自衛隊の多国籍軍参加と日本の新しい軍国主義 |
−「主権委譲」後のイラク情勢と米軍の世界的再編の下で− |
−−−−−− 目 次 −−−−−−−
T.はじめに
U.イラク情勢とアメリカの軍事外交政策の行き詰まり・破綻
[1]見せかけの「主権委譲」と米英占領支配の継続。
[2]米国大統領選挙とブッシュ政権の内外政策の行き詰まり・破綻。
V.米軍のトランスフォーメーション=世界的再編と日米軍事同盟のグローバル化
[1]イラク占領での陸上兵力の逼迫。「戦線伸び切り」(オーバストレッチ)、「過剰展開」(オーバーエクステンション)。
[2]在韓米軍の大幅削減。在韓米軍基地のスクラップ・アンド・ビルド、近代化=再編統合。むしろ対北朝鮮先制攻撃能力の向上。
[3]米軍の世界的再編の中でも突出した在日米軍基地の再編統合。韓国・ドイツからの撤退の下で、日本が米軍のグローバルな軍事介入体制の最大の拠点に浮上。
W.参議院選挙後の国内情勢と日本軍国主義の新しい段階−−多国籍軍参加=イラク居座りが軍国主義加速化の“回転軸”に
[1]参院選挙の結果と日本軍国主義加速化のテンポ及び形態。
[2]日本軍国主義の新しい段階:自衛隊海外派兵、米軍・自衛隊の統合運用、日米安保体制強化を3本柱とする日本軍国主義の根本的な再編成。
[3]「対テロ戦争」「北朝鮮」をテコに進む全般的な政治反動化。反戦運動への弾圧強化。学校現場での管理強化と教育反動、教育基本法改悪等々。
[4]解釈改憲から明文改憲へ。直接的武力行使容認を視野に入れた無制限な集団自衛権行使を追求。自衛隊即時撤退を求める運動の歴史的な意義。
2004年7月25日(日)
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
(1) 世界情勢の“中心環”としてのイラク情勢。大量破壊兵器に関する米議会上院報告、バトラー委員会報告でブッシュとブレアが更に窮地に立つ。小泉首相の責任追及を!
・今後の世界政治軍事情勢を左右する米国の大統領選挙戦が本格的に始まった。そしてその米大統領選を左右しているのがイラク情勢の動向だ。米英の占領支配が破綻し泥沼化して以降、イラク情勢は世界情勢の“中心環”になっている。
・米の反戦運動は、7月26−29日に開かれる民主党の全国大会に向けて、ブッシュと変わらないイラク政策、軍事外交政策を出している民主党とケリー大統領候補に圧力を加えるために、全国的な結集を呼びかけている。ANSWERの他、平和のための退役軍人の会、ボストン社会フォーラム、ピースフル・トゥモローズ等々。
・最近米国と英国で相次いで、米英政府によってイラク戦争の「大義」とされた大量破壊兵器の脅威が根拠のないものであったことが、改めて公式に表明された。ブッシュ、ブレアの両指導者が揃って窮地に立たされている。しかしブッシュもブレアも「戦争の大義」は根拠のないものだったが、フセイン政権打倒そのものは正しかったと開き直っている。
・とりわけ、ブッシュ大統領は、「対テロ戦争」という名の先制攻撃戦略を今後も断固として推進する、軍事外交戦略の機軸に据える、と表明した。
※大量破壊兵器阻止で3原則 脅威を未然防止と米大統領(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040713-00000020-kyodo-int
ブッシュ大統領は7月12日の演説で、大量破壊兵器の拡散阻止と対テロ戦争を遂行していく「平和のための戦略の3原則」なるものを発表、「将来の悲劇を待ち脅威を座視することはない」と述べ、脅威台頭の未然防止=先制攻撃に重点を置く軍事戦略を堅持する姿勢を鮮明にした。
・議会・政府機関で公式に確認された大量破壊兵器のでっち上げ問題は、小泉首相のイラク政策、自衛隊派兵の大義名分をも最後的に掘り崩した。派兵の根拠は崩れた。この問題を、年金廃止法案や多国籍軍参加撤回とともに、7月末に始まる臨時国会の最大の争点の一つにし、首相の責任を追及しなければならない。
(2) イラク情勢に目を奪われている間に、私たちの足下日本の軍国主義がなし崩し的に全く新しい段階に入ろうとしている。
・私たちがイラク情勢、ブッシュの軍事外交政策に目を奪われている間に、日本軍国主義は新しい、非常に危険な段階に入ろうとしている。足元の日本の軍事外交政策が、戦後史を画するほど重大な転換点に来ている。この転換点は最近発表された『防衛白書』に概観されている。そして今年末には「新防衛大綱」の形で明らかにされる予定である。
※最近相次いで米英誌において、この日本の軍国主義の新しい台頭を扱った特集が組まれた。国内にいれば分からない事態も、外から見れば分かることがある。一つは、ニューズウィークで、「Japan's
Unknown Soldiers」Newsweek July 19号。日本版では「自衛隊 非戦国家ニッポンの兵士たち−−本物の軍隊へと変貌する組織の実像と幹部候補生の素顔に迫る」なる見出し。ところが原文の見出しはより本質を突くものとなっている。「日本の知られざる兵士達−−日本軍は長い間過去の影の中に生きてきた。しかし危険な世界に直面し、もう一度戦争に向かって態勢を整えつつある」。表紙はもっと刺激的だ。軍艦と旭日旗をあしらい、「危険な世界の中で、日本軍はターニング・ポイントに近づきつつある。戦闘準備完了」!!http://www.msnbc.msn.com/id/5411827/site/newsweek/
もう一つは、英誌エコノミスト。「From
pacifism
to populism」The Economist July 4th
2004、「パシフィズム(平和主義)からポピュリズムへ」と題した特集だ。記事は、小泉首相が在任中に、巧妙な世論対応で「日本の平和主義の限界を試そうとしてきた」と指摘、「外交的影響力を行使する最も賢明な方法は軍事力を使うことである」と、小泉外交の背景を分析する。
・私たちが特に強調したいのは、この戦略転換の一部が、政府決定や国会審議を経ることなく、何の議論もないままなし崩し的に実行に移されていることであり、イラク派兵がこれを加速する“回転軸”になっていることである。この“回転軸”をこのまま放置すれば一体どんな方向に進んでいくのか。今回の議論では、自衛隊派兵、多国籍軍参加をきっかけに、より鮮明になった日本の軍国主義の新しい段階、その危険なエスカレーションをできる限り全面的に特徴付けようと思う。
・従ってこの“回転軸”をまず撤回させることの意義、すなわち自衛隊を撤退させることこそが、当面の最大の課題であることを確認したい。自衛隊撤退の闘いは、単に海外に出た軍隊を撤兵させるためだけではない。日本の新しい軍国主義の全面化、加速化を阻止する、そういう歴史的な闘いでもある。
(3) アメリカ軍国主義の破綻と自滅の道に全面的に従属化・一体化する形で、暴走し突き進む日本の新しい軍国主義。−−出鼻をくじいた参院選での自民党の“歴史的敗北”。来年の通常国会が最大のヤマ場。
・すでに米英のイラク占領政策は破綻している。米の軍事専門家が指摘するように「米軍は戦略的に敗北している。」差し迫る大統領選、ブッシュ政権の閣僚達の好戦的イデオロギーと米軍の威信、メンツから撤退できず、何よりも軍産複合体と復興需要の利権、石油略奪の野望を捨てきれず、ズルズルとイラク民衆、米兵の犠牲者を増やしているだけである。米英軍はいずれ撤退せざるを得ない。イラク民衆に支持された反米反占領の民族解放闘争の力によって、力づくでイラクからたたき出されることは確実である。
・イラク戦争・占領の破綻、ブッシュの先制攻撃ドクトリン、米軍トランスフォーメーション−−戦争の悲惨も軍隊の現場も何も知らない、ブッシュのシビリアン・タカ派達のイラク戦争・占領指導の下で、米軍と米兵は疲弊し混乱し消耗し切っている。世界的な米軍再編の下で、米軍全体が混乱と軋轢の中に投げ込まれている。
イラク戦費は予想を超えて膨らみ続け、軍事費は軍産複合体によって無制限に食い潰されようとしている。アメリカ経済の成長率鈍化の下で、軍事費と財政赤字のこれ以上の拡大は命取りである。
・日本の新しい軍国主義は、この破綻し混乱したブッシュの軍事戦略、アメリカ軍国主義の自滅的な道に全面的に従属化・一体化する形で、急速にエスカレートしている。財政的な制約やブッシュ戦略への一片の懐疑もなしに、イラク派兵、多国籍軍参加、海外派兵、ミサイル防衛、対北朝鮮軍拡、集団自衛権行使、改憲等々、まるでタガが外れたかのように調子に乗っている。“軍国主義の乱舞”の異常な姿である。
・しかし最近、この軍国主義加速化に番狂わせが起こった。参院選で、自民党が“歴史的敗北”を喫したのである。表向きの議席数の差からは想像もできないほどの敗北である。小泉政権がこれから軍事戦略を転換しようとした矢先のこと、新軍国主義の台頭への“先制パンチ”とでも言えるような打撃を与えたのではないか。改憲に関しての参議院のドンの発言、「憲法論議は政権が安定していなければできない」がそれをよく表している。教育基本法改悪についても阻止の可能性が高まった。
※<自民党>参院選敗北で憲法論議失速も(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040720-00000011-mai-pol
・選挙後も小泉政権への逆風は収まっていない。小泉首相が強引な政局運営をすればするほど、民衆の反発は高まるだろう。
−−選挙後7月14日の各社世論調査で55年体制発足以来初めて自民党が他党を下回る結果が出ている。朝日新聞、自民党27%:民主党29%。読売新聞、自民党28.7%:民主党30.2%。
−−小泉政権支持率も前月に比べ8.4ポイント減の38.8%と初めて40%台を割り込んだ。不支持率は43.6%と11.3ポイントも増え、1年11カ月ぶりに支持と不支持が逆転した。(時事通信7/23調べ)朝日新聞でも48%と36%、毎日新聞でも44%と40%。
