----ムミアの健康状態がよくないと伝えられていますが?
約1年ほど前から、脚部の痛みを訴えています。心配なのは原因がはっきりしないことです。血栓ではないか、とすればかなり深刻な事態も予想されます。私たちは、外部の専門医に診せるように要求し続けていますが、当局は刑務所の医者で十分だと言っています。その医者はと言えば、ムミアのズボンが窮屈になったせいだ、などと言っているのです。州政府に雇用されている、技術水準も明らかでない医師の判断では不十分です。自然の治癒力を増強するため、ニンニクを摂取することが有効だとムミアは考えていますが、それも入手できません。
----たしか2000年の6月か7月にも、脚部に激しい痛みを覚えて歩くのが困難になったことがありましたね?脚部に慢性的な疾患があるのではないかと心配です。
その通りですね。グリーン刑務所の所長および州知事あてに適切な医療を行うよう要請を行っています。日本からもぜひ手紙を送って下さい。
----裁判の状況も厳しいですね。最新の情報では、2003年10月8日、ペンシルベニア州最高裁が、ムミアの請求を退けたと聞いています。
今回の州最高裁の決定は、1年半ほど前に州一般訴訟法廷のパメラ・デンビ判事が出した決定を追認したものです。それは、ムミア側が採用を求めていた新しい証拠を調べることを拒否したものです。一つは、ムミアの無実を立証する決定的な証拠です。アーノルド・ビバリーという黒人男性の宣誓供述で、自分がフォークナー巡査を撃った真犯人であると告白し、事件の詳細を述べています。その内容は、他の証人たちの証言と一致する点が多いものです。さらに、ムミア自身が事件当夜の状況を語った宣誓供述と、やはり現場にいたムミアの弟、ビリーの詳細な宣誓供述です。これらに加えて元捜査官や警察に雇われていた情報提供者などの補強証言もあります。そのすべてをデンビ判事は採用拒否したのです。しかも内容にはいっさい触れないで、たんに証拠提出期限に遅れている、という理由で、です。
----死刑判決を受けた人の無実を証明するかも知れない証拠を、期限切れといって門前払いするのですか?
その通りです。州法の規定では州最高裁が上訴を棄却してから60日経過すると、新しい証拠の提出はできないことになっています。しかし、例外規定もあるのですが、デンベ判事は、人の生死がかかっているこの裁判で例外規定をとりいれて証拠を採用する必要はないと判示したのです。
----そのデンベ判決を、州最高裁が追認したということですか?
そうです。また、一審の裁判長アルバート・セイボ判事が、明らかに人種差別によってムミアを死刑にしたことを示す証言も、採用拒否しました。1982年の一審裁判の際に法廷速記者をしていたテリー・モーラカーターという女性が、セイボ判事が休廷中に「検察があのニガーをフライにできるようにしてやる」と語ったのを聞いたと証言しています。デンベ判事は、人種差別問題は連邦裁判所で扱うべきで、自分は判断しないと責任を回避しました。その連邦裁判所は、人種差別問題はすでに過去の法廷で論じられた、という理由でモーラカーター証言を聴取することを拒否しました。しかしこれは一般的人種差別ではなく、判事が被告人に対して明らかな人種的偏見を口にし、さらにフライにする(電気椅子で処刑するという意味をもつ)と死刑を示唆しているのです。
----ビバリーは、なぜフォークナー巡査を撃ったと言っているのですか?
地元の犯罪組織から金で雇われてやったと言っています。当時、フィラデルフィア市の犯罪組織と市警察の腐敗分子が裏で結託して、麻薬、売春、賭博などの不法行為がはびこっていたことは公知の事実です。FBIがこの大規模な汚職を摘発するために隠密に捜査をすすめていました。フォークナー巡査は汚職に手を染めておらず、FBIに協力して腐敗警官の内偵をしていたため、犯罪組織と腐敗警官から消されたというのです。実際、この事件の直後に、フィラデルフィア警察の大がかりな汚職が摘発され、おおぜいの警官が逮捕されたり解雇されています。ムミアの逮捕に直接かかわった警官も、何人か逮捕されています。ビバリーは別々の機会に行われた2回のポリグラフテストをパスしています。いずれにしても彼の証言を法廷で聴取すれば、検察側も反対尋問の機会があるのですから、そうすべきだと思います。
----もう一つ気がかりなのが、連邦最高裁の動きです。2001年12月、連邦地裁のウィリアム・ヤーン判事が一審の死刑判決を無効とし、終身刑に減刑しましたが、連邦最高裁がそれをさらにひっくり返すかも知れない判例見直しをしていると聞きましたが。
ヤーン判決が死刑を無効とした理由は、陪審員が「死刑ではなく終身刑を選択するためには全員一致でなければならない」という誤った理解をしていたからである、というものです。実際には終身刑は単純多数決で選択することが可能で、これは1988年のミルズ対メリーランド州裁判の判例として認められています。そして、バンクス対ホーンという別の裁判の判例によれば、ミルズ判決は過去にさかのぼって適用できるとされています。このバンクス判決のおかげで、ムミアを含め、ペンシルベニア州で少なくとも6名が死刑を取り消され、終身刑になっています。ところが、ここに来て、連邦最高裁がバンクス判決の見直しをする、と決定しました。まだ結論は出ていませんが、最高裁が見直しを決めてそうならなかった事例は数えるほどしかありません。バンクス判決が取り消される可能性は非常に高いと言わざるをえません。
----それはつまり、ムミアがふたたび死刑宣告を受ける可能性があるという意味ですか?
まったくその通りです。バンクス判決が否定されれば、88年のミルズ判決より前に州段階での裁判をすべて終えているムミア裁判にはミルズ判決は適用されないことになります。そうすると、死刑を無効としたヤーン判決は根拠を失うことになります。先に申し上げたとおり、連邦最高裁が見直しを決めた場合、そうならない事例はまれです。したがって、それが何ヶ月先かまでは明確にいえませんが、その危険性はきわめて高いといわざるをえません。