「遺族年金の役割とは何か?」遺族年金制度は,次の2つの性格をもった給付です.
@) 被保険者が現役期に死亡した時に,その者によって生計を維持されていた配偶者や子等に対する給付
A)受給権者が死亡した時に,その者によって生計を維持されていた配偶者等に対する給付
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つがあります.いま女性と年金をめぐる議論でもっぱら話題になっているのは後者遺族厚生年金ですが,前者についても問題があるのでみじかく触れておきます.
遺族年金の解説 (p88参照)
遺族基礎年金:夫が自営業で国民年金に加入していた場合(保険料納付済期間,保険料免除期間を含む,が国民年金加入期間の3分の2以上あること)は,18歳未満の子,または20歳未満の障害のある子がいる場合にのみ,妻が遺族基礎年金をうけとることができます.一番下の子が18歳(障害のある子の場合は20歳)になった年の3月まで受け取れます.子の無いは妻は高齢の場合だけ一定の条件がそろえば60歳から65歳間「寡婦年金」がうけとれます.妻に先立たれた場合で18歳未満の子がいる場合でも,夫は遺族基礎年金を受け取ることはできません.父子家庭には厳しい制度です.
遺族厚生年金:配偶者(内縁でも可)が厚生年金に加入していたか受給者だった場合で,850万円以上の収入が無い場合に受けることができます.(その他資格要件の詳細は遺族年金の解説のページを参照)
○若齢の遺族配偶者(妻)に対する遺族年金
@)厚生年金に加入していた現役期の夫の死亡時に妻に歳18未満の子(あるいは20歳未満の障害のある子)がいるとき
◇ 夫の死亡時から子が18歳に到達するまで(あるいは障害をもつ子が20歳に到達するまで)は,遺族基礎年金(子の加算を含む.)及び遺族厚生年金が支給されます.
◇ 子が18歳に到達した後,妻が40歳以上となり65歳に到達するまでは,中高齢寡婦加算を含む遺族厚生年金が支給されます.
◇
妻が65歳以降は,老齢基礎年金及び遺族厚生年金が支給されます.
A)厚生年金に加入していた現役期の夫の死亡時に妻に子がいないとき
a)妻35歳未満
◇
夫の死亡時から妻が65歳に到達するまでは,遺族厚生年金が支給されます.
◇
妻が65歳以降は,老齢基礎年金及び遺族厚生年金が支給されます.
b)妻35歳以上
◇ 夫の死亡時から妻が40歳に到達するまでは,遺族厚生年金が支給されます.
◇
妻が40歳以上となり65歳に到達するまでは,中高齢寡婦加算を含む遺族厚生年金が支給されます.
◇
妻が65歳以降は,老齢基礎年金及び遺族厚生年金が支給されます.
○高齢の遺族配偶者(妻)に対する遺族年金
高齢(本人の老齢年金の受給権が発生後)の遺族配偶者(妻)は,自らの老齢基礎年金を受給するとともに,報酬比例年金については,自らの老齢厚生年金と夫の死亡により生じた遺族厚生年金の両方の受給権を持つことになることから,併給調整が行われます.併給調整の方法は,以下の3つの方法の中から遺族配偶者(妻)が選択することとなります.
i) 遺族厚生年金のみを受給(=夫の老齢厚生年金の3/4)
ii) 自らの老齢厚生年金のみを受給
iii) 遺族厚生年金の2/3と自らの老齢厚生年金の1/2を受給(=夫と自分の老齢厚生1/2年金の合計額の)
現在の遺族年金が「公平な給付になっていない」という批判
よく聞く批判の例@
「自分名義の厚生年金を受給するより夫名義の遺族厚生年金を選択したほうが受給額が多くなる場合が一般的によくある.自分が現役時代にかけてきた厚生年金の保険料が無駄になったような気持ちがする.」
上記批判@を補足する説明
片働き世帯と共働き世帯の間での高齢期の遺族年金の不均衡:
夫婦世帯で賃金の合計額が同じ場合,片働き世帯と共働き世帯の間で,老齢年金では原則的に給付と負担の関係が同一となるが,遺族年金については同一とならない場合がある.(参照 資料X−6−5:片働き世帯と共働き世帯の間での高齢期の遺族年金の不均衡)(p89参照)
なお,遺族年金は非課税ですが老齢年金は課税されます.従ってたとえ年金給付額が同額であっても,左側の片働き遺族年金受給女性の方が自分名義の老齢年金を受給する夫亡き後の女性より手取り金が多くなります.
上記批判@に対する反論の一例
「公的年金は損得論で評価すべき制度ではない.遺族厚生年金の目的と老齢年金の目的は異なるのだから,給付が異なるのはやむをえない.遺族厚生年金の水準が高すぎるという判断があるのなら水準の見なおしをすればよい.」
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