・そこで、またもやアーミテージ国務副長官の登場である。7月21日、「憲法第9条は日米同盟関係の妨げになっている」と発言、日本の国連安保理常任理事国入りについても「国際的利益のために軍事力を展開しないと難しい」と述べたのである。選挙で敗北した自民党に、「ひるむな」と活を入れたのだ。「ショー・ザ・フラッグ」「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」等々、彼は軍国主義強化の節目に必ず登場し恫喝役を買って出た。改憲論議の失速に危機感を抱いた中川・自民党国対委員長の根回しでもある。
しかし今回の反応は違った。アーミテージ発言に与野党から「内政干渉だ」と反発が出たのだ。初めてのことである。米国務省の報道官も副長官発言を修正し言い訳する羽目に陥った。潮目ははっきり変わり始めている。
※「9条は日米同盟の妨げ」 米副長官、自民中川氏に(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040722-00000036-kyodo-pol
※「内政干渉」と反発や困惑 米高官改憲発言で与野党(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040722-00000241-kyodo-pol
※<アーミテージ発言>国連戦略に衝撃 改憲押し付けに反発も(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040723-00000108-mai-pol
・もちろん参院選の結果の二面性、複雑さも見なければならない。また参院選の結果だけで全てが決まるわけではない。参院選の結果が実際に今後日本の政治と政局に如何なる影響を及ぼすのか、軍国主義の新しい台頭に如何なる影響を及ぼすのか、まだ不透明である。民主党の保守的反動的軍国主義的な本質がどう作用するか不透明だからだ。民主党が改憲の主導権を自民党から奪うという動きもある。改憲や教育基本法改悪などとは違って、法律を経ずに軍国主義の既成事実化が進む部分もあるだろう。いずれにしても参院選で生じた“有利な状況”を生かすも殺すも、全ては今後の国内世論と反戦運動の動向如何にかかっている。
・来年の通常国会が最大のヤマ場である。年末の「新防衛大綱」の決定を受けて、緊急事態基本法案、海外派兵恒久法案、三自衛隊の統合運用や弾道ミサイルへの対処を盛り込んだ自衛隊法改正法案等々、軍事戦略転換に関連する法案が一斉に上程されるからだ。従って7月末に始まる臨時国会は、多国籍軍参加撤回、自衛隊撤退を迫るその“前哨戦”になるだろう。言うまでもなく“前哨戦”でどこまで有利に闘いを展開できるかが、今後の帰趨を決するだろう。
※先に紹介した英誌エコノミストの「From
pacifism
to populism」The Economist July 4th
2004、「パシフィズム(平和主義)からポピュリズムへ」と題した記事は、日本の世論の多くは軍事大国化を歓迎しておらず、イラクで自衛隊員に死傷者が出たりした場合、世論がどう反応するかは未知数であり、将来の日本外交は、結局世論の動きであると結論づけている。「日本、『自民敗北で外交混乱』−−世論の懸念は『軍事大国化』」(毎日新聞)http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/europe/news/20040710ddm005030138000c.html に紹介がある。
[1]見せかけの「主権委譲」と米英占領支配の継続。 |
(1) 「主権委譲」後、「国家安全法」成立後のイラク国内の政治軍事情勢。−−アラウィ首相、その背後の米英軍に全権力を集中。強権的弾圧体制の確立で突破を図ろうとしているが、破綻は不可避。
・「主権委譲」はまやかし。本質は米英の占領体制の継続。「米国から米国への主権委譲」と言われている。
−−CPA(占領国暫定当局)の権力機能は米国大使館に全面的に引き継がれた。世界最大の大使館。1700人規模。ブレマー総督はネグロポンテ総督に代わった。
−−アラウィ首相は米CIA・英MI6のスパイ。暫定政府の主要閣僚のほとんどは旧統治評議会メンバーで、自宅を米英両国に持ち、米欧で企業活動を営む親米英の亡命イラク人達。米は200人の「顧問」をイラクの27省庁に配置し、国防省(20人)、治安担当の内務省(27人)、石油省や中央銀行も米国人で独占。最近石油省はアラウィ首相の直轄となった。
−−米英占領軍はそのまま「多国籍軍」と名称を変えて存続。イラク軍・イラク警察が確立していない中で、この米英軍が事実上の軍事弾圧機関となっている。
・「主権委譲」後も、「国家安全法」成立後も、米軍に対するレジスタンスと反撃は沈静化していない。継続している。米兵の犠牲も収まっていない。
−−強権的占領体制を支える米軍兵力そのものが不足。米軍戦力は、世界的規模でも、イラク国内でも「伸び切り」(オーバーストレッチ)と「過剰展開」(オーバーエクステンション)。治安を維持するには過小兵力。サンチェス前司令官がドイツ転任前に発言。「今まで戦うとは思わなかった。」占領に必要な戦力の不足。ネオコンによるごり押しの破綻。
−−「国家安全法」はまだ発動されていない。同法は、首相が非常事態宣言を宣言し、夜間外出禁止令の発令、令状なしの家宅捜査ができるというもので、米英軍に支援を要請するという条項が最大の眼目。暫定政府の下で、米英軍が自由自在に掃討作戦を遂行できるようにするための偽善的な法的枠組みに過ぎない。米に言いなりののアラウィ首相に独裁的な全権を集中すれば、米英軍がやりたい放題できるからだ。
−−ブッシュ政権の思惑は、治安維持体制の「イラク化」(イラクナイゼーション)である。黒子の米軍が退き、イラク暫定政権、イラク警察・イラク軍、すなわちイラク人を前面に出して、イラク人同士を争わせるやり方。だが、「イラク化」のメドは全く立っていない。イラク警察、イラク治安部隊はまともに再建されていない。特にイラク軍は治安を安定させる力も武装も持っていない。能力の低さ、士気の低さ、周囲からの攻撃の危険などから脱退者が相次ぎイラク軍そのものが崩壊しているのが現実。
・米軍は、ファルージャを包囲するのが精一杯。4月のような中心部突入、市街戦を戦う態勢も能力もない。現時点では、ファルージャでは「再侵攻」での市街戦の危険というより、代わって米軍が攻撃ヘリや戦闘攻撃機で空爆する危険の方が前に出ている。局面が打開できない苛立ちと焦りからの空爆とその一般市民への被害。「ザルカウィ」を口実にした空爆。地元住民、犠牲者の親族の反発を買っているだけ。
−−反米・反占領抵抗闘争の拠点はファルージャ。今や米軍が入れない「安全地帯」「揺籃」となっている。地元の武装勢力、広範な住民が参加した「自治権力」。だから米軍には押さえ込むことも、粉砕することもできない。
−−主にスンニ派地域での米軍の警備部隊、輸送部隊、米軍基地への攻撃、イラク警察やイラク軍に対する攻撃。警察署の占拠や都市部の占領。これらの攻撃はただ外から入って来ただけでは組織できない。大規模かつ信頼関係が強い組織が地元になければできない。
−−ファルージャだけではない。ラマディ、サマラ、バクバなどスンニ・トライアングル一帯で、地元反米武装レジスタンス勢力による公然たる武装行動、都市占拠などに対して、米軍が直接出動し攻撃し対峙している。特にバクバでは警察や都市の占拠が起こっており、スンニ派反米武装勢力の新しい拠点になっている。
−−シーア派地域でもサドル派ラマディ軍による公然たる路上での武装闘争は沈静化したが、ゲリラ的な形で米英軍に対する攻撃が続いている。
バグダッドのサドルシティがラマディ軍の現在の拠点。サマワでも警察に銃撃があったり、路上に爆弾が仕掛けられたり、不安定は状態が続いている。
−−マスコミが書き立てるような「アルカイダ系外国人による」攻撃はごくわずか。ごく一部の自爆攻撃と誘拐、暗殺にとどまる。自爆攻撃についても、地元のイスラム原理主義者による攻撃が大部分と思われる。
(2) イラク戦争・占領における軍事情勢と戦局の決定的転換−−ファルージャ、ナジャフとアブグレイブ。
・上記のようなイラクにおける現在の政治的軍事的力関係を決定したのが4月前半〜5月にかけてのファルージャ、ナジャフとアブグレイブ。この2つの問題がイラクにおける戦局の決定的な転換点になった。イラク国内の政治的軍事的力関係が、反米・反占領勢力側に決定的に有利な方向に転換した。
−−ファルージャ攻撃作戦の失敗。700〜1000人の罪なき一般住民、女性や子供達を大量無差別虐殺。反米武装勢力の一挙撃滅を狙ったが失敗。イラク人治安部隊に委ねる形で妥協し中心地から撤退。
・米軍兵士の犠牲者が米軍当局の想像を超える規模に達した。何と1ヶ月で140人の死者。継続すれば米軍も持たない。米国内世論も持たない。これ以上地上侵攻、本格的な市街戦はできない。
−−ナジャフでは装甲車、戦車での侵攻だけ。市街戦の回避。
−−アブグレイブの拷問・虐待・虐殺事件の発覚。占領体制の根幹である米軍と米軍兵士の信任が地に落ちた。「イラク解放戦争」の欺瞞・虚構が最後的に崩れた。イラク国内、米国内外でブッシュ政権に対する非難・批判が怒濤のようなスキャンダル写真の映像とともに世界中に広がった。
※ファルージャの意義については「緊迫するイラク情勢と日本の反戦運動の緊急課題」(署名事務局)参照。
※アブグレイブについては「米占領下アブグレイブ“強制収容所”における第一級の国家犯罪・戦争犯罪−−獣と化した米軍による異常で病的な虐待・性的陵辱・拷問・虐殺の大規模な組織化」(署名事務局)参照。
(3) 今後のイラク情勢の展開−−イラクの総選挙を巡る動き。
・暫定政府へのイラク民衆の信認はない。「イラク、国民融和へ『脱米』」(7/13日経新聞)と言うが、同紙の希望的観測に過ぎない。アラウィ首相が打ち出した、拘束中のイラク人への恩赦、旧バース党員への復権の検討などがその根拠だが、米英軍の殺戮作戦と治安弾圧強化を前面に出す暫定政府がイラク民衆から本当の信頼を勝ち取れるはずがない。
−−まず7月中に予定されている「イラク国民会議」は延期の公算が強くなっている。
