反論書

1998年8月25日(火)


 (Web管理者記)--------------------------------------------------------
  文中の(甲第1号証)〜(甲第6号証)については、「所沢高校の生徒手帳」
  をご覧ください。(甲第7号証)以降につきましても、ほとんどこの website 
  に掲載しておりますが、甲第○号証というかたちでは入手しておりませんので、
  文中にリンクはしておりません。最後に、参考として掲示しておきます。

              反論書                           請求人 竹 永 公 一                           処分者 埼玉県教育委員会  平成10年7月21日付け人委第344号で反論書(平成10年7月13日付答弁 書に対する反論書)の提出について要求のあった、平成10年(不)第3号不利益処 分審査請求事案について、請求人は次の通り反論する。       1998年(平成10年)8月25日                        上記請求人主任代理人 桜井和人 埼玉県人事委員会  委員長 坂 巻 幸 次 殿                  記 第1 入学説明会における請求人の発言は全く正当である。  1、所沢高校における学校運営の基本    所沢高校は1898年に創立され今年で開校100周年を迎える歴史の古い学   校であるが、伝統的に生徒の自主性を重んじる校風があり、校則のひとつである   「校内生活上の規則」(甲第1号証)にも「私達生徒に関する規則は、自主・自   立の精神に基づき学校生活をより円滑に進めるためのもの」と規定している。ま   た所沢高校の教育目標には、「憲法、教育基本法に則り、自主的精神と健全な身   体とを養い、真理と平和とを求める国民を育成する。」(甲第2号証)ことが揚   げられている。    生徒会活動は活発であり、1990年11月22日には生徒総会で「生徒会権   利章典」(甲第3号証)が決議されている。    「権利章典」は「人間は、人間らしく自由に生きる権利を生まれながらに持っ   ている。」と高らかに謳い、「自由な高校生活を送ることは、所高生の普遍的な   願いである。」としている。そして、所沢高校の生徒が過去に「数多くの努力を   重ねて」「手にしてきた」自由と権利を「持ち続けるために」「自治を確立する   必要がある。」として、生徒も学校の構成員であって生徒一人一人の個性と主張   が尊重されること、自治的かつ民主的な活動の自由や、服装、頭髪を含む表現の   自由、思想の自由がそれぞれ保障されるとしている。 ----------------------------------- 1 --------------------------------------    実際、所沢高校では様々な学校行事に生徒が主体的に取り組み、教職員がこれ   に援助協力して実践するという学校運営がなされてきた。例えば、1982年7   月には「生徒会活動に関する職員・生徒の協議会規定」(甲第4号証)を定め、   職員会議に生徒の総意ができるだけ反映されるよう生徒会と職員会議の決定に齟   齬が生じたときに開かれる教師と生徒の間の協議会を設置したり、また本年4月   には教職員と生徒との相互理解を深めることなどを目的として教職員と生徒との   定例連絡会議を設けるなど(甲第5号証)、生徒の学校参加を制度的に保障して   いる。  2、内田校長の着任と97年度入学式をめぐる「混乱」    1997年4月1日、内田達雄校長が着任した。生徒会は当日、内田校長に対   し、「入学式は従来通り『日の丸』掲揚・『君が代』斉唱を実施しないでほしい」   と要請した。これは1990年以降生徒総会において毎年採択し、確認されてい   る「日の丸・君が代に関する決議文」(甲第6号証)に基づくものであった。そ   の要旨は、法律上「国旗」「国歌」と定められておらず、賛否両論のある「日の   丸」「君が代」を強制することは日本国憲法第19条で保障されている思想・良   心の自由を侵害する、それゆえ生徒会は儀式その他における「日の丸」の掲揚及   び「君が代」の斉唱の強制に反対する、というものである。    着任当日、入学式での日の丸・君が代について生徒会から右要請を受けた校長   は、「あなた達は教員免許を持っているんですか」などと不誠実な対応をした。    入学式の前日である同年4月8日職員会議が開かれ、内田校長は席上「入学式   には日の丸・君が代を実施したい」と表明した。教職員は、3月21日の職員会   議での決定に反するとして、この問題について同日及び翌日の入学式当日まで校   長との話し合いを続けた。