第 145 国会報告
労働・社会政策委員会
1999年3月9日
雇用対策・中国人実習生ほか
○大脇雅子君 失業情勢の見通しについてお尋ねをしたいと思います。
失業率は今四・四%という形で、潜在的失業率を加味すればもう一〇%近くなっているんではないかということが言われています。とりわけ、三月期決算を控えてその後さらに大企業のリストラが進み、アジアへの輸出が低迷し、それから今までは中小企業が失業者の受け皿になっていたという状況が消失して、さらに失業率が上がるというふうに言われています。
労働大臣にお伺いしたいんですが、労働省としてはこの失業情勢を全体としてどのように見ておられるのか。とりわけ若年、中高年、女性に対して非常に厳しい状況が現出すると言われており、地域差もかなりあるということに対してどのように実情を把握しておられるのか、お尋ねいたします。
○国務大臣(甘利明君) 直近の完全失業率の数字は四・四%、これは過去最悪の数字であります。そして、有効求人倍率も〇・四九と、二人の失業者に一つの仕事もないという状況でありますから、非常に厳しいというふうに認識をしております。
特に、二十四歳までと六十歳以上がともに八%を超えている失業率でありますから、若年層、中高年層にさらに厳しい状況であると。それぞれ個別にいろいろな対策は打っているつもりでありますけれども、なかなか目に見えて効いてこないというのは正直歯がゆい思いはいたします。
そこで、失業率というのは景気の遅行指標でありますから、経済全体を持ち上げるということは政府全体で今懸命に取り組んでいることでありますし、雇用情勢の改善に関しても、先般産業構造転換・雇用対策本部の会議で具体的な数字が示されて、それぞれの担当する省庁がそれに向かって最大限の努力をしていくということも確認をされておりますので、とにかく今一番厳しい状態であることは間違いありませんけれども、政府を挙げて改善に取り組んでいきたいというふうに思っております。
○大脇雅子君 その失業率のいわば現状把握について、労働省としてはよく雇用のミスマッチということを言われるわけですけれども、このミスマッチというだけではもう今の現況の失業状況を基本的に説明することにはならないのではないかと思います。とりわけ雇用のミスマッチは、産業におけるいわゆるミスマッチというよりも、それもありますけれども、構造的には性差別とか先ほどさまざまに言われております年齢差別とか、今までのそうした労働市場における差別構造というものが失業を非常に増幅させているというふうに考えられるのですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。
○国務大臣(甘利明君) いわゆる雇用のミスマッチというものがかなりの数字に上がっているということは常々御指摘をされているとおりであります。特にその中で女性に対する性差別であるとか、あるいは中高年齢が厳しいということは年齢差別、これが起因しているのではないかという御指摘でありますが、確かにないとは言えないと思います。
そこで、女性に関しましては、均等法の改正で募集、採用、昇進、配転等あらゆる分野で差別をしてはいけないというのを法定義務にされるわけでありますから、改善をされてくるだろうというふうに思います。
中高年齢層に関しましては、募集の際の年齢要件はけしからぬというお話もかねてから随分御指摘をいただいておりますが、先ほども申し上げましたように、日本の雇用慣行といいますか雇用文化というのはどうしても年齢と密接な関係がある、あるいは勤続年数と密接な関係がある、待遇がですね。そういうところから出てきているということもありますので、その辺の日本的雇用形態がどういうふうに変化をしていくかということと年齢の関係はリンクをしてくるのかなとも思う次第であります。
もちろん労働省といたしましては、中高年齢層にターゲットを合わせた雇用の開発プロジェクトというのも推し進めておりますし、いろいろな政策効果を期待しながら、御指摘の点の解消に努めていきたいというふうに思っております。
○大脇雅子君 失業をできるだけ回避するためには、もちろん現状の雇用維持・安定政策というのは非常に重要ですけれども、今言われております雇用機会創出の戦略として、さまざまな二十一世紀への分野、希望の分野に対しての雇用の創出が言われているわけです。数値目標などさまざまな数字が飛び交っておりますけれども、労働省としてはどの数値目標を掲げられ、しかもそれの具体的な効果の戦略というのをどのように組み立てておられるのか、お尋ねいたします。
