アレイダ・ゲバラさんの講演
アレイダさんは、「主催者より平和について語って欲しいといわれました」としてまず平和への思いを話しました。平和とは単に戦争がないというだけでは不十分です、アフリカ、アジアで子どもたちがおなかをすかせて死んでいく、5千万人もの子どもたちがビタミンAが取れないために目が見えない状態になっている、すこしでも予防接種があれば助かる病気で死んでいく、このような状態を何とかしなければならないと訴えました。アメリカ、ヨーロッパの多国籍企業がアフリカや中南米を支配し、豊かな自然を奪って地球を絶滅させることがあってはならない、世界の他でどんなことが起こっているのかを知らなければならないと。彼女は、アルゼンチンで3万人もの若者が行方不明になったことを知っているかと問い、もっとも根本的な事実を伝えていないとマスメディアを批判しました。
彼女は広島を初めて訪問し大きな衝撃を受けていました。ものすごい痛み、同じ人類が起こしたことへの悲しみがあると語り、起こったことに抗議するだけでなく、繰り返さないようにしなければならないと訴えました。彼女はある被爆者から、日本が侵略したことで原爆を落とされてしまった、仕方がないというようなことを聞いたといいます。が、それは違和感がある、原爆はどんなことがあっても絶対ダメだと語気を強めました。
キューバの医療援助に話は進みます。経済的に苦しい中での国際的医療援助は、真の国際連帯、真の国際援助とは何かを問いかけます。キューバは第三世界にあって貧しく、側にはアメリカがいる。しかし、革命は生きており、すべての医師が国内にとどまっているわけにはいかない。アレイダさんによれば、「連帯」とは余っているものをくれてやるのではなく、自分に必要なものを分かち合うことです。人のためになることが喜びであるとも語ります。彼女は、キューバの人々はなぜできるのか、日本、アメリカ、カナダのようなお金がある国がなぜできないのかと問い、大事なことは富を子どもたちに与えるというより、精神的に教育するということだと語りました。もっとも大事なことは、物質的なことではない。金持ちかどうかではなく、人のために役立つかどうかが問題である。「私たちは深く深くしなければならないし、しかし同時に私たちは喜んでしなければならない。」ここでは、自己犠牲や献身性が伴うこのような活動を心の底から行い、他者の喜びを自分の喜びと感じられるようなそのような人間像の構築に言及されていると思います。
アレイダさんは、お互いを理解することの大事さを語り、皆が同じ人類であることを決して忘れてはならないとして、“おもしろいたとえ”をしました。
−−アフリカの人が、ヨーロッパの友人に「あんた家をもっているの」と聞いたといいます。「もっていない」。では「だんなはいるの」−−「いやまだ若いからいないわ」、「子どもはいるの」−−「結婚してないからいない」、ついには「牛をもっているの」−−「牛なんか持ってないわ」。最後にアフリカの友人は、「なんて貧しいの」と言いました。それぞれの国にはそれぞれの事情があり、決して自分たちの基準を押しつけてはなりません。自分たちが知らない文化に対して尊敬の念を持たなければなりません。
アレイダさんは、ホセ・マルティの言葉「白いバラを誠実な友達のためにつくろう」という言葉を引用し、敵に対してもそうしなければならない、それを広島で感じたと語りました。このような話は、キューバ革命直後、7.26運動を記念する式典で、戦闘でたおれた革命軍側の遺族だけでなく、バチスタ政権軍側の遺族も招かれていたという逸話を思い起こさせるものです。
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講演後の質問の時間では、会場から20〜30人くらいの人たちが手を挙げ、次々と質問がなされました。参加者のキューバへの興味とゲバラの娘アレイダさんへの関心がとても大きいことが伝わってきました。最初の質問は、「キューバに原発はありますか」という意外な質問でしたが、アレイダさんが笑いながら手を振り「ノー」と言うと会場がどっと沸き拍手が起こりました。質問者は「希望の国ですね」と返しました。彼女はキューバが太陽光、水力、風力などの自然エネルギーをつかった発電を推進していると言いました。
日本で救急医療体制の不備が指摘されていることとの関係で、キューバの救急医療について年配の看護師が質問しました。キューバではすべての医療機関で救急医療体制がある。ポリクリニコ−−−総合診療所があり、ホームドクターがいて、絶対に救急診療に行くべきと考えている。それをしなければ医師ではない。しかし都市交通が整備されておらず課題も多いと語りました。