−−米英軍占領の下での選挙など民主選挙でも、自由選挙でもない。
−−スンニ派の多数は暫定政府との対決姿勢を前に出している。
−−シーア派の多数がこうした占領下での選挙にそのまま応じるか?シーア派はシスタニ師が暫定政府を差し当たり「承認」した。サドル派は最近態度を変え、「占領軍がいる限り抵抗する」と対決姿勢を前に出した。ただしサドル師は同時に政治闘争への転換も模索している。「国民会議」には参加しないが、選挙には参加すると示唆した。
・暫定政府への民衆掌握の手段とされたフセイン大統領の裁判も、スムーズに進む可能性はない。
・国連がどこまで関与するか。独仏などEU諸国、ロシア、中国がどう反応するか。米国とNATO。NATOのイラク占領協力。こんな中、小泉首相だけが突出している。
[2]米国大統領選挙とブッシュ政権の内外政策の行き詰まり・破綻。
|
(1) スペイン・ショックに続くフィリピン・ショック。フィリピン軍撤退で再び動揺する「有志連合軍」。
・フィリピン軍撤退をきっかけに再び「有志連合軍」が大揺れに揺れている。反米武装勢力の要求を呑む形で撤退するのは同国が始めてである。それだけフィリピン国内の民衆の反対が強かったということだ。米やオーストラリアを始め国内外からアロヨ政権に露骨な恫喝と圧力が加えられたにも関わらず、フィリピンは7月19日には撤退を完了した。すでに撤退したスペイン、ドミニカ、ニカラグア、ホンジュラス4カ国に加え、フィリピンの他、新たにタイ、ノルウェー、ニュージーランドが撤退または撤退前倒しを検討し始めている。
・これとは別に、ポーランドのベルカ首相は7月18日、イラクを訪問しアラウィ首相と会談。イラク中南部に展開する約8000人規模の多国籍軍の指揮を執るポーランド軍本部があるバビロンを訪問、来年1月に予定される総選挙以後は、2500人のポーランド部隊を大幅に削減する考えを示した。
(2) 中心的争点であるイラクと雇用で依然として苦戦するブッシュ大統領。
・ブッシュ陣営にとって事態好転の兆しは何もない。秋の大統領選までに、米国内の世論対策として見せかけの「主権委譲」でごまかし、反米武装勢力に対しては武力で押さえ込むという、手前勝手な方針が全くうまくいっていない。
・7月21日、米軍の犠牲者は、事故など非戦闘による死者も含み、昨年3月のイラク戦争開戦以来遂に900人に達した。しかも6月には26人だった死者が、7月にはすでに22日で30人に達し、「主権委譲」後の方が、死亡率は高まっていることを示した。
・イラク現地の情勢は、暫定政府に「主権委譲」し、「非常事態宣言」発動の構えで威嚇したにも関わらず、スンニ・トライアングルを中心とする反米・反占領抵抗運動は一向に屈服していない。米軍頼りの強権的支配は早晩挫折に追い込まれるだろう。
・最新の世論調査でブッシュ支持が50%を切った。秋の大統領選での当選ラインが極めて危うくなっている。「イラク戦争は誤りだった」55%、「戦う価値がなかった」52%(いずれもABC/ワシントンポスト紙調査)と軍事外交政策でも支持が落ち込んでいる。
・大量破壊兵器の情報がでっち上げであったことが、最近遂に、議会上院の公式報告として提出された。ブッシュ−ラムズフェルド−パウエルなど、イラク戦争を推進したブッシュ政権の主要閣僚の責任が再び浮上している。
・アブグレイブの責任追及はまだ終わっていない。誰一人、ブッシュ政権の責任者が引責していないからである。
・7月12日発売のニューズウィークは、大統領選の直前や当日にアルカイダの攻撃が米国内で発生したときに備え、選挙の延期を可能にする法的措置を検討するよう、国土安全保障省が司法省に要請したことをすっぱ抜いた。米のリベラル系のメディアやウェブサイトは一斉にこれを非難、「アメリカでクーデターか?」と論陣を張っている。
(3) 「インフレ下の景気減速」−−アメリカ経済と世界経済情勢が微妙な局面に。イラク戦争・占領の長期化で膨れ上がる軍事費増大。財政赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」に再び焦点が移る。
・6月の米の非農業雇用者数の増加は予想以上の悪化にとどまった。それまでの3ヶ月間、100万人を超える雇用増を記録しブッシュ政権が反転攻勢に打って出ようとした矢先のこと。これでイラク政策の破綻を雇用問題の改善でばん回できる踏んだのだ。ところがこの逆転のシナリオが再び挫折する可能性が出てきた。
・「インフレ下の景気減速」−−アメリカの循環局面は二面的で複雑な極めて難しい局面に入った。一途景気回復でも一途景気悪化でも、デフレーションの持続でもない。景気回復局面が続く中で、ここへきて急速に減速傾向が出始めたのである。“急ブレーキ”と言ってもいい。6月の雇用統計の予想以上の悪化に端的に表れている。自動車販売やチェーンストア販売の不振などによる小売業景況感の落ち込みは明らかで、個人消費の陰りを表している。個人消費の急激な鈍化は企業景況感の落ち込みにも影響し始めた。一方、原油価格、ガソリン価格は高止まり状態である。
・しかしグリーンスパンFRB議長は、7月21日の米上院の委員会での証言で、あくまでも景気減速よりも物価上昇を警戒する姿勢を明確にし、「柔軟な利上げ」を示唆した。一部ではこの議長の姿勢に対して、景気を冷やしすぎないか危ぶむ声が出始めている。
・とりわけイラク戦費の増加と軍事費の急増、景気減速による財政赤字の急増等々、長期金利が上昇しやすい局面に入っており、自動車販売や住宅販売などこれまで個人消費を牽引してきた部門のバブルが破裂しかねない可能性が高まっている。米でのオーバーキルは世界的な資金の流れを撹乱し過剰流動性危機を誘発する。FRBの金融政策の失敗は致命傷になる。
・世界経済と国際金融市場において再び、アメリカの財政収支赤字と経常収支赤字の「双子の赤字」の危機に焦点が当たろうとしている。
[1]イラク占領での陸上兵力の逼迫。「戦線伸び切り」(オーバストレッチ)、「過剰展開」(オーバーエクステンション)。 |
(1) イラクでの過小兵力をきっかけに米陸軍が厳しく異常な「ローテーション」を余儀なくされている。
・米陸軍正規軍の駐留延長。練度が低く装備が老朽化した州兵の大量投入。予備役の大量投入。全員、他職を持つ家族の大黒柱か、あるいは学費稼ぎのために登録した貧しい若者達。−−まさにこれは「隠された徴兵制」。
・一部の若者の間で「徴兵制」復活の危機感が出てきている。
※イラクでの兵力不足に関しては、昨年7月段階で私たちは注目した。「米軍のイラク向け過小兵力の顕在化と海外過剰兵力展開の危機−−イラク戦争の泥沼化・ベトナム化、米兵の士気低下と厭戦気分が一挙に露呈させた米軍の根本的弱点−−」(署名事務局)
(2) イラクでの窮地を逆手にとってラムズフェルドは米軍の「トランスフォーメーション」を加速化させようとしている。
・米軍の「トランスフォーメーション」は、現在のイラクと世界中に及んでいる兵力不足、兵力の過剰展開をきっかけに加速されている。
・しかし元々「トランスフォーメーション」(米軍再編)とは、クリントン時代から始まったものであり、ブッシュ政権になってラムズフェルド国防長官が実権を握ってから、ラムズフェルド戦略と言われるほど抜本的に強化されるようになった。
−−ヨーロッパや韓国など、対ソ・対社会主義世界体制をにらんで米ソ冷戦時代に大量かつ大規模に配備され固定化され張り付いている戦力を、ソ連と社会主義世界体制の崩壊、米ソ冷戦の終焉、アメリカの経済的財政的再建戦略の下で、大胆に縮小・再編、整理・統合する発想から生み出された。
−−特定の地域に固定化した戦力のグローバルな分散配置と流動化。米軍戦力の「プレゼンス型」「抑止力型」から「急速展開型」「機動・迅速型」への転換。中東や中央アジア、北アフリカなど石油・天然資源地帯での「対テロ戦争」に機動的かつ迅速に展開できるように、介入部隊や基地体制を全面的に再編し直そうというものである。
・その内容は、アジアでは韓国からの陸軍部隊削減とイラク投入。在日米軍基地の出撃・中継・兵站拠点としての質的強化。太平洋への海軍力、空軍力の増強となっている。
−−欧州では、ドイツからの地上部隊の大規模な削減が前に出た。ドイツ(7万人)からの2個師団(第1機甲師団、第1歩兵師団;4万近く)の削減、F16戦闘機1個航空団(72機)のトルコへの移駐(インジルリク)。英国・アイルランド配備のF15部隊の一部撤収。欧州軍の海軍司令部のロンドンからナポリへの移転。兵力の削減と同時に、中東への出撃基地としての強化と東欧、CIS諸国への米軍兵力の再配置は逆に強められる。
(3) 民間軍事会社の本格利用と「戦争の民営化」。
[2]在韓米軍の大幅削減。在韓米軍基地のスクラップ・アンド・ビルド、近代化=再編統合。むしろ対北朝鮮先制攻撃能力の向上。
|
・直接的にはイラク戦争による兵力の逼迫に伴う米軍地上部隊の削減。しかし、主要基地の後方移転、機動化、空海軍力強化、グローバルな見地からの米軍再編・近代化。対北朝鮮融和・緊張緩和政策を掲げる盧武鉉現政権に対する政治的面当て、見せしめ。
−−3万7500人の在韓米軍部隊のうち陸軍2万8000人の半分近い1万2500人の削減。大幅な兵力の削減。しかし単純に半島における軍事的緊張緩和にはならない。兵力は減っても攻撃力、攻撃的性格は逆に強められる。
−−在韓米軍基地の後方移動(第2師団の龍山司令部の平沢移動)と迅速機動旅団配備。北朝鮮の砲撃範囲からの撤退は、米軍の一方的な攻撃をしやすくする。韓国に固定した兵力から他地域への派遣も視野に入れた改編。
−−海空軍力、軍事技術革命による攻撃力の強化。向こう3年で110億ドルを投入しての在韓米軍近代化。ステルス攻撃機(F117)配備/無人偵察機/パトリオットPAC3。イージス艦の日本海配置(この秋)。海軍力、空軍力の強化−−グアムへのB2配備、グローバルホークなど。
・韓国軍事力の近代化−−国防費13%増。AWACS、新SAM、イージス艦、ストライクイーグル導入。在韓米軍縮小は既定路線、しかし期限が早まった。
