シリーズ:自衛隊派兵のウソと危険 |
シリーズ6:
自衛隊派兵:さらにもう一つの隠された狙い
「テロ対策」を口実に治安弾圧体制強化を図る小泉政権
−−最大の「テロ対策」は自衛隊派兵の中止・撤兵−− |
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[1]はじめに−−「対テロ戦争」参戦と国内治安弾圧体制強化:小泉政権が推進する根本的に間違った国の針路。
(1) シリーズ6回目の今回は、政府が、自衛隊派兵と同時に国内の治安弾圧体制を質的に強化しようとしている現状を明らかにしたい。
単純な疑問が湧いてこないだろうか。小泉首相は繰り返し主張している。「戦争をしに行くのではない」「武力行使をするのではない」「人道復興支援をするのだ」と。ならばなぜ「報復」を恐れなければならないのか。なぜ「テロ対策」が必要なのか。
言うまでもない。小泉首相は、派兵すれば「報復」される恐れがあることをちゃんと知っているからだ。イラクと中東では「人道復興支援」のごまかしなど全く効かない。派兵すれば米英侵略軍への加担であることがすぐに見破られる。だから身構えるのである。あるいは、もっと危険な狙いがあるかも知れない。派兵を強行しわざと「テロ報復」の恐怖を煽り立てることによって、国内の軍国主義強化・反動化を一気に強める、治安弾圧体制を一気に強化する。いずれにしても、国民の命を危険にさらし、自由と民主主義を抹殺してまで米軍と一体化して「侵略国家」の仲間入りをしたいというのだ。
(2) ある人はこう言う。「じゃあ、テロ対策はどうするのか。」と。これへの答えは単純明快である。自衛隊を派兵しなければ良い。すでに派兵した部隊は即刻撤収する。それだけである。最大のテロ対策−−それは侵略戦争をしないこと、他国・他民族が保有する石油や原料資源を軍事力にモノを言わせて略奪しないことである。
何の理由もなしに国際法に違反してただ石油資源の略奪のためにだけ中東の独立国家を侵略し国家主権を侵害し民衆を虐殺しておいて、「報復するな」と言う方がおかしい。やましいからこそ「テロ対策」に奔走しなければならないのである。
「テロ対策」を本当に真剣に考えるならば、まず最初に、なぜ「報復テロ」が起こるのか、果たして戦争と軍事力でテロはなくせるのか、それをこそ真剣に考えなければならない。しかるに小泉政権は、「対テロ戦争」に直接参戦することが如何に危険なことか、如何に戦後国家のあり方を根本的に変えることなのかを問うことなく、なし崩し的に「対テロ戦争」へ国民全体を引きずり込んでいる。全く無責任で卑劣なやり口である。
「アルカイダが日本を襲撃すると脅しをかけてきたではないか。」こう言う人もいる。この予告の信憑性の問題もあるが、仮にこれが本物だとしても何も難しい話ではない。戦後一度もなかった「アルカイダ襲撃予告」が出された時期を考えれば分かることである。それは自衛隊派兵決定の時期に出された。しかも文面には「自衛隊を派遣すれば・・・」と、派兵することが“条件”になっている。このことをご存知であろうか。
※「アルカイダ 自衛隊派遣なら東京攻撃・サウジ誌」(日経新聞)
http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt69/20031117AS2M1700617112003.html
そもそもアルカイダがやったと言われる米国の9・11同時多発テロ事件についても、そこには複雑な歴史的背景と経緯がある。戦前・戦後を通じてアメリカが中東で行ってきた帝国主義的で植民地主義的な支配と石油資源の略奪、王政や独裁政権へのテコ入れ、民主的進歩的政権への介入と転覆、アラブ民族革命運動への血生臭い弾圧等々に、米国がそれこそ数え切れないほど手を染めてきたことである。その十二分に血塗られた米軍の中東支配に今から加わろうというのが、今回の自衛隊派兵である。こんな危険で恥ずべき事はない。日本は友好者から敵対者へ変質した。イラクや中東の民衆がこう受け取っても当然であろう。
