできますか。
○参考人(古川景一君) 最近の例で中部地方の相談活動の中に注目すべき実例があります。派遣労働者の仕事は一般事務です。それで相談内容は、派遣先から三年を過ぎて雇用し続けることはできないからやめてもらいますと言われた、でも自分としては同じところで働き続けたい、何とかならないかという相談であります。これを受けた労働組合側の担当者の答えは、仕事の中身をほんの少しでも変えたことにすれば派遣を継続できるから、だからそのように業者と派遣先にお願いするようにという回答であります。
この報告というのは大変胸が痛むんですね。というのは、そもそも一般事務は派遣対象ではない。公然と違法な派遣がされている。しかし、違法な派遣でもユーザー企業は雇用の責任を負わない。そうすると、告発しても、労働者が失業して終わっちゃうだけなんですね。それで、さらに三年間という期間の制限が来る。また失業の危機だ。そのときに首を切られないようにするのならば、仕事をちょっとだけ変えるという小手先の細工をして首を守らざるを得ないんです。それで、労働組合の担当者も労働省と同じことを言わざるを得ない。まさに失業回避のためには、就業の場所と業務をちょっと変えるという問題が起きているわけです。そして、雇用責任が明確でないからこそ、さっき偽装派遣の問題も出ましたけれども、小手先で変えていくというやり方が横行せざるを得ないわけです。
○大脇雅子君 今回の派遣法の改正は、臨時的、一時的派遣に制限するということに基本があるわけですが、そうすると、いわゆる就労の場所とか業務の同一性という言葉を一年間の期間制限の条文に取り入れるということは何か非常に奇妙なことに考えられますが、これはどのように考えたらいいんでしょうか。
○参考人(古川景一君) いわば参議院でつくった条文を骨抜きにした通達を法律に格上げするなんというのはとんでもない話だと私は思っております。
それで、本当に臨時的、一時的な業務に限定するつもりがあるならば、条文の中に臨時的、一時的な業務に限ると入れればいいことです。そして、私どもとしましては、その条文を追加するだけではなくて、一年間という文言についても、業務の同一性ということをもし言うのであれば、一部でも同一であれば全体として同一とみなすというような条文の追加も必要だろうと、こう思います。
○大脇雅子君 今回衆議院で修正されました点については、とりわけ派遣期間の一年に限定して、派遣先にそれを超えた場合には事業主に対しまして労働大臣が雇い入れ勧告ということができ、その勧告に従わなかった場合には企業名を公表するという新しい制度を導入したわけであります。
そこで、荒川参考人にお尋ねをいたしたいわけですが、労働大臣のかかる雇い入れ勧告がなされた場合に派遣先の事業主は当然に従うべきであるとお考えなのでしょうか、いかがでしょうか。このような改正法が成立して制度が導入された場合には、その旨を全国の企業経営者に指導、周知徹底をなさるつもりがあるのか、お尋ねをしたいと思います。
○参考人(荒川春君) 常用代替の防止のために今回の修正が行われ、そして御指摘のとおり、一年を超える際に派遣元に対する派遣契約締結の禁止、さらには期間制限の規定に抵触した派遣元に対する罰則適用、そして派遣先に雇い入れるよう労働大臣が指導、助言、勧告ができる、勧告に従わない場合には企業名の公表という措置が修正として入ったわけでございまして、この定めたことにつきましては、正直のところ大変な二重、三重、四重の縛りをいただいたものと、こういうふうに感想として申し上げたいと思います。
しかし、このような形で議会でもって成立されるものであれば、これはこの法の全体の趣旨からしてこの必要性を議会で認めたものでありますので、その趣旨を私どもの組織を挙げまして徹底するということは、今の私の立場として考えてみたいところでございます。さらに、当然ながら派遣元事業主の団体も日経連の加盟団体でございます。そういうところと一緒になりまして、派遣先に対します、ユーザーに対しますいろんな周知徹底というのは独自に行っていきたいと思っております。
○大脇雅子君 この修正に対する経営者の方たちの今御感想をいただいたわけですけれども、実務上といいますか現場の対応として、労働大臣の助言があり、指導があり、雇い入れ勧告があり、会社名の公表ということがあるわけですが、私の代表質問では検討中というお言葉が大臣から多かったわけですけれども、基本的にまず民事的な効力がないと実効性が上がるのかなという疑問があるわけですが、それについて古川参考人はどのようにお考えでしょうか。
○参考人(古川景一君) 御指摘のように、民事的効力をはっきりさせない限り実効性はないと思います。
今、荒川参考人も、新たにできた指導、勧告について趣旨を徹底するとおっしゃるんですが、従わせる、それから指導があれば必ず採用しますとは絶対にお約束にならないわけですね。それはできるわけがないわけです。
なぜならば、勧告があっても会社は従わない自由を持っているわけです。いわば指導、勧告の制度では、それをやったとしても採用されずに結局労働者が失業して終わるという、その問題は何ら解決されていないわけです。そういうような危険があるときに、じゃ行政に駆け込むかといったら、それはよっぽど決意を持って覚悟をして、失業してもいいやというぐらいの思いがなければいけないと思います。問題を出したときには直ちに企業の側が採用せざるを得ないというふうに、自動的にそうならざるを得ないシステムにしておく必要があると思います。
それから二番目の問題として、行政の側の事務処理能力の問題があります。
配付されている資料を見ましても、東京都の調査で三年以上の派遣期間というケースが一二・四%あります。上限破りが今でも一割を超えているわけですね。そうすると、これが解禁されれば数十万という規模で期限破りが出てくる。これに対して、現在労働省が配置している労働者派遣事業指導官の数というのは全国で百二十数名にすぎません。職安が四百カ所を超えてあるのに百二十数名しかいないんです。これを一けたふやすのであれば実効性はあるかもしれない。だけれども、行政改革の折にそんなことはできるはずがない。そうすると、やっぱり基本は御指摘のように民事的効力をきちんと持たせることではないかと考えます。
