国の裁決申請を却下した沖縄県収用委員会

裁決の内容と問題点

                弁護士 松 島   暁(反戦地主弁護団)

一 去る五月一九日、沖縄県収用委員会は、国(那覇防衛施設局長)から出されていた反戦地主らの土地二九九筆の強制使用(権利取得裁決申請及び明渡裁決申立)について、一部却下(一三筆)を含む決定を下した。一九九七年二月から約一年間、一一回の公開審理を踏まえての裁決であった。本稿において、右裁決の概要と問題点を指摘したい。

二 右裁決の第一の特徴は、嘉手納、普天間、キャンプ・シールズ、牧港の四施設、一三筆の土地について、国の申請を却下したことである。過去三回の沖縄収用委でのたたかいにおいて初めてのことである。

 却下理由は、土地収用法四〇条一項二号イの求める特定の要求を、一三筆については充足しておらず、国の申請が違法だというものである。

 沖縄戦において焦土と化し、引き続き米軍に占領された沖縄では、登記簿や権利証等の関係書類が失われたばかりではなく、土地の境界が不明になったり、地形そのものの変容を生じてしまった土地が多く存在した。そこで地籍明確化法によって、その修復を行ったが、その作業が地域ごとの「集団的和解方式」であったため、最終的に同意せず和解に応じなかった土地、「地籍不明地」が残ることとなったものである。今回却下の一三筆はいずれもこの「地籍不明地」である。

 これら地籍不明地について却下の結論が出た意味は極めて大きい。何故ならば、その内の一筆は、嘉手納基地のメイン滑走路のほぼ中央に存在するため、その部分が使用できないと嘉手納基地機能そのものが麻痺してしまう関係にあるからである。仮に、昨年の米軍用地特別措置法の強行を許していなければ、この決定によって極東最大の米空軍基地である嘉手納基地の機能が麻痺してしまう可能性があったのである。

 そうであるが故に、国は当然、建設大臣に対する審査請求を行うことになるであろう。(米軍用地特措法によって、審査請求によって暫定使用権原が生まれる。)

三 第二の特徴は、瀬名波通信所について、認容はしたものの使用期間を一年とした(申請は約四年)ことである。一年間の使用期間というのは、再申請手続を考えるとほとんど却下に等しいものである。

 収用委は、その理由において「本件裁決申請対象土地が日米両国で既に具体的早期返還合意がなされていること、本件裁決対象土地を速やかに返還しても瀬名波通信施設の機能には、ほとんど影響のないこと、土地所有者は、返還地の使用方法すら制約を受ける等の不利益を受けている、このような偏頗な形状を作出したのは起業者であること等に鑑み、使用期間を一年と定めるのを相当とする。」(裁決書一二頁)とした。

 これは、収用委員会の現地調査を踏まえての決定であるが、実質的には、収用委員会が総論において審査権限がないとした使用認定の適法性・妥当性の判断を、使用期間の認定に滑り込ませることによって、事実上の却下裁決を行ったと等しいものと評価できる。

 同時に、理論的・実践的には、国においてこの「認容」裁決に対し審査請求するのか、暫定使用権原が生じているのか等の問題を生じさせることとなった。

四 この他にも、中間利息の控除率を年〇・二五パーセントとしたことも高く評価されるべきである。契約地主の地代支払いが年払いであるのに対し、反戦地主に対する支払が一括の中間利息控除であるための差別的取扱を極力解消しようという収用委員会の努力の現れである。

 しかし、収用委員会の判断を評価しつつも、看過できない問題点の存在することを以下において簡単に指摘したい。

 第一は、内閣総理大臣の使用認定について、反戦地主側が強く主張した日米安保条約や米軍用地特別措置法の合憲性についての収用委員会の審査権限をことごとく排斥したことである。総理大臣の使用認定については、重大かつ明白な瑕疵についての審査権限を肯定しながら、「本件使用認定をみると、重大かつ明白な瑕疵は存在しない。」と何らの理由をも示すことなく切り捨てている。

 第二は、土地・物件調書の瑕疵についてである。調書に添付された実測平面図が使用認定前に作成されている点について、土地収用法三六条の土地・物件調書とは、「正確には『土地調書の素案及び物件調書の素案』と理解されるべき」だとして、土地・物件調書の作成は有効だとした。さらに、収用委の決定における問題点として看過できないのは、現地立会を認めないで作成された土地・物件調書をも有効とした点である。決定は、「土地収用法第三六条第二項の『立ち会わせた上』とは、調書作成の全過程について立ち会わせることを言うのではなく、調書が法的に有効に成立する署名押印の段階で・・・・立ち会わせることをいうのである」とした。これは従来の政府の解釈そのものであり、職務執行命令訴訟において沖縄県側が主張したものと比べても大きく後退した判断となっていると言わざるをえないものである。

(注) 以上は、反戦地主弁護団の討議を経たものではなく、松島個人の見解であることをおことわりしておく。


提供:松島暁弁護士

土地を明渡せ 米軍用地強制使用裁決報告集会」(沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック主催 1998年6月4日)の配付資料に松島弁護士ご本人の加筆訂正を加えた。


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