また小泉首相は言う。「イラクに派兵するしないに関わらずテロはある。」と。しかしこれもウソ、詭弁である。彼は、これまでなぜ日本で海外勢力によるテロが起こらなかったのかを説明していない。テロは何故起こるのか、具体的に国民に分かるように説明する責任を放棄している。言うまでもなくそれは戦後日本が直接的に海外侵略をしなかったからである。「報復」を招くような侵略をしてこなかったからである。
(3) 政府やメディアは、「テロは戦争で解決する」「対テロ戦争は国際社会の常識」「国内テロ対策が内政の中心課題」等々を、当たり前のように言い立てている。しかしテロを警察的・司法的措置で対処せず、戦争で対処し始めたのはわずか3年前の9・11以降である。この根本的に誤った危険な発想を根底から考え直さねばならない時にきている。
ブッシュ政権は、9/11の衝撃をテコに、アフガニスタン、イラクへの対外侵略、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、シリアなどへの軍事的恫喝など、全世界を「対テロ戦争」に引きずり込んできた。世界は一時、ブッシュ政権の単独行動主義、先制攻撃戦争に一言も言えず逆らえず、服従するしかない異常な状況が生み出された。
しかし今では状況が変わってきている。イラクをきっかけにブッシュ「対テロ戦争」の泥沼化・破綻が明らかになり始めたのである。破綻しているのは対外政策だけではない。対外戦争と同時に強行してきた「愛国者法」など国内の治安弾圧体制も矛盾が表面化し民衆の不満・反発を招いている。
外へ向かっての「テロとの戦い」、内へ向かっての「警察国家体制」強化。−−世界中を戦争と抑圧に満ち満ちた「暗い時代」へ陥れようとするブッシュの戦略は、行き詰まり破綻し、重大な岐路に立たされている。その象徴の一つは、民主党ケリー候補の台頭とブッシュ再選の危機である。
ところが小泉政権は、ブッシュの内外政策が危機に陥っているまさに今、そのブッシュに追随して、日本を外への侵略国家、内への警察国家に変質させ、戦後憲法と国家のあり方、自衛隊のあり方を根本から変えようとしているのである。私たち反戦平和運動は、イラク戦争=占領反対、自衛隊派兵反対と併せて、国内治安弾圧体制強化反対の闘いにも取り組まねばならない。
(4) 小泉政権が、日本を侵略国家=警察国家へ変えようとするために利用しているのはイラク自衛隊派兵と「対テロ戦争」だけではない。もう一つは、言うまでもなく北朝鮮である。「拉致問題」「核開発問題」、この二つは今や小泉政権にとって「テロの危機」「大量破壊兵器の危機」「ミサイルの危機」等々、戦争の危機を煽り、軍拡、有事体制の整備を合理化・正当化し、ひいては国内における治安体制の強化をも合理化・正当化しようとする格好の便利な手段なのである。
北朝鮮敵視政策を批判することはもはやタブーとなり、マスコミも野党も、この問題の前には「挙国一致」状況である。むしろどちらが反北朝鮮か競争しているのが実情である。軍拡と国内弾圧体制の強化を追求する政府与党にとってこんなやりやすいことはない。私たちは日本の侵略国家化、警察国家化に反対して闘うために、イラク派兵反対の課題と、北朝鮮敵視政策反対の課題を結び付けなければならない。
[2]「テロ対策」に名を借りた国内治安弾圧体制の強化−−イラクへの自衛隊派兵を機に質的に新しい段階に入る。
(1) イラクへの自衛隊派兵と共に、日本国内でこれまでにない治安弾圧体制の強化、警備体制の強化が進んでいる。これまでも、2001年の9.11同時多発テロ、そしてアフガニスタンへの米の侵略とその支援のためのテロ特措法の制定、そして昨年3月20日のイラク開戦時の小泉首相の戦争支持表明−−このそれぞれの時期・段階において日本政府は、ブッシュの戦争支持・加担の外交政策と一体のものとして、国内における「テロ対策」=警備体制の強化を進めてきた。
しかし今回の自衛隊派兵の中で「テロ対策」=治安弾圧体制の強化は明らかに質的に新しい段階に入っている。後に[4]において、@昨年12月9日のイラク自衛隊派兵の「基本計画」閣議決定、A1月16日の陸上自衛隊先遣隊派遣、Bそして2月21日の陸上自衛隊本隊・施設部隊派遣、これらのそれぞれの節目にどのようにして強化されていったのかを具体的に明らかにしたい。