[3]米軍の世界的再編の中でも突出した在日米軍基地の再編統合。韓国・ドイツからの撤退の下で、日本が米軍のグローバルな軍事介入体制の最大の拠点に浮上。 |
・日本をめぐる動き−−米軍が日本の軍事力を従属化・一体化させようとする動きが前に出ている。米軍は日本の基地を海外基地の4ランクのうち最重要の戦力展開拠点として位置づけ強化する方向。ポイントは在日米軍の一層のグローバル展開、米軍への自衛隊の従属化・一体化。
沖縄からも韓国からも兵力を削減し、イラクへ兵力を集中投入しなければイラクの戦線が持たない。それを逆手にとって日本でも米軍再編が一斉に加速している。
−−沖縄の海兵隊、4個大隊中3個3000人のイラク派遣、空軍部隊も含めれば更に800人
−−在韓米陸軍部隊の派遣、3600人(今夏)
[1]参院選挙の結果と日本軍国主義加速化のテンポ及び形態。 |
(1) 自民党の“歴史的敗北”と小泉政権の“死に体”−−「公明党要因」を除けば「小泉政治ノー」の民意の実態が明らかに。
・自民党は敗北し、民主党は躍進した。獲得議席数ではそれぞれ推薦を含めて49:55。わずか6議席の差しかなかった。選挙直前の最悪41、開票直後の46〜47という極めて厳しい予想からすれば小泉が「盛り返した」と思い込むのも無理はない。
・小泉首相は、「逆風の中で、よく安定多数を与えてくれた。やはり全体を見てくれているんだなあ」と強がりを決め込んだ。「そして誰も責任を取らなかった。」自民党は総裁も執行部も誰も責任をとらないまま、首相が続投することだけを全員で承認した。代わる者も内紛のエネルギーもない。こんな政権が2年も続くのだろうか。
・投票分析の具体的数字が出て来るに連れて、政府与党のダメージは私たちが考える以上に大きいことが判明してきた。表面的な議席数だけを見ていては、自民党の衰退を過小評価する危険がある。「小泉政治ノー」「小泉政権即刻退陣」の声は、議席数の差以上に大きい。
民主党への投票はその多くが反小泉、反自民公明票である。積極的支持ではない。自民党の支持基盤は都市部では言うまでもなく農村部でも崩れ始め、長期衰退過程が加速し始めた。公明党の全面的な支持なしには自民党は政権を獲得する水準の議席に遠く及ばないことが鮮明になった。しかもこの数字は曽我・ジェンキンス再会、社会保険庁長官に民間人採用、高速道路料金の値下げ、メディアへの圧力等々、相次ぐ選挙対策を打ち出した挙げ句の結果なのだ。
−−与党は60議席。改選全議席122の過半数をわずかだが割った。
−−選挙区での自民党の得票数がトータルで民主党を下回ったのは初めて。
−−47選挙区のうち自民党の得票が民主党を上回ったのは19だけ。得票率で50%を超えたのは6だけで、30%以下の都道府県が5つも出た。
−−選挙区で自民党に流れた公明票は300万票以上と言われる。公明支持が半減すれば比例を含め42議席、自民党単独では20議席(最悪17議席)という分析もある。(読売新聞7/13付)公明支持がなかった98年参院選で橋本内閣が退陣に追い込まれた時の44議席よりも実態的には厳しい数字だ。
−−比例区では、自民党は民主党に約434万票(1679万:2113万)の差を付けられた。獲得議席は14と改選定数48の3分の1にも達しなかった。与党は得票数で45%と大きく過半数を割った。
−−参院選の結果を衆院選をシミュレーションすれば、民主307、自民131、公明27となり、民主が単独過半数を獲得することになる。もし今回が衆院選なら政権交代が起こったのだ。(東京新聞7/13付)今回の参院選とはそういう歴史的な選挙だったのである。
・しかし私たちは民主党の勝利を歓迎できない。民主党が改憲政党であり、有事法制の成立に手を貸し、対北朝鮮制裁で急先鋒であり、対米協調でも集団的自衛権行使でも、自民党と変わらないからである。民主党が共産党、社民党など、憲法第9条擁護の護憲勢力の支持基盤を食って躍進したという意味では、改憲に歯止めがかかったとは到底言えない。護憲か改憲かという別の味方をすれば、改憲勢力が議会に置いて力関係で圧倒的優位を占めたと言える。
(2) 新軍国主義への“先制パンチ”。だが参院選の結果は複雑で二面的。「決着は先送り」。反戦平和の今後の闘いこそが、軍国主義化のテンポと形態を決める。
・小泉政権は「死に体」である。参院選の審判は、単なる年金や多国籍軍へのノーだけではない。“小泉政治”そのものへの不信任であった。これまで通りのやりたい放題の強引な政局運営をやれば、ますます墓穴を掘るだろう。
・7月末に臨時国会が始まる。年金廃止法案と併せて多国籍軍参加でも、もう一度国会で審議し直すべきである。参院選の審判は多国籍軍参加=自衛隊居座りの撤回ということだ。全国各地で参加撤回、自衛隊撤退の取り組みを強化しよう。
※多国籍軍参加批判については「多国籍軍参加論争、集団的自衛権論争の一面化・歪曲を批判する」(署名事務局)参照。
・今回の選挙の結果が戦争と平和の問題に与える影響は二面的で複雑。選挙前、政府与党は改憲と教育基本法改悪、軍事戦略の転換を一気にエスカレートさせようと目論んでいた。この新軍国主義シナリオに対しては“先制パンチ”を食らわせたことになる。政権基盤についても、一方では、致命的敗北を喫したという意味では小泉政権は「死に体」だが、他方では、何だかんだ言っても現時点で参院の絶対多数を維持している。「決着は先送り」となった。改憲と多国籍軍参加についての今後の進捗動向、軍国主義化のテンポと形態は、反戦運動、人民大衆の運動の今後の動向如何、反戦運動、人民運動がこの「有利な状況」をどう生かすことができるか、にかかっている。
[2]日本軍国主義の新しい段階:自衛隊海外派兵、米軍・自衛隊の統合運用、日米安保体制強化を3本柱とする日本軍国主義の根本的な再編成。 |
(1) 「日米同盟」概念の拡大・変質。狭義の軍事同盟だけではなく、政治的にも経済的にも、日本が自ら進んで“主体的に”対米従属・依存関係の強化を追求。
「日米同盟最優先」−−これが小泉政治の根幹、小泉の内外政策の柱である。日米同盟は従来から使われてきた概念だが、小泉政権になって以降、その概念は明らかに拡大・変質した。軍事面だけではなく、政治面、経済面でも、異様なほど対米従属・依存関係の強化が追求されてきた。ブッシュ政権の軍事外交政策、経済政策を大枠受け入れる、政権の命運をかけてブッシュを全面的に支える、日本が自ら進んで主体的に“従属・依存”の道を選択する、異論はこの大枠を受け入れた後はさむというものである。
軍事外交政策以外で典型的なのは、昨年世界中を驚かせた歯止めのない為替介入(円売り=ドル買い介入)であり、買ったドルを全面的に米国債や財務省証券に投入する日米合作の“ドル防衛”である。急膨張する米財政赤字の下で巨額の国債発行を買い支え、イラク戦争の戦費とアメリカの超軍拡を全面的に支えたのである。
※「2010年からの問い どうする日米関係」(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/saninsen/sentaku/archive/news/20040619ddm010070160000c.html
久間章生・自民党幹事長代理は、イラク戦争や多国籍軍参加について「米国支持は経済ファクターがある」として参院選前のインタビューでこう答えた。「米国から車を買わないといわれても、フランスなら欧州で売ると開き直れるが、日本はその力を首相も経済界も持っていない。日本は経済的に自立していない。北朝鮮があるから共同歩調をとらざるを得ないというが、北朝鮮が日本を攻撃することは絶対にない。メリットがない。日本経済は米国経済に巻き込まれていて、米国抜きでは今の豊かさを維持することができないことが大きいと思う。」「テロ以降の日本の為替介入もそうだ。」「イラク戦費も含めて米国の財政を助けている。」等々。どこまでも対米追随で行くしかないと断言しているわけである。おそらく政府与党、財界主流を通じての共通認識であろう。
とりわけ軍事面での対米従属化・一体化は、これまでとは異質なもの、従来自民党の保守本流が進めてきたものとは質的に異なる。堰を切ったかのような軍国主義のエスカレーション−−有事法制本体と関連7法の成立、靖国参拝、アフガン侵略、イラク侵略への加担、ミサイル防衛参加、対北朝鮮軍拡等々、野党第一党民主党を抱き込みながら次々と実現させてきた。
それでも今から考えれば、それらはまだ全て部分的で過渡的な段階である。「新防衛大綱」として打ち出される包括的な軍国主義は、もっと全面的なもの、もっと露骨なものだ。要するに、自衛隊が米軍の指揮下に入り、完全な従属部隊、“便利屋”として世界中を走り回るという構図、沖縄も本土も、空も海も自治体も民間人も、米軍にやりたい放題に使わせるという構図である。そのため明文改憲を目標に据えて、軍事力を外交の手段、経済権益確保の手段とする、新しい“帝国主義的軍国主義”、“帝国主義軍隊”への質的な飛躍を遂げようとしている。
それは自衛隊海外派兵、米軍・自衛隊の統合運用、日米安保体制強化を3本柱とする日本軍国主義の根本的な再編成である。米軍のトランスフォーメーションに対応する日本版のトランスフォーメーションとでも言うべき全面的な再編であり、軍事戦略、対米軍関係、基地・演習関係、陸海空三軍関係、指揮命令・組織関係、装備関係等々、自衛隊創設以来の抜本的で全面的な再編である。−−これが日本軍国主義の新しい段階の概要である。以下、もう少し詳しく見てみよう。
※昨年11月、日米の軍需産業関係者、国防族が一堂に会して「第2回日米安全保障戦略会議」が開かれた。そこで額賀・自民党政調会長が「日本の新防衛戦略(主体的防衛戦略)について」と題して講演を行った。「それは『自主防衛論』でも『日米同盟軽視論』でもない、新しい日米同盟の再構築だ」と銘打って、戦後の「国の防衛」、冷戦終焉後の「地域内の秩序維持」から脱皮し、「世界規模での日米協調」を打ち出している。別の言い方をすれば、「専守防衛」に囚われない、「存在(プレゼンス)による抑止」から積極的に任務を果たすための「運用(オペレーション)」への転換だという。
