第 148 国会報告
金融経済活性化に関する特別委員会
2000年7月18日
そごう問題(瑕疵担保条項について)
148回国会閉会後金融問題及び経済活性化に関する特別委員会2000年07月18日そごう問題(瑕疵担保条項について)
○大脇雅子君
今回のそごう問題は、新生銀行と預金保険機構との間に交わされております契約の中に瑕疵担保特約条項というものがありまして、その発動によって解除されたそごうの債権が預金保険機構に戻り、その預金保険機構がそれを債権放棄したということが発端であります。
今までの議論を聞いておりますと、この瑕疵担保条項それ自体が果たして適正なものであるのかどうか、法的に有効であるかどうかということは余り検証されておりません。
今までその導入の経過を見てみますと、買い手側から申し入れたわけではない、これは法律家も交えて再生委員会で検討して提案をしたと。しかし、本来、破綻銀行の譲渡の問題で起きる第二次ロス対策の問題と民法による瑕疵担保の法的な性質というものは、政策目的が私は全く違うものではないかと思います。
民法に言う瑕疵担保というのは、隠れた瑕疵について無過失責任を問うというものであります。瑕疵の存在が初めから明らかであったり、あるいは容易に知り得る場合にも適用されるのかどうか。この瑕疵担保条項というのはどのように解釈されるのかということが私は重大であろうと思います。
したがって、導入の経過についてお尋ねをいたします。まず、再生委員会の森事務局長にお尋ねいたしますが、こうした政策目的の全く違う問題に瑕疵担保のフレームを持ち込んできた論議についてお尋ねいたします。
○政府参考人(森昭治君) お答え申し上げます。
法律の専門家であられる先生に足がすくむ思いでございますけれども、経緯を申し上げれば、やはり受け皿候補そんなに多くない先で、その受け皿候補との交渉の中で先方が一番固執しましたのは二次ロスをどうやって担保してくれるのかという問題でございました。
〔委員長退席、理事須藤良太郎君着席〕
二次ロスには売り手責任、買い手責任、あるいは不可抗力、いろんな二次ロスがあると思いますけれども、そんな中でこれをどう解決するのかということを再生委員会自体で論議し、もちろん先生御承知のとおり再生委員会の中には法律の専門家も交じっておりまして、議論いたしました結果、やはり先方のリスクというのは、もちろん千二百十億円投資するということ、それから七千も取引先がございました、それについて先方にデューデリの機会を与えないということ、そしてもう一つは当再生委員会が適資産としたものを一括引き受けてもらうこと、これが向こうのリスクでございました。
そういう中で、買い手と売り手の立場を公平にするという観点からどういうことが考えられるかという中で、やはりこれは銀行の譲渡といっても銀行の資産の中の一番の根源は貸出資産でございますので、貸出資産を譲渡するというみなし規定を置いた上で、置いた上で基本的には民法の瑕疵担保責任条項は一般的には適用になるわけでございまして、もちろんこれはそのものではございません、その民法の趣旨を逸脱しない範囲でどこまでやれるのかということを検討した結果、こういうものになったわけでございます。
○大脇雅子君 私が言いたいのは、民法による瑕疵担保というものの枠をはるかに超えてこの条項がつくられた結果、このような社会問題が起きたんだと思うわけです。
まず第一に、三年と二〇%という一つの要件というものがありますが、初めから回収がとまるのではないかという非常に明らかな瑕疵、あるいは容易に知り得る場合に適用するということになれば、これはもう瑕疵担保の精神を超えるわけでありますし、株式の売買契約書を見ますと瑕疵の推定という条項がずっと並んでいるわけですよ。
この瑕疵の推定というのはまるで拡大の一途、こんなに拡大して、推定というのは立証責任を転嫁するわけですから、もうあらゆるものがその中にほうり込まれていて、本当に債権の回収の努力とかあるいは意欲というものを新生銀行に起こさないというようなほどに瑕疵の推定が行われてた。
それから、二〇%で解除権行使しながら買い取るのは簿価主義。これは一体どういう不公平なのかということであります。
第二次ロスの問題であれば、グローバルスタンダードというものを参考にして、やはりロスとプロフィットのシェアリングという基本的な国際ルールを契約の中に入れるべきであるにもかかわらず、これではまるであらゆる負担金、持参金をつけて銀行に渡したもので、さらに国民に対して極度額がない連帯保証をさせているような条項として機能するんだと。
大蔵大臣は、精緻なシステムなのに熱を帯びたというふうに衆議院の委員会で言われましたけれども、熱を帯びるのは私は当たり前、これは限度を超えた瑕疵担保条項の規定だというふうに思うわけですが、久世再生委員長はいかがお考えでしょうか。
