(その6)鬼っ子の典型・赤軍派批判から社会主義とは何ぞやの問い直しへ
千年紀に寄す 電子手紙ほか 2001年3月
先月末、今や417名が参加する民衆のメディア連絡会の電子手紙広場に、「連合赤軍27年目の証言」の書評が転載された。私は早速、以下の手紙を送った。
送信日時 : 2001年 3月 29日 木曜日 11:56 PM
件名 :Re: マルクスの資本論って
海賊版『学習資料・五ヵ国語資本論』制作発行者の木村愛二です。
最近、いわゆる既成左翼の腰抜け振りが誰の目にも見え見えであるゆえか、いわゆる外地からの「帰還」騒ぎもあり、私が半気違いと呼ぶ無反省または反省不十分の暴力集団、赤軍派が代用品のごとくに、狭い疑似左翼市場に登場しています。歴史的な経過をご存じない若者が、またもや騙されるいけないので、一言します。
私こと、元日本共産党の党歴30年の二重秘密党員経験者は、自らの闘争経過の抜本的な見直しのためにも、すべてまとめて、カール・マルクス以来の暴力革命主義者、つまるところは権力主義者の系譜に対する徹底的批判を開始しました。いわゆる赤軍派は、私が学生時代、1960年安保闘争に参加した時期に、日本共産党の中央委員会と対立し、共産主義者同盟、ブントを結成し、安保闘争を敗北と総括した直後、四分五裂した学生集団に由来しています。彼らも実に無責任な連中でした。
私は、マルクスの基本的な誤りは、階級闘争の教条化にあり、彼自身は労働の経験なき知識人であるにも関わらず、「労働者階級」を革命の主体として位置付け、自らの権力意識を満足させるために階級間の憎悪を煽ったことにあると考えています。同様に職場の労働の経験も無く、労働組合運動とは完全に無縁だった赤軍派は、その典型的な鬼っ子です。
興味のある方は、わが電網宝庫内の下記を御覧下さい。
http://www.jca.apc.org/~altmedka/marx-hihan.html
これに対して、かつてのヴェトナム戦争当時に、「ベ平連」の略称で知られる新左翼運動を担った吉川勇一さん
から、返答があり、その最後の言葉、「社会主義国の敗北は、政治的敗北にすぎず、経済的には同じ土俵で勝負しようと言う挑戦なんだという視点が必要だと思います」、だけを手掛かりに、私がまた返答した。送信日時 : 2001年 3月 31日 土曜日 12:15 PM
件名 : Re: 社会主義国の敗北
先のわが電子手紙、「マルクスの資本論って」を、豪速球と自称するのは、内心忸怩ですが、どこかから感情的な反発を受けるかもしれないと思っていたところでしたので、Kikkawa Yoshiyukiさんの返球に感謝します。実は、先にも、わが電網宝庫連載、マルクス批判の宣伝をしたのですが、そこで、4月1日、四月馬鹿をも顧みず、いわゆる社会主義とは何ぞや、の再考を求める予定でした。
この連載では、千年紀を意識し、人類史全体に及ぶ見直しを意図しているのですが、その見直しの視点の基本には、言葉の独り歩きの吟味と、実際の歴史上の事実関係の吟味を設定しています。
「社会主義」に関しては、言葉自体の原義の吟味もありますが、昨年、「アソシエ」を名乗る集団の仲間から、彼らの理論的な支えとなっている専修大学の栗木安延さんの「カール・コルシュ」研究論文(専修経済学論集1998.7)を頂きました。1923年にあえなく敗北を喫したドイツの武装革命政府で法相になったこともあるコルシュは、カウツキーにもマルクスにもレーニンにも批判的で、「戦後の労働者自主管理思想の源流」との評価も有る様です。具体的には、労働者生産協同組合の発想です。
私は武装革命を好みませんが、「労働者自主管理」の歴史的な原型を、たとえば、フランス革命期の「職安」型地域的組織に求めています。その時代には、社会党も共産党も、まったく存在していなかったのです。私は、当時もギロチンを多用していた権力主義的な「左翼」政党が、その後も、労働者の自主的な組織を草狩り場にして、歪め、崩壊させたとさえ考えています。
フランスの実例についての私見は、わが電網宝庫の下記の頁にあります。
http://www.jca.apc.org/~altmedka/yokos-06.html
以上のやり取りを経て後、社会主義思想に至る前の材料として、すでに記したガンディーの非暴力抵抗思想の資料を探していたら、まさにその思想の中心的な言葉、アヒンサ-(ahimsa)を題名にした小冊子に、7年前の旧稿が載っているのを思い出した。誰がこの題名を思い付いたものかも知らないのだが、カンプチアPKO出兵反対運動で知り合った仲間が作り、自費出版で初版3,000部を売り切り、1,000部増刷したと聞く。
読み返して見ると、字数の制限があったので、その当時の想いが圧縮されていて、自画自賛したくなるほど、緊迫感がある。これをまず、「社会」という言葉の内の「国際社会」を意識し直す原点として、ここに収録する。
『アヒンサー』
(PKO法「雑則」を広める会、1994.4.8)
奥付の編集者の言葉:
アヒンサ-とは、サンスクリット語で、非暴力、不殺生と訳され、「命あるものを殺さない、傷つけない」こと。「世の中を幸福にするために心とからだと言葉で、一所懸命に生きる」こと。
p.23-26.