とりわけ日米の「国益」が同一になったかのような言い方で、「米国も我が国も、世界第1位、第2位の経済大国として、国際社会の平和と安定の現状によって最も利益を享受しています。両国は今後とも国際社会に対して大きな責任を有しています。」と主張、「我が国の国際社会に占める地位に見合った国際的な使命と責任を果たす」と強調する。そしてまさにこの間の小泉政権がやってきたことを正当化する。「単なる形式的な同盟関係の維持から、我が国の国益として国際社会の平和と安定を追求していくために、『やる気がある者同士による連合』(有志連合)」を推進し、絶えず「米国と共に何ができるか?」という観点から行動する、と。
http://www.rosenet.ne.jp/~nb3hoshu/AnpoFor2003Main.html
※「日米安全保障フォーラム2003 日米安全保障戦略会議〜新防衛戦略とミサイル防衛・生物化学テロ対策〜」http://www.rosenet.ne.jp/~nb3hoshu/AnpoFor2003NukagaK.html
※後述する「安全保障と防衛力に関する懇談会」の第1回会合で小泉首相が冒頭に述べた発言、「今日の国際社会において、我が国の平和と安全は、我が国だけで確保できるものではなく、世界の平和と安定の中にこそ、我が国の安全と繁栄がある。したがって、我が国として国際社会の平和と安定のために、主体的、積極的に取り組んでいくことも極めて重要である。」は、日米同盟を主体的積極的に強化していくことを述べたものである。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/dai1/1gijiyousi.html
また第4回会合における次のような議論は、日米同盟をより積極的に推進しようとする意図が露骨に示されている。「米国との緊密な同盟関係があって初めて、グローバルな国際協力においても米国との協力が進められる。また、グローバルな協力を進めることが、翻って、日米同盟関係の強化にもつながっていること等から、国際平和協力と日米同盟関係は、相乗効果がある。」「国際平和協力は、日本の安全と繁栄の基盤であり、日本の防衛と同じ位置付けになるのではないか。国際平和協力は、第三者的に貢献するというより、国際的な安全そのものが我が国の国益という考え方が必要である。我が国の国土に被害を及ぼさないよう、できるだけ前方で食い止めるという観点から、間接的防衛又は間接的安全保障と言える。」!!http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/dai4/4gijiyousi.html
※日米同盟の新しい捉え方は、「新しい国益」論として、防衛庁の外郭研究機関「防衛研究所」など防衛庁・自衛隊周辺で議論・論争が行われている。イラク派兵の正当性をめぐってこの議論が巻き起こったという。論争の中心の一人によれば、日本の防衛力の役割は「三層の同心円構造」を持っている。「本土防衛」「周辺地域防衛」の外に「国際安全保障=国際秩序維持・形成」があるという訳だ。その最も外側の「国際安全保障」論が「日米同盟」論につながっている。そして主張する。「米国に外部から影響力を及ぼすことは難しく、同盟関係を通じて内側から影響力を及ぼすしかない。これが我が国にとって米国との同盟の持つ最大の利点である。この利点を引き出すためには、我が国は米国とともに大きなリスクを共有しなければならないし、こうしたリスクの共有が、我が国の国益を米国に認めさせる条件にもなるのである。」(
「我が国の安全保障上の国益」第1研究部第1研究室長
長尾雄一郎) http://www.nids.go.jp/dissemination/briefing/2003/pdf/200309.pdf
※防衛研究所は、その年次報告書の「国益と日米同盟」という項目の中でこう公言する。「日米同盟強化が我が国最高の国益の一つである」「決して米国に盲従すると言う意味の対米協力ではない。日本自身の国益に根ざす対米協力である。」そして「従来の条約に基づく同盟国は、価値の共有だけでは真の同盟国とはなりえず、リスク共有を軸に同盟の分化が起こる。」そのような中で日本は「日本自身の主体的な決断に基づき米国と政治的・外交的なリスクとコストを共有したのである」と。(「防衛戦略研究会議報告書」平成13・14年度)
http://www.nids.go.jp/ しかし「日米同盟=新国益」論は最もらしく見えるが、その本質は日本の政府支配層が「自立外交」をする度量も能力もないこと、対米追随しかできないことを後講釈で正当化したに過ぎない。こんな連中の道ずれにされるのはまっぴらである。
※「自衛隊イラク派遣は日本の発言権を高めている」(防衛大学校長 西原正 「世界週報」2004.7.27)彼は「リスクを冒しての相互支援が両国の絆を強める」「友(米国)のためにリスクを冒す」。これが日本の外交的発言権を強くし、日本の外交上の自主性を高めているのだ、と強弁する。
(2) 「新防衛大綱」=戦後の日本の軍事外交政策全体の根本的転換:「専守防衛」を放棄しグローバルな海外派兵を追求する。
・こうした自衛隊の戦略転換や再編を検討するために、政府は昨年12月、「防衛計画の大綱」(防衛大綱)の見直しを閣議決定し、今年4月20日、そのための首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」を設置した。懇談会は今年秋ごろに答申をまとめ、それを受けて政府は年内に「新防衛大綱」をつくる予定だ。その柱は、自衛隊によるPKOの枠を超えた「国際貢献」「国際協力」、つまり自衛隊を「専守防衛」型から「途上国介入」型に転換することだ。
しかし自衛隊法第3条は、自衛隊の任務を「直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛すること」に限定し、海外派兵、海外での武力行使は認めていない。そこで来年の通常国会で、政府は自衛隊法を改定し、「国際協力」を「国土防衛」と並ぶ自衛隊の「主任務」とする方針、更には「海外派兵恒久法」を打ち出そうとしている。その意味で次の通常国会は、新軍国主義の台頭を許すのか否か、その決戦場になるのである。
※「安全保障と防衛力に関する懇談会」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei/
※海外派兵「恒久法」については、「『恒久法』と日本軍国主義の新しい危険−−国際平和協力懇談会の『提言』について−−『自衛隊』のグローバルな侵略軍への変貌、ローカルな軍国主義からグローバルな軍国主義への拡大−−」(署名事務局)参照。
・すでに今年度版『防衛白書』に「新防衛大綱」の基本線、概観が出ている。今年の『防衛白書』は昨年の「戦える自衛隊」をさらに進め、自衛隊任務の歴史的転換−−「本土防衛」から途上国派兵・侵略の軍隊へ−−を大胆に打ち出している。今回の『防衛白書』を分析することで、軍事戦略の転換の中身を以下具体的に検討してみよう。
※『防衛白書』2004年度版 http://www.jda.go.jp/
※「2004年版「防衛白書」を批判する――「専守防衛」の軍隊から米軍指揮下で世界中に海外派兵・軍事介入する軍隊へ−−軍事戦略の転換を先取り、新しい軍国主義の強化を宣言−−」(署名事務局)
@ ブッシュ政権とペンタゴンの情勢認識の口移し=「新しい脅威」論。「新しい敵のでっち上げ」。ブッシュ型「先制攻撃戦略」に呼応する超危険な情勢認識への転換。
・『防衛白書』は、「対テロ戦争」や弾道ミサイル攻撃などの「新たな脅威」論を採用した。これは米国と共有する情勢認識であり、小泉政権がブッシュ政権の先制攻撃戦略に呼応したということを意味する。従来型の「抑止力」論は通用しなくなり、先制攻撃なしには安全を確保できないとする超危険な情勢認識。
・私たちの考えでは、「新しい脅威」論は口実に過ぎない。「新しい敵」をでっち上げることで、狙っているのは、「石油」と「中国」の2つ。
−−中東、中央アジア、アフリカ、中南米に広がる石油・天然資源の支配。
※私たちは一昨年秋、『イラク:石油のための戦争−−ブッシュはなぜイラクを攻めたいのか』というパンフレットを発行し、ブッシュによるイラク侵略の決定的な衝動力が石油資源の略奪にあると論じた。その際参考にしたのが、石油問題、軍事問題の両方に精通するマイケル・クレア氏の論文・分析であった。彼はこう主張する。ソ連が崩壊した後、対ソ戦を想定して膨れ上がってきた膨大な兵力と装備の「不要論」を押さえ込み、ペンタゴンそのものの生き残りをかけて「新しい敵」捜しを追求してきた。そこで彼らペンタゴン−軍産複合体−ネオコン達がこの巨大な米軍の「存在意義」を見出すために「石油資源とそのアクセス・ルートを防衛すること」を声高に叫び始めたのだと言う。米支配層やそれを真似た日本の支配層の間で「新地政学」がはやり始めたのも、このことを背景としている。「イラク戦争は石油とは無関係だ」という的はずれな議論がなされているが、米政府・米軍による世界中の石油資源漁りについては、今ではもはや証明する必要もないほどだ。石油資源の略奪と軍事的覇権は一体のものなのである。
※「バーチャル時代の『新地政学』」外岡秀俊(『論座』2004年8月号)
−−長期的に見て間違いなく米国や日本を含む西側帝国主義の「仮想敵」「競争国」に台頭する中国への牽制、封じ込め。対北朝鮮戦争準備を通じて対中国封じ込めを準備。