(2) どこから見ても派兵された自衛隊は占領軍、侵略軍である。今サマワのイラク人側の代表者や市民は、雇用や産業復興、巨額援助を「過剰期待」して、あるいは催促して「歓迎」しているふりをしているだけである。当然だろう。国家をつぶされたのだから。しかし「過剰期待」がいつ「落胆」「怒り」に変わってもおかしくはない。
こんなことは政府・自衛隊は重々承知している。だから、シリーズ4で述べたように、陸上自衛隊は派兵される前に、暴動や抗議するイラク民衆を敵に見立て「至近距離の敵に対する新たな訓練」を本格的に繰り返し行った。明らかに“殺す訓練”である。政府・自衛隊は衝突事件、「正当防衛」という名の虐殺事件を覚悟して無理矢理自衛隊を送り出した。すなわち、殺しに行くから、その「報復」を恐れているのである。
※「人道復興」などそっちのけ。“至近距離の敵に対処する新たな訓練”に終始する陸上自衛隊(署名事務局)
陸上自衛隊本隊派兵の前日2月20日には、警察庁が全国の警察本部に対して「重要施設」の警戒警備をさらに高めるように通達を出し、警備体制を大幅に強化している。警戒レベルは昨年3月20日同様最高レベルに達している。また警視庁は、2月下旬より警備体制9000人と倍増させた。
「人道復興支援」「イラクの人々のため」といいながら、その実、日本国内における「テロ対策」を強化する、これこそ、米のすすめる「対テロ戦争」への加担、イラクへの侵略戦争への加担、イラクへの不当な占領支配への加担という日本の自衛隊派兵の本質を物語っている。イラク人民の殺戮、イラクの破壊、イラクの占領、石油資源の確保、この様な戦争と占領支配への協力が「報復」を招くことを恐れているのである。
(3) しかしこの「テロ対策」は同時に、イラク派兵に反対する運動と世論への警戒と監視、反対運動への弾圧と不可分一体のものである。2月27日には、東京都立川市で自衛隊派兵反対運動をすすめる市民3人が不当逮捕され、家宅捜索を受けるという事件が起こった。「立川自衛隊監視テント村」の3人は1月17日「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対!いっしょに考え、反対の声をあげよう!」というビラを自衛隊駐屯地そばの自衛隊員宿舎に入れたことが住居侵入に当たるというのだ。さらに3月3日には、警視庁公安部が、社会保険庁の職員が昨年11月休日に共産党の機関誌を配布したという理由で、国家公務員法違反の疑いで不当逮捕した。いずれも一ヶ月半、数ヶ月も前の事実をもって、犯罪にデッチあげる言論の自由を圧殺する不当弾圧である。
※詳しくは「市民がビラを配っただけで逮捕される「事件」相次ぐ――イラク派兵と軌を一にした言論弾圧、反対運動への不当弾圧に抗議する−−思想・信条の自由、表現の自由、結社の自由への攻撃を許すな!−−」(署名事務局)参照。
[3]在日米軍基地・自衛隊基地から原発まで、首相官邸から空港・港湾・新幹線まで、公的施設から民間施設まで「治安出動」の対象に網羅。
自衛隊派兵に伴って「テロ対策」「治安弾圧」はどのように強化されたのか。まず第一の特徴は、かつてなかった露骨な示威行動である。実際の警備体制の強化とあわせ、そのデモンストレーションであるかのように、警備訓練をマスコミに公開し、内外に治安弾圧の力を誇示していることが分かるだろう。
第二の特徴は、その全面的な性格である。空港、港湾、自衛隊駐屯地、米大使館、米軍基地、原発だけでなく、ビジネス街、繁華街等々をも含めたトータルなものとなっている。首相官邸、各省庁、警察、自治体、民間施設全体を巻き込んで、「テロ攻撃」対策という口実の「警察国家」作りが進んでいるのである。
以下に最近の幾つかの事例を見てみることにしよう。
−−警視庁は2月26日、昨年10月に開業した東海道新幹線品川駅でテロ警戒の様子を公開した。機動隊員ら約150人と警察犬2頭が午後5時から約1時間、乗降客の不審者、駅の通路の不審物がないかなどの警戒活動を行った。これは、駅を利用する不特定多数の乗客を「不審者」「テロリスト」として大々的に監視する訓練である。