○国務大臣(甘利明君) 私が就任しまして十一月の緊急経済対策の雇用部分を担当させていただきました。そのときに初めて具体的に百万人という数字を掲げまして、これを目指すということを発表させていただいた次第であります。ただ、その後の質疑で、百万人はいいとしても従来政策の雇用維持政策が大部分ではないか、つくり出すという部分については数がまだまだ少ないし、しかもその内容についてはいわゆるマクロ経済に資する部分が雇用にはね返るという発想からの域を出ていないではないかというおしかりをいただきました。私はそのときに、これで全部終わりですと言うつもりはありません、具体的に各省が雇用創出が期待される各分野に重点的に予算を配分しあるいは規制緩和をし取り組んでいくという努力が残っていますから、それを誘発する効果はありますからというお話をさせていただきました。
閣僚懇等の場で、百万人の創出部分が三十七万だけれども、できるだけ百万人そっくり創出効果になるように、各省は雇用の創出という切り口から施策の推進を図ってもらいたいということを何度か申し上げました。他の閣僚からも賛同の御意見もいただいた次第であります。
そこで今回、総理が主宰をされる産業構造転換・雇用対策本部、ほぼすべての閣僚が参加している会議でありますが、そこで具体的な項目を挙げて各省がこのぐらいの努力は可能であろうという数字をはじいてきてくれました。これは一歩前進だというふうに思っております。その分野につきましては、先般発表されましたように、保健・福祉分野、情報通信分野、住宅及びその関連分野、そして観光の四分野でございます。これは我が省の中小労確法の改正による創出分野とまた別な分野で当然ございます。
○大脇雅子君 そうすると、数値としては一応百万人というのが目標数値と考えてよろしいんでしょうか。
それで、それがいつまでどんなステップで、それからどうやってフォローアップしていくのかという、そういう機構の中の作業といったものはどんな打ち合わせになっているでしょうか。
○国務大臣(甘利明君) 百万人がそっくり雇用創出にいつまでになるかということはまだ確定できませんけれども、百万人の当初の数字の中には三十七万プラス六十四万という創出と安定がありますが、創出だけで百万に近づくように努力を政府としてしているわけでありまして、具体的な数字で七十七万、一両年のうちと。一両年というのは、保健・福祉分野は予算ではじけますのでこれは単年度、十一年度でありますが、他の分野は一両年、二年間にわたるという意味であります。
これを、この間の雇用対策会議の席上でたしか大蔵大臣からの発言だったと思いますが、具体的にフォローアップしていく作業はできないのかという質問がありました。これは例えば半年ごとにフォローアップするということはなかなかできない、追っかけるのはなかなか大変なようでありますが、もうちょっと長いスパンであるならばある程度その確認ができるんじゃないだろうか、その作業を関係省庁で努力をしてみてくれという話になりました。そこで、雇用対策本部のもとに幹事会を設置して具体的なできる作業をしていこうということに先般の会議ではなったわけでございます。
○大脇雅子君 東京、大阪ではハローワークなど休日とかあるいは時間を延長して行われるということですけれども、地域的に見ると北海道とか沖縄あるいは近畿が非常に悪いという数字が出ているわけですけれども、そうした地域におけるハローワークの東京、大阪のような事業というのは考えておられるでしょうか。
○政府委員(渡邊信君) 現在土曜日と平日夜間開庁しましたのは大阪二カ所、東京一カ所の交通の便利のいいハローワークでございますが、それ以外の地域につきましては、来年度から各県最低一カ所は経済団体の情報等も取り入れました情報プラザというものを設置しようというふうに今計画をしているところでありまして、ここにおきましては土曜日とそれから平日の夜間も開くというふうな計画にしております。
○大脇雅子君 情報プラザは、ことしの四月ですか、来年の四月ですか。
○政府委員(渡邊信君) ことしです。
○大脇雅子君 ことしの四月から。各県一カ所ぐらいずつは御検討していらっしゃるわけですね。ぜひこれは早急にやっていただきたいというふうに思います。
雇用の創出に並びまして今雇用の流動化政策ということが非常に進歩というか進めておられまして、転職しやすい市場の形成の整備ということがさまざまな形で進んでいると思うんです。ただ私は、そういう流動化も、労働条件を切り下げたりあるいは不安定雇用化して雇用が確保されたということであっては非常に問題であろうというふうに思うわけです。だから、非常に不安定な雇用の中で働いている人たちがふえているという場合に、そういう人たちの労働条件の向上ということもあわせ考えていく労働政策が必要だというふうに思います。そうしないと、雇用の流動化政策というのはリストラの支援策のような効果となってしまうのではないかという危惧を持つんですけれども、そうした雇用の流動化政策に対して、労働条件の切り下げとかあるいは不安定雇用化に対してどういうふうに歯どめをかけていかれようとしているのか、お尋ねをしたいと思います。
