米軍用地強制使用裁決申請事件

同  明渡裁決申請事件

  意見書(三)


 [目次


第三 楚辺通信所

一 基地の概要と任務

 1 楚辺通信所(施設番号FAC六〇二六)は、キャンプ・ハンザと呼ばれ、読谷村字波平、座喜味、上地の五三万五〇〇〇平方メートルの敷地内にある(D・スライド1)。 

 楚辺通信所は、内側から半径約六六メートル高さ約三七メートルの円形のレフレクタースクリーン(反射スクリーン)、その外側に高さ約一九メートルの低周波用の三〇本のアンテナ素子があり、さらにその外側には、半径約九一メートル高さ約九メートルの同じく円形のレフレクタースクリーンと高さ約七メートルの高周波用のアンテナ素子一二〇本を有しており、その円形のレフレクタースクリーンの形状から、通称「象のオリ」と呼ばれている(D・スライド2、3)。

 2 楚辺通信所の管理部隊は、在沖米艦隊活動司令部/海軍航空施設隊であるが、その 使用は海軍通信保安活動隊沖縄ハンザ部隊が行っている。この部隊は、アメリカ国防総省のエージェンシーの一つであるアメリカ国家安全保障局(NSA)から作戦統制を受けながら、陸軍・空軍・海兵隊の電子通信傍受部隊と共同で活動している。

 楚辺通信所の任務は、他国の軍艦、潜水艦、航空機あるいは地上部隊から発信される短波通信や超短波通信を傍受・記録するとともに、送信(発信)地点割り出しのための方位測定を行うことにある。米国の世界的戦略機能の一つで、通信傍受を目的とした電子スパイ基地と言われている。また、高性能コンピューターを駆使しての暗号解読も重要任務とされており、盗聴・暗号解読などを目的とした軍事情報の解析センターでもある。

 3 楚辺通信所の場所は、波平前島と言われる地域であり、波平の本部落のはずれに位 置している。もともと波平在住者のうち、二男や三男がこの地域に土地を譲り受けて分家することが多く、本件土地にもかつては屋敷が建っていた。

 一九四五年四月一日、米軍は、読谷村渡具知海岸に上陸、その日のうちに村内の日本軍北飛行場を接収し、引き続き周辺地域にかかり全村の約八〇パーセントを接収するに至る。その間、村民は強制的に移住させられ収容所に隔離される。楚辺通信所は、一九五七年から六二年にかけ建設され、現在に至っている。

 二 契約拒否の理由と経過

 1 本件土地は、もともと契約拒否土地だった。

 地主知花昌一氏の父知花昌助氏は、復帰に際して軍用地として本件土地を提供することを拒否した。昌助氏の他にも波平で契約を拒否した地主は約六〇名いた。しかし、防衛施設局は様々な嫌がらせと恫喝を加え、地主のなかに分断と対立を持ち込んだため、このままでは部落の中に対立が生じ、部落の行事さえできなくなると判断した拒否地主たちは一致して契約に応じることを決意し、一九七六年、国と賃貸借契約を締結した。

 2 その間の事情を知花昌一氏は第四回公開審理において次のように意見陳述している。

 「一九七〇年当時、読谷には、約一〇〇〇名に及ぶ反戦地主、契約拒否した人たちがいました。ところが、ボーロポイントの返還、スランカム基地の返還、工廠部隊の返還などによって、反戦地主が解放されたということと、公用地暫定使用の適用、そして、その中で、防衛施設庁の執拗な嫌がらせ、いわゆる『細切れ返還』『共連れ返還』などを臭わせながら、地域での反戦地主・契約拒否地主と契約をしている地主との反目を促していきました。私たち当初八〇名くらいいた反戦地主は一人一人契約をしていきます。六〇名くらいになった段階で反戦地主の代表的な人たちが、こういう形で地域の中で、契約している人としてない人が反目しあいながらやっていくのは地域の維持に関しては良くないと。

