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『亜空間通信』325号(2002/08/03)
【ハマス幹部の妻が殉教の民と決別し息子の自爆テロ拒否契機に平和商人論提起】
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転送、転載、引用、訳出、大歓迎!
かねてよりのわが構想、名付けて「平和商人」論の提起に、ついに踏み切るべき事態が発生した。
昨晩(2002/08/02)、就寝直前、以下に紹介する阿修羅戦争14掲示板の投稿を見てしまったのである。題名は「ハマス幹部の妻、息子の自爆テロを拒否」であった。
これは、誰の目にも衝撃的、または画期的なできごとである。私は、これが、長らく考え続けてきた問題、名付けて「平和商人」論の核心を突く事件だと思うので、昨夜は、昨日の午後の雷雨のお陰で気温が下がっているというのに、寝付きが悪くなり、早朝4時半、ついに寝苦しく目が冴えわたってしまった。仕方なしに起きあがり、その投稿を取り込み、本日(2002/08/03)の中心課題に据えることにした。
私は、この記事の見出しを、「ハマス幹部の妻が殉教の民とはかかわりたくないと息子の自爆テロを拒否」と付け直す。その方が論理的だと思うからだが、そう理解する根拠は、後に示す。
電話の録音テープの公表に至る経過は現在のパレスチナの状況さながらの陰惨さであり、真偽に関する論議も出るだろうが、論理的にも頷ける経過であるし、「自治政府筋もテープを本物と認めた」というのが間違いないとすれば、私は、それで真偽の結論、本物の判定ができると判断する。
これが事実だとすれば、その「ハマス幹部の妻」の心境の変化の過程が最も重要であるが、私は、これを象徴的な事態と受け止める。
http://www.asyura.com/2002/war14/msg/284.html
ハマス幹部の妻、息子の自爆テロを拒否〔朝日新聞〕 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 8 月 02 日 22:28:42:パレスチナのイスラム過激派ハマスの幹部の妻が、武装活動家から息子に自爆作戦を実行させると電話で知らされ「勉強で忙しい」と拒否した。このやりとりの録音テープが1日夜、イスラエルのアラブ諸国向けのアラビア語放送で流された。自治政府筋もテープを本物と認めた。
自爆作戦を断ったのは、ガザ自治区在住のハマスの政治指導者でガザのイスラム大学講師のアブドルアジズ・ランティシ氏の妻。ランティシ氏はハマス幹部の中でも、自爆テロを肯定する強硬派として知られている。
イディオトアハロノト紙によると、ハマスの武装部門の活動家がランティシ氏宅に電話で「あなたの息子は我々の戦士の一人だ。神の助けを借りて、彼は我々に名誉をもたらすことになろう」と言ったところ、母親は「そんな名誉に興味はない。息子は勉強のことで頭がいっぱいだ」と答えた。活動家が「聖戦の道は開かれ、あなたの息子は神の道を進んでいる」と続けると、母親は「私は殉教の民とはかかわりたくない」と言って電話を切ったという。
自治政府筋によると、テープは自治政府の情報機関が盗聴し、春以降のイスラエル軍による侵攻作戦で自治政府の施設から押収されたものだという。 (21:44)
以上で引用終わり。
この記事自体の存在に関しては、本日(2002/08/03)、正午、わが電網宝庫読者からのFAXにより、紙印刷も確認できた。ただし、見出しは少し違っていて、「息子への自爆依頼断る」となっている。本文では、冒頭に【エルサレム2日=川上泰徳】とあり、「ハマスの政治指導者でガザのイスラム大学講師のアブドルアジズ・ランティシ氏の妻。ランティシ氏は爆テロを肯定する強硬派として知られている」の部分が、「ハマスの政治指導者アブドルアジズ・ランティシ氏の妻。ランティシ氏はハマス幹部の中でも、自爆テロを肯定する強硬派として知られている」と、簡略化されているが、他の部分は同じである。
