それならば連立与党は非拘束名簿式化の「論理」を一貫させろ!

 参議院議員の比例代表選挙につきこれまでの拘束名簿式から非拘束名簿式に「改正」する法案が今月(10月)26日(木)とうとう成立した。自民党・公明党・保守党の連立与党は、斎藤十朗参議院議長を辞職に追い込み、自ら送り込んだ新議長による国会「正常化」を通じて(上脇博之「斎藤議長の『中立性』は94年『政治改革』の外で維持された!」、成立を強行した。
 国民主権、議会制民主主義を考えれば、優先すべき改革はほかにあるにもかかわらず、かつ、慎重な審議が求められるにもかかわらず、「強行採決」が行われた。国会への民意の正確な反映が妨げられた結果であり、連立与党の権力欲が如何に貪欲なものであるのかを国民の多きは再認識させられたことだろう。
 しかし、これに対して連立与党は「党利党略ではない」との反論を行なうことだろう。そうであるならば、今度の「改革」の「論理」を一貫させて欲しい。その「論理」による改革を今後も続けていただきたいものである。

 与党が提案した非拘束名簿式は、有権者に必ず政党名を記載させた上で候補者個人名の記載も行わせる方式ではない。比例名簿の順位を有権者が記載する方式でもなかった。「顔の見える選挙」の実現を表向きの理由にして提案された与党案は、有権者が原則として候補者個人名を記載することとし、例外として政党名を記載することを認めるものであった。そして、「個人名を記載した投票」を「政党への投票」であると見なし、各政党の議席数を算定するものであった。
 そうであれば、まず第一に、衆議院議員における小選挙区選挙では各政党の公認候補は一名しか出馬しないのであるから、当選した議員が他党に移籍することについては比例代表選出議員の場合と同じように法律で禁止すべきである。私はこれとは別の憲法論で比例代表選出議員の党籍変更の場合だけではなく小選挙区選出議員の党籍変更も禁止されるべきことを主張してきたが(上脇博之「『国民代表論と政党国家論』序説」『北九州大学開学50周年記念論文集』1997年、1−71頁)、連立与党の「論理」でも当然、この結論に至りうるだろう。
 そして、議員の党籍変更の禁止は、定数の半数改選となる参議院議員の地方区選挙で選出される議員にも基本的に妥当するはずである。政党の公認候補が必ず一人である事実上の一人区や、政党の公認候補が一人である場合も多い二人区が多いからである(少なくとも党公認候補が一人しか立候補していない候補者が当選した場合には当該議員の党籍変更が禁止されるべきであろう)。
 参議院議員通常選挙は来年だからという理由で「強行採決」されたのであるから、この点の改正も同じように急いで欲しいものである。

 さらに突き詰めて考えると、小選挙区選挙や事実上の一人区の選挙の否定へと至りうる。与党の「論理」には、1994年の「政治改革」を否定する側面を内包しているからである。当時、政党本位の選挙、政策本位の選挙の実現が提唱されていたが、この度の非拘束名簿式化は、この実現を大きく後退させることになるだろう。全政党内で「同士討ち」を誘発するからである。94年の「政治改革」では、衆議院議員の選挙制度につき中選挙区選挙における「同士討ち」を回避するために小選挙区本位のものに「改正」され、政治資金につき政党本位になるよう国民の税金を財源とした政党助成が導入されたのであるから、「政治改革」の論理が後退した以上これらを全面的に見直すしかないであろう。
 また、ほとんどが事実上の一人区や二人区である参議院の地方区選挙も廃止するか、根本的に改めるしかない(参照、政治改革オンブズパーソンの声明「今優先されるべきは政治改革のやり直した!!」

 そのとき重要なことは、政権交代を容易にすると当時主張されながら実際には実現していないのであるから、本当に実現するよう選挙制度を改正することである。その具体案としては、衆議院も参議院も現行の各総定数を維持した上で比例代表選挙だけにすることを提唱しよう。そして、政党本位を改め、無所属や小政党も立候補可能にし、被選挙権の不当な制限をもういい加減止めるべきである。高額な供託金制度も廃止すべきである。これならば、民意はできるだけ正確に各院に反映されうるし、政権交代は少なくとも今よりも実現可能になるだろう。

 連立与党が「党利党略ではない」というのであれば、せめて「論理」だけは一貫させてほしいものである。

2000年10月28日
上脇 博之

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