○国務大臣(久世公堯君) 先ほど森事務局長が答えたのが趣旨でございますけれども、私どもは、民法そのものの瑕疵担保条項からきているわけじゃございませんで、やはり民法で定められている瑕疵担保条項のいわば法理とも言うべき、およそ私法に通用する瑕疵担保条項というものを私どもの場合に適用したわけでございまして、契約条項には瑕疵の推定いろいろ書いてございますけれども、私どもは、決してこれは拡大解釈ではなくて、今回の場合に一番適応する瑕疵担保条項だと思っております。
先生御指摘になりましたように、あくまでもグローバルスタンダードとも言えるこの二次ロスをどうやって処理するのか、ロスシェアリングの一つの方式としてこれを採用したわけでございます。
○大脇雅子君 それでは新生銀行の方にお尋ねしますが、この瑕疵担保条項について買い手の方からの何か意見を言われましたか。そして、瑕疵担保条項がなければ銀行は買われなかったということが言えますか。それから、新生銀行がそごうの経営問題を、これを引き受けるときにどこまで知っておられましたか。お尋ねいたします。
○参考人(八城政基君) 瑕疵担保条項は再生委員会から提案がございまして、私どもはそれを受ける立場にございました。その前の段階でいろいろ我々自身では考えておりましたが、例えばロスシェアリングという問題についても、現在の法律の枠内ではできないということは聞かされておりました。したがって、これ以外の方法はないということで、私どもが非常に懸念を持っておりました二次ロスについて提案されたものでございますから、それを受けて検討したということでございます。
もしも二次ロスについて何らかの規定がなければ、私どものみならず旧長銀の買収について関心を示したところは買わないというふうに当時は聞かされておりました。ですから、私どもも同様に恐らく契約を結ぶことはなかったろうと思います。
それから、そごうの問題でございますけれども、そごうの問題については先ほど午前中にもありましたが、九九年二月の自己査定のときにはたしか要注意のAということに入っておりましたが、私どもが買収するときには破綻懸念というふうな分類になっておりましたので、破綻懸念であれば当時得ていた情報ではまず恐らくこれは問題はないだろうという判断を事後的にしたわけでございます。これは私ども自身がやったわけではありませんで、政府、旧長銀が行った自己査定の結果でございます。
○大脇雅子君 それでは再生委員会の事務局長にお尋ねしますが、これ以外に方法はないと相手に言ったというのは、これはやはり法律上、金融再生法にはないけれども、私的な契約では国と買い手との間では当然そんなことは正当な妥当な国際基準に従ったシェアリングの規定を置くということができたのに、この瑕疵担保をどうぞどうぞと言ってまるで国民の税金負担を恒常化するような形で提案したというのは、これは国民に対する背信行為ではないかというふうに思うわけです。
法律というのは、法律もそうですし契約もそうですけれども、私たちが心しなければならないのは、常にてんびんに乗せたときに公正であるということ、そして正邪を切る剣を手に持っていなければならないということ、したがって権利乱用とかそういったものは許さないということであります。これはギリシャ神話にありますテミスという法律の女神がそういう形をしているわけでありまして、私たちはいつも心して契約書をつくり、それから法律をつくるときにはそういう精神を酌むわけでありますけれども、余りにも枠を超えた国民負担というものをこのスキームでつくってしまったということについての政治的な責任というものについてお尋ねをしたいと思いますが、再生委員長、いかがでしょうか。
○政府参考人(森昭治君) 大臣の前にお答えさせていただきます。
もちろん、契約自由でございますから、契約自由の原則というのが一方にございますので、いろいろな方法は考えてみました。その中で、例えばロスシェアリングはいかがかとか、そういうことも考えてみました。
ロスシェアリングにつきましては、当時の柳沢元委員長が国会で答弁されていますように、住専法の際にロスシェアリングはきちっと規定してある、再生法の際にはむしろ何も規定していない。そう考えれば、反対解釈ということで、やはりロスシェアリングができないではないか、こういうような意見も委員会の中では強うございました。そんな中で、民法の法理を利用したこの長銀譲渡契約にある瑕疵担保条項というのはやはり民法の趣旨の範囲を超えないということで、委員会の中の法律専門家もそう言い、かつまた預金保険機構の弁護士のリーガルオピニオンもとってございます。