 例えば、こういうことがやられます。反戦地主が契約をしていないということで、その契約をしていない人だけ土地を返せばいいですが、その周囲の土地までわざと返してしまう、契約をしている人たちの土地まで。そうすると地域の中で、いろんな行事のなかで酒を飲んだりします。先輩や友達や親戚の人たちが契約をしている、していない人たちはその中で酒を飲むわけです。そうすると、あんたが土地の契約をしていないから、おれたちの土地まで返されるんだ、どうしてくれるんだ、とこういう形での反目を助長して行くわけです。

 そういう中で、私たちの親父たちも地域の維持ということで、ひとり一人契約をしてしまうよりは、自分達まとまって契約をしようと、そのかわり、自分達は契約を拒否した、反戦地主だったんだという誇りを持ちながら、独自の交渉権を持った、地主会をつくろうということで、波平地主会という六〇名程度の地主会が出来ました。・・・・・・その少なくとも六〇名の地主たちは自ら進んで契約をしたわけでは絶対にありません。思いを持ちながらも地域のために、敢えて反目をやるよりは、自分たちも折れざるを得ない。というような圧力の中で契約をしてしまったということです。僕の親父もその一人です。」(D・第四回公開審理記録三〇〜三一頁)

 3 知花昌一氏は、一九九四年、昌助氏から本件土地の贈与を受け、契約の期限切れを 機に再契約を拒否した。

 知花氏が、契約を拒否する理由は以下の通りである。

 (一)拒否理由の第一は、契約拒否こそが憲法の趣旨に合致する行為であり、憲法に基づ く生き方だということにある。徹底した非武装平和の原理にたつ日本国憲法は、戦争を放棄し、軍備を放棄している。また、憲法は、国民の不断の努力によってのみ維持されていくものである。楚辺通信所が戦争に利用されてきた歴史があり、今後も戦争に使われる軍事基地である以上、契約拒否こそが右憲法に合致する行動である。自らの土地を米軍に貸さないこと、戦争につながる基地に貸さないことが、憲法に基づいた生き方であり行為であると考え、契約を拒否したものである。

 (二)第二は、楚辺通信所が読谷村を分断する位置にあり、その為に地域の一体化が損な  われている。地域の一体化のためにも契約を拒否する。

 (三)本件土地が、知花氏の大叔父、知花平次郎氏の永眠の土地であることが、第三の理 由である。一九四五年四月一日、米軍が上陸にあたり、その地で米軍に抵抗し、米軍に撃ち殺され、その場に埋められた。知花氏にとって極めて大切な土地が本件土地であり、知花氏は、この土地を取り返し、大叔父平次郎氏の供養を願っている。

 (四)第四に、知花氏は本件土地に家族の住む住宅の建築を希望している。本件土地は、 もともと宅地であり、仮に米軍による強奪がなければ、祖父から父へ引き継がれ、そこで家を建て知花一家が住んでいたはずの場所である。父昌助氏は別の場所に土地を借り住んでいる。知花家にとって宅地は本件土地しかなく、本件土地を取り戻し住宅を建築することを強く望んでいる。

 4 しかし、国は、契約期限が切れた後も本件土地を知花氏に返還せず不法な居座りを継続している。

 (一)知花氏に対し、防衛施設局は再三再四、執拗なまでに契約締結を要請し、「色をつ けるから売ってくれ」とまで言って通常より高額な買い取りを申し入れた(D・第四回公開審理知花昌一意見陳述)が、知花氏はこれを受け入れなかった。

 契約や法定の手続(特措法による土地の強制使用)によっては期限までに用地確保が不可能と判断した国は、期限切れ直前の三月の二六日になって、突然、通信所の周りにフェンスを設置し、立入ができないようにしてしまった。そして期限の切れた一九九六年四月一日、国は、フェンスに加え多数の機動隊員やガードマン、防衛施設局職員を基地の内外に配置し、地主である知花氏の自分の土地への立入要求に対し、国は、入口の門を堅く閉ざし、これを実力で排除した(D・スライド6〜8)。