−−2月20日の警察庁による「通達」に従い、成田空港や関西空港など主要空港のターミナルでは、サブマシンガン(機関拳銃)を携帯する銃器対策部隊が配備された。9.11以降「原発警備隊」として、原発に配備が限られていた同部隊が、空港など不特定多数の一般の人々が出入りする場所に配備されるのは初めてである。「客に紛れるテロリスト」を摘発の対象とし、直接国内外の市民をターゲットに「テロ対策」を開始したことを意味する。爆発物処理班、NBC(核・生物化学兵器)対策部隊などが厳戒態勢を取りはじめている。
−−この警備体制の強化では、米国の重要施設、在日米軍基地、首相官邸、自衛隊施設だけでなく、ビジネス街、繁華街などでも警戒人数を増やし検問を実施している。
−−警視庁は2月17日、中央区晴海でテロリスト対策や爆発物、生物化学兵器処理などの訓練を行った。訓練には機動隊や爆発物処理隊など約540人が参加。NBCの訓練では、異臭の発生現場に化学防護服を着た公安機動捜査隊員らが駆け付けた。ライフル銃と爆弾で武装したテロリストの襲撃車で大使館に突入しようとした武装テロリストをサブマシンガンによる銃撃戦で取り押さえ、警察犬が犯人に襲いかかる訓練、積んでいた爆弾を処理する訓練や、猛毒のサリンがまかれた場面を想定した訓練などが行われた。
−−警視庁東京空港署は2月16日、羽田空港で大規模な車両検問をした。署員40人が西旅客ターミナル近くの路上に配置につき、通過する車を止めて免許証を確認したうえ、不審物がないかをチェックした。車両の底をのぞく特殊な鏡も使い、不審物が仕掛けられていないか調べた。
−−2月12日、国際クルーズフェリーの爆破情報があったとの想定で、名古屋海上保安部や愛知県警、名古屋入国管理局などが、名古屋港に停泊したフェリー「いしかり」を使って合同のテロ対策訓練を行った。政府が主要港にテロ対策のための「港湾危機管理官」の設置をうけ全国で先駆けて行われた。訓練では、海上保安庁の潜水士が船体外部の不審物を海中で捜すとともに、防弾チョッキを着用して強化プラスチックの盾を持った特別警備隊員らが船内を捜索。ロッカーに隠れていた不審者を見つけると、拳銃を突きつけて5人がかりで制圧し、逮捕する等の演習を行った。また入国管理局と名古屋税関が爆発物を持った下船者を発見、県警機動隊の爆発物処理班が処理した。
−−警視庁とJR東日本は2月10日午前、池袋駅の地下通路に不審なアタッシェケースが放置され、化学物質が放出されるテロが起きたとの想定で、被害者を救出する初動訓練を実施した。訓練には、池袋署員50人と駅員21人が参加。駅員の110番で防毒マスクと防護服に身を包んだ署員が現場に駆け付け、倒れ込んだ被害者を救出。ケースを回収すると、中和剤に見立てた水をまいて洗浄した。
−−2/5〜11日。札幌雪祭りでは、自衛隊の駐屯地内にある真駒内会場に初めて金属探知機が導入された。真駒内会場と大通会場では、監視カメラを計約40台設置するなど警備を強化。警備員4〜5倍。手荷物検査。
−−大阪府警は1月23日、関西空港(大阪府泉佐野市など)で、NBCテロ対策訓練を初めて実施した。訓練は、国際線出発ロビー数カ所でかばんが爆発し、搭乗客や空港職員が呼吸困難や目の痛みを訴えて倒れたと想定。まず化学防護服を着たNBC初動措置隊員が化学防護車に装備されている分析器を使って化学汚染を検知。原因物質を特定し、被害者を救助した後、張り詰めた雰囲気の中で汚染を除去した。
その後、爆発物処理班が爆発したかばんを処理した。ほかに通常の拳銃よりも大きく連射が可能な機関拳銃の操作訓練も実施され、使用手順を1つずつ確認した。
−−成田空港での国際テロを想定した、千葉県警特殊部隊の「テロ対策合同訓練」が1月19日、行われた。マシンガンを携行した銃器対策部隊や、新設されたNBC(放射線・生物・化学兵器)テロ対策部隊、爆発物処理班など約150人が参加した。同県警が特殊部隊の訓練を公開したのはこの日が初めてである。訓練は「空港内に放置された不審な液体を旅行者が吸い込み倒れた」との想定で行われた。特殊な防護服姿のNBC対策部隊員が探知装置を使って液体を特定する作業や、被害者の救出、液体の除去作業に取り組んだ。爆発物を積んだとみられる不審車両から、小包を取り出し、処理する訓練も公開された。一般旅行者の行き来する第2旅客ターミナルビルなどで行われた。等々。
