陸自北富士演習場に“ミニサマワ宿営地”を造営====
イラクで武力行使をする軍事演習を開始
−ミニサマワ演習をやめ訓練施設を撤去せよ!−
(1) やはり「復興支援」はウソだった!突如北富士演習場に「ミニサマワ宿営地」が造営される。
6月15日、山梨県の陸上自衛隊北富士演習場・梨ケ原廠舎(しょうしゃ)内に建設されたサマワの自衛隊宿営地の模擬施設が報道陣に公開され、淡々とその様子が報道された。マス・メディアではほとんど注目されず、それ自体、批判や非難の対象になっていない。自衛隊員を守るため当然の措置と受け取られている。しかしそれは大間違いである。
「ミニサマワ宿営地」は、縦約450メートル、横約250メートルの長方形で、実際のサマワ宿営地(約800メートル四方)の6分の1の大きさ。周囲を鉄条網や高さ約3メートルの土盛りで囲い、8つの監視塔と待機所が点在し、ゲート脇にはプレハブの警備本部と数十個の倉庫用コンテナが置かれているのは現地とそっくりだ。
□サマワ宿営地模擬施設建設 (朝日新聞)
http://mytown.asahi.com/yamanashi/news01.asp?c=13&kiji=404
このミニサマワ宿営地ではすでに5月31日から6月4日にかけて、「武装勢力による襲撃」に対する実戦訓練が行われた。訓練に参加したのは8月にイラクに派遣される東北方面隊第6師団と、11月派遣予定の東北方面隊第9師団の隊員である。
報道によれば訓練は400人規模で行われた。そのうちの100人は第6師団と第9師団の隊員である。残る300人は北富士駐屯地の自衛隊員で、この300人が「敵役」を勤めた。「敵役」はターバンを巻きイラク人の格好をした。明らかにイラク人を敵とみなし、全面的な武装襲撃を想定し、監視と警戒の対象、攻撃の対象とみているのだ。一般的な演習などではない。イラク派兵に向けた実戦演習、イラクの民衆デモ、武装レジスタンス勢力に襲撃された場合の反撃と交戦のためのれっきとした軍事演習である。
□東富士での演習記事(山梨日日新聞)
http://www.fujisan-net.jp/news_main.php?news_num=1908
http://www.fujisan-net.jp/news_main.php?news_num=2076
http://www.fujisan-net.jp/news_list.php?category_code=C03&area_code=
□派遣目前、緊迫の“応戦” 北富士演習場サマワ模擬施設で敵襲訓練 陸自隊員 400人参加(山梨日日新聞)
http://www.fujisan-net.jp/news_main.php?news_num=2100
(2) 数百人規模のイラク民衆の暴動、武装襲撃を想定した反撃・交戦の本格的戦闘訓練。
ここでの訓練内容は秘密にされ公表されていない。政府防衛庁側の説明では、公表すれば自衛隊員の安全を損なうからだという。しかし本当の理由は、こんな本格的戦闘訓練、大規模な交戦の演習などを公開していたら、「人道復興支援」のニセ看板が剥がれ落ちるからである。イラクで日本軍の軍事的プレゼンスを誇示する、海外派兵の実戦を体験する、米軍と共同の途上国軍事介入の実体験、実戦演習をするといったイラク派兵の軍事的本質が露呈するからである。
ただ、一部公表された情報から、訓練規模と訓練内容を大雑把に推測することが出来る。守備側の100人はほぼサマワの警備部隊の規模に合致する。それを300人のイラク人たちが襲撃する想定だと思われる。サマワ宿営地にはすでに迫撃砲弾が打ち込まれ、近くでは爆弾も仕掛けられ、オランダ兵とイラク人との銃撃戦も起きている。そこで幾通りか想定される。数百人規模のデモ隊が自衛隊宿営地を襲撃するケース。数百人規模のデモ隊に多数の武装部隊が加わり襲撃するケース。等々。
いずれにしても現在起こっている小規模の衝突程度のデモ隊への対処ではない。それならわざわざ銃撃や砲撃の模擬訓練ができる富士トレーニングセンターFTCに特設のミニキャンプを作って演習をやりはしない。FTCは、光線銃やレーザー指令器などハイテク機材を使って全面的な戦闘シミュレーションが行える国内で唯一の設備である。光線銃の「弾」が命中したり砲撃を受けると、レーザー受信装置付きジャケットなどのランプが点灯して敵の銃撃と被弾がシミュレーションによって確認されるという実戦さながらの訓練が出来る施設だ。何人のイラク人を殺し何人の隊員が死ぬのかが分かるようになっているのである。この軍事演習で想定されるのは銃や迫撃砲、ロケット砲などを相互に大規模に撃ち合う本格的全面的な戦闘訓練である。