この間生徒会本部の役員も入学式における日の丸掲揚   ・君が代斉唱問題について校長と話し合った。生徒との間の十分な話し合いを求   める生徒会側に対し、校長は話し合いで決めることがらではない旨繰り返した。    入学式当日も職員会議が開かれ、またPTAとの間にも話し合いが行われたが、   午後1時30分校長と教頭は、「管理職3人で入学式をやりますので、皆さんは   待機して下さい」と指示したうえ一方的に職員会議を打ち切って式場の体育館へ   向かった。事務室長を含めた3人は予め用意していた式次第を式場に張り出し、   演壇の上に小さなスタンド式の「日の丸」を乗せ、新入生や保護者には式の開始   が遅れた説明も一切行わずにラジカセから「君が代」を流した。参加していた生   徒会の生徒たちは「日の丸」「君が代」を強行した校長に抗議するとともに説明   を求めた。新入生の保護者からも生徒たちに共感する声があがり校長に抗議した。   しかし、校長はこれを無視して「呼名」や「式辞」を読み上げ30分ほどで終了 ----------------------------------- 2 --------------------------------------   させた。新入生の担任団は新入生をいったん教室に戻した後再び式場に入れ、1   学年の担任によって呼名をやり直し、生徒会長や新入生の挨拶を行って入学式を   終了させた。    4月25日、PTA主催で「入学式についての説明会」が開かれたにもかかわ   らず校長は当初欠席していたが、参加者の要請を受けてようやく出席した。入学   式の混乱について校長の責任を追及する声が続いたが、校長は「学校の責任者は   私であるので私の判断でやらせてもらった。学校運営に関することはPTAのP   に口を出してもらっては困る。」などと誠意のない態度に終始した。  3、「卒業記念祭」「入学を祝う会」の企画と準備    その後6月まで生徒たちやPTAは入学式をめぐる「混乱」に対する説明を繰   り返し校長に求めたが、校長は生徒に対し「最終的な決定権は自分にある。」   「教育活動はすべて学習指導要領に基づいて行われる。」「生徒とは対等に話は   できない。」「生徒は指導を受けるものだ。」などと述べ、またPTAに対して   は「生徒会活動も学習指導要領に位置づけられたものであるから、生徒会権利章   典も当然学習指導要領の範囲内のものでなければならない。生徒は教職員から指   導され、保護者は学校教育に協力するものである。」などと述べた。    97年度の入学式の混乱の原因と責任が明確にされないまま、7月、3年生の   生徒たちは、翌98年3月に予定される卒業のための卒業準備委員会を設置した。   生徒たちは入学式での混乱を踏まえ、あるべき卒業式や入学式の持ち方について   生徒からアンケートをとり(甲第7号証)、また「たより」(甲第8号証)に記   事を書くなどして真剣に議論を重ねた。そして11月11日開かれた生徒総会に   おいて決議し、高校生活最後の行事である卒業式と新入生を歓迎する入学式を、   従来のものに代えて生徒主催・生徒運営のもとに作っていくという基本方針を確   立した。その後も生徒たちは生徒会やホームルーム委員会、卒業式実行委員会、   門出式実行委員会で構成される四者会議などを中心に繰り返し討議し、3月9日   の「卒業記念祭」及び4月9日の「入学を祝う会」の企画を具体化していった。  4、生徒たちの討議と決定に対する教職員・PTAと校長の対応    こうした生徒たちの討議と決定に対し、教職員は職員会議において、生徒たち   の自主的活動を尊重し、従来の卒業式や入学式に代わり生徒主催の「卒業記念祭」   「入学を祝う会」に参画していくことを決めた。すなわち、9月11日の職員会   議では「生徒主催の新しい形の卒業を祝う会を行う」という卒業準備委員会の原   案を受け、卒業式を行わないことを採択した。また10月9日の職員会議では、   生徒主催の「卒業を祝う会」(仮)が承認され、あわせて総務の構成と仕事内容   が承認された。さらに10月23日の職員会議では入学についても「(1)入学式 ----------------------------------- 3 --------------------------------------   を行わないこと、(2)生徒主催で教員が参画した『入学を祝う会』(仮)を行う   こと」が決定された。    なお、11月19日の職員会議において、前述の生徒総会(11月11日開催)   での決定事項について報告・了承がなされようとしたところ、校長は「(生徒総   会決定事項を職員会議として承認したが)校長としては保留したい」と発言した。   また12月19日には職員会議名で「卒業記念祭についてのお知らせ」(甲第9   号証)が父母に配布されている。    