[アレイダ・ゲバラさんの講演を聴いて]
新しい社会と新しい人間−−キューバに生きるチェ・ゲバラの精神


 キューバ革命の英雄チェ・ゲバラの娘アレイダ・ゲバラさんが来日し、テレビや新聞などでも大きく報道されました。ゲバラの生誕80周年にちなんだもので、東京、長野、大阪、京都、広島、沖縄などで講演会やイベントが開催され、平和と反核、医療、音楽と踊りなどそれぞれの地域で特色を出していました。キューバは、日本の戦争加担政策、グローバリズム、資本主義的な生産・浪費構造や医療荒廃、社会保障の切り捨て、格差教育、格差社会、自己責任と新自由主義などと対極にある国だと思います。5月20日の「VIVA!CUBA×JAPAN FIESTA〜キューバと日本に平和の橋をかけよう〜」(大阪)、22日の「キューバの医療を神戸で聞く会」(神戸)に参加しました。両日とも大変な人の入りで、こんなにもキューバに関心と共感を持っている人たちがいるのかと、驚きとうれしさでいっぱいになりました。キューバではとてつもない新しい社会が生まれ新しい人間が生み出されている、そしてそれはまだまだ新しいものを生み出していく闘いの過程にある−−アレイダさんのスケールの大きな講演はそんなことを感じさせました。ここでは大阪でのイベントについて紹介します。
 

5月20日の「VIVA!CUBA×JAPAN FIESTA〜キューバと日本に平和の橋をかけよう〜」(大阪)

 大阪のイベントでは、キューバについて以下のような魅力的な紹介がなされていました。
☆都市の野菜自給率100%(1991年の食料自給率は40%程度)
☆医療費無料(予防医学中心)
☆教育費無料
☆環境先進国(省エネ家電化政策実施、クリーンエネルギー採用)
☆交通手段の中心がヒッチハイクという助け合いの心
☆歌と踊りを愛する芸術性あふれる明るい文化
http://cuba-japan.com/

 会場を埋めた多くが20代や30代の若い人たちでした。後半でサブの司会をしていたのが、兵庫県で「百姓をしている」という18歳の双子の女の子というのも驚きです。小学校の時にキューバに関心を持ち、家が百姓であることから当然のようにキューバを受け入れたというようなことを話していました。プログラムは以下です。
1部(13:30〜16:30)
  13:35 マイケル・ムーア監督最新作『SiCKO(シッコ)』上映
  15:50 キューバ農業ドキュメンタリー映画『Salud!ハバナ』上映

2部(17:30〜21:10)
  17:35 吉田沙由里講演(NPOアテナ・ジャパン代表)
       テーマ「小さな国の大きな奇蹟」
  18:30 アレイダ・ゲバラ講演
       テーマ「父ゲバラ、キューバ、そして日本」
  20:30 コンパルサ(キューバの歌と踊り)
  20:50 平和の祈り
  21:10 終了

 第一部

 昼の部はマイケル・ムーアの『シッコ』と都市有機農業を取材した『サルー・ハバナ』の上映です。平日の昼間にもかかわらず、300〜400人くらいが参加していました。まず会場に入るととりわけ有機農業やスローライフを実戦する人々がパンやクッキー、米、雑穀、オリーブオイル、柑橘類等々を販売していました。みんな明るく元気です。
 さてイベントのはじまりです。『シッコ』はご存じのように、病気で入院しただけで莫大な医療費が請求され自己破産に陥るなどアメリカの医療がかかえる深刻な実態を描いた映画ですが、治療もされず放置されている9.11の消防士の英雄たちがキューバに渡り、無料で医療を受ける場面などでは会場からすすり泣く声が聞こえました。全国民に無料で医療を提供するというキューバの基本理念への深い感動と、経済大国でありながら人々が切り捨てられていくというアメリカや日本のみじめさ、やりきれなさへの思いです。
※『シッコ』の詳しい紹介は以下をご覧ください。
 [紹介]マイケル・ムーア『シッコ Sicko』
[書籍紹介]生存権を奪うことで、若者を軍と戦争へと供給する「経済的徴兵制」を見事に描写『ルポ 貧困大国アメリカ』(署名事務局)

 『サルー・ハバナ』は、キューバの都市農業のレポートです。ソ連崩壊後経済制裁のもとで一人の餓死者も出さずにスペシャル・ピリオドを乗り切るために、消費者を生産者に転換するという大胆な発想で都市農業を推進し、環境重視型、循環型、再生可能型、有機農業に転換し成功していった事情がよくわかります。持続可能な有機農業が環境保護の精神によって実戦されたというだけでなく、危機を乗り切るためにそれが不可欠であったという「奇跡の復活」の過程は、私たちとしても深く研究すべきだと思いました。「農業は自然を愛する人、感受性の高い人を育てる学問です」という言葉が特に印象的です。

