「平和的生存権保障基本法」の構想素案

2001年9月28日


現在構想素案の段階で、今後コンメンタールを作成する予定です。ぜひご意見をお寄せください。


前 文

 我々は、日本国憲法の前文において、「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」とした。  

 そもそも自由権、社会権をはじめとする基本的人権は、平和が確保されなければ享受することのできないものである。したがって、ここに確認された「全世界の国民の平和的生存権」は、第九条の不戦・非武装条項とあいまって、二十世紀の二度にわたる世界大戦の夥しい犠牲の上に獲得された人類の叡智であるとともに、基本的人権を保障するための最も根源的な権利にほかならない。  

 しかるに今日、核兵器をはじめとする大量殺戮兵器の増大、民族・宗教間の武力紛争の多発、先進工業国による資源の浪費と地球環境の破壊、先端的テクノロジーによる生命倫理や経済倫理の動揺、世界的な貧富格差の拡大と飢餓人口の増大等が深刻な問題となり、平和的生存権が人類規模で脅かされている。したがって日本国憲法は、これらの状況を半世紀前に予見するとともに、二十一世紀世界の改革目標をいち早く実定化した先駆的な意義を持つものである。

 これら平和的生存権を脅かす事態を解決することは、国・地方公共団体等の基本的な責務であるばかりでなく、社会全体の責務として自覚されなければならない。なぜなら、平和的生存権の保障には、権利主体であるすべての人とそれらの人々で構成する諸団体が、国等に対し平和を創出するための措置を求めるばかりでなく、平和創出に資する活動を進んで行ない、戦争その他の武力紛争にも、それが発生する恐れを助長することにも加担せず、異なる民族・文化・宗教等との「共生」に日常不断に努めるという主体性が不可欠だからである。

 本法は、以上のような観点から平和的生存権を実効的に保障するため、「平和創出国家」の実現と「多元共生社会」の形成を国の二大目標として定め、これに関する具体的な諸施策を実施する道筋を明らかにしたものであり、基本的な憲法附属法典の一つとして制定されるものである。

 

第一 総則

一、定義

1 平和的生存権    
 この法律において「平和的生存権」とは、人が恐怖と欠乏から免れ、平和のう  ちに生存する権利をいう。  

2 平和   
 この法律において「平和」とは、武力紛争がないとともに、それが発生する恐れもなく、加えて武力紛争の構造的要因が克服されている状態をいう。

3 武力紛争
 この法律において「武力紛争」とは、戦争、武力の行使又は武力による威嚇が  行われることをいう。     

4 武力紛争の構造的要因    この法律において「武力紛争の構造的要因」 とは、国家若しくは地域、民族、文化または宗教等の相互信頼関係を損なうことによって、人々が脅威を受けるこ  ととなる貧困、差別、環境破壊その他の問題をいう。

二、平和的生存権の保障
 
 平和的生存権は、祉会のすべての構成員が持っている平等で譲ることのできない 権利であり、これは人間固有の尊厳に由来するものであって、人種、皮膚の色、性、 言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又 は他の地位等による差別を受けることなしに、保障されなければならない。


三、平和的生存権の内容  

 日本国憲法並びにこの法律及びこの法律に基づいて制定される他の法律によって保障される平和的生存権には、少なくとも次の権利が含まれなければならない。  
1 平和創出を求める権利    
 武力紛争の平和的解決、武力紛争の発生する恐れの除去及び武力紛争の構造的要因の克服その他平和を創出するための措置を講ずるよう国・地方公共団  体、国際機関並びに関係国等に求める権利  

2 平和創出のために活動する権利    
 武力紛争の平和的解決、武力紛争の発生する恐れの除去及び武力紛争の構造的要因の克服その他平和を創出に資する活動を国の内外で行う権利  

3 武力紛争に加担しない権利   
 武力紛争及び武力紛争の発生する恐れを助長すること等、武力紛争に直接にも  間接にも加担しない権利

四、平和的生存権の保障に関する基本目標   
 
  平和的生存権の保障に関する次の基本目標を「二十一世妃における日本の国家目標」として定める。  

1 平和創出国家   我が国ばかりでなく、世界の人々の平和的生存権が保障されるように努める「平和創出国家」となるべきこと。
2 多元共生社会   異なる民族、文化、宗教等の相互理解と信頼醸成が平和的生存権保障に直結することにかんがみ、我が国社会は多様な価値観と生活様式が共存する「多元共生社会」となるべきこと。