請求人ら教職員は職員会議を経たうえ、校長に対し、生徒たちの自主的企画を   尊重して欲しい旨再三要望したが、校長はあくまで「日の丸」掲揚と「君が代」   斉唱にこだわり、卒業式・入学式に代えて「卒業記念祭」「入学を祝う会」を行   うことに反対した。そして12月24日、校長は終業式の挨拶で突然、「卒業式   を1部、卒業記念祭を2部として行う。卒業式では卒業式授与、国旗・国歌を行   いたい」と発言し、また翌25日、教職員に何も相談せずに3年生の保護者宛に   「卒業記念祭は校長の卒業認定や卒業証書の授与がなく、単なる生徒会活動に過   ぎない、第一部で厳粛で清新な卒業式を法令等に則って実施し、第二部として卒   業記念祭を実施するよう指導する」旨記載したハガキ(甲第10号証)を送りつ   けた。    生徒たちは1月8日の3学期始業式当日、四者会議の名において3年生の保護   者宛に出された右ハガキについての説明を校長に求めたが、校長は「説明の準備   をしていない」の一点張りであったため、「校長先生の一連の行動に対する抗議   文」(甲第11号証)を読み上げ、これを校長に手渡している。また、1月30   日には3年生が「校長先生の独断による卒業式の強制に反対する」旨の決議文を   校長に提出している。    しかし、校長は2月10日、やはり教職員・生徒・PTAに全く諮ることなく   卒業式の案内文と出欠確認並びに日程表を3年生の父母に郵送している。    2月17日、生徒たちは四者会議と校長との話し合いを通じて、校長の意志を   確認したうえ、卒業記念祭を開催することを伝えた。    他方PTAは生徒の決定と企画を全面的に支持し、一方的に保護者宛にハガキ   を送りつけてくる校長の対応を批判し、釈明を求めるなどしたが、校長の姿勢が   変わらないため2月13日には「卒業記念祭の成功を祈って」という文書(甲第   12号証)を父母宛に郵送している。また2月21日には山住正己都立大学総長   を招いてシンポジュウム「教育における『式』とは」を開催し(甲第13号証)、   この問題の重要性を市民にアピールしている。  5、入学説明会直前の状況 ----------------------------------- 4 --------------------------------------    卒業式と卒業記念祭の予定された3月9日が近づくとマスコミの一部は、「卒   業式をめぐって校長と生徒が対立」との見出しで報道するようになり(甲第14   号証)、所沢高校の動向が世間の注目を浴びることになった。3月9日、卒業式   と卒業記念祭が時間をずらして開催された。    卒業式に際し、校長は教員に対し職務命令を発して出席させ、処分者たる県教   委は異例にも主席管理主事をはじめ9名の管理主事を出席させた。しかし、卒業   式の出席者は卒業生420名のうち約20名、在校生約10名、保護者が約50   名に止まり、15分間で終了した。引き続いて同じ会場で卒業記念祭が開かれた   が、1200名の全校生徒をはじめ父母・全教員など合計2000名ほどが参加   した。卒業記念祭が感動の渦の中で終わると、マスコミはその取材とともに4月   9日の入学式がどのような形で行われるかについても関心を示してきた。合格者   や保護者は喜びの一方でこうした報道を通じ、4月9日がどのような形で開かれ   るのか不安な思いで過ごしていた。  6、入学説明会における請求人の発言の正当性について    3月18日の入学説明会はこのような時期に開かれたのであり、請求人を含め   た新1学年の教諭団は合格者と保護者に対して、どのような説明を行うべきか討   議した。3月16日開かれた新1学年会では、以下のことが確認されている。す   なわち、まず第一に新入生がバラバラになるような事態は避けたいということ。   第二に職員会議や生徒総会の決定に基づいて「祝う会」だけを行いたいというこ   と。そして、第三に18日に開かれる入学説明会では、所沢高校の教育方針、   「記念祭」の概略、「祝う会」企画の経過について代表が話すこと、学年団から   挨拶文(甲第15号証)を配布すること、そして招集時間のみを連絡し、その他   の時程については触れないことなどが確認されている。入学説明会当日における   請求人の発言は、右学年会における討議と決定に基づくものである。    請求人は新1学年教諭団の代表として、新1年となる生徒と保護者に対し、ま   ず生徒の自主性を重んじる所沢高校の伝統と校風を紹介し、学校行事の企画・運   営にも生徒が主体的に参加しており、教師もこれを尊重していることを説明した。   