 (二)知花氏は、自己の土地への立ち入りを求め、那覇地方裁判所に対して仮処分を申し 立てた。

 この仮処分の審尋に際し国は、敷地内に敷設されているメッシュシート等への影響を理由に、立入り人数は三〇人以下、立入り回数は一回に限るとの主張を行った。また、国が申し立てた緊急使用に伴う、県収用委員会の現地調査(四月一八日)に際しても、通信設備への影響を理由に、通路にはベニヤ板を敷き、各委員の体重の申告が求められた(D・スライド9、10)。しかし、その後、十数名の作業員が芝生の上を歩き回っていた事実(D・スライド11、12)、一トン以上の芝刈り用トレーラーが敷地内を縦横無尽に走り回っていた事実が暴露され(D・スライド13)、国の主張は、虚偽であり全く根拠のないことが明らかとなった。

 その結果、知花氏が求めた立ち入り要求は、ほぼ全面的に認められ、一九九六年五月一四日及び六月二二日の二度にわたり、戦後、米軍に接収されて以来、半世紀ぶりに、知花氏一家はそろっては自らの土地に立ち入ることとなった。

 (三)半世紀ぶりの立ち入った喜びについて知花氏は、公開審理において次のように陳述 している。

 「親父も、終戦後何年かはここで農業をしていたようです。だけど僕ははじめてのことです。親父も、自分のおじさんがなくなった場所ですから、感慨深くてぜひ一緒に入りたいということで、五月一四日入りました。五〇年ぶりというか、その土地に入ったという事で、うれしさのあまり、当日はサンシンを弾いてお祝いをやってたんですが、ここには、三〇人、二時間あまりも滞在しました。国が言う、いわゆる『立ち入ると、あるいは明け渡すと機能が損なわれる』と強くいっていたんですが、五月一四日、六月二二日にこれだけの人が入り、そこで、いろいろな思いを込めて、やったんですが、その後、機能に差し障りがあったということは一度も聞いていません。だから、僕の土地を返しても機能には差し支えないという鑑定は出ていますし。その通りだと思います。でも、五〇年ぶりに入ったのは、ほんとにうれしいことです。こういう場が、あちこちで当然のようにみんなで立ち入れたらいいなあと思っています。」(D・第4回公開審理記録三三〜三四頁)

 (四)国は現在も、本件土地を不法に占拠し続けている。本件土地の使用期限が切れてか らすでに二年近くが経とうとしている。一九九七年四月一七日に成立した新特措法による「暫定使用」開始までの三八九日間、国は不法に占拠を継続した。法治国家たる日本国において、法の模範的遵守者であるべき国が、自ら法を破り、違法状態を一年にもわたり継続し、あげくの果ては特措法を改悪し、つじつま合わせを行った。

 特措法改悪の現場に立ち会った知花氏は、その時の国会審議の模様を次のように陳述した。

 「私たちが反対している、契約を拒否しているということで、特措法が、改悪されてきているわけですが、一九九七年四月一七日、参議院で特措法が強行採決されるその時に、幸いにも私は傍聴席にいました。・・・・・・傍聴席から審議を見たときに、議員さんたちがせせら笑いながら、指をさしながら、米軍特措法を反対している議員たちに、声を、罵倒を浴びせています。こういうものを上から見たときに、こういう人たちが沖縄の将来を決めている、日本の将来を決めるようなことをやっているのか。沖縄の思いを無視し、国民の五七%の人たちが、特措法反対だといっているその特措法に対して、せせら笑いながら可決をしていく、そういうことに対して、自分の土地を米軍に取られている地主としてだまっておれませんでした。」(D・第4回公開審理記録二六頁)

 三 却下事由

 本件土地については、以下の理由によりその申請を却下すべきである。

 1 日米安保条約、米軍用地特別措置法の違憲(却下事由その一)

 本件強制使用手続を基礎付ける、その前提となっている日米安保条約米軍用地特措法が、そもそも憲法前文、九条、二九条、三一条に違反すること、県収用委員会に憲法適合性を審査する権限と義務のあることは、意見書 において既に詳論した。

 2 使用認定の違法(却下事由その二)

 内閣総理大臣による本件使用認定は違法であり、本件裁決申請は却下されるべきである。

 内閣総理大臣の行った使用認定について、重大な瑕疵のある行政行為が無効であること、内閣総理大臣の使用認定に重大な瑕疵があるか否かを審理する権限が収用委員会に当然に認められていることについては、既に意見書 において詳論した。