[4]サブマシンガンで武装した「銃器対策部隊」が公共施設の「警備部隊」として民衆の前に登場。
(1) 12月9日の「基本計画」閣議決定と12月12日「テロ対策関係省庁会議」。
日本政府は、12月9日に自衛隊派兵「基本計画」を閣議決定しイラク派兵の基本的道筋をつけた直後の12月12日、テロ対策関係省庁会議を開催し、国内における「テロ対策」を飛躍的に強化する事を明らかにした。
政府はすでに昨年3月20日、米によるイラク開戦の支持表明を行うと同時に「我が国の対応策について」(イラク問題対策本部資料)を作成し、国内における「テロ対策」を強化してきた。
そこでは、「イラクとその周辺における邦人の安全確保」に続いて、「国内の警戒態勢の強化・徹底」をあげ、「出入国管理、通関検査、テロ関連情報の収集分析、ハイジャック等の防止策、NBCテロ等への対処、国内重要施、在日米軍施設、各国高官等の警戒警備、テロ資金対策、不審船対策」等トータルな警戒態勢を各省庁に指示している。
※「我が国の対応策について」イラク問題対策本部会議資料
http://www.kantei.go.jp/jp/kikikanri/iraq/030320taiousaku.html
しかし今回12月12日の「テロ対策関係省庁会議」は、警察庁、防衛庁、金融庁、法務省、財務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、海上保安庁ら関係14省庁の局長級を集合させ、「海上渡航・滞在する日本人の安全対策」「テロ防止のための水際対策の強化」−−国際空港・港湾における危機管理体制の強化、出入国管理等の強化、ハイジャック対策等の強化−−、さらに、「重要施設の警戒警備等」−−「警察、海保等による原発等我が国重要施設、米国等関連施設、公共交通機関等に対する警戒警備の強化」「鉄道等の公共交通機関、大規模イベント海上等多数人の集まる施設、ライフライン施設の管理者等による自主警備の強化」「核物質、放射性同位元素、化学剤、生物剤等の危険物資の管理者による自主管理の強化」等を全面にわたって指示している。
※「テロ対策関係省庁会議における確認事項」
http://www.nucmext.jp/news/boushihou/20031219_01.pdf
そしてこれは以下のような新たな特徴を持っている。
−−省庁をまたぐ「水際危機管理チーム」を設置。水際危機管理チームは、警察や海保、国土交通省など関係省庁の課長級10〜20人で構成する。
−−空港・港湾保安委員会を設置し活用する。主要国際空港・港湾の警戒に警察官を「空港危機管理官」「港湾危機管理官」として専門に配置する。これは成田や関西国際空港と東京、横浜、大阪、神戸などの主要港湾に置かれる。この「危機管理官」も「水際危機管理チーム」のメンバーになる。
−−これまでの原発、政府機関、米関連施設等だけでなく、鉄道等の公共交通機関、大規模イベント会場、ライフライン施設の管理者等にも自主警備の強化を要請し、民間をも巻き込んだ「テロ対策」をすすめる。
−−この会議が起点となり、各省庁が「テロ対策」の強化を指示し、文部科学省−−大学、原子力機関、研究施設など、厚生労働省−−病院、医療機関、自治体等での具体的な「テロ対策の指示が進められている。
(2) 1月9日先遣隊派遣命令、1月16日先遣隊出発と「テロ対策」演習の具体化、拡大。
先遣隊が出発した1月16日からは、12月12日の関係省庁会議の確認に基づき、成田、関西両国際空港に「空港危機管理官」が配置され、東京港など五つの国際港には「港湾危機管理官」が配置され、本格的な水際対策、大規模な演習が開始された。また、外務省は1月13日、日本を訪れる飛行機や船舶に対し、乗務員や旅客の名簿を税関に提出することを義務付ける方針を明らかにした。