五、国等の責務

1 国の責務    
(1)国は、日本国憲法及びこの法律にのっとり、平和的生存権の保障に関する施策、とりわけ「平和創出国家」と「多元共生社会」の実現を積極的に推進する責務を有する。     

(2) 国は、平和的生存権の保障に関する施策を講ずるに当たって、外国政府、国際機関、平和的生存権に基づく活動を行う内外のNPO・NGO等と積極的かつ有機的な連携を図るとともに、必要に応じてそれらに対し協力を要請するものとする。  

2 地方公共団体の責務   
 地方公共団体は、平和的生存権の保障に関する国の施策に積極的に協力するとともに、平和的生存権に基づく活動を行うNPO・NGO等と密接な連携を図り  つつ、当該地域社会の実情に応じて平和に関する活動の振興を図るとともに、当該地域を多元共生社会とする責務を有する。  

3 国民の責務    
  国民は、平和的生存権に関する理解を深めるとともに、日常不断の努力によってこれを保持する責務を有する。

 

第二 平和創出国家の実現に関する基本的施策

一、国内的施策(※まだ例示の段階であり検討を要する)

 ・あらゆる武力の完全放棄
 ・財政及び資源の軍事目的利用の禁止  
 ・人権・平和教育の徹底
 ・ODA再評価と国際機関を通じたODAの拡充     
 ・NPO・NGOの国際的活動の支援

二、対外的施策(※同上)
 ・北朝鮮との国交回復と朝鮮半島の統一への積極的協力
 ・日米安保条約の解消と「日米平和友好条約」の締結
 ・北東アジア多国間安全保障システムの形成
 ・北東アジアの非核地帯化
 ・核及び生物化学兵器等大量殺戮兵器の廃絶と軍縮の促進
 ・武器の国際移転の規制と管理、地雷撤去の促進
 ・PKOにおける非軍事の役割による積極的貢献
 ・国連における「非核・非武装国家」日本の確認
 ・国連改革、とくに安全保障理事会とその関連機構の改革
 ・国連警察の創設 ・国際司法機関等による法と正義に基づく武力紛争の平和的解決

 

第三 多元共生社会の形成に関する基本的施策

一、国内的施策(※まだ例示の段階であり検討を要する)
 ・多民族・多文化教育の徹底
 ・定住外国人の市民権の拡大
 ・文化的・人的交流の活性化
 ・多民族・多文化モデル都市の形成
 ・出入国管理の抜本的見直しと移住労働者の人権保障
 ・人権関連条約の早期批准と完全実施

二、対外的施策(※同右)
 ・アジア諸国における歴史教育及び文化等の相互理解と共同研究
 ・国連改革、とくに経済社会理事会とその関連捜構の改革

 

第四 平和的生存権保障実施計画         

一、実施計画の策定及び国会の承認  

1 政府は、第二及び第三に定める施策の総合的かつ計画的推進を図るため、平和的生存権の保障に関する施策の実施に関する計画(以下「実施計画」という)を定めなければならない。  

2 実施計画は、少なくとも次に掲げる事項について、その年度ごとの達成スケジュール及び達成目標時期を明らかにするものとする。   
(1)平和創出国家の実現に関する事項    
(2)多元共生社会の形成に関する事項     
(3) その他平和的生存権の保障を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項 

3 内閣総理大臣は、実施計画の案を定めるときは、あらかじめ、平和的生存権保障維進会議の意見を聴くとともに、閣議の決定を経なければならない。  

4 内閣は、実施計画の案を決定したときは、これを国会に提出して、その承認を受けなけれはならない。

二、国会への報告   

 政府は、毎年、国会に、実施計画に基づいて講じた施策に関する報告を提出しな ければならない。

三、公表   

 内閣総理大臣は、一の実施計画及び二の報告について、広く国民に対し公表する 措置を講ずるものとする。

 

第五 平和的生存権保障推進会議(略)




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