○国務大臣(甘利明君) 雇用の流動化に関しては、労働者の意思、つまり新しいところに挑戦をしていきたい、あるいは今の仕事がどうしても自分のやりたいことではないということに気がついた、その際に生きがい、やりがいが持てる仕事に新たにつける権利を確保してあげなくてはいけないわけであります。一方今、雇用の受け皿として新産業創造ということが叫ばれていますが、新しい産業の分野に優秀な労働力が適宜適切に供給をされないとその産業はもちろん育たないわけであります。両々相まって活力ある経済社会が生まれていくんだと思いますが、その際に、いろいろな移動する際の労働者の権利がちゃんと保護されていかなきゃならないし、あるいは年金制度等についてもそのポータビリティーを確保しなければならない、それはおっしゃるとおりであります。
長期安定雇用とそれから労働移動とがうまくかみ合った雇用体制というのがいずれ構築をされるであろう、その間に不安定雇用だけが助長されることのないようにしっかりと監督をしていかなければならないというふうに思っております。
先生の御指摘に的確に答えているかどうかちょっと自信がないのでありますが、いろいろな個別の質問をいただく中でまた再度お答えさせていただきたいと思います。
○大脇雅子君 ぜひ、雇用の流動化政策の中で、訓練によって資格を取って新しい職場に挑戦していくということがあればやはりその資格というものをきちっと尊重するような社会の仕組みが必要であろうと思いますし、それから例えば再就職をしていく場合に職場が悪化しないような形でさまざまな能力、職務等のそれこそミスマッチがないような流動化のための仕組みが必要であろうと思います。
また、不安定雇用化に対しては、一つの正社員がなくなって二つの不安定雇用が生まれた場合に二つの職業の創出だということでは本当の意味の雇用の流動化ということにはならないと思いますので、でき得る限り私は不安定雇用に関しては労働条件の低下を来さないような、均等処遇の原則などを基礎としたパートタイム労働者のための法案の改正が必要ではないかというふうに考えるものです。
さてしかし、緊急に失業がふえた場合の対策というものはまた非常に必要でありまして、今では雇用保険を受け取って、手当を受け取ってしまって、期限が切れても求職が十分ではないというような状況もあるということがちまたではさまざま言われていて、それが非自発的失業であればなおさら家族の貧困化というのは避けられないわけですから、そういう意味ではどういう形で失業手当の、私は延長しなきゃいけないと思うんですが、何か考えていられるでしょうか。
○国務大臣(甘利明君) 失業給付の延長措置についてはときどき御指摘をいただくところでありますが、私はこう考えるんです。
例えがいいかどうかはちょっとわからないんですが、トレードを待っている選手みたいなもので、待っている間にやっぱりトレーニングをしておかないと、トレード先が決まったときにすぐ一軍登録ができないということになると思います。だから、待っている間はやっぱり能力を鍛えていく方が即戦力としてすぐ登録されやすいというふうに思うのであります。
それで、今の失業給付が九十日から三百日という設定をされておりますが、延長給付の中にはいろいろ個別案件に対応してかなり柔軟性がございます。その中で、職業能力をバージョンアップしていくための訓練延長給付という措置がありますから、それをぜひうまく使っていただいて、待機している間も職業能力をなまらせない、むしろパワーアップさせていくということで待機をしてもらう。その方がより条件のいいところに就職しやすい。ずっと滞留しているのが目的じゃなくて、要するに最後は職につくということが最終目的でありますから、そのときに有利なように体を鍛えておくといいますか、職業能力をアップしておくということが大事だと思います。
私は、就任以来、職業訓練に関しましてはもう幅広に、そして新しいことをどんどん取り込んで、しかも利用しやすいように見直してくれということをずっと言ってまいりました。ですから、訓練延長給付もその対象を拡大する等の措置をいたしましたし、これを十分に御活用いただきたいというふうに思う次第です。
○大脇雅子君 大臣が教育訓練手当の積極的な活用にかけられる御意思は本当にあちこちで伺っておりますので、ぜひそういう形で労働者の使いやすい手当にしていただきたいと思います。それからまた、そのほか個別延長給付というシステムも流動的に使えるような形で御検討いただけると皆助かるのではないかというふうに思います。
ちょっと失業問題と外れて二問ほどお尋ねをしたいのですが、一つは深夜業の問題であります。平成十年十一月二十七日に「深夜業の就業環境、健康管理等の在り方に関する研究会中間報告」というのが出まして、さまざまな深夜業の働く職場ないしは健康に対する影響ということが議論されているわけであります。
