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国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)
権限と責任
1.国内人権機関は人権を伸長および保護する権限を付与されるものとする。
2.国内人権機関はできる限り広範な職務(mandate)を与えられ、その権限は憲法または法律において明確に規定されるものとする。その構成と権限の範囲は憲法または法律で定める。
3.国内人権機関は、特に、次の責任(responsibility)をもつものとする。
(a)人権の伸長および保護に関するあらゆる事柄(any matters)について、関係当局の要請または上級機関に付託することなく問題につき聴聞する(to hear a matter)自らの権限の行使によって、勧告的な基盤で、政府、議会その他管轄当局に対し、意見、勧告、提案および報告を提出すること。国内人権機関はそれらを公表すると決定することができる。これらの意見、勧告、提案および報告、ならびに国内人権機関の特権は、以下の分野に関連するものとする。
(i) 人権の保護を保持し、拡大することを意図する立法または行政上の規定、ならびに司法機関に関する規定。これに関連して、国内人権機関は、現行の立法または行政上の規定、ならびに法律案(bills)および法律提案(proposals)を検討するものとし、これらの規定が人権の基本原則に合致するよう確保するため、適切と考える勧告を行うものとする。国内人権機関は、必要であれば、新たな立法の採択、現行法の改正、ならびに行政措置の採択または改正を勧告するものとする。
(ii) 国内人権機関が取り上げると決定した人権侵害の状況。
(iii) 人権一般に関する国内状況、およびより具体的な問題に関する報告書の準備。
(iv) 国内の地域で人権が侵害されている状況につき政府の注意を喚起し、そのような状況を終了させるための施策を政府に提案し、必要な場合には、政府の姿勢と対応について意見を表明する。
(b)法律、規則および慣行と国家が締約国となっている国際人権文書との調和、ならびにその実効的な履行を促進および確保すること。
(c)国際人権文書の批准またはこれへの加入を奨励し、その履行を確保すること。
(d)国際連合の機関および委員会ならびに地域的機構に対し、条約上の義務にもとづき国家が提出を求められる報告につき貢献し、必要な場合には、自らの独立性を十分に考慮し、報告に関し意見を表明すること。
(e)人権の伸長と保護の分野で権限をもつ国際連合および国際連合システムの他の機関、地域的機構ならびに他国の国内人権機関と協力すること。
(f)人権に関する教育および研究プログラムの作成を支援し、学校、大学および専門的集団におけるそのプログラムの実施に参画すること。
(g)特に情報、教育ならびにあらゆる報道機関を活用し、民衆の関心を高めることによって、人権およびあらゆる形態の差別、特に人種差別に対する闘いに関し宣伝すること。
構成と独立・多元性の保障
1.国内人権機関の構成およびその構成員の任命は、選挙によるか否かを間わず、人権の伸長と保護にかかわる(市民社会の)社会集団の多元的な代表を確保するために必要なあらゆる保障を与える手続に従って行われるものとする。特に、(国内人権機関の構成およびその構成員の任命は)下記の代表とともに、またはその関与を通して確立される実効的な協力を可能とする勢力によってなされるものとする。
(a)人権に取り組み人種差別と闘うNGO、労働組合、ならびに弁護士、医師、ジャーナリストおよび著名な科学者のような関連する社会的および職業的組織。
(b)哲学的または宗教的思想の諸傾向。
(c)大学および高度の専門家。
(d)議会。
(e)政府部門(これらの代表は、助言的資格でのみ議論に参加すべきである)。
2.国内人権機関はその活動を円滑に行えるような基盤、特に財源をもつものとする。この財源の目的は、政府から独立で、その独立性に影響しかねない財政統制の下におかれることのないよう、国内人権機関が自らの職員と土地家屋を持つことを可能とするものでなければならない。
3.真の独立の前提である国内人権機関構成員の安定した権限を確保するため、構成員は一定の任期を定めた公的な決定(an official act)によって任命されるものとする。この任期は、構成員の多元性が確保される限り、更新可能である。
活動の方法
国内人権機関はその活動の枠組みにおいて、次のことを行うものとする。
(a)政府によって付託されたものであれ、上位の当局に付託されることなく政府によって取り上げられたものであれ、構成員または申立者の提起によって、その権限に属する問題につき自由に検討すること。
(b)その権限に属する状況を評価するため、いかなる者の意見も聞き、情報およびその他の文書を取得すること。
(c)特にその意見や勧告を公表するため、直接にまたは報道機関を通して、世論に呼びかけること。
(d)定期的に会合すること。必要な場合には、正式に招集された全構成員(113頁)の出席で会合すること。
(e)必要に応じて、構成員からなる作業グルーブを設置し、国内人権機関の機能を補佐するため、地方や地域に支部を置くこと。
(f)人権の伸長と保護に責任をもつ、司法的その他の機関(特に、オンブズマン、仲裁者類似の機関)との協議を維持すること。
(g)国内人権機関の仕事を拡大するうえでのNGOの基本的な役割を考慮し、人権の伸長と保護、経済・社会発展、人種主義との闘い、特定の弱者集団(特に、子ども、移住労働者、難民、身体的・精神的障害者)の保護、または専門領域に取っ組んでいるNGOとの関係を発展させること。
準司法的権限をもつ委員会の地位に関する追加的原則
国内人権機関は、個人の状況に関する苦情や申立を聴聞および検討する権限をもつことができる。個人、その代理人、第三者、NGO、労働組合連合またはその他の代表組織は事案を国内人権機関に提起できる。かかる場合には、委員会の他の権限に関する上記の原則にかかわらず、国内人権機関の機能は以下の原則にもとづくものとすることができる。
(a)調停を通じて友好的解決、または法律の定める制限内での拘束的決定を求めること。必要な場合には、非公開でこれらを行う。
(b)申立を行なった当事者にその者の権利、特に可能な救済につき情報提供し、国内人権機関の利用を促すこと。
(c)法律の定める制限内で、苦情や申立を聴聞し、これらを他の管轄当局に移送すること。
(d)特に個人がその権利を評価するため提起した事案がかかわる困難の元である、法律、規則、行政慣行の改正や改革を提案することによって、権限あるあらゆる当局に勧告を行うこと。
(注)Commission on Human Rights resolution 1992/54 of 3 March 1992,annex(Official Records of the Economic and Social Council, 1992,Supplement No. 2(E/1992/22), chap. II, sect.A); General Assembly resolution 48/134 of 20 December 1993, annex.
(山崎公士訳「国家機関(国内人権機関)の地位に関する原則(パリ原則)」国連人権センター、マイノリティ研究会訳『国内人権機関−人権の伸長と保護のための国内機関づくりの手引き書』解放出版社、1997年、110-113頁所収)
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