さらに、本隊派遣が近づいた2月にはいって、警備体制の強化が次々と打ち出されれた。警察庁は2月9日、都内で臨時の全国警備実施担当課長会議を開催し、テロ対策の徹底を指示した。また、警視庁警備部などは2月12日、丸の内署管内のJRやデパート、デルタ航空など54社のビル管理責任者らを集め「国際テロ対策連絡会」を同署で開いた。警視庁が企業を集めてテロ対策会を開くのは初めてである。会議では、会社の敷地の見回り強化や出入りする車や人のチェック、不審な電話や宅配便の取り扱いなど、自主警備を要請した。
(3)2月21日陸上自衛隊本隊派兵と2月20日警察庁による全国の警察への警戒警備強化の通達。
陸上自衛隊本隊派遣直前の2月20日、警察庁は「重要施設等に対する警戒警備の強化について」という通達を全国の警察署に出し、全面的な警備体制の強化に乗り出した。
※「重要施設等に対する警戒警備の強化について」
http://www.npa.go.jp/pressrelease/keibi1/h160220.pdf
サブマシンガン(機関拳銃)を携帯する銃器対策部隊が主要空港ターミナル配備されたのは先に述べた通りである。全国に1400丁のサブマシンガン、千数百人を要する「銃器対策部隊」が、9.11以降の「原発警備隊」から、公共施設の「警備部隊」として登場したのである。また、警視庁は2月下旬から東京都内の重要施設を警備する機動隊員らを9000人態勢とし、倍増させている。皇居や総理官邸、アメリカ大使館、米軍、自衛隊関連施設など約100カ所で巡回を増やすほか、JR東京駅の地下街や六本木の繁華街など都心部の雑踏警戒も強化している。
(4)警備体制の強化と演習誇示の段階から、反戦運動活動家のでっち上げ逮捕、反戦グループの摘発、反戦平和の言論の露骨な弾圧・圧殺へ。
そして「テロ対策」はさらに新しい段階に入ったと言うべきである。1月6日のさっぽろ雪まつりをめぐって、陸自師団長がおこなった反戦デモを規制する発言や、立川におけるでっち上げ逮捕は、自衛隊=軍隊が、警察や自治体と結びついて市民の言論圧殺や弾圧に介入してくる危険が現に始まっていることを意味する。
※「よそ事ではない。自衛隊イラク派兵師団のある北海道で今何が起こっているのか?−−軍隊が発言力を増し表舞台に出てくる恐ろしさ−−」(署名事務局)
[5]日本の「9・11」は「北朝鮮の脅威」−−すでに“成功”を収めた「核開発」「ミサイルの脅威」「拉致問題」を利用した軍国主義強化・政治反動強化。
(1) 私たちは今から警戒し準備をしておかなくてはならない。自衛隊員がイラク現地でイラク民衆を虐殺したり、逆に殺されたりしたときの事態の急変である。自衛隊に何もなくても、占領体制、あるいは傀儡政権が混乱するなど、イラクで重大事態が起こることも十分考えられる。その時政府が政権を維持するには、撤兵するのでなければ、全面的に攻勢に出るしかない。でなければ政権そのものが窮地に陥るからである。「テロの恐怖」を持ち出すことによって、一気に国民を萎縮させ従順にさせようとするだろう。この衝撃を利用して、集団自衛権の行使を公然と宣言する、改憲に踏み出す等々、これまで世論の反発を恐れて出来なかったことを公然と開始する危険もある。
イラクにおける占領と自衛隊の派兵・駐留が長期に渡るとすれば、アメリカの戦争に軍隊を提供している国として“準戦時体制”のようなものが醸成され、「テロの恐怖」が長期に渡って持続することになる。人為的な「挙国一致」状況の創出−−政権を牛耳る者にとってこれほど都合の良いことはない。
(2) しかし、イラクでのショックがなくても、政府はこれまで思うがまま軍国主義と政治反動を大胆にエスカレートしてきた。それは北朝鮮の「拉致問題」「核開発問題」「ミサイル問題」の利用である。北朝鮮への憎悪をかきたてるセンセーショナルな政府・マスコミ一体となったプロパガンダが見事に奏功したのである。
政府支配層がどこまで意図したかは分からない。しかし「拉致」「核」「ミサイル」「麻薬」「工作船」「脱北者」「強制収容所」「闇市」「喜び組」等々、まるで大衆心理を操作し洗脳するかのように毎日毎日、朝から晩までどの新聞もどのテレビも、北朝鮮敵視キャンペーンを繰り返した。こうした異常事態が日本国民に理性的な政治・外交判断をもたらすわけはない。集団「ヒステリー」ともいうべき雰囲気が醸成された。
