イスラエルはなぜゴラン高原を奪ったか

水争い「解決」と称し ODA予算を狙うゼネコン日本軍「出兵」

1998.4.15. 初入力。初出:『歴史見直しジャーナル』(1997.12)

 ゴラン高原などの違法占領、日本軍出兵の背景には、深い事情がある。『偽イスラエル政治神話』によると、“ユダヤ国民基金”総裁は1940年に、「北の方はリタニ川まで、東の方はゴラン高原まで、ほんの少し国境線を広げれば、イスラエルの領土は、それほど狭くはない」、と発言していた。

 リタニ川は今、イスラエルが占領地に勝手に設定したレバノン南部の「安全保障地帯」に含まれている。ゴラン高原は「併合」宣言下にある。ともに連合国総会の非難決議の対象であるが、ダブルスタンダード超大国、アメリカは、何らの行動も起こさないどころか、安全保障理事会で拒否権を行使してイスラエルを援護している。イスラエルは今、1940年の“ユダヤ国民基金”総裁の発言通りに、実質的な領土拡大を実現している。

 ではなぜ、国際世論を敵に回してまでそうするかと言えば、領土の広さの問題だけではなくて、リタニ川もゴラン高原も、水源地帯だからである。しかも、この両地帯をイスラエル領として確保するのは、一九四〇年どころか一世紀以上前からのシオニストの構想だった

 通産省の外郭団体が発行する『現代中東研究』には、湾岸戦争以後、3の専門論文が載っている。「ヨルダン川水系に於ける水資源開発と国際水利権紛争について」(9号,91.8)「イスラエルとパレスチナの水資源」(12号,93.2)「シリア被占領地ゴラン高原」(13号,93/8)。国立国会図書館調査立法考査局が発行する『レファレンス』は、折々の国際的な政治課題を予測しながら特集を組んでいるが、そこにも五三頁にわたる論文「中東の水と平和~イスラエル・パレスチナ水資源管理をめぐる対話」(通巻第 538号,95.11.15)が掲載された。

 シオニストの構想は、まず、周囲のアラブ諸国と十分に対抗できるだけの国民皆兵国家を建設するための人口、約 450万人の確保、その人口を養う食料の自給が可能な耕地面積、そこへの灌漑、水資源地帯の確保という順序で、リタニ川とゴラン高原は、重要な戦略的獲得目標に設定されていた。

 「ヨルダン川水系に於ける水資源開発と国際水利権紛争について」と題する論文の要約によると、「1867年に早くもパレスチナの開発基金を集めた創世期のシオニストの運動組織は、パレスチナの天然資源を調査するための技術調査団を派遣した。1871年の報告書では、ネゲブ砂漠を含むパレスチナは数百万人の人口を移住させる可能性を有し、そのためには北部の豊富な水資源を乾燥した南部へ導水しなければならないことを指摘している」

 シオニストは、1917年のバルフォア「意志表示」以前から、国際談合で、この北部の水資源地帯がイギリスの委任統治の範囲に入るように画策したが、それは果たせず、フランスの委任統治下に入ってしまった。それが現在の国境線にもなっているのである。

 以上のような歴史的事実を記載する論文が、通産省の外郭団体の雑誌などに載っているのは、現在、日本の企業集団が、「イスラエルとパレスチナの水資源」に関する巨大プロジェクト、地中海から 400メ-トル落差のある死海に海水を導く水路を堀り、その途中に逆浸透膜による浄水化工場を設置する計画を売り込み中だからだ。

 売り文句は「21世紀プロジェクト」。イスラエル側も日本のODA予算を狙っている。暗殺されたラビン首相も、その直前、日本に来た。『マルコポーロ』廃刊事件の背景に、外務省だけでなく通産省と財界の圧力を見る向きもある。

 なお、この一文で「日本軍出兵」という用語を使用したのは、「自衛隊派遣」と称する言葉のごまかしを批判する意味でもあるが、同時に、日本軍事史に著名な「寄席の落語家をして『シベリアシッパイ』といわしめたシベリア出兵」(『日本戦争外史/従軍記者』、全日本新聞連盟、1965)をも想起せしむるための意図をも含むものでもあり、戦争商売に懲りない人々にはとても無理にしても、戦争屋にだまされっぱなしに懲りている人々への警告を目的とするものである。


ゴラン高原
湾岸戦争からゴラン高原出兵に至る深層の解明

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