さて、私は、これまでにも何度か、パレスチナ人またはアラブ人、さらには、すべての運動における「武闘」方針に反対を表明してきた。私が推奨しているのは、簡略に言えば、インドのガンディーが実践し、イギリス帝国からの植民地解放闘争に勝利した「非暴力抵抗」の方針である。
私は、っさらに進んで、自らの命は危険に晒さずに「特攻」を煽るイスラム教の指導者をも、日本の旧職業軍人と同様の「糞坊主」であると批判してきた。この私の考え方に基づくと、パレスチナの武闘派の極としてのハマスの糞坊主の足元から、私と考え方を同じくする武闘反対の声が挙がったことになる。
宗教的な武闘の扇動という意味では、アメリカも同様である。今回の911以来の事態の中では、星条旗を振り回すアメリカの愛国主義の熱狂の足元で、女性、しかも15歳の少女が、以下の報道のごとき「非暴力抵抗」の「反戦」行動を決行した。
『朝日新聞』(2001.11.02)「『反戦クラブ』結成計画した少女/米の高校が停学処分/裁判官も支持」によると、祖父がヴェトナム戦争、「おじ」 [この表記では伯父か叔父か不明] が湾岸戦争に従軍した家庭の15歳のケイティちゃんが、手書きの反戦Tシャツを着て登校し、「無政府主義クラブ」結成を呼び掛けるビラを配り、20人の賛同者を集めていた。
以上で引用終わり。
この「手書きの反戦Tシャツ」に関しては、某電子手紙広場に英語の原文の紹介があり、私は、それを訳出し、背後の意味を解説した記憶があるのだが、その自分の文章を今は発見できない。ここで必要な部分は、その英文の最後だけであって、それは鮮明に記憶している。
God bless America! (神よアメリカに祝福を!)だったのである。この文句は、ブッシュの演説の締めの決まり文句で、当時はアメリカでも嘲笑の的になっていた。片やイスラム教、片やキリスト教である。「文明の衝突」とか「宗教の衝突」などと言うよりも「集団の狂気の衝突」なのである。だから私は、「教」よりも「狂」の方が、その危険性を正確に表現していると思う。しかも、「狂った教条」の危険性は、社会主義とか共産主義とか科学的社会主義とか自称していても、同様だったのである。
そこで、実に面白いのは、この報道の直前に出現したブッシュの「失言」である。
http://www.asyura.com/2002/war14/msg/272.html
「イスラムはインチキ宗教」テロに怒り米大統領失言〔朝日新聞〕 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 8 月 02 日 11:47:07:「インチキ宗教の名にかけて殺人を犯す者をどう捕らえるべきか」。ブッシュ米大統領は1日、イスラム教への侮蔑とも受け取られかねない「失言」をし、側近たちを慌てさせた。
ヨルダンのアブドラ国王との会談前、エルサレムの大学で起きた爆弾テロで米国人が巻き添えで死亡したことについて記者団から問われ、興奮気味に。問題発言が飛び出した。
早速、フライシャー大統領報道官の記者会見で大統領の真意を問う質問が殺到。同報道官は「大統領はイスラム教が平和の宗教だと確信している。イスラエル人や米国人を殺す口実として宗教を使うものがいるという意味だ」と再三述べ、イスラム教とは無関係と強調した。
大統領は昨年の同時多発テロ後、米軍を「十字軍」と呼び、物議をかもした。 (10:52)
以上で引用終わり。
この自己弁護的なブッシュの台詞、「インチキ宗教の名にかけて殺人を犯す」は、逆説的な「盗人にも一分の理」である。
上記の「ヨルダンのアブドラ国王との会談」に関しても、以下の追加報道があった。
http://www.asyura.com/2002/war14/msg/281.html
米大統領:イラクのフセイン政権交代に「あらゆる手段」強調[毎日新聞8月2日] ( 2002-08-02-10:53 ) 投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2002 年 8 月 02 日 17:20:26:
【ワシントン中島哲夫】ブッシュ米大統領は1日、アブドラ・ヨルダン国王との会談を前にした共同記者会見で、イラクに関する米国の政策はフセイン政権の交代だと述べ、そのために「あらゆる選択肢、あらゆる手段」を検討していると改めて強調した。