その中で、労使の間のガイドラインの策定ということが言われているわけですけれども、これは研究会の中間報告でありますが、これのいわゆる正式報告への道筋と、それから衆参両議院で労働基準法改正のときに附帯決議がついておりまして、とりわけ参議院ではILO百七十一号条約の趣旨を踏まえた深夜労働の抑制について検討するというふうになっておりますが、これは今後どのように進められるおつもりでしょうか。
○政府委員(伊藤庄平君) 深夜業の問題につきましては、まず御指摘ございました第一点、自主的な労使の間によるガイドラインの作成に向けてでございますが、御案内のように、深夜業は業種等々によりましてさまざまな態様を持っております。したがいまして、それぞれの業種の労使の方が自主的な取り組みによって実情を反映した中で、適切な深夜業のあり方というもの、秩序をつくっていくことが大事かと思っておりますので、この自主的なガイドラインの作成を今回予算措置の中に織り込んでおりますので、予算が成立いたしましたらそうした事業を展開できますように、今関係の労使に対して、こうした国が、労使をテーブルに着いていただいて、自主的なガイドラインの作成に向けて作業し、その普及に努めるような事業に乗っていただくようにいろいろサウンドを開始しているところでございます。これは、先ほどの報告書の中間報告を受けて、直ちに事業化をしてまいりたいと思っておるところでございます。
それから、ILO百七十一号条約を踏まえた深夜業の抑制のあり方でございますが、深夜業に従事する労働者のもう一つの問題としては健康への影響の問題でございますので、私ども深夜業に多く従事する労働者の方が、定期健康診断のほか、自発的に健康診断を受け、そこで何らかの所見が出た場合につきましても、事業主は医師の意見を聞くことを義務づけ、それを勘案して従来からございました作業転換等のほかに深夜業の回数の減少等の措置を講じなければならない旨を明らかにする労働安全衛生法の改正を今国会に提出させていただきたいということで考えております。
そうしたことによりまして、ILO百七十一号条約の少なくとも健康管理の部分については、かなり近づくことができるのではないかというふうに思っておるところでございます。
○大脇雅子君 ILOの場合は、回数の制限とかその他さまざまな健康以外の一般的な規制ということも視野に入れていると思いますので、それについてはなおどのような形で進められるのか、また後日お伺いしたいと思います。
最後に少し伺っておきたいのは、このところ中国人の実習生の賃金のピンはね事件というのがあちこちで起きております。とりわけひどいなと思うのは水産加工に従事する研修生で、全国生鮮食品ロジスティクス協同組合というのが実習生を受け入れて、月給十二万四千六百円のところを月に三万六千円しか支払わないという形で、長い間労働基準法の賃金直接払いの制度という最も基本的な法律さえ守られていなかったような状況があり、これがこうした研修生受け入れ機構の委託を受けて行われて、そうした委託を受けた団体が五百ぐらいあって、そこにおいてはもうどういう労働条件で働いているかわからないような状況があります。
これは、ひとつ、本当に初めて出たようなケースですけれども、今後こういった問題についての、調査というものを今しておられるかどうかということについて御質問をしたいと思います。
○政府委員(伊藤庄平君) 御指摘ございました水産加工の協同組合、いわば外国人技能実習生の受け入れ団体である協同組合の中間搾取事件につきましては、私どもも大変残念、遺憾な事件だと存じております。昨年の六月に強制捜査を実施いたしまして、この容疑内容を固めまして逮捕し、十一月には千葉の地方検察庁に送致いたしまして、現在裁判中でございます。
こうした残念な事件が繰り返されることのないように、私どもはまず、全国の労働基準局長に、こういった受け入れ団体につきまして早急に総点検をさせていくような指示をいたしました。また、全国の技能実習生のいろんな問題について扱っております国際研修協力機構につきましても、こういった観点の事件が繰り返されることのないように指示をいたしまして、やはりそういった観点からの受け入れ団体また関係事業主への啓発等を展開させていただいておるところでございます。
○大脇雅子君 そのような指示を出されていると伺って少し安心いたしました。
その点検の結果、あるいはもうたくさんそういう苦情が外国人労働者の権利救済弁護団の方に寄せられておりますので、どうかその点検の結果をおまとめいただきまして、また時を見て質問させていただきたいと思います。
ありがとうございました。終わります。
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