すなわちこの軍事演習の想定は、これからどんどん悪化する今後のイラク情勢、今後のサマワ情勢をにらんだものなのだ。小銃はおろか迫撃砲やロケット砲までもって武装した300人の武装部隊が攻撃をかけてきたことを最悪ケースとしているのである。全面武装衝突、本格的地上戦闘である。「砦に立てこもった」100人の自衛隊警備部隊がこれに如何に対抗するか、如何に撃退するかの訓練を行っているのだ。自衛隊の装備は海外派兵ではこれまでにない重装備とはいえ、機関銃や個人装備の対戦車ロケット砲(無反動砲)などにとどまる。いわば攻撃側と同程度の武装である。それで3倍の相手と交戦し撃退するには命がけで宿営地の防護施設(えんたいや陣地)に依拠しつつ全面的な反撃を加えて相手の徹底的な殲滅を図るしかない。当然自衛隊の側にも多数の死傷者がでるのは避けがたい。そのようなギリギリの本格的な想定なのだ。
(3) 「イラク人を見たら敵と思え!」−−隊員にイラク民衆を殺戮する覚悟、自らが犠牲になる覚悟を強いる。
この軍事演習の目的の一つは、派兵自衛隊員に、殺し殺されることを覚悟させることである。イラク民衆との戦闘が命がけであり、相手を徹底的にせん滅し殺さなければ自分が生き残れないことを身体と脳裏に叩き込むことである。「イラク人を見たら敵と思え!」イラク民衆を憎悪すべき敵と見なすこと、差別し蔑視しさげすむこと、何をするか分からない警戒すべき相手として身体に教えることである。
すでに私たちは、イラク派兵の準備過程で行われた自衛隊の殺戮訓練について指摘した。自衛隊は派兵前、隊員に全面戦闘の演習をさせることで、敵地における少数の占領部隊であることを認識させ、攻撃されるという恐怖心を植え付け、躊躇なくイラク民衆に発砲できる人間を作り上げてきているのである。しかし今回の「ミニサマワ宿営地」を造営しての本格的戦闘訓練のような、ここまでリアルで露骨で本格的なものは初めてである。政府防衛庁は、イラク派兵を利用して、自衛隊をますます“実際に戦う軍隊”“民衆を殺す軍隊”に作り替えようとしているのだ。
※「シリーズ:自衛隊派兵のウソと危険(4) イラク派兵を機に帝国主義軍隊へ脱皮を図る自衛隊 −−「人道復興」などそっちのけ。“至近距離の敵に対処する新たな訓練”に終始する陸上自衛隊」
(4) 立て籠もり“宿営地=陣地”を死守する。−−イラク情勢悪化、自衛隊居座りの下で、サマワで武力行使・交戦を覚悟する日本政府。
「サマワは非戦闘地域であり戦闘などあり得ない」「もし万一戦闘になるような状況になれば引き揚げる」−−政府はこう答弁してきた。しかしこの答弁はウソである。言うまでもなくこのミニサマワ演習は地上戦闘を想定した軍事演習である。自衛隊がわざわざ特別な施設まで作って派兵隊員に行うこのミニサマワ演習こそ、これまでの政府答弁、「非戦闘地域」なるものが真っ赤な嘘であったことを自己暴露するものである。従って、ミニサマワ宿営地での演習は明らかに「イラク特措法」の規定にさえ真っ向から反するものなのだ。
それだけではない。小泉首相の腹の中はもっと恐ろしい。なぜ政府がここまで本格的な戦闘訓練をするのか、である。首相は、何があっても撤退させるつもりがないのではないか。隊員に犠牲者が出ることを待ち望み、それを逆手にとって新たな軍事的エスカレーションのテコに使おうとしているのではないか。そう考えられるからである。
米英占領軍は多国籍軍に看板だけ付け替え、傀儡の暫定政権の後ろからコントロールして、軍事占領を永続化する狙いである。そして日本政府はこれに乗じて占領軍の尻尾になってどこまでも居座るつもりだ。
そのうちイラク民衆が自衛隊居座りの本質を見抜く時が来る。全く進まぬ期待はずれの「人道復興支援」が嘘っぱちだと気付くだろう。軍事占領への参加・加担が真の狙いだと分かる時が来るだろう。今は単発の迫撃砲弾や銃撃だが、いずれサマワ民衆の暴動に発展するかも知れない。それが武装集団と一緒になって宿営地を襲撃するかも知れない。あるいはひょっとすると米英軍がイラク民衆に追われるように敗北・敗走する事態になるかも知れない。イラクの群衆に襲われる中で如何に立て籠もり、逃げるか。そんな状況を想定しているのかも知れない。
いずれにしても政府は、サマワが「非戦闘地域」などとは頭から信じてないのだ。サマワはいつ全面的な戦闘になってもおかしくない。常に全面的な戦闘に備えておかなければならない。攻撃され自衛隊員が犠牲になる程度では絶対に撤退しない。宿営地に立て籠もり陣地を死守する。等々。−−政府防衛庁、自衛隊はそう思っているからこそ、実戦さながらの全面戦闘の演習を行っているのだ。ここでは「人道復興支援」など端から関係ない。
模擬サマワ宿営地の構築が開始されたのは3月の末。ファルージャの大虐殺の真っ只中、人質事件が起こる直前、宿営地に迫撃砲弾が撃ち込まれた時期である。自衛隊の認識はすでに、この時点でサマワは「戦闘地域」だったのである。ところがこの時、国民に対しては表向き「非戦闘地域」とごまかしながら、実際には本格戦闘、大規模襲撃への応戦と交戦訓練に真剣に備えていたのだ。