国際的多数派運動への脱皮
木村愛二
●反動期を乗りこえる世界観
もともと違法な存在である日本軍(国際通称)の海外出兵に反対する運動は、湾岸戦争からカンプチアPKOヘと三年を越えて続いている。私は、湾岸戦争への九○億ドル拠出とPKO法の両方の違憲訴訟で原告になっている。日本国内の政治では、表面上の負けいくさの連続だが、最初から歴史的な反動期を意識し、息のながい戦いのつもりで始めたので、別にあせりもしない。
たしかに運動の参加者が「ますます少数化、老齢化」と心配する人もいる。だが日本は今、世界で唯一の黒字大国だ。幻想を抱くだけの層も含めると、日本人の大多数が中流意識を持つのはむしろ当然である。特に、このところ何年か続いた人手不足のため、若者たちの多くは独身貴族といわれるまでの高収入を容易に得るにいたった。彼らの思想の保守化は、いささかも驚くに当たらない。しかも、いわゆる社会主義がスターリニズムの果てに崩壊し、新たな世界市場の分割競争が激化している。市場経済といえば聞こえは良いが、ジャングルの掟の支配への逆行である。だが過去には、フランス大革命の共和政がギロチンの恐怖政治の果てにナポレオンの帝政へと逆行し、その後、ヨーロッパの諸国が世界中で帝国主義的分割競争を繰り広げた歴史もある。こんな時期にもっとも重要なのは国際的な視野であり、歴史的事実を踏まえた世界観、人生観である。
世界観が違うと、ものごとは大いに違って見えてくる。たとえばつい最近、自衛隊の存在を容認する「平和基本法」の提案や、やはり自衛隊の存在を容認する「普通の国家」の方が多数だからこれに合せろという主張まで現われた。これらの主張が、多数派好みのマスコミを意識した「変節」かどうかの議論もある。もともと多数につくという発想自体、何らの論理性を持たない。毒を仰いだソクラテスを引き合いに出すまでもなく、自らの信念のなさを露呈する議論だ。戦前にはこの種の議論が「現実路線」という侵略容認論につながったものだが、私は、もっと古い熟語で「付和雷同」を戒め、「鶏口となるも牛後となるなかれ」の精神を強調したい。
●積務超過の諸国の方が多数派
さらに、だれが多数派でだれが少数派かということは、土俵の選び方で決定的に違ってくる。世界の人口全体を冷静にみれば、唯一の黒字国日本を含むG7の大国の住民は少数派である。少数派の中の幻想的多数派をたぶらかす政治屋などは、いくら力んだって、国際的にはひと握りの多国籍企業オーナーの「牛後」(牛の尻尾)か飼い犬にすぎない。その一方で、本物の多数派の人口を抱える一一四ヵ国は債務超過の現状である。また、世界中で経済大国からのODA(政府経済援助)の押し付けによる環境破壊も進んでいる。闘いの課題は溢れている。日本国内での湾岸戦争協力反対やPKO海外出兵反対の運動を、さらに国際的な視野で広げる意気込みを持ちさえすれば、すでに多数派運動としての道の第一歩をふみだしたことになる。
その際、克服すべき弱点を一言でいうと、日本の平和運動の防御的な狭さである。受け身の「一国平和主義的」な反対運動だけでは重くなるのが当然だ。特にこれから重要なのは国際情勢の情報収集と分析である。かつての平和運動はソ連のタス、中国の新華社、ユーゴのタンユグなどの通信社から得た情報をも活用していた。それらの情報は決して十分なものではなかったが、少なくとも、アメリカを中心とする資本主義大国の国際政治ヘの批判を含んでいたことは確かだった。それらのアメリカと対抗する情報源の崩壌が、いかにもあからさまに証明されてしまったのが、湾岸戦争の報道状況だった。
●軍需産業がネットワーク支配