そのうえで、直前に新聞報道等で注目された3月9日の卒業式や卒業記念祭が開   かれた経過と、4月9日に向けた教職員・生徒及び校長との話し合いの経過を説   明し、あわせて4月9日に予定された「入学式」「入学を祝う会」をめぐる教師   や生徒そして校長の考えを説明したうえ、新1年となる生徒や保護者が不安を抱   かないよう最大限努力しているので安心して4月9日を迎えて欲しいと述べたの   である。    本来、このような説明は校長が行ってしかるべきであるが、校長は請求人の右 ----------------------------------- 5 --------------------------------------   説明に先立って行った挨拶に際し、以上のごとき経過に全く触れず、「入学式の   中で入学を許可する」ことのみ強調した。そして、時間に遅れないようにと敢え   て付け加え、入学式の出席が入学の条件であるかのような印象を保護者らに与え   て不安をかきたてたのである。    以上の次第であり請求人の発言は賞賛されこそすれ、決して非難されるような   ものではない。ましてや信用失墜行為などというものでは絶対にない。請求人の   発言の正当性は余りに明白である。 第2 本件処分は事実を誤認している。    本件処分は、事実を誤認した処分であって、その点で違法を免れない。  1、請求人の発言    請求人が、入学許可候補者説明会において発言した内容は、審査請求書2頁記   載のとおりの内容であり、校長の挨拶と関連する部分を再度引用すれば次のとお   りである。     『4月9日の心配をしていることと思う。現時点では、教職員も生徒も4月    9日は「祝う会」のみを行いたいと考えている。わたしたち教職員は、4月9    日に向けて、校長に生徒の取り組み、教職員の考え方、1学年団の考えを理解    してもらい、「祝う会」のみでできればよいと思っている。しかし、現時点で    は、校長が入学式を行うと言っているので、当日混乱のないよう最大限の努力    をしたい。まだ、時間があるので安心して4月9日を迎えてもらいたい。決し    て、混乱はありません。』  2、事故報告書に記載された発言    ところで、処分者が処分の唯一の根拠とした資料である校長作成の事故報告書   の該当個所の記述は次のとおりである。     『3週間後の4月9日の心配をしているだろうと思う。現在、教職員も生徒    も4月9日は、「入学を祝う会」のみで行いたいと考えている。校長は挨拶で、    入学式をやると言ったが、保護者の方は、どうなってしまうのだろう、とお考    えかもしれないが、校長と意見が分かれているので、この場では、4月9日の    詳細を示すのは好ましくないと思う。私たち教職員は、4月9日に向けて、校    長に生徒の取組み、教職員の考え方及び一学年団の考えを理解してもらい、    「入学を祝う会」のみでできればよいと思っている。最大限の努力をしたい。    安心して4月9日を迎えてもらいたい。決して混乱はない。』  3、処分認定事実は事実誤認 ----------------------------------- 6 --------------------------------------  (1)請求人の発言と、事故報告書記述の発言内容とは、問題とされる当該個所で    はほとんど相違しない。だから発言の当該個所部分は「争いの無い事実」とし    て前提とすることができる。ところで本件処分理由は、『校長の了解を得るこ    となく、校長の説明に反し、4月9日には「入学式」は行わず「入学を祝う会」    のみを行い、教職員も校長の行う「入学式」に反対する旨述べた』とするもの    であるが、発言内容は上記のとおりであり、右処分理由は明らかな事実誤認で    ある。やや詳細に論じれば、     請求人が発言をするについて、元々、校長の了解はいらない。     上記発言は、説明会の進行予定に添って、司会者の進行に従い、学年関係の    説明として予定された請求人の発言においてなされたものであり、発言骨子は    学年団として協議した内容である。発言すること自体につき校長の許可を必要    とするものではない。     請求人は、『「入学式」は行わず「入学を祝う会」のみを行い』とは、発言    していない。     請求人は、『現時点では、教職員も生徒も4月9日は、「祝う会」のみを行    いたいと考えている。私たち教職員は、4月9日に向けて、校長に生徒の取り    組み、教職員の考え方、1学年団の考えを理解してもらい、「祝う会」のみで    できればよいと思っている。しかし、現時点では、校長が入学式を行うと言っ    ているので、当日混乱のないように最大限の努力をしたい。』と発言している。     請求人は、『教職員も校長の行う「入学式」に反対する旨』発言していない。    