○大脇雅子君 具体的に、民事的効力を持たせるための法文というのはどうあるべきだというふうに古川参考人は思われますか。
○参考人(古川景一君) 既に申しましたように、お隣の韓国では直接雇用したものとみなす、こういう制度になっています。私としましては、このようにみなす制度、これが一番簡潔でわかりやすいと思っています。
ただ、別の手法もあると思います。それは例えばドイツの制度でありまして、ドイツではみなすのではなくて推定するというやり方です。
その具体的な手法というのは、派遣期間が一年を過ぎたときには、その一年間は実は派遣ではなくて職業紹介だったのだとみなすんです。その動機が、派遣を利用するんじゃなくて職業紹介だったというふうに推定してみなしてしまう。だから、一年経過したのならば、その当事者の意思としても直接雇用の契約を発生させるんだというふうに推定させていく、こういうシステムです。
法律家の目から見ますと、当事者の雇用に関する意思を推定するというなかなか技巧的でうまいやり方だなとは思うんです。ただ、日本で考えてみると、これはなかなかわかりにくい。そういう意味では、私は韓国のように端的にみなすというふうにいった制度の方がいいと思います。
ただ、ドイツ型でも韓国型でも、それはいろいろなやり方があるわけで、選択肢は幾つもあると思います。問題は、直接雇用の責任をユーザー企業に負わせるというそこの決断をすれば、あとは立法技術上の選択肢は幾つもあると思っております。
○大脇雅子君 民事的な効力を何らかの形で規定しないと実効性が期待できない。雇い入れの勧告制度というものが、雇い入れ勧告があったら、その反射的な解釈としてそこに民事的な効力が推定されるという解釈の余地もなくはないというふうに思われるんですが、ぎりぎり詰めた場合に、雇い入れ勧告に企業の派遣先の方はそれを全く受け入れられるかどうかという点について再度荒川参考人に、今の古川参考人の議論を踏まえまして何かコメントがございましたらお願いします。
○参考人(荒川春君) 今回の改正法案につきましては、対象業務の限定を製造業を含めまして大幅に残しながらも、派遣先の業務単位での期間制限とか、あるいは期間経過の場合の派遣先による雇用の努力義務を設けるものでありまして、各国の制度と比べましても大変規制色の強いものであると私は考えているところでございます。
御指摘の点につきましては、そもそも雇用をするかしないかのぎりぎりの話になりますと、これはあくまでも雇用契約の自由というものが、契約の自由というものがぎりぎりのところであるはずでございます。そういうところまで入り込むということにつきましては、なかなか企業としては受け入れがたいというのが実感ではないかなと思います。
○大脇雅子君 そうしますと、いわゆる雇い入れの勧告を遵守するということはどういう意味になるんでしょうか。
○参考人(荒川春君) この法律の全体の趣旨をとらえまして、その企業でその勧告につきまして判断をするということになろうかと思います。
○大脇雅子君 今、古川参考人の方から韓国の派遣労働についてさまざまな特徴を言われたわけです。経済のグローバル化、とりわけアジア経済における我が国の位置と果たすべき役割を考えますと、公正競争ルールに基づく経済競争ということを考えた場合に、我が国の派遣労働というものは、やはり非常にアジア諸国に与える影響と不安は大きいように思いますけれども、その点について荒川参考人、それから井上参考人にお尋ねをいたします。
○参考人(荒川春君) しっかりとした検証はできかねますけれども、現在の経済のグローバル化によりまして、御案内のとおり、製造業の一定の部分につきましては、働く場をも含めまして日本から出ていることは御案内のとおりでございます。そして、労働に係る競争というものにつきましては、我が国におきましてはアジア諸国と比較しまして大変高いコストを抱えながら競争せざるを得ない状況にあることは御案内だと思います。
そういうところからいたしまして、さまざまな国内におきます産業と雇用を守るという視点からこの労働者派遣法の改正問題があるものでありまして、逆にアジアとの関係におきましても、むしろ我が国の雇用を守るためのものとして、雇用を拡大、維持するためのものとして見ていく必要があるのではないかなと私は思います。
○参考人(井上勇夫君) 私も、一年という規制でございますが、正社員を希望しておる派遣スタッフももちろんおると思います、一年経過したときに正社員になれるということで。しかし、反対といいますか、正社員を希望しない社員にとっては、この法律のもとにその職場を去るという面も出ることはあるんじゃないかと思っております。何らかの理由で正社員にはなりたくないというスタッフも結構おります。現場でやっておりますと、正社員をやめて派遣スタッフになる方が現実におります。
ですから、今回のものに対して、一年以上たった場合は正社員にするのだという法律については、派遣スタッフ自身が反対しておる者も一部は中におることを御理解願いたいと思います。
○大脇雅子君 さまざまな御意見ありがとうございました。
最後に、他の参考人の御意見に対して古川先生のコメントを一分ぐらいでお述べいただいて、私の質問といたします。
ありがとうございました。
○参考人(古川景一君) 先ほど申し上げましたように、今回の条文というのは参議院の英知でつくった条文を崩すためにできた通達なんですね。これを参議院がそのまま通すとしたら、私は参議院の見識が問われると思っております。ぜひともその部分はもう一度検証していただきたいと思っています。
それからもう一つは、雇用責任をはっきりさせないと、入り口と出口のところの問題ですから、出口のところで労働者を失業させておしまいという解決はとれないだろう、こう思います。
以上です。
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