油まみれの水鳥の場合がもっとも象徴的だ。アメリカの大手メディアを通じて、なんらの証拠もなしに「イラクの環境テロ」というブッシュ大統領の非難が世界中に流され、それがそのまままかり通った。アメリカだけでなく、ソ連も偵察衛星を飛ばしていたのだから、米ソのトップは事実を確認できたはずだ。テレビ朝日「ザ・スクープ」の取材により、問題の水鳥を襲った油は、アメリカ軍が開戦当日に爆撃で破壊したゲッテイ・オイルの原油貯蔵タンクから流出したものと判明した。フロリダの中央軍司令部がファックスの回答で爆撃の事実を認めている。ところが、テレビ朝日の親会社の朝日新聞をはじめとして、目本の大手メディアは、いまだに「ザ・スクープ」の取材結果を追認せず、みずからの報道の誤りを訂正していない。まさによくある不良少年の冤罪報道のパターンだ。
日本の大手メディアもひどい状況だが、アメリカはもっとひどい。三大ネットワークの一つで、すぐれたニューズ報道で知られたNBCは、世界で第三位の会社、電気メーカーとしては第一位のGE(ジェネラル・エレクトリック)に買収されていた。GEはレーガン政権の下ではスターウォーズを受注していたし、かつては日本に落とされた原爆を製造したマンハッタン計画にも加わっていた。世界でもっとも有力な軍需会社がネットワークを支配し、戦争を煽り、その映像と音声を日本に送りこんでいたのだ。
●OPECつぶしの長期国家計画
アメリカは水鳥の問題で嘘をついただけではない。あらゆる手段をつくしてイラクを挑発し、戦争に持ちこんだ。アメリカは十年以上も前から、湾岸の石油資源を確保するために、イラクを標的にした戦争の準備を開始していた。それを十分に立証できる議会記録もある。国際政治の上からいうと、アメリカにとってイラクとの戦争は、OPEC(石油輸出国機構)、とりわけその中心をなすOAPEC(アラブ石油輸出国機構)の機能を破壊するための、長期にわたる国家計画の一環であった。
OPECつぶしは、また、国連の総会を活用した第三世界の諸国による「資源外交」つぶしの一環でもあった。資源外交つぶし、それに続くODA(政府開発援助)攻勢によって債務がかさむ諸国は今、貧困と環境破壊にあえいでいる。
●民衆の情報ネットワーク作りを
そのような世界各国の実状を伝える情報活動は今や一番重要な闘いである。すでに環境問題のNGO(非政府組織)の仲間は、国際的なパソコン・ネットを活用している。私が加わっている「民衆のメディア連絡会」は、湾岸戦争下のアメリカで反戦報道を続けたニューョークの市民参加テレヴィ局、ぺ-パー・タイガーの仲間と交流を続けているが、かれらはケーブルテレヴィで週一回三〇分の番組を放送しながら、各地の反戦運動の映像情報を集めて編集し、それを通信衛星によってアメリカ全土に配給した。同じ仲間がパソコン・ネットを築いている。日本でも呼応し、かつてのタス、新華社、タンユグなどに代る民衆のメディア・ネットワークを築く必要がある。むしろ、そういう最先端の技術を尊重する活動を展開すれば、若者が喜んで加わってくるのではないだろうか。
きむら・あいじ 一九三七年生れ。日本テレビを退社後、自由業。近作は『湾岸報道に偽りあり』(汐文社)『軍隊の影に利権あり』(民衆のメディア連絡会企画、ビデオプレス制作)『国際利権を狙うPKO』(緑風出版)
以上で(その6)終わり。(その7)に続く。
(その7)わがマルクス徹底批判の開始も遅かりし由良之介か偽の友の変態注意「日本赤軍解散を表明」へ
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