ある時期からは、拉致議連など政府与党の一部が対北朝鮮外交、対アジア政策を事実上牛耳ることとなった。「拉致問題」「核開発問題」「ミサイル問題」等の懸案を日朝間の対話と交渉の中で平和的外交的に解決していくという道が否定され、ブッシュ政権とともに軍事力で恫喝するしかないかのような雰囲気が作り出された。与党、民主党が一体となって成立させた外為法改正法、さらに安部幹事長等が率先して成立させたがっている特定船舶入港禁止法案は、その運用次第では日朝間にきわめて危険な緊張した関係をもたらす。
3月6、7日の共同通信社による全国電話世論調査によると、外為法改正を受け、北朝鮮への送金、貿易停止などの制裁に踏み切るように求める人は、64.4%を占め、「踏み切るべきではない」の26.3%を大きく上回った。また特定船舶入港禁止法案についても74.2%が今国会での成立を支持している。世論の様変わりと言っていいだろう。1年前、2年前は、日朝国交回復交渉を進めることが多数を占めていたからである。この数値を見る限り反北朝鮮プロパガンダは成功を収めている。
しかし悪質なのは、日本の反動的支配層が、北朝鮮が今日の東北アジアの国際情勢と政治的軍事的力関係の下では日本に対して戦争や軍事行動をしかける能力を持たず、また日本自身もアメリカのコントロール下では独自に北朝鮮に戦争を仕掛けるわけにはいかない事を承知の上で、日朝間の緊張を激化させ、それを極限にまで追いやることで、日本独自の軍拡と国内治安弾圧体制の強化に利用しようとしていることである。危険な火遊びという他ない。北朝鮮は、日本の政府支配層が改憲を最終目的とする軍国主義と政治反動の根本的転換という戦後の悲願を達成するための格好の“利用物”なのである。
(3) 今国会に提出される有事法制7法案の中心である国民保護法案においては、「武力攻撃事態」に加えて「緊急対処事態」なる概念が作られた。「大規模テロ」を「有事」と捉え、国、自治体が住民の避難・救援などを行うことを定めている。イラク戦争に関係して生じる事件が容易に「テロの危険」と認定され、有事体制が敷かれてしまう危険がある。すでに、「テロ対策」と称して、警察庁が、ビル管理者、空港管理者などを集め、会議を開催する事例を見た。「テロ対策」の事前訓練に、住民が動員される−−これは、まさしく、有事法制下での避難・救援訓練そのものである。
※「有事関連7法案に反対する! −−自衛隊派兵のどさくさ紛れに「戦争国家」作り−−」(署名事務局)
以上詳しく見てきたように、今では「テロ対策」、「北朝鮮の脅威」を口実にした国内治安弾圧体制強化が国家権力を総動員してエスカレートしている。この面からも、イラク派兵が「人道復興支援」であるなど真っ赤なウソであることが分かる。
イラクへの自衛隊派兵は、正真正銘、米のイラク侵略=掃討作戦への加担である。イラク民衆のための本当の「人道復興支援」であれば、どうして「テロ」を恐れる必要があろう。どうして警察国家を作り上げる必要があろう。
小泉政権は十分承知している。米軍の侵略がイラク人民を殺戮し甚大な被害を与え、それ故にイラク人民大衆から猛烈な反発を生み出している、だからこそ、それに参戦し加担する日本は、「報復」を恐れなければならないのである。
日本の民衆と反戦運動の力で、日本のこの間違った針路を転換することはまだ可能である。二つに一つ。このまま小泉政権の下で自衛隊が侵略軍に変貌し、遠く離れた中東で銃撃戦の実戦を積み重ね、国内では日本の民衆が「報復テロ」に怯え、空港や繁華街でサブマシンガンを携行した武装警察隊が徘徊し市民を威圧する侵略国家=警察国家へ突き進むのか。それともイラク派兵を中止し撤兵させ、米英のイラク戦争支持を撤回し、軍備と交戦権の放棄を唱った憲法の平和主義を堅持し、あくまでも侵略戦争に加担しない「平和国家」への道を歩むのか。まさに今それが問われている。
2004年3月12日
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