 米軍用地特措法第三条は、強制使用の要件、強制的な使用が認められる条件として、(1)駐留軍の用に供するために必要とする場合であること、(2)駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であることを要求しており、内閣総理大臣が使用認定を行うに際し、右の条件に違反し、その違反の程度が重大であれば、当然に違法・無効となり、裁決申請の却下は免れない。本件の場合、以下の重大な違法が存在し、その却下は免れないものである。

 (一)安保条約の目的を逸脱した施設である(D一号証)。

 楚辺通信所の任務・機能は安保条約の範囲を逸脱するものであり、安保条約上の駐留軍の用に供するために必要とはいえない。

 ハンザ部隊が属する海軍通信保安活動隊司令部(NSGC)は、ワシントンDCに本部を持ち、暗号とそれに関する機能を担うとともに、与えられた暗号計画の実行についての連絡調整を行うことを任務としている。三沢基地と同様、米国の世界的な通信ネットワークの一部をなし、米国と自由陣営の防衛のために迅速な電波の中継と安全な通信の行うことを目的としている。楚辺通信所と約二・五キロメートル離れているトリイステーションとは、地下ケーブルでつながっていると言われており、楚辺の部隊は、トリイの空軍第六九九〇電子保安中隊と一体となってスパイ・謀略の任務に就いている。

 日本に駐留する米軍は、安保条約上「日本の安全に寄与し、極東における国際の平和と安全に寄与する」(六条)ための部隊であって、米国と自由陣営の防衛を目的とはしていない。スパイ・謀略をその任務とする楚辺通信所の部隊は、安保条約の範囲すら大きく逸脱するものであって、楚辺通信所は「駐留軍の用に供するために必要とする場合」にはあたらない。

 従って、楚辺通信所についての使用認定は、特措法三条の要件がないにもかかわらず、使用認定を行ったものであり、違法な使用認定である。

 (二)楚辺通信所は欠陥施設である(D一〜三号証)。

 知花昌一氏所有の本件土地二三六・三七平方メートルには、低周波用アンテナの支線ブロック一個と高周波レフレクタースクリーンの一部が存在しています。さらに地中にメッシュグランドマットとアンテナケーブルが存在すると国は言っている。

 問題は、この知花氏の土地をどうしても強制使用する必要があるかである。軍事評論家の西沢優氏は、「その必要はない。仮に知花氏の土地を返還したとしても、楚辺通信所の機能にさして影響がない」と述べてる。

 先ず、知花氏の土地上には、低周波用アンテナも高周波用アンテナも設置されておらず、本件土地はアンテナという最も重要な施設とは何らの関係がない。

 仮に、アンテナが数本と高周波用のレフレクタースクリーンが撤去されることになっても技術的には何らの支障はない。

 楚辺通信所の傍受システムは、円形に設置されたアンテナによって受信される電波の時間差によって、電波の来る方向を特定するものであり、そのために多くのアンテナが設置されている。仮に一部が撤去されたとしても撤去されたアンテナに隣接するアンテナによって、電波の来る方向は特定でき、撤去されたアンテナ以外の方向から来る電波については受信する上での影響はまったくない。したがって、本件土地を明渡したとしても若干の精度の低下はあるにしても、方位測定は可能となる。

 厳密な意味での精度、あるいは機能の低下を問題とするのであれば、楚辺通信所は、そもそもが欠陥施設なのである。そのことは三沢基地と比較すれば一目瞭然となる。本土の三沢基地の「象のオリ」の場合は、完全に平坦・水平な土地の上に建設されており、進入路も地上に設置されている楚辺通信所とは異なり地下通路となっている。その意味で元もと楚辺通信所の場合は、厳密な精度は期待されてはいない。