※米外交に影響力を持つ『フォーリンアフェアーズ』はその最新号で、同誌編集長ジェームズ・ホーグ氏の論評を発表した。題して「グローバル・パワーシフト―アジアの台頭を直視せよ」。彼は、「西の世界から東の世界へのパワーシフト(力関係の変化)が加速しつつある。これに伴って、国際社会が世界の課題に対処していく方法も、何を課題とみなすかも今後変化してくるだろう。」と分析、中国の台頭による世界情勢の劇的な変化に注目する。そして中国が「ライバル関係になる現実にも備えておく必要がある」と、中国の大国化への警戒感を露わにした。彼は慎重な言い回しだが、中央アジアの機動的な小規模の「基地ネットワーク」も、中国封じ込めを念頭に置いたものであると言う。また「中国と日本が同時に力強い国家として存在するのは史上初めてである」と指摘し、「今後、両国はかつて経験したことのない課題に直面することになるかも知れない」と日中関係の複雑さにも注意を払った上で、日米外交を進めるよう提起する。米の支配層にとって一番好ましくないのは、日中関係の緊密化だ。対中牽制のために日米同盟を強化する、これが彼らの基本戦略なのである。(邦訳は『論座』2004年8月号にある) http://www.foreignaffairsj.co.jp/top_Hoge.htm
A 軍事外交戦略の転換=「専守防衛」「本土防衛」から「対テロ戦争」「国際活動」へ。「国際協力」体制確立、日米両軍の統合運用、日米安保体制強化の3本柱。
・軍事外交戦略上の最も重要かつ危険な転換は、ブッシュ政権に追随して、「抑止力としての軍事力」という従来からの基本概念を放棄していることである。「抑止としての軍隊」から「戦える軍隊へ」、大量破壊兵器や弾道ミサイル、テロ攻撃、ゲリラ・特殊部隊、不審船などへの対処、即応性、機動性の向上。さまざまな事態に対して即応性を高め、「戦える体制へ」。これは早い話が、ブッシュ型の先制攻撃戦争への全面対応である。
・その上で軍事外交戦略上の3本柱を提示する。
−−第一に、「専守防衛」「本土防衛」から「対テロ戦争」への自衛隊の主任務の転換。「国際活動」(=途上国介入)を“本来任務”へ格上げ。
米軍のグローバルな軍事介入に参加し海外派兵し、米の世界軍事覇権の一端を担う方向へ。対テロ、人道復興支援、大量破壊兵器などで、「国際社会の平和と安定のために」必要な地域に部隊を「迅速に派遣し、継続的に活動を行えるよう即応性、機動性、柔軟性を高める。」
−−第二に、米軍のトランスフォーメーションに対応して、米軍への従属化一体化を強化する。在沖・在日米軍基地の機能強化、米軍と自衛隊との統合運用。[→(3)(4)参照]
−−第三に、この新しい任務を、従来の中心任務である日米安保体制の更なる強化、その柱であるミサイル防衛の開発導入と同時並行で進める。[→(6)参照]
B 上記の情勢認識の転換、軍事外交戦略の転換を踏まえて、実際に自衛隊の指揮命令系統、組織、装備等々を全面的に改変する。
・三軍の全部隊の統合運用と統合参謀長による作戦での防衛庁長官の補佐。
・陸、海、空基幹部隊の新たな編成。
・国際的な介入、海外派兵を実効的に行える体制、組織。
・一般装備削減、部隊規模縮小と改編。
−−軍事費の制約とミサイル防衛参加の下で、軍事費の配分をめぐって陸海空軍間で対立・競争。−−陸上自衛隊の縮小再編。陸自生き残り戦略としての海外派兵部隊への変身。「対機甲部隊侵攻対処」から即応性の高い部隊の再配置、生物化学兵器部隊、海外派兵の教育・訓練。
−−海自は「潜水艦対処」の縮小と長期の海外派兵に耐える体制。
−−空自は「航空侵攻対処」からMD開発への移行。
(3) 米軍の世界的再編=トランスフォーメーション、在韓米軍の再編・統合を受けて、在沖・在日米軍基地の質的強化、米軍基地と自衛隊基地との再編統合、米軍への自衛隊の従属的統合・一体化が加速。
@ 米軍のアジア・太平洋の戦略拠点、グローバル軍事介入の戦略拠点として在沖・在日米軍基地の重要性が飛躍的に強化されようとしている。
・米軍が急速に進める再編統合の下で、戦略拠点としての在沖・在日米軍基地の重要性が飛躍的に高まっている。米軍は、「日本を含む極東」どころか、対中東をにらんだ司令部機能、アジア・太平洋全域の司令部機能を日本に集中しようとしている。従ってこれが実現すれば、在沖・在日米軍基地は、アジア全域から中東・湾岸地域まで、再編後の米軍の活動を全面的に支えるものになる。
現に、政府は7月18日、在沖・在日米軍基地再編に関する米からの早期回答圧力を受け、首相官邸に外務省、防衛庁など関係省庁によるプロジェクトチームを設置することを決めた。首相主導で、基地移転を強引に推進する姿勢を打ち出したものである。言うまでもなくこの再編は、建前として「在日米軍基地の使用を日本と極東の平和と安全を維持するために認める」とする日米安保条約第6条の規定を遙かに超えるものである。
俎上に上げられた、@厚木基地の移転、A在沖縄海兵隊一部の陸軍キャンプ座間への移転、B沖縄の海兵隊普天間飛行場の嘉手納空軍施設への統合、C辺野古新基地建設、D米ワシントン州の陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間への移転、E在日米軍司令部の横田基地からキャンプ座間への移転等々。これら基地周辺の反基地の闘いは、米軍再編に反対する一つのまとまった闘い、反政府・反小泉の一つのまとまった闘いとして、それぞれが連携しながら展開されるだろう。
※米軍基地移転で自治体と調整、官邸に近く専門チーム(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040719-00000101-yom-pol
A 米軍横田基地への自衛隊航空総隊司令部の移動検討。
・米による米374空輸航空団(横田)への自衛隊第2輸送航空団の受け入れ提案。日本周辺の空域を統括する航空自衛隊総隊司令部を在日米空軍に事実上統合する。MDの共同開発も日米両空軍の制服組で進めていく体制作りでもある。MDは海上発射型の初の迎撃実験を2005年度にハワイ沖で実施する予定。
・すでに海上自衛隊の司令部機能は横須賀にあり米第7艦隊司令部に事実上接続、統合されている。さらに米軍の太平洋哨戒偵察部隊司令部は三沢に移動し、自衛隊の対潜哨戒機司令部と接続、統合している。今回の陸と空の司令部統合は3軍全体にわたって自衛隊を米軍に補助部隊として提供し、統合する結果をもたらす。
B 極東以外のアジア全域を展開範囲とする米第1軍団司令部の主要部門の座間への移転。自衛隊の海外派兵が進めば、米第1軍団の一支隊としての派兵になる。
C 2009年からの横須賀への米原子力空母母港化の動き。NLP訓練の厚木から岩国基地への移転。目的は空母の戦闘能力向上。
D 沖縄の海兵隊・砲兵隊部隊が本土の実弾演習場を自由自在に使用。
・砲兵部隊の北海道または座間・富士演習場への移動(現在の情報では矢臼へ600〜700人、または米砲兵隊3200人のうち座間と富士演習場に2600人規模の砲兵部隊、歩兵大隊の再配置)。目的は、米の侵略部隊である海兵隊と自衛隊との訓練強化、統合強化と、本土の演習場を米海兵隊・砲兵隊の演習場へ全面提供すること。
E 普天間基地の移転、辺野古への海上基地建設。
(4) 米軍の再編に呼応した防衛庁・自衛隊の指揮命令系統、組織的な再編統合、戦闘訓練体制、装備等々の根本的な変更。
しかしさらに重要なのは、上記の米軍の基地再編を通じて、世界中を侵略する米軍の補助=補完部隊として自衛隊の米軍への従属的統合が進められ、それに合わせて自衛隊の指揮命令系統、自衛隊組織、戦闘訓練体制、装備なども抜本的に改変されようとしていることである。
@ 米軍との海外での共同行動を追求するための統合指揮体制の確立=統合幕僚長設置と3自衛隊の統合運用、統合部隊編成。
・米軍は4軍の統合部隊で組織、指揮されている。(cf中央軍)。米軍との共同作戦を行うために自衛隊も米軍の指揮下で統合運用する方向で変更が加えられている。陸海空それぞれが司令部を持ち、各幕僚長を通じて防衛長官の指揮を受ける現在の体制を、米軍との統合運用を念頭に置いて統合幕僚長を設置し、実戦向きに改編する。
・統合幕僚組織を通じた防衛庁内での文官優位、「文民統制」の見直し。制服組独走と引き回しの危険。内閣も知らないうちに自衛隊は一貫して米軍との共同作戦計画を秘密裏に作成してきた。制度的にも、シビリアンコントロールが崩れ、軍部が独走する現実的な危険が生じようとしている。
A 訓練体制の実戦化・強化。
・ここ数年、対テロ、対武装ゲリラ訓練、「邦人救出」などの実戦を強く想定した訓練はされてきた。最近急速に全国各地で対ゲリラ戦闘演習などが行われるようになった。しかし、最近一層のエスカレーションが始まっている。従来できなかった途上国での戦闘、治安弾圧を念頭に置いた「ミニサマワ訓練」など途上国占領、治安維持を公然と想定した演習まで始まった。
B 陸自部隊を海外派兵用に再編。装備、特に陸自装備も抜本的に刷新。
・戦車、大砲など重装備の3分の2への大幅な削減。代わって機動性の高い、途上国介入に使いやすい装備への全面変更。師団体制の大改編。13個師団+2混成団(76大綱)から9個師団+6個旅団(現大綱)へ、さらに「新防衛大綱」では対ゲリラ戦を任務とする部隊、機動化された歩兵部隊などへの改編、重装備師団から小規模機動部隊への改変、さらに海外派兵のための専門部隊の設置などが検討されている。
(5) 前国会における有事関連7法の成立。今後の具体化の危険。
・6/14の有事関連7法の成立。昨年7月の「武力攻撃事態法」の制定に続くもの。「国民保護法」「米軍行動円滑化法」「外国軍用品等海上輸送規制法」「改正自衛隊法」「特定公共施設利用法」「捕虜取り扱い法」「国際人道法の違反行為処罰法」−−米による対北朝鮮先制攻撃戦争準備、将来的には対中国封じ込めのための「国家総動員体制」。米軍・自衛隊の共同行動を最優先し国民の権利を大幅に制限する、米軍へ武器弾薬を供給し集団自衛権を行使する、交戦権を行使する等々、違憲行為のオンパレード。
・戦時体制下での戦争法であると共に、国民を平時から戦争準備に動員するもの。各自治体、市町村では、「有事対策室」が設置され、自衛官POBらの配属の危険性が出てくる。有事のための訓練、有事のための準備が「災害訓練」と共に前に出てくる。
(6) 日米同盟重視でミサイル防衛参加を決定。日本軍需産業の生き残り戦略としてこの新たな収入源に食いつく。同時に、武器輸出三原則撤廃を公然と要求。
・「新しい脅威」への対応としてミサイル防衛(MD)への参加・配備が日本の軍事計画のもう一つの柱に据えられた。しかしなぜ今MDなのか?
