(韓国・ディジョンネット)[共同声明]政府は人工知能基本法施行令案に対する国家人権委の意見を受容しろ

(前書き)韓国では、人工知能基本法「改正案」が2026年1月22日に施行されるのを前に、同法を所管する科学技術情報通信部が同法施行令案を立法予告したところ、国家人権委員会が人工知能によって「影響を受ける人」の人権を保護する観点から大幅な改善を求める意見を出しました。

以下は、2025年12月29日に韓国の市民社会団体が発表した、人工知能基本法施行令案に対する国家人権委員会の改善意見の受容を求める共同声明の日本語訳です。(井上和彦)

凡例:本文中の( )内は原註、〔 〕内は訳註。
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人工知能基本法は産業界偏向を脱け出して人工知能の危険から影響を受ける人を保護しなければ

[共同声明]政府は人工知能基本法施行令案に対する国家人権委の意見を受容しろ

by ディジョンネット[1] 2025-12-29

政府は人工知能基本法施行令案に対する国家人権委の意見を受容しろ

  • 人工知能基本法は産業界偏向を脱け出して人工知能の危険から影響を受ける人を保護しなければ

先の〔2025年〕12月21日、国家人権委員会[2]が「人工知能の発展と信頼基盤の造成等に関する基本法」[3](以下「人工知能基本法」)施行令案に対する改善意見[4]を出した。来年〔2026年〕1月22日の施行を前にして科学技術情報通信部[5](以下「科技部」)が公開した人工知能基本法施行令案が人権保護の観点から大幅に補完されなければならないということだ。私たちの団体は、政府が人工知能基本法施行令案に対する国家人権委員会の意見を受容することを強力に催促する。

国家人権委員会は、科技部が〔2025年〕11月16日立法予告した施行令案が人工知能の開発・利用前の過程から人間の尊厳性など人権を実質的に保護することのできる法的・制度的基盤にならなければならないと指摘し、次のような改善を要求した。

一つ目、法律が委任したにもかかわらず施行令案は人の安全と人権に危険な影響を及ぼす高影響人工知能領域が何なのか規定していない。施行令は高影響人工知能領域を具体的に規定しなければならず、特に職場と学校の鑑定認識など人間の尊厳性を本質的に侵害する憂慮があり、ほかの国で禁止されている人工知能は最小限高影響に含めて管理しなければならない。二つ目、高影響人工知能事業者の責務に求職者・患者・貸出申請者など「影響を受ける者」に対する保護が漏れているため、これを補完しなければならない。三つ目、施行令案は「国防又は国家安保目的」にのみ開発・利用される人工知能について法適用を除外し、その対象を国家情報院長、国防部長官、警察庁長官が恣意的で広範囲に指定できるようにした。しかし、国防又は国家安保目的の人工知能は、国家の安全のための手段であると同時に、生命権の侵害などもっとも深刻な人権侵害が憂慮される領域なので、法適用除外を制限し国家人工知能委員会[6]の審議を経なければならない。

四つ目、汎用AIなど安全性確保義務の適用対象を、現在わが国に存在しない累積演算量10の26乗以上に制限するべきではなく、10の25乗以上にもっと広く規定しなければならない。五つ目、高影響人工知能事業者の責務において文書保管義務の期間を5年から10年に強化し「協力努力義務」に過ぎない事業者の義務を「協力義務」に修正しなければならない。六つ目、人工知能影響評価は意図された目的を確認できるようにし、重大な機能変更前にも実施しなければならず、影響評価の関連文書と資料を国家機関などが人工知能事業者に要求することのできる根拠を設けなければならない。七つ目、法律の委任なしに施行令のみで政府の事実調査の例外を規定した条項は削除しなければならない。八つ目、人権専門家が国家人工知能委員会の構成に産業界・技術界の専門家と均衡よく含まれることができなければならず、影響評価とガイドラインの準備過程にも参与することができなければならない。

私たちの団体は、このような国家人権委員会の意見が人工知能基本法施行令にすべて反映されて当然だと考える。人工知能技術は暮らしの質向上にも寄与し得るが、その結果物に誤謬又は偏向が存在し得る。労働、教育、社会福祉、警察など暮らしや多様な領域において人工知能に基盤した意思決定が拡大するほど、憲法が保障する人間としての尊厳と価値はもちろん、平等権、私生活の秘密と自由などを直接的に侵害する危険がある。人工知能基本法の立法過程で市民社会が何度も指摘してきたように、現在の法律は人工知能の危険から人の安全と人権を保護するにはさまざまな限界を抱えている。それにもかかわらず施行令案は、これを補完するより国家機関と産業界の責務を法律よりさらに緩和し、除外し、例外を拡大する内容によって市民社会の憂慮を招いてきた。