 第二部

 夜の部は、テレビ番組テレメンタリー2007『炎の記憶?原爆の残り火をキューバへ?』上映、吉田沙由里さん講演、アレイダさん講演などです。800人の席が満杯になっていました。
 『炎の記憶』は、チェ・ゲバラの反核・平和への深い思いを伝えるものでした。革命直後の1959年7月、親善大使として日本に来たゲバラが広島を訪れることを希望しますが、日本政府は東京、名古屋、大阪など発展・復興しているところは見せるものの、広島に行くことは許可しませんでした。ゲバラはどうしても広島をみたいと思い、日本政府に内緒で夜行列車に乗り込み広島を訪れたのです。ゲバラは大きな衝撃を受け、「これからは広島を広島の人を愛していこう」という言葉を残します。そして「アメリカが犯した罪、引き起こした惨劇を、つまり私たちが見た同じものをあなたたちもみてくるべきだ」というメッセージをカストロをはじめキューバ国民に発します。今回アレイダさんはその言葉を受け、広島を訪れたのです。番組は、キューバが原爆の悲惨さを学ぶ教育に力を入れていることを伝えます。キューバでは大人から子どもたちまで、8月6日、8月9日の意味を知っているのは驚き、感動です。
※『炎の記憶〜原爆の残り火をキューバへ〜』の紹介は以下
 「チェ・ゲバラの原爆惨禍へのこだわりと広島への思い」

 『小さな国の大きな奇跡』の著者吉田沙由里さんの講演では、「国際テロ支援国家」、カストロをポル・ポトのような残虐な独裁者と本気で考えていた自分がどのように変わったのかを静かに語ります。彼女がキューバを訪れだしたのは2003年、OLをしていた時代にニューヨークで偶然キューバ写真展を見たのがきっかけです。それからわずか5年しかたっていませんが、「人々の目の輝きに驚いた」、「明るく優しい」、「教養がある」、「みんなカストロが好き」、「奇跡を起こした」など一つ一つの言葉がキューバ社会主義のすばらしさを語ります。彼女は「キューバがなぜ社会主義にならなければならなかったのか」と問題提起します。彼女は、キューバを見ると世界が見える、アフリカやアジアの80%の人々が収奪されて貧困の下にいる、みんなが平等に生きられる社会は社会主義しかない、アメリカ型社会からの脱却、オルターナティブな社会は社会主義だと示唆し、現代世界におけるキューバ社会主義の意味を真正面から問います。

 キューバ大使館からは、キューバ革命の歴史の紹介のあと、アフリカでは5,6千人のキューバの医師がボランティアで医療活動を行っているなど、国際的な医療支援活動の紹介がありました。

 そしていよいよアレイダさんの登場です。アレイダさんが語ったことは、平和の問題、医療の問題、民主主義の問題、グローバル資本と環境破壊の問題など多岐にわたりますが、一言で言えば、全人類的な視点で考え行動することの必要性、お互いの文化や習慣、歴史などを理解することの重要性です。それは、50年間にわたってキューバとキューバ人民が作り上げてきた社会主義と社会主義的人間のあり方であり、ゲバラの精神がどのような形で受け継がれているかを示すものでした。アレイダさんはキューバ社会を誇りを持って語りますが、決して自画自賛するのではなく厳しい批判も加えます。その姿にゲバラの娘として度量の大きさを感じると共に、アレイダさんが特別なのではなく、キューバの人たちがもっている共通の精神だとも感じました。
※アレイダ・ゲバラさんの講演は以下です。
「アレイダ・ゲバラさんの講演」

 「コンバルサ」では壇上と会場が一体となってキューバの歌と踊りを堪能しました。
 最後に、広島原爆の残り火を前に、“南ぬ風人まーちゃん”が平和の祈りを行いました。この広島の平和の残り火は、吉田沙由里さんが「ともしびプロジェクト」としてキューバに送るキャンペーンをしています。
 イベントに参加して感じたのは、参加者たちがそれぞれゲバラの精神や有機農業や医療という課題でキューバに共感をもっており、それが「唯一の社会主義国」、グローバリゼーションに立ち向かう国、親米の独裁政権に対して革命を成し遂げた国、革命闘争、わずか数年で差別を根絶し政治的経済的平等社会へと進んできたカストロの徹底して人民の立場に立った政治、社会主義的民主主義への共感へとつながってくのだと思いました。

2008年5月26日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 N