請求人の発言には、「入学式」に反対するとの文言は全く現れない。  (2)元々、「挨拶」における校長発言の内容こそ、所沢高校の職員会議の議を経    た見解では無い。当時校長を含む所沢高校の教職員集団には、入学を迎えるに    あたり、生徒の自主性を尊重しようとする教職員集団と、校長の見解が対立を    しており、入学予定者と父母に不安感が存在しているのは客観的事実である。    この原因は頑なに自己の意思を貫徹しようとして、入学予定者及び父母の不安    感に対して一顧だにしない校長の頑迷さにあり、当日も校長は、自己の見解に    固執し、入学予定者や父母の不安感をさらに醸成する対応に終始したが、入学    者を直接迎える1学年団教職員としては、「見解の違いは違いとして、混乱が    起きないように最大限の努力をします」と約束することは、教職員の責任とし    て当然のことである。     その立場から、請求人の説明内容は校長の立場にも十二分に配慮し、現状の    説明と、今後の努力の方向を表明したものとして情理を尽くしたものであり、    かつ必要なものであった。 ----------------------------------- 7 --------------------------------------     何ら非難されるべきものではない。     請求人の発言は、以上の配慮をもってなされたものであり、処分者の主張す    る認定事実と違い、『「祝う会」のみを行う。』とか、『「入学式」に反対す    る。』とかの断定的なものではなく、生徒・教職員・学年団の現時点での見解    説明と、混乱を避けるための今後の努力表明に止まっている。     この発言を処分理由のように曲解するのは、国語の理解力の欠如としか言い    ようが無い。本件処分の事実誤認は重大であり、取り消しを免れない。 第3 適正手続保障違反    本件懲戒処分手続は、適正手続保障を無視した違法なものであり、取り消しを   免れない。  1、適正手続保障は憲法原則  (1)憲法31条は、「何人も、法律の定める手続きによらなければ、・・自由を    奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。」と定めており、いわゆるデュー    プロセス(適正手続き)の精神ないし原理は行政処分の手続きにも及ぶと解さ    れている。     最高裁判所も成田新法訴訟の大法廷判決(1992年7月1日)において、    「憲法31条の定める法定手続きの保障は、直接には刑事手続に関するもので    あるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、その    すべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」    と述べている。つまり、一定の行政処分に先立って当事者から意見を聞く「聴    聞」(ヒヤリング)手続きを行うことは憲法31条の要請でもある。不利益処    分を受ける当事者に対しては少なくとも「弁明の機会」が保障されなければな    らず、これを経ないでなされる不利益処分は手続きの違法として取り消されな    ければならない。     また、公権力が法律に基づいて一定の措置をとる場合、その措置によって重    大な損失を蒙る個人は、その措置がとられる過程において適正な手続的処遇を    受ける権利(告知および聴聞の機会を得る権利)を有する権利を、同法におい    ても憲法13条から導く学説も存在する。(注釈日本国憲法・青林新社)  (2)そこで行政手続法は、不利益処分に際しての「聴聞」及び「弁明の機会の付    与」の規定を定めており(12条・13条)、憲法31条あるいは13条の趣    旨が生かされている。     地公法にはかかる適正手続を保障する規定はないが、憲法31条の趣旨から    懲戒処分などの不利益処分について、聴聞や弁明の機会が保障されずに行うこ ----------------------------------- 8 --------------------------------------    とは違法であると解されるのであって、その旨の判例も存在する(宇都宮地判    昭和34年12月23日、甲府地判昭和524年3月3日など)。     公務員など「特別な身分関係のある者」に対する不利益処分に、適正手続保    障を認める必要が無いとする立場は、古典的な特別権力関係論による恣意的議    論に過ぎない。  (3)本件処分においては、請求人らに対し、「聴聞」や「弁明の機会」は一切保    障されなかったものであり、その点で本件処分は違法である。  