国家人権委員会だけでなく情報人権、労働、女性などさまざまな市民社会が施行令案に対する検討意見を科技部に提出した。しかし、人工知能基本法を主務する科技部がこのような意見について十分に検討し反映する意思があるのか疑わしい。科技部は〔2025年〕12月22日の立法予告満了期限が過ぎるやいなや、24日拙速に説明会を開いた。この説明会でどんな論議が交わされたのか知るよしもないが、その間の施行令案準備過程で示してくれたとおり、人工知能の影響を受ける人たちより産業界の意見を聴取する場であったことを推し量ることができる。

このような状況は人工知能時代の民主主義を苦悶させる。AI強国を標榜している政府は人工知能政策を樹立することにおいて、ずっと産業界の利害関係に傾く偏向を示してきた。しかし、データ基盤技術である人工知能が学習するデータは、個人情報をはじめとして人についてのものであり、その対象となるのも人である。求職者、労働者、女性、消費者、学生と教師などすべての人は人工知能の影響を受けるようになる当事者であるにもかかわらず、人工知能技術の開発と活用について発言し参与する機会をほとんど保障されずにいる。市民社会は、先の政府と国会によって人工知能基本法が制定される間に粘り強く意見を提出したが、反映された内容もほとんどない。

私たちは、政府が人工知能基本法施行令案に対する国家人権委員会の意見を受容することを催促する。人工知能基本法の下位法令をはじめとするすべての国家人工知能政策の樹立と施行は、産業界偏向から脱け出して、人工知能の危険から影響を受ける人を保護することのできる法的・制度的基盤を整えなければならないはずだ。

2025年12月29日

公共運輸労組、国民健康保険労働組合、国際民主連帯、デジタル正義ネットワーク、文化連帯、メディア基督連帯、民主社会のための弁護士の会、〔読点原文ママ〕デジタル情報委員会[7]、民主主義法学研究会、ソウルYMCA市民中継室、人権教育センター トゥル、人権教育 オンダ、情報人権研究所、参与連帯、表現の自由と言論弾圧共同対策委員会、韓国消費者連盟

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出典:https://act.jinbo.net/wp/51195/(参照 2026-01-10)
   No Copyright, Just CopyLEFT!
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       〔日本語訳:井上和彦、2026-01-16 訳文未定稿〕
       〔訳文及び訳註:No Copyright, Just CopyLEFT!〕
訳註:
[1]「デジタル正義(ジョンイ)ネットワーク」(旧・進歩ネットワークセンター)の略称。

[2]人権の保護と向上のための業務を独立して遂行することを目的に置かれた委員会で(国家人権委員会法第3条第1項及び第2項)、大韓民国国民と大韓民国の領域にいる外国人を適用対象とする(同法第4条)。

[3]藤原夏人「韓国におけるAI基本法の制定」(国立国会図書館「外国の立法」No.304、2025年6月、季刊版所収)参照。https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info:ndljp/pid/14349791(参照 2026-01-10)

[4]「『人工知能の発展と信頼基盤の造成等に関する基本法施行令制定案』に対する国家人権委員会の意見」(ハングル)33p。https://www.humanrights.go.kr/download/BASIC_ATTACH?storageNo=10008770(参照 2026-01-10)

[5]以下に関する事務を管掌する中央行政機関(「部」は日本の「省」に相当)。科学技術政策の樹立・総括・調整・評価、科学技術の研究開発・協力・振興、科学技術人材の養成、原子力の研究・開発・生産・利用、人工知能政策、国家情報化企画・情報保護・情報文化、放送・通信の融合、通信の振興及び電波管理、情報通信産業、郵便・郵便為替並びに郵便振替(政府組織法第31条第1項)。

[6]人工知能の発展と信頼基盤の造成等のための重要政策等に関する事項を審議・議決するため、大統領所属として置かれた委員会(人工知能基本法第7条第1項)。2026年1月22日施行予定の同法改正案では「国家人工知能戦略委員会」に改称。

[7]「民主社会のための弁護士の会デジタル情報委員会」の誤り(読点は不要)。

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