もちろん、ポイントは瑕疵とは何かというところでございまして、今たまたま債権放棄要請が瑕疵の推定ということになるわけですけれども、根本は瑕疵とは何かといえば、我々が注目しましたのは、再生法の枠組みの中で資産判定という、つまり善意かつ健全な借り手であるかないかという判定を再生委員会自身、国自身がやっておるということでございます。そして、それは善意かつ健全な借り手であるということに対してやはり我々は売り手としての責任を持つということでございます。我々は、善意かつ健全な借り手であると認定する際には何か必ず理由をつけていますので、譲渡後、その理由が変更した、真実でなくなったときには瑕疵だ、こういうふうにみなす考えをとったわけでございます。
○大脇雅子君 日本側のデューデリジェンスという手法も信用されなかったのかなと。余りにも不平等条項で余りにも国際的にひどい条項だと私は思うので、やはりこれはでき得る限り私は撤回すべきだ、白紙に戻すべきだと思うんですが、それができないとするならば、この運用の厳格化というものを図って、契約条項をでき得る限り国民の負担にならないように減縮していくということが必要だと思うわけです。
まず、厳格化ということについてですが、金融再生委員長はきのうからきょうにかけての委員会の審議で、債権放棄は原則しないというふうに衆議院で言われながら、今は何かケース・バイ・ケースであるようで基準を新しくつくるというようなことを言っておられるわけですが、私は、債権放棄ということも含めて、このいわゆる予備軍というのがまだいっぱいあるわけですから、この契約に基づいてさまざまなことがこれから起こり得ると思います。
九千億円も引当金が出してあるのですから、一兆六百億というのは当然追い銭として必要ではないかということも言われておりますが、こういう類似案件の対応策に対して、政策として国はそういう負担を債権放棄についてはしないということを言明されるべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。
○国務大臣(久世公堯君) 私が昨日衆議院において答えましたのも、そういうような基準というものを検討してはどうかという質疑がございましたのでそれに答えたわけでございますが、私は、一義的には今後の預金保険機構の債権放棄につきましては安易に認めるべきでないというのは当然だということも同時に申しているわけでございます。しかし、いろんな事案がこれから考えられていることから、具体的には、債権放棄を一切認めないと現時点で言い切ることはなかなか難しいと思うんです。
したがいまして、安易にこれは認めるべきではない、かつ具体的な問題については慎重な上にも慎重にこれを検討しなければいけないということを申しているわけでございます。
○大脇雅子君 そうすると、衆議院と参議院の経過の中で何か軸足が基準づくりに移ってきたような印象を受けたことは間違いで、あくまで安易に債権放棄というのはしないということについて御確約いただけますか。
○国務大臣(久世公堯君) 昨日も、私は衆議院におきましても安易に認めるべきではないと言い切っております。しかし、そういう質疑がございましたので、その点については、今後、基準について大変難しいと思うけれども、一応いろんな方の御意見を聞いて対処したいということを申しております。
○大脇雅子君 安易に認めないということになると、今回のそごう問題はやはり安易な決定であったというふうに思わざるを得ないわけであります。したがって、私はそれに対する政治的な責任というものは担当者にしっかりととっていただきたいというふうに思うわけです。この点について何か御意見ありますか。
○国務大臣(久世公堯君) 今回の問題につきましては、前に申し上げましたように、前委員長の段階におきまして大変慎重に検討した結果、苦渋の決断として下したものでございますが、その後、この案件がそごうが自主的にこれを取り下げたことによりましてなくなったわけでございますので、今はそういう状態でございまして、決して安易にやっているわけではございません。
○大脇雅子君 第三条委員会に対する政治的な判断の介入という大きな問題については、多くの人たちから批判がありましたので、私も同意見であります。
しかし、私は、ともかく新生銀行の解除権行使についてやはり、ただあれは二日か三日でうんと言って余りにもこの履行について問題を考えていない。これを忠実に実行したという意見がありますけれども、私は新生銀行にも申し上げたいんですが、確かにこれは瑕疵担保条項にありますけれども、事は税金でありまして、債権回収努力あるいは意欲というのはこの条項によって低下するという致命的な欠陥があるし、また預金保険機構が債権回収をするというのは本来筋違いだと私は思っているんですね。やはり民間銀行などで、そこでやることがそのインセンティブをかけるということにもなるんだと思うんです。それを全然、この瑕疵担保責任があるために全くそういう基本が崩れてしまった、政策をゆがめてしまったということに対しては、関係者の方たちには十分に私責任を考えていただきたいというふうに思います。