 次に、強制使用を認めないとするとメッシュグランドマットの一部が撤去されることになる。しかし、本件土地に敷き詰めたとされるメッシュ状のアースマットは、アンテナの接地機能のばらつきをなくすために設置されているのであり、そもそも、アースマットそのものが、曲面の歪みを持った自然の地形の上に設置されている楚辺通信所の場合は、現状でも、理想的なアース効果とは程遠いものしか得られていない。また、アースマットは楚辺通信所の全面には敷きつめられてはおらず、一部には敷かれずにアスファルトの進入路になっており、その進入路は大型トラックも通行可能なものである。それに比べれば本件土地はその二分の一程度の面積にしかすぎない。さらに、本件土地のアースマットは楚辺通信所全体の〇・三パーセント程度の面積しか占めていないことからは、技術的観点から見て、本件土地上のアースマットを撤去しても受信機能その他の楚辺通信所の機能には何らの影響もないことは明らかである。 さらに、軍事的観点からもレフレクタースクリーンとアースマットの撤去は支障を来たさない。知花氏の土地は、楚辺通信所の東側にあり、一方、現在、国や米軍が軍事的関心を集中しているのは朝鮮半島、中国など楚辺通信所の北西側である。楚辺通信所は電波の来る方向を内容とともに確認する施設であり、軍事的に関心の少ない方向から来る電波は価値が乏しい。このことは地上進入路の設置位置によって裏付けられる。地上進入路によってリフレクタースクリーンとアースマットの一部は破壊され、その限りで基地としての完全性は破られているのであるが、進入路は、施設の東南側に設けられており、軍事的関心の対象である、朝鮮半島、中国、そしてかつてのソ連に面する北西側ではなく、東側に進入路を設けている。このことは軍事的に東側を重視していないことを意味しているのである。

 以上、軍事的観点からも本件土地上の工作物撤去は支障を来さないのであって、どうしても本件土地を強制使用する理由に欠け、「駐留軍の用に供することが『適正かつ合理的』な」場合には該当しない。この点でも特措法三条の要件が欠け、使用認定は重大な違法を来すこととなる。

 (三)楚辺通信所は任務を終了し機能を停止している(D四〜五号証)。

 第三に、楚辺通信所は既にその任務を終了し機能を停止している以上、本件土地を強制使用する必要性が全くなくなるに至っており、駐留軍の用に供するため土地等を提供する客観的必要性が失われるに至った場合にあたり、米軍用地特措法三条の要件を欠くのである。

 アメリカ海軍省海軍作戦本部長ラングストン少将は、一九九七年四月二三日、一九九八年六月一日をもって日本のハンザ、即ち、楚辺通信所の海軍通信保全群の活動を停止することを指示した。また、一九九七年九月一〇日には楚辺通信所現地において海軍安全保障グループの解任式が執り行われた。その結果、現時点において楚辺通信所の任務は終了し、その機能は停止しているのであって、楚辺通信所には数名の要員が残されているにすぎない。

 楚辺通信所の任務が終了し、機能停止状態となっている以上、もはや駐留軍の用に供するための土地等を提供する客観的必要性が失われるに至っている。従って、かかる土地についての使用裁決は明らかに特措法三条の要件に反する裁決にならざるを得ない。

 3 収用手続の違法(却下事由その三)

 第三の却下事由は、収用手続の違法にある。本件強制使用手続は、地主である知花氏の、現場立会の要求を無視ないし拒否して行われた。

 五〇年以上にわたる土地強奪の結果、地主にとって、土地・物件調書に立会・署名する前提となる土地の形状・物件の存否を知ることが必要不可欠であるところ、地主は、現地に立ち入ったうえでの確認を要求した。しかし、那覇防衛施設局はこれを拒否し、立会・署名の期日を一方的に指定し、指定の期日に出頭しなかった地主たちは立会を拒否したものとした。

 南山大学法学部教授の小林武氏(憲法学)は、この立会について、「土地所有者の権利、しかも憲法三一条に支えられ、ないしは、それと一体となったものとして尊重されるべき重要な権利」と、評価している。

 この立会権というのは、調書に署名し押印する権利にとどまらず、異議を付記する権利を含み、さらに強制使用の対象となっている土地の現場での立会うことを意味するこの立会権は、憲法三一条に基づく重大な権利である。

 本件の場合、かかる立会権を無視して進められたものであり、その手続は無効であって、それに基づく裁決申請は却下を免れない。

 四 結論

 以上の理由により、本件土地についての裁決申請は却下すべきである。


出典:反戦地主弁護団、テキスト化は仲田。


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