2、本件処分における適正手続違反    適正手続保障は以上のとおり憲法的要請であるが、その意義は埼玉県教育委員   会が自ら定めた通知や規則上にも具体的に現れている。本件懲戒処分手続はその   規定をも乱暴に踏みにじっている。  (1)『学校事故に係る事故報告書作成要領』に現れた適性手続     平成10年1月8日第1313回埼玉県教育委員会定例会は、『学校事故に    係る事故報告書作成要領』の制定を確認した。     確認事項の内、適正手続に関する骨子は、次のとおりである。     学校事故に係る事故報告書の作成要領を定め、併せて事故の範囲及び様式を    改めて、平成10年1月8日付けで、各県立学校長並びに各教育事務所長及び    市町村教育委員会教育長あて通知した事実。 教高一第990号     上記通知は、平成10年1月12日以降に報告する事故から適用することと    し、これに伴い、昭和59年7月9日付け教高第536号「児童生徒の事故報    告等について(通知)」は、廃止すること。     体罰以外の事故の報告について(様式1)を定めたこと。     様式1の9項「その他」蘭には次の記載があること。     9 その他      ア 事故関係者(事故者、加害者又は被害者、目撃者及び保護者)に、事        故に対する意見等がある場合は、事故関係者ごとに記載する。      イ その他、参考となる事項を必要に応じて記載する。  (2)『教育委員会会議規則』に現れた適性手続     「教育委員会会議規則」には第2条2に、「委員長は、会議招集の日時、会    議開催の場所及び会議に付議すべき事件を開催日の5日前まで告示しなければ    ならない」とある。     これは会議案件を予め委員に通知し、その判断を慎重に行うべきことを定め    た規則である。     同第2条2但書には、「但し急施を要する場合はこの限りでない。」とある ----------------------------------- 9 --------------------------------------    が、特に5日前に告示をすることが出来ず、かつ緊急に案件としなければかな    らい事項について、告示の期間制限を解除する規定であるが、「急施を要する    場合」である必要があり、その点は、審議上の判断事項となる。     同第9条3には、「委員会が必要と認めたときは、会議事件に関係のある者    の出席を求め、その意見を聞くことができる。」とある。この規定は、会議規    則上「聴聞・弁明の機会の確保」の導入であり、「聴聞・弁明の機会の確保」    規定の不行使が、懲戒処分の手続違反を導く可能性のある場合を意味する。     同第15条8には、「発言の趣旨及び発言者の氏名」を会議録に記載するこ    とを求めているが、懲戒処分手続に慎重を期し、かつ、請求人の権利保護のた    めに、その審議内容を明示することを求めた規定である。会議録に記載の無い    事実は「審議されていないこと」を意味するものである。  (3)様式19項の意義     本来適正手続保障は、法律や条例等に、その権利性と手続保障の具体的内容    を明示すべきものであるが、仮に明示されていない場合であっても、それが憲    法から導かれる基本的人権である以上保障されるべきものであることは言うま    でもない。     埼玉県における職員の懲戒手続規定には、その明文規定が無いが、『不利益    処分を受ける者の「弁明の機会の確保」』は、事実認定の正確さを担保して処    分者の恣意的権力行使を防ぐためにも、また、適正手続確保のためにも不可欠    の前提とならなければならない。様式1の9項に上記のとおり明示した目的も、    そこに存在するといわなければならない。     本件の場合、事故報告者である学校長は、本件における「事故」の一方当事    者であり、元々客観的に「事故」を記述することが出来得る者と見ることは出    来無い。また、本件請求人は、学年代表として教師集団の集団的議論を体して、    その状況下における必要不可欠な事情説明をなそうとしたものであるから、そ    の事情説明の必要性、妥当性につき、一方当事者としての学校長とは異なる見    解を有していたことは明らかである。     さらに、処分対象事実は、限られた学校関係者内部で発生したものでなく、    多数出席していた「入学許可候補者」及びその保護者は、本件事実関係につい    て「被害者」もしくは「目撃者」の位置にあり、かかる多数の当事者がいかな    る事実を目撃し、いかなる判断を抱いたかは、事実を認定し、処分の適否・必    要性を判断する上で、不可欠であり、その自明の理を様式1の9項は、本件の    場合の事故報告書に明示することを求めているのである。     本件事故報告書は、その決定的条件を欠如した、重大な欠落が存在する。 ----------------------------------- 10 -------------------------------------     学校長の事故報告書が教育委員会の定める様式に従っていない事実は、      イ 事実認定の正確さ担保      ロ 懲戒処分の適性手続確保     という最低限の要件を欠落させていることを意味する。  (4)処分手続過程に現れた問題点     請求人に対する懲戒処分を行った3月25日付定例教育委員会に提案された    資料を検討すると、懲戒処分に至る経過には上記事故報告書記載の要件欠落以    外にも、以下の問題点が存在する。     事故発覚の経緯     「所沢高等学校の入学許可候補者説明会に出席した保護者から、校長の説明    と学年代表の説明が異なり一体どうなっているのかとの苦情電話があり、校長    に確認して事故が判明した。」とあるが、右苦情電話の事実を確定する事が出    来ない。「事故発覚の端緒」にある「保護者からの苦情電話」に係る資料が全    く存在しない。「保護者からの苦情電話」は、現場に混乱があったことを強調    する意図による起案者の創作であったことを窺わせる。     3月24日付で校長の「職員事故報告書」が提出されたが、事故報告書に先    立って学校長から電話報告がなされたとされている事実が確定出来ない。     稟議書(起案日平成10年3月24日)には、「別案のとおり3月25日開    催の定例教育委員会に、案1により協議題として提出し、協議がととのったう    えは、案2により議案として提案し、議決を得たうえは、案3により措置し、    昇給については案4のとおり決定し案5により校長あて通知してよいか伺いま    す。」との記載があり、起案・稟議・協議題提案・議案提案・議決の諸手続が    規則上求められていることが窺われるが、そのすべてが2日間という異常な日    程内で処理されており、拙速であるだけでなく、教育委員会の「異常な意思」    を窺わせる。公正な処分とは言えない。     別案とは、本件懲戒処分内容である。     3月25日の教育委員会において、処分案件の議案を議決とあるが、その審    議内容が確定されない。     教育委員会会議の議題とするには、教育委員会運営規則によれば「出席者に    5日前に通知すること」を要するが、本件はその通知がない。さらに通知の無    い案件を議題とする必要が特にある場合の認定が教育委員会の審議においてな    されていない。その認定事情は教育委員会議事録に記載されていない。     さらに、懲戒処分の議決審議は結果のみ記録され、その内容も一切記録され    ていない。これは、緊急に議題とするべき必要性の有無、及び懲戒処分の適否 ----------------------------------- 11 -------------------------------------    について、審議が無かったことを意味する。     3月20日、23日に県教育委員会・主席管理主事ら「事情聴取」のため所    沢高校に来校したが、右「事情聴取」結果・経緯は、25日の教育委員会の議    案資料として存在していない。処分案件起案文書にも記載が無い。     上記「事情聴取」は、学校長からの事故報告書提出前であるので、請求人に    対する「聴聞」「弁明の機会」とは別の、教育委員会としての事実確定のため    の手続きとして行われたものであると認識せざるを得ないが上記の経過・内容    は一切懲戒処分の審議に反映されておらず、かつ「記録も存在しない」とされ    ている。上記記録が一切記載されず、かつ「存在しないという事実」は、本件    処分の前提たる事実認定が、校長よりの一方的な事故報告書に限定され、上記    「事情聴取」が本件処分について、まったく検討外であることを意味する。     つまり処分者たる教育委員会としては独自の事実認定手続をとらなかったと    いうことになる。     処分者は自ら定めた様式すら守られない事故報告書に対し、その補正すら命    じていない。追加の事故報告書も求めていない。     校長の一方的な事故報告書は、それとして重大な記載欠落があるが、その事    故報告内容と本件懲戒処分の事実認定とは、前述のとおり著しく相違する。し    かしながら事故報告書記載事実と懲戒処分認定事実の相違を比較し、後者を    「事実」として認定した根拠資料は、以上に述べたとおり全く存在しない。     処分者に、意識的な歪曲があったと言わざるを得ない。  3、小括  (1)請求人の主張を聞かず、その反論の機会を与えないまま、一方当事者の偏ぱ    な言い分のままに懲戒処分を強行した教育委員会の姿勢は、言わば糾問的訴訟    観であって、近代的訴訟観、近代的行政手続観と相いれない。