第二に、スキームの改善が果たしてできるかということです。今度、経営責任者の追及ということがマスコミで取り上げられておりますけれども、モラルハザードの問題は重要な論点でありましょう。しかし、これからさまざまな業種や企業の債権問題について金融再生法のスキームというものが問題になるわけで、そして今度は預金保険法でロスシェアリングのルールができることになったということになりますと、この日債銀と長期信用銀行の問題というのは特異な事例ということになるわけですから、これは本来の政策の目的に合った形でこのスキームを法的に私は新生銀行やあるいは今度問題になっている日債銀の関係においても正していかなければいけないというふうに思います。
〔理事須藤良太郎君退席、委員長着席〕
民間銀行の経済的合理性にかなって、そして民間の努力をそぐということではない、そういう方向でやるとすれば、簿価で買い取りのスキームというのは直ちに見直すべきではないか。やはり現価で評価してそれをロスとプロフィットでシェアをするという新しいきちっとしたルールづくりをやられないと、不良債権のこれからの処理というもの、それからそういう企業の倒産や銀行の破綻というものに対して大変大きな問題があると思います。
この簿価で買い取りのスキームの見直し、大体おかしいですよ。三年で二〇%減価、二〇%減価がロスシェアリングの妥当なものではないかなどと言いながら、契約書がなぜ簿価なんですか。やはりそれはシェアをするという基本的なところに立ち戻って契約を直されるべきだと私は思うんですが、いかがでしょうか。これは新生銀行と再生委員会にお尋ねをいたします。それから、預金保険機構の御意見も伺いたいと思います。
○参考人(八城政基君) お答えいたします。
長銀の買収につきましては、いろいろな問題が交渉の中で出てまいりまして、時間的にも膨大な時間を使って交渉が行われたわけであります。そして、いわゆる瑕疵担保条項と申しますか、これについても議論が行われまして、全体のスキームとして、投資家グループとしてはこれならば買収ができるということで条件を出したわけでございます。
したがって、ほかにも恐らく長期信用銀行の買収に興味を持ったいろいろな金融機関があったと思いますが、その中で再生委員会がどれが国の立場から見て最も望ましいかということで決まったわけでございまして、この契約は、午前中も申し上げましたが、再生委員会の指導と監督のもとに預金保険機構が契約者になっているわけでございますので、この根本的なスキームを変えることは非常に困難だろうというふうに思います。
○政府参考人(森昭治君) お答え申し上げます。
先生、百も御承知かと思いますけれども、我々はあくまで民法の瑕疵担保責任に根っこは置いたわけでございますので、やはり民法五百六十六条の瑕疵担保責任の具体的な手法としては損害賠償かあるいは解約どちらかということでございますので、損害賠償の場合は簿価の基準からそのときの現在価値までどれぐらい減ったかをお金でぶち込むわけでございますけれども、その後もし向こうが回収に成功した場合には利益が向こうに行ってしまう。そういうことも頭に置きながら、むしろ解約して預保の方に持っていってもし回収がうまくいけば利益は国の方に出るということも頭に置きまして、いわば解約すなわち解除権行使という方の仕組みを選んだわけでございまして、瑕疵担保を基軸にする限りやはりスタートになるのは簿価、簿価で解除するということを考えたわけでございます。
○参考人(松田昇君) 預金保険機構の立場は定められた法令の中で執行機関として最善を尽くすということでございますけれども、この問題についてやや個人的に申し上げてみますと、とにかくこの瑕疵担保のスキームは、損害賠償ではなくて原価で戻すというスキームになっておりますのは、やはり民法の瑕疵担保の法理を見習ったものでございますので、一番素直な自然な形ではないかなと、そのように思っております。
○大脇雅子君 時間がありませんが、その原価で戻す、それから利益を得たときにはまた国に返すというのは、まるで砂上の楼閣のような議論であろうと私は思います。
私は、民法の瑕疵担保責任の枠を越えてこのような条項を結ばれた政治的な責任というのは非常に重大だということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。
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