(5) これは憲法違反だ! イラク=海外での武力行使のための演習。
重要なことは、れっきとした軍隊である自衛隊を他国領土に派兵してその他国領土で武力行使をすることは、明々白々な憲法違反だということである。今回のように、イラクを特定して模擬訓練場を作り、襲撃された場合を想定して応戦、敵のせん滅・殺戮のための訓練を行うのは初めてのことである。そもそも政府見解でさえ、自衛隊が海外で武力行使をすることは認められていないはずだ。それは憲法違反そのものであり、侵略戦争、侵略行為そのものであるからだ。しかし、今回の軍事演習は、イラク=海外領土での武力行使を公然と行う、と宣言しているようなものである。海外での武力行使予行演習なのだ。
従来、政府は海外での自衛隊の活動をPKOの任務として限定してきた。だから戦闘や全面的反撃などあり得なかった。本格的戦闘訓練など必要なかったのである。イラク特措法でも、本格戦闘は公然とは認めていない。なぜなら「人道復興支援」が建前だからだ。しかしいつの間にか、「人道復興支援」の「自衛」のためなら許されるという風に、なし崩しに武力行使も許される雰囲気作りをやり始めているのである。「人道復興支援」の延長線上に、どさくさ紛れにイラクでの武力行使のための戦闘訓練・軍事演習をやり始めたのだ。
これまでの政府見解でも、自衛隊は「日本の防衛」時に、日本の領土・領海においてしか武力行使を認めないはずだった。海外領土での武力行使など全く検討の対象にもならなかった。ところがミニサマワ宿営地でやっているのは、従来とは決定的に一線を越える事態である。まさに海外での武力行使の大規模な演習、それも現在のイラク情勢を見れば、直ちに現実に起こりうる軍事演習である。政府はイラク居座りを突破口に、今後なし崩し的に米国のグローバルな軍事介入、グローバル侵略に不可欠の部隊として従軍するつもりであり、そこでの武力行使も辞さないという既成事実を作り上げようとしているのである。
(6) 北富士の“ミニサマワ”は自衛隊にとっての途上国軍事介入演習場=「第3世界の村」。
また、このミニサマワ演習は一過性のものではない。日本のイラク派兵が続く限り繰り返し行われ続けることになる。現時点では3ヶ月に一回程度ローテーションで派兵される自衛隊の全部隊が訓練することになる。すなわちイラク自衛隊派兵に不可欠の演習場となっているということだ。
□イラク復興 西部方面隊を来年派遣 陸自方針 東北の後続、2月にも(西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/news/2004/iraq/kiji/040401_1.html
私たちは、沖縄海兵隊が、沖縄の「第三世界の村」でゲリラ戦の訓練をしてイラクに投入され、ファルージャの大虐殺の中心を担った忌まわしい事実を思い起こす。北富士のミニサマワは自衛隊にとっての「第3世界の村」なのである。
スペイン撤退以降、イラク占領軍各国が雪崩を打ったように撤退を始めた。自衛隊駐屯地サマワで治安を担うオランダ軍も来年3月までの駐留延長を決めると共に、3月以降の撤退を断言している。にもかかわらず、日本政府は最長2007年までのイラク特措法の延長と自衛隊派兵の駐留を継続しようとしている。
すでに見せかけの「主権委譲」、傀儡暫定政府の下で、反米武装勢力による自爆攻撃、反占領闘争はエスカレートし、「戒厳令」「非常事態令」発動を検討しなければならなくなっている。これから来年にかけてイラクでの抵抗闘争は一層激化するだろう。米英占領の永続化に対するイラク民衆の憤激が強まり、それが多国籍軍に参加した自衛隊に向けられるのは時間の問題である。だからこそ政府は、彼ら反米武装勢力との全面戦闘演習、軍事演習を大急ぎで開始したのである。
政府・自衛隊はイラクでの占領加担、居座りを最優先にして模擬演習施設の建設を強行した。北富士の地元の人たちが入会権を持つ場所を何の断りもなく更地にし模擬サマワ宿営地建設を強行した。何が何でも作る必要があったのだ。北富士の地元の反対運動は、「テロの標的になる」としてその建設当初から強く反対してきた。地域の住民の願いを踏みにじる犯罪的行為である。
私たちは、このミニサマワ施設の撤去を要求する。憲法違反の海外での武力行使に反対する。武力行使の予行演習としてのミニサマワ演習の即刻の中止を要求する。ミニサマワ演習をしなければならないくらいなら、今すぐ自衛隊を即刻撤退させるべきである。ミニサマワ演習をしなければならないくらいなら、イラク特措法の「非戦闘地域」の条件は崩れたも同然、特措法に従っても自衛隊を撤退させるべきである。
2004年6月28日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局