日本についてどう思うかとの質問には、「ふーん、ふーん」と相づちをうつ日本人の会話の仕方が不思議、などいろいろと話してくれましたが、日本にはものがありあまっていて店にはいると何でも買ってしまう、みなさんのもっているもの1/3くらいでOKではないかなどと、やはり物のあふれた異様な風景には違和感をもっているようでした。
日本の医療のあり方にも直接言及しました。日本の経済は高度だが、その基本にあるのは人々の働きだ、その働いている人を守らないでどうするのか、働く人は健康で強いからこそ働ける、その人たちに医療、ケアをしないのはおかしい、無料にすべきだと語りました。いわば社会的医療という基本的な考え方です。
会場にはエクアドル、ブラジル、ボリビア、アルゼンチンからの参加者もあり、キューバにさとうきびボランティアに行ったことがあるという人から、アジアからどのようにキューバ連帯をしていけばいいかとの質問がありました。アレイダさんは「さとうきび刈り」はそれとして大きな力をもっているが、それ以上に大事なことはもっとラテンアメリカを知ること、「コミュニケーション」だと述べました。日本の人たちはアメリカというとアメリカ合衆国のことだと思ってしまうがとんでもない、アメリカとは私たちのアメリカ、つまり南北アメリカのことだ、私たちこそアメリカ人だ、そのことを忘れないでアメリカのいろんなインターネットのサイトなどを見てほしい。中南米は世界で一番アクティブであり、変化の可能性が高く、世界でもっとも注目すべき場所だ。
その中でも彼女は、ブラジルの土地なし農民運動がもっとも重要な運動であることと強調しました。彼らは強くつながりあって大きな社会的な仕事をしている、土地をとても尊重して耕すということは、そのまま社会の変革につながると紹介しました。
最後に、日本、アメリカ、ヨーロッパでは間接民主主義、議会制民主主義で、何年かに一度選出してはその人に裏切られているといえるが、キューバの直接民主主義はどのように機能されているかという質問がありました。アレイダさんは、デモクラシーは「デモクラツィア」というギリシァ人の言葉から来ている、そもそも「人民の支配」を意味するが、実際には金を持つ人、力の強い人が支配している、これまでにたくさんの国を訪問してきたが、例えば天皇がいたり、王様がいたりして、こういう民主主義のあった国にお目にかかったことはない、といいます。重要なことは、人々が政府の決定に参加できているかどうかというだけでなく、人々が本当に代表されていると感じることができるか、自分たちの要求を実現できていると感じているかです。もし国民がいやといっているにもかかわらず、軍隊を戦地に送り込むようなことがあれば、国民は民主主義をもっていないことになります。そのような政府は否定されなければなりません。キューバでかつて、キューバ国民も税金をはらうべきではないかという国民的な議論が巻き起こりました。しかし、大部分のキューバ人は社会的な機関でもって働いているのですから、絶対払う必要はないという意見が多数であったため、税金は導入されませんでした。
キューバは一つの政党しかないとして非難されています。しかし2年に一回自治体選挙、5年に一回州の選挙、国の選挙があり、人の数によって1〜2人が選ばれ、また、革命防衛委員会、女性連盟、生産者の組合、職場ごとのグループなどいろいろな委員会があり、そこから代表を出して、州、国に送るようになっています。その中には学生の代表として、送りこむこともできます。底辺から一番上を選ぶという制度になっています。そして選ばれた人は選んでくれた人に返さねばならない。これによって直接民主主義が保障されています。最後にアレイダさんは、本当に民主主義を闘い取ったとはいえない、キューバはまだ過渡期にあり、人間のやることで完全なことはない、いろいろな誤りを犯している、それでも50年前とは根本的に異なっている、民主主義はまだまだ実現の過程にある、大事なのは私たち自身で問題を解決していけるかということであると語りました。
(5月20日「VIVA!CUBA×JAPAN FIESTA〜キューバと日本に平和の橋をかけよう〜」(大阪)での講演より
文責:アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 2008年5月22日 )