−−何よりも日米同盟重視の結果。米の要請から慌てて日本政府が推進を決定した。小泉政権以前、元々政府・防衛庁はクリントン政権下では「研究参加」にとどめ、様子を見ていた。
−−ところがブッシュ政権下でBMD計画として加速し、昨年になって一挙に実戦配備決定にまで突き進んだ。これに合わせて、日本側は慌てて昨年12月に日本へのミサイル防衛配備を閣議決定した。
・とにかくブッシュ政権はBMD開発・配備を最優先してきた。米軍や米政府支配層の中でも異論や反対が強かったミサイル防衛をラムズフェルドとチェイニーは突出して推進してきた。アメリカの軍産複合体の次の金儲けの目玉という性格が強い。
・アメリカのミサイル防衛計画の中で、日本は決定的に重要な位置付けにある。BMD配備の当面の柱は、開発が進んでいるといわれるアラスカへの迎撃ミサイル実験・配備(10機)、イージス艦搭載ミサイル防衛システム、陸上発射ミサイル防衛システム(PAC3)であるが、日本は、このうちイージス艦発射とPAC3の配備に全面協力する予定なのである。
BMDシステムは、世界的に見てもまだ一部のシステムが限定的に実戦配備に入るだけの段階。その段階で主要な要素のうちの2つを日本が共同配備し、米軍と共にアジア・太平洋で運用するというのは極めて異例。
米軍はBMDでの技術開発・配備を通じて世界を自国の軍事戦略、軍事覇権の傘の下に組み入れようとしている。それに全面協力するということは、日米軍事同盟を重視している証であると同時に、対中国の封じ込め戦略に参加することを表明する証でもある。なぜならミサイル防衛は、当面は対北朝鮮戦略の柱であるが、実際には将来的にアジアと世界の超大国に浮上するのが確実な中国を牽制し封じ込めることを射程に入れているからだ。
・しかし政府支配層、とりわけ日本版軍産複合体、日本版軍需産業にとって別の狙い目がある。それは、ミサイル防衛への参加・配備決定は「カネのなる木」ということである。
−−ミサイル防衛には数兆円という途方もなく膨大な資金が必要とされる。軍需産業にとって長期的な収入源となる。これほどおいしい話はない。
−−政府は、数十年にわたり装備されてきた現在の対ソ戦用装備や対ソ戦用の兵力と兵力配置の大幅な縮小再編を通じて原資を捻出し、MD用の巨額の装備費に当てる計画。
−−イージス艦搭載ミサイルでは日本企業がセンサーや第二段ロケットを開発、生産している。米軍の開発・配備が進めばすぐさま「武器輸出禁止三原則」に抵触する。軍需産業の中から三原則廃止の強い要求が出るのは、ミサイル防衛生産での米企業との協力・分担に自分の将来の利害を求めるようになっているからである。
※「平和立国の試練:第5部 「名誉ある地位」とは/3 揺れる武器三原則」(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/archive/news/2004/06/09/20040609ddm003070095000c.html
今春になって、武器輸出三原則撤廃を強く要求したのは米側だという。3月24日の防衛庁と国防総省の日米非公式協議、5月4日の久間章生自民党幹事長代理と米ミサイル防衛庁のケイディシュ長官との会談で相次いで米側から撤廃要求があった。
・日本型軍産複合体の生き残り戦略−−ミサイル防衛参加、武器輸出三原則撤廃を通じて軍需産業復活への野望。ミサイル防衛を中心に、空中給油機の導入、ヘリ空母、大型輸送艦の導入等々、「専守防衛」型から「海外遠征」「海外展開」型装備への切り替えで生き残りを図る。
[3]「対テロ戦争」「北朝鮮」をテコに進む全般的な政治反動化。反戦運動への弾圧強化。学校現場での管理強化と教育反動、教育基本法改悪等々。
|
(1) 自衛隊のイラク派兵・多国籍軍参加に伴う反対運動の取り締まりと弾圧。
@ ピースパレード「VOTE for PEACE 平和のための投票で自衛隊撤退の実現を 多国籍軍参加は違憲・違法だ 7・4渋谷」への弾圧。
イラク派兵以降、極端で露骨な反戦・平和運動への弾圧。その最たるものが、7月4日、ワールドピースナウが東京で呼び掛けたピースパレード「VOTE for PEACE 平和のための投票で自衛隊撤退の実現を 多国籍軍参加は違憲・違法だ 7・4渋谷」への弾圧。
自衛隊の多国籍軍への参加反対と参院選での平和の意思表示を呼びかける1200人の行動。これに200人の機動隊が弾圧し、3人が逮捕され、その自宅や、ワールドピースナウ実行委員会の連絡先「許すな!憲法改悪・市民連絡会」の事務所が家宅捜索。
イラク戦争開戦前から、米の「ANSWER」やイギリスの「反戦連合」の闘いに呼応し、開戦時には東京だけで5万人、一周年にも全国で十数万人が参加する市民運動を組織した、日本での反戦平和運動の中心部隊として形成されてきたワールドピースナウに対する直接の弾圧。
※「7.4 渋谷ピースパレード弾圧事件(7.4渋谷事件)についての声明−−ピースパレードに参加した3人の仲間の逮捕に抗議します」(ワールドピースナウ) http://www.worldpeacenow.jp/
・これに先だって、反戦・平和活動への露骨で常軌を逸した弾圧がイラク派兵を機に始まった。
A 立川反戦ビラ入れ逮捕、不当勾留事件
陸上自衛隊の先遣隊がイラクへ出発した日の翌日1月17日の昼間、自衛隊派兵に反対する市民団体「立川自衛隊監視テント村」の市民3人が、東京都立川市の防衛庁官舎へビラを入れ。それから1ヶ月余り後の2月末、突如3人が警視庁に逮捕され、団体事務所の家宅捜索がおこなわれた。75日間という異常に長い不当勾留。
B 共産党の赤旗号外配布逮捕事件。
昨年11月の衆議院選挙の際、東京目黒の社会保険事務所係長が休日に、市民として共産党機関紙「しんぶん赤旗」号外(「改憲はぜったいに反対です」という内容)を郵便受けに入れたことで、国家公務員法違反(政治的行為の制限)の疑いがあるとして警視庁公安部が逮捕し、自宅や共産党千代田地区委員会など計6箇所を家宅捜索。この係長は在宅のまま起訴。これも今年3月3日、4ヶ月も経ってから突如として逮捕、起訴。
C 大使館前での反戦・抗議行動弾圧事件。
昨年9月22日米国大使館向かいの歩道でアメリカの外交政策を批判し、ハンドマイクで主張した女性が、「暴行罪」の疑いで2月事情聴取を受けさらに、今年5月までアルバイト先などでの事情聴取と家宅捜索が繰り返されている事件。この事件では、「大声でアピールした」ことが暴行罪という異常なでっち上げであることからか、逮捕に至らず、嫌がらせのように、執拗な事情聴取と家宅捜索が行われている。
D 渋谷での反戦落書き逮捕事件。等々。
・現在、逮捕や起訴に至っているのは東京が中心。しかし、例えば私たちの足下大阪でも、主要ターミナル駅での宣伝活動などが制約されるようになってきている。一方、空港や港湾、主要駅などで、「テロ対策」を口実とした治安演習が、警察犬や特殊部隊を動員して大規模に実施されるようになっている。
(2) 外へ向かっての「テロとの戦い」、内へ向かっての「警察国家体制」強化。
・「テロ対策」に名を借りた国内治安弾圧体制の強化が、イラクへの自衛隊派兵を機に質的に新しい段階に入っている。
−−在日米軍基地・自衛隊基地から原発まで、首相官邸から空港・港湾・新幹線まで、公的施設から民間施設まで「治安出動」の対象に網羅。
−−サブマシンガンで武装した「銃器対策部隊」が公共施設の「警備部隊」として民衆の前に登場。
・イラク自衛隊派兵と「対テロ戦争」だけではない。もう一つは「北朝鮮」である。「拉致問題」「核開発問題」、この2つは今や小泉政権にとって「テロの危機」「大量破壊兵器の危機」「ミサイルの危機」等々、戦争の危機を煽り、軍拡、有事体制の整備を合理化・正当化し、ひいては国内における治安体制の強化をも合理化・正当化しようとする格好の便利な手段なのである。
※「「テロ対策」を口実に治安弾圧体制強化を図る小泉政権−−最大の「テロ対策」は自衛隊派兵の中止・撤兵−−」(署名事務局)
(3) 教育基本法改悪と教育反動強化。−−東京・広島の2大拠点をテコに強まる教職員「思想改造」攻撃。
(4) 違憲判決が出て以降もごり押し続ける小泉首相の靖国参拝強行。
今年1月の靖国参拝の強行。イラク派兵直前における靖国神社参拝の意味。戦場イラクへの派兵で必ず生み出される戦後初めての「戦死者」の、英霊としての追悼賛美を約束するもの。イラク派兵によって、靖国参拝が持つ意味も大きく変わった。旧日本軍による過去の侵略戦争と日本軍国主義の賛美から、自衛隊が加担する現実の戦争賛美、アメリカのイラク戦争への加担の賛美、そしてそこで生み出される「新しい戦死者」の賛美。国のために命を捧げる若者の賛美。
2004年4月7日福岡靖国訴訟における、小泉首相の靖国神社参拝の「憲法で禁止されている宗教活動に当たる」との違憲判断、違憲判決、原告側実質勝訴の意義。小泉首相の開き直りとごり押し。
※「小泉首相の靖国参拝に明確な違憲判決−−率先して憲法を守るべき立場にある首相の、やりたい放題の違憲・違法行為に厳しい批判−−」(署名事務局)
(5) “犯罪を企てた”だけで逮捕できる刑法改悪=「共謀罪」法案。
(1)で列挙したように、ビラまきやデモ参加などを建造物破壊、住居侵入、暴行など重大犯罪で不当に逮捕・拘留・捜索する弾圧事件は、先の通常国会で提出され継続審議となった共謀罪導入法案の危険性をまざまざと示している。
a)口実は「国際的なテロ対策」。「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」として提出。個々の弾圧、個々の取り締まりを、「組織謀議」として一網打尽に弾圧することを可能にする。「団体の活動」で、罪に当たる行為を「共謀する」ことで犯罪とされる。
b)適用犯罪は557。労使交渉で労働組合執行部が「組織的監禁」で犯罪をでっち上げられる危険性もある。拡大解釈をすれば、大使館への示威行動、首相官邸での面会要求、国会前でのデモ、関電事故追及のための本社包囲など、幾らでも「共謀罪」に仕立てることが出来る。
c)更にこの「共謀罪」の危険性は、盗聴、密告、相互監視の拡大などを伴う点。盗聴法とあわせれば、警察当局に予防弾圧のためのフリーハンドを与えることになる。