武力によるフセイン政権打倒を視野に入れていることを再確認したものだが、イラクとの対話を通じた問題解決を求めているアブドラ国王と同席した上での発言だけに注目された。国王は前日に行ったワシントン・ポスト紙との会見で、多くの国の指導者が米国のイラク攻撃計画を深く懸念していると指摘した。
ブッシュ大統領が声を高めてフセイン大統領を非難し「(政権交代を目指す)私の考えは変わっていない」と強調するなど、アブドラ国王と意見が違っても構わないという姿勢を示したのに対し、国王は「われわれには共通の基盤を見つけられる多くの領域がある」などと融和的な発言に終始した。
以上で引用終わり。
さて、以上の新情報を踏まえて、冒頭に「そう理解する根拠は、後に示す」とした問題、言い換えると、「ハマス幹部の妻」の心境の変化の過程に関する私の「理解の根拠を、ここで示す。
私は、首相になる前のシャロンが、神殿の丘での挑発行動に出た直後、アメリカ大使館前で演説し、その報告の中で以下のように記した。詳しくは原文の前後関係を御覧頂きたい。
[前略]「ガザで70%以上がインティファーダを支持」の世論調査の意味
[中略]今年の1月末の米軍放送に入っていたアメリカの公共放送、NPRの「ガザ」現地ルポでは、報告者が、「パレスチナ人の組織が行ったガザの世論調査では70%以上がインティファーダを支持している」と語っていた。確かに、支持率は高いようである。しかし、この数字を逆に読むと、残りの「30%弱」は、「インティファーダを支持していない」と、「パレスチナ人の組織」に対して、表明したことになるのである。
私は、現地の詳しい実情を知らないから、評価を保留せざるを得ないのであるが、イスラエルの暴虐に対する憤激が沸騰している被占領地のガザで、仲間のパレスチナ人の組織から質問を受けて、「インティファーダ」戦術に反対を表明するのは、むしろ、個人的な勇気を必要とする行為なのではないのだろうか。[後略]
以上で引用終わり。
つまり、私の考えでは、「ガザのイスラム大学講師のアブドルアジズ・ランティシ氏の妻」の背後には、上記の「インティファーダを支持していない」「30%弱」の地元のパレスチナ人が控えているのである。
最後に、かねてよりの構想、名付けて「平和商人」論の提起である。この件に関しても、私は、「自称平和主義者」とか「偽の友」などの表現で、何度も論じてきた。「ハマス」に特定して言うと、一見威勢の良い武闘方針を命の危険を顧みずに打ち出すことや、時には一部幹部が自ら実践して命を失う危険をも冒すことによって、運動組織での主導権を確保する実例は、歴史の上では枚挙に暇がない。私は、「右も左もない権力主義」として、この問題を位置づけてきた。
ただし、以上のような「自称平和主義者」とか「偽の友」とか、偽善系左翼とかの用語では、意味が分かり難いし、「内ゲバ」かなどと反発する向きも多い。そこで、むしろ、意味としては最も厳しくなるが、端的に本質を示す言葉として、英語の実例、peacemonger(軽蔑的な意味を持つ「平和論者」)を基にして、英語は同じままのpeacemonger「平和商人」を思い付いていたのである。
これと直接に対照されるのは、warmonger(戦争商人)、hatemonger(憎悪商人)である。英語には古くから、ironmonger(鉄器商人または金物屋)、newsmoner(廊下鳶または金棒引き)という複合語があるし、この概念を国際化する上では、非常に有利であろう。
古今東西、トルストイの大河小説の題名ともなった「戦争と平和」、特に「平和」は、決定的な重要性を持つ思想概念である。それがなぜ、未だに実現しないのか。実は、数多の「平和商人」の商品としての「平和」のほとんどが、役に立たない間違いだらけの偽物だったのではないか。「平和」を売ると称して、主導権争い、権力支配を繰り返してきたのではないか。私は、この決定的な疑問を、ここに提起し、これまでに記した文章をもまとめて、総合的な論集とする決意を固めたのである。
以上。