台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会
台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会 1999.10.16
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台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会よりの連帯のあいさつ


渡辺 信夫 (台湾の元「慰安婦」裁判を支援する会・代表)

 台湾のお祖母さん方、またそれを支えて来られた台北婦女救援基金会の方々、この度は日本へよくいらっしゃいました。

 皆さんがたは高齢になられて生涯を静かに回想なさるはずの時期に、若き日に受けた屈辱の名誉回復を求めて、遠路はるばるおいでになったことについて、私たちは心を痛めています。

 昨日、空港にお迎えに行った時、皆さんがお揃いのTシャツを作って着ておられるのを見て、皆さん、また婦女救援基金会がこの裁判にどんなに力を入れておられるかが感じられ、私たちの責任の重さを改 めて感じました。このように裁判に訴えても正義を回復させることの出来ないような国の国民であることを私たちは心から恥ずかしく思います。

 日本政府は「従軍慰安婦」のことで国際的に評判が悪い実情に気付いたので、政府の責任をごまかすために「アジア女性基金」というものを作りあげ、問題を国民から募金した金銭のみで解決しようとしました。台湾においては、被害者の皆さんも、それを支援する人権団体も、そして政府も一致して、同情とお見舞いで解決しようとする日本政府の姿勢をハッキリ拒否して、日本政府の正式の謝罪を求めておいでになったことを、私たちは非常に有難い処置であると考えています。

 私たちは日本人として、正義の貫徹に熱意を持たない、良心的レヴェルの低い、人権感覚と叡知を欠いた政府しか選べないことを、世界の国々の前に恥じています。今回、台湾の皆さんから日本の良心を目覚めさせる働きかけをしてくださることを心から感謝しています。

「沈黙の50年」に胸うたれて

 さて、羽田空港にお着きになったとき、皆さんのお揃いのTシャツの胸にFifty years of silence(沈黙の50年)と書かれていたことも私の胸をいたく打ちました。屈辱を受けて、それを叫び出すことも、近親に洩らすことも出来ない50年の沈黙の苦悩。それは察するに余りある苛酷な状況でありました。

 沈黙ということばを私はよそごととして語るのではありません。沈黙させられる側の弱さがあり、それは私たちにもある問題です。私たちも現在の日本で叫ばなければならない多くの問題があるのに沈黙しています。そのような私たちが弱い人に対して、沈黙を強いる側に立つこともあります。私たちの無理解、無関心が、被害者を黙らせ、語ることを諦めさせる場合も少なくありません。いや、ハッキリ言いまして、私たちは、特に台湾の人々の人権に関して、これまで被害者を沈黙させる無理解・無関心のなかに居座っていたのです。

 25年前、私が初めて台湾を訪れた時に見たのは、戒厳令のもとで沈黙を強いられる恐ろしい世界でした。例えば、誰でも知っている2・28事件は、知っていても語ってはならないことになっていました。

 こういう事件すら沈黙しなければならない状況では、「従軍慰安婦」問題についても沈黙するほかなかったでしょう。この状況を過激な革命という形を取らないで徐々に変革して、今日の自由に物が言える台湾を作って来られた方々の叡知に敬意を表します。

 私たちの会は裁判の支援をしようとつくった会ですが、今回、十分なおもてなしも出来ず、すでに一端はお感じになったと思いますが、この会には弱点も夥しくあります。会の代表になった私も無名の老人であります。実力があり、抱負があって会を代表するというのではなく、裁判が始まるので急遽決めねばならないというので、比較的温順で人の言うことを聞く老人が選ばれたというのが実情であります。

 ただ、太平洋戦争の生き残りの軍人でありますので、生きている限りは戦争の罪責を負って行く覚悟ですし、25年来台湾のキリスト教会との関係を持って来た者として、台湾に対する責任を果たしたいと願っております。

 お助けするというよりは、皆さんから助けられて、日本の叡知と良心を立ち上げて行く運動を展開したいと私は心から願っております。

 以上をもって連帯の御挨拶といたします。
 有難うございました。

(99年7月13日、提訴前夜集会において)


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