政府は凶悪犯罪に限るとしているが、日の丸・君が代の例などを見れば、法が成立すれば、拡大解釈されていく可能性は十分ある。日の丸・君が代でをめぐる交渉でも、「共謀罪」は成り立ちうる。
(6) 住基法と盗聴法。国民への管理・監視の強化。等々。
[4]解釈改憲から明文改憲へ。直接的武力行使容認を視野に入れた無制限な集団自衛権行使を追求。自衛隊即時撤退を求める運動の歴史的な意義。
|
(1) 政府与党だけでなく財界を含めて日本支配層全体が憲法改悪を射程に入れて軍事外交戦略の根本的転換を狙う。
すでに述べたように、今回の参院選と新たな政局展開が改憲にどのように作用するかはまだ不透明だ。しかし、少なくとも選挙前までの政府支配層のこの間の動向から判断すれば、改憲と軍国主義の2つの段階が鮮明になってきた。武力行使と改憲とを一体化させたアーミテージの新発言もこの段階規定を表しているのではないだろうか。
−−第一の段階は、解釈改憲=第9条のなし崩し的掘り崩し−限定的な集団的自衛権行使−限定的な海外派兵=「後方支援」「人道復興支援」など条件付きの海外派兵。
−−第二の段階は、明文改憲=第9条の廃棄−無制限の集団的自衛権行使容認−全面的海外派兵=直接的な武力行使の容認への踏み込み。
小泉政権の下で増長した政府支配層は、第一段階から第二段階へ、明文改憲と直接的武力行使容認も視野に入れた米軍との共同行動、集団自衛権行使に踏み込む最終段階に動き始めている。首相も、政府与党も、グローバル企業トヨタがトップを牛耳る財界の司令塔・日本経団連も、日本商工会議所も、侵略国家作りを完成させるべく改憲と教育基本法改悪を次の一大政治目標に設定した。
改憲が現実の危険になるのは戦後史を通じて2回目のこと。戦後直後の1950年代、まだ戦争の悲劇と犠牲、加害と被害の生々しさが日本全土を覆う下で、日本の支配層は本気で改憲を追求した。そして安保闘争でその目論見が壮大な挫折を遂げてからは、改憲や教育基本法の改悪は差し迫った政治日程には上らなかった。支配層が本気で、しかも実現の可能性を限りなく高めて臨むのはそれ以来のこと。
日本の独占企業は、グローバル市場で市場制覇を目指すグローバル多国籍企業になり、アメリカの世界覇権の恩恵を受けるようになり、西側の帝国主義秩序維持にアメリカと共通の関心を抱くようになってきた。グローバル多国籍企業の世界市場制覇の野望とグローバル軍国主義とを、アメリカ帝国主義の世界覇権の下で追求しようとしている。彼らグローバル多国籍企業の経営者や所有者にとって、米軍の侵略行動、軍事介入体制への参加、集団自衛権の行使、そのための憲法第9条改悪は、自分達が世界市場の中で他国のグローバル多国籍企業と互角に争う際に不可欠と考えているのである。
※財界の司令塔・日本経団連は遂に改憲に向けて本格的に動き出した。7月15日には改憲を視野に入れた「国の基本問題検討委員会」の初会合を開き、7月22−23日の夏期セミナーを改憲論議中心に設定した。日本商工会議所も改憲論議をスタートさせており、両団体の議論の結果は年末にも公表される見通しだ。
※「<経団連>フォーラム始まる 憲法9条見直しなど討議」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040723-00000020-mai-pol
※「経団連 改憲論議をスタート 基本問題検討委初会合」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040716-00000001-maip-pol
奥田会長はそれより先6月14日の記者会見では、「現在と同様、人道復興支援や安全確保支援に活動を限定する限り、自衛隊が多国籍軍に入るのはやむを得ない」と発言し公然と多国籍軍参加を支持した。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/kaiken/2004/0527.html
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/kaiken/2004/0614.html
(2) 多国籍軍参加=イラク居座りは日本の軍国主義化、軍事大国化、侵略国家作りをエスカレートさせる“回転軸”。
そういう日本の政府・支配層にとって、イラクの自衛隊は日本の軍国主義化、軍事大国化、侵略国家作りをエスカレートさせる“回転軸”、日本軍国主義を新しい段階に押し上げるための“テコ”になりつつある。
−−イラク居座りを利用した解釈改憲、明文改憲ギリギリまでの改憲。ほとんど改憲そのものに等しい集団自衛権行使の既成事実を推し進めることができる。多国籍軍参加での今回の首相の独断専行がまさにそうだ。
−−自衛隊の実際的な侵略軍化。イラクに居座らせ米軍との共同行動、共同演習、軍事的プレゼンスの実績と経験を積ませる。直接的な武力行使のための「予行演習」。
※「陸自北富士演習場に“ミニサマワ宿営地”を造営==イラクで武力行使をする軍事演習を開始」(署名事務局)
−−米軍のグローバルな侵略戦争体制、軍事介入体制に積極的に加わり、アメリカの中東覇権・世界覇権に関与して行き、世界政治の舞台で政治的軍事的発言権を高めていく。
−−イラクでの軍事的プレゼンスをテコに石油利権を獲得する。復興利権も取れる。石油・エネルギーを市場から購入する、あるいは中東諸国との外交関係の上に購入するのではなく、アメリカのように軍事力で脅して強奪する。中東を軍事的に支配し軍事的プレゼンスを高めることで石油を略奪する。
※軍事力を前面に出して経済利権を追求するやり方は、古典的な帝国主義列強の特徴であり、まさに戦前戦中の日本の天皇制の帝国主義的軍国主義の特徴であった。この側面が前に出始めたということは日本の帝国主義が新しい危険性を帯び始めたことを意味する。署名事務局論説「自衛隊派兵のもう一つの狙い:「復興支援」ではなく「復興利権」。派兵で石油権益・復興利権を狙う−米軍に付き従い、軍事力で石油資源や市場の「分け前」を分捕る軍事帝国主義への第一歩を踏み出す−」参照。
小泉首相のイラクでの火遊びを今すぐやめさせなければ大変なことになる。イラク居座りが軍国主義化の“回転軸”になっている以上、これ以上の軍国主義のエスカレーションにストップをかけるためにも、一刻も早くイラクから自衛隊を引き揚げさせなければならない。
アメリカの帝国主義的膨張主義に追随・加担する形で、米の軍事介入の一部を担う一部隊になる、自衛隊に経験を積ませ侵略軍化する、その米軍と共に軍事プレゼンスを高める、その対米貢献・対米協力を背景に政治的軍事的発言やポジションを高め、さらには経済的資源的な利権も追求する−−そういう日本の新しい帝国主義的軍国主義のエスカレーションをストップしなければならない。
(3) 軍国主義の新段階は新しい深刻な矛盾・軋轢を生み出さずにはおかない。多国籍軍参加反対、自衛隊即時撤退を求める運動の歴史的な意義。
日本の新しい軍国主義の台頭は、自衛隊派兵をきっかけにまだ始まったばかりだ。小泉政権がこれをごり押しすればするほど矛盾と軋轢は深まるだろう。反戦運動の今後の動向がその帰趨を決する。
−−年末から来年初めに明らかになる「新防衛大綱」という名の新しい軍事戦略、米軍を補完する形での海外派兵の「恒久化」戦略は、イラク派兵が「人道復興」でも何でもなかったことを改めて暴露するだろう。異常なほどの対米追随外交、対米追随軍事戦略がどこまで日本の民衆に受け入れられるのか。
−−何よりも最近の参院選の結果は、日本の民衆がまだこの新しい軍国主義、自衛隊の海外派兵型戦力への転換を受け入れていないことを示した。世論は6割、7割が多国籍軍参加に反対である。民主党は勘違いしてはならない。選挙民は、民主党の改憲や集団自衛権行使容認、イラク派兵の曖昧な態度を支持したのではない。
−−自衛隊のイラク居座りはイラク情勢の悪化に伴って、必ずや殺し殺される状況を招くだろう。世論は黙ってはいまい。
−−日本経団連を筆頭に財界主流は、軍事費の増額を要求し始めた。軍需産業の生き残りをかけてミサイル防衛参加や海外派兵用装備の拡充、更には武器輸出三原則撤廃を求めている。この財政危機の中で軍拡要求をするということは、消費税の大増税を前提にしたものである。いずれ軍事予算と医療・教育・年金など民政予算との配分を巡る矛盾が激化するだろう。
−−在沖・在日米軍基地の再編強化は、米軍が地元自治体の頭ごなしに押し付けようとしているものであり、基地周辺の住民の声を踏みにじるものである。住民の反発と反対は避けられない。
−−米軍が現在陥っている陸上部隊の兵力不足や過剰展開は、陸上自衛隊でも起こりうることだ。米軍の言いなりに世界中に海外派兵をすれば、早晩自衛隊はローテーションで行き詰まるだろう。
−−今年度『防衛白書』は、「わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下している」と述べ、日本周辺の軍事的緊張が緩和していることを防衛庁自らが認めている。本来なら軍縮に進むべき情勢なのである。ところがそれでは政府支配層は面白くない。日本版軍産複合体はもっと面白くない。米ソ冷戦時代に膨れ上がった軍備・兵力・組織を保有する巨大「官僚機構」としての防衛庁・自衛隊は困る。軍縮をさせない口実、否、軍拡を続ける口実、それが「新しい脅威」「対テロ戦争」なのである。この虚構がいつまで通用するか。
−−ブッシュ再選がなるか否か。これは小泉政権の軍事外交政策に重大な変更を迫るきっかけになるかもしれない。等々。
まさに、多国籍軍参加反対、自衛隊撤退の闘いは、この日本の新しい軍国主義の台頭に抵抗する歴史的な闘いに他ならない。闘いは始まったばかりだ。私たちは、ブッシュの先制攻撃戦略に加担し世界中に海外派兵するための「新防衛大綱」に反対する。グローバルな海外派兵にも、米軍の再編に呼応した在沖・在日米軍基地の強化にも、米軍と自衛隊との統合運用にも反対である。ミサイル防衛にも、北朝鮮対決や対中国対決にも反対である。軍需産業の生き残りにも、武器輸出三原則の撤廃にも反対する。これら全体のための集団自衛権行使容認と憲法改悪にも反対する。教育基本法改悪や政治反動にも反対する。−−戦争への道ではなく平和への道、軍縮、軍事費削減こそが進むべき道である。
|