訴追者と判断者    を同一とし、訴追者側の作成した報告書を唯一の「証拠」として、欲しいまま    に事実を創作する「お白州裁判」である。そこには証拠に対する厳密な検証も    無ければ、真実を究明する真摯な接近も無い。     本件における唯一の「証拠」とされる事故報告書についても、それが作成さ    れた経過(テープによるものかメモによるものか)、テープによるものであれ    ば、テープの録音者、反訳者、反訳の正確性(テープの操作・入れ替え、一部    削除等は極めて容易である)等が、メモによるものであれば、メモの原本の検    証、メモの作成者、作成動機・状況の検証、事故報告者の記憶によるというの    であれば、その記憶の正確性の担保等々、証拠の記載内容の真実性を検証する    教育委員会の独自の努力が全くなされていない。 ----------------------------------- 12 -------------------------------------     事故報告書に引用された発言内容は、仮に請求人の発言内容がそのとおりで    あったとしても、通常人の常識をもってみれば、「情理をつくした適正な表現    行為」というべきものであって、かかる発言が何ゆえ懲戒処分の対象となるの    か、まったく理解できない。その上、そもそも発言内容が処分対象事実とされ    る場合、通常はその背景・経過が併せて審議の対象とされるべきものであるが、    本件ではそれが審議されていない。     そもそも本件の背景に、教師集団による長期間に及ぶ生徒の自主的活動への    教育的尊重、その集団的討議と学校運営の民主的手続の存在、前年度の卒業式    以来の報道を通じて新入生及び保護者らの入学式に対する期待と不安、PTA    の見解等、懲戒処分を相当とするか否かについて、検討すべき様々に要因が存    在する。右事情は本件処分を議決する際には一切考慮の対象とされていない    (つまり審議対象となっていない)。     「お白州」裁判では、最後に「葵の印籠を出して、恐れ入ったか」とやれば    議論無用で決まるが、公権力行使に無謬性神話があった時代は終わっている。    本件では、ただ杜撰で恣意的な公権力の濫用の事実が残るだけである。  (2)本件懲戒処分は、3月18日の入学説明会における請求人の発言過程、内容    を把らえて、それが非行にあたるとして処分がなされたものであるが、自ら定    めた規則・通知を踏みにじってまで乱暴に処分を持ち込んだ、その拙速と濫用    に驚かざるを得ない。     しかも、その処分認定の根拠とされるところは、一方当事者の一方的報告書    のみであり、その理由は前記のとおり問題のある一方的な事故報告書の、その    記述すらねじ曲げた、歪曲された事実である。まさに「始めに処分ありき」で    ある。ここには適正手続保障の精神のかけらも無い。     このような暴挙が教育委員会の名によって行われた事実は厳しく批判されな    ければならず、本件懲戒処分は、以上において違法であり、速やかに取り消さ    れなければならない。 ----------------------------------- 13 -------------------------------------
 (Web管理者記)--------------------------------------------------------   (甲第7号証)97.06.24 HR委員会発行:家室的新聞97年度No7   (甲第8号証)97.11.06 四者会議発行:四者だよりNo1          但し、これ以外の資料かも知れません。   (甲第9号証)97.12.19 職員会議「卒業記念祭についてのお知らせ」   (甲第10号証)97.12.30 PTAより三年保護者宛ての「校長の葉書に対する見方」           この中にハガキの文が記載されています。   (甲第11号証)98.01.08 「校長先生の一連の行動に対する抗議文」   (甲第12号証)98.02.13 3学年保護者宛「卒業記念祭の成功を祈って」   (甲第13号証)98.02.21 所高生の自由と教育を考える委員会だより           98.03.07 所高生の自由と教育を考える委員会   (甲第14号証)マスコミの報道なので website には掲載しておりません。   (甲第15号証)98.03.18 新入生・保護者のみなさんへ           98.03